22話 訪問
俺は、先程のメールの意図をあまり詳しく考えることはやめた。もし、考えたとしても明らかに主犯は結衣だろうし、もし綾香から誘ったとしても別になんら問題ないと考える。
だが、やっぱり不安なのも正直な気持ちではある。
ソファーでゴロゴロとしつつも、何か構うものが無いのかと思うが何も無いので、携帯端末でもいじる。
「お兄ちゃん、体の周りにソワソワって文字が見えるようだよ」
妹からそう言われるほどなので、きっとそうなのかもしれない。
必死に消そうと思っても、何か引っ掛かってしょうがない。あの二人が仲良く話す光景が想像できないのである。
絶対何かトラップがあるかもしれない。
「おい、お前何か企んでないだろうな」
「お兄ちゃん、まだマーガリンのことを言っているのなら、それはしつこいよ」
別の回答が帰ってくるが、あの妹である、気にしなくて良いのだろう。
「はぁ……」
ついつい、重たい溜息が漏れてしまう。時計を見ればもうす十二時を回ろうとしていた。少し早めの昼食は取ってある。
妹が休みなので、簡単に焼きそばを作ってくれたのだ。
味はまずくはなく、どちらかと言えば普通に美味しい。というか、屋台とかにあるような焼きそばの味がする。
そんなことを考えつつも、天井を見上げてゴロンと転がった時だった。家にピンポーンとチャイムの音が響く。
「はいはーい」
妹が家の壁に張ってある子機に向って何かを話しかけているようだった。
ネットで何かを買った覚えは一応無かった。もしかすると、妹が買ったのかも知れない。
そんな反れたことを考えたが、心で思っていたことは当った。
「お兄ちゃん、結衣さん来たよ」
やはり来た。
俺は、ソファーから立ち上がると玄関へと向う。少しだけ重たいドアを開けるとビュッという冷たい風が吹き込む、それと同時に玄関に立つ二人の女性が姿を見せた。
「ひっさしぶり」
「こんにちは」
結衣と綾香だった。
結衣は思ったより薄着でTシャツにカーディガンを着ている。下に関しては寒さなど感じないのだろうか、もう履いていないのではと思うほど短いズボンを着ている。
綾香は黒地のTシャツの上にジーンズ生地のジャケットを羽織っており、下は少し長めのスカートだった。
二人とも、とても似合っていた。
「……まぁ、中は入れよ」
少し、照れ気味な口調になってしまったが、外の立ち話もなんである中に入れてあげる。
「それじゃあ、おじゃまします」
「おじゃまします」
二人が中に入ったのを確認して、俺も家へと戻っていく。ドアを閉めた瞬間、冷えた外気が入ってこなくなり部屋がとても温かい事に気づいた。
「あっ、沙耶ちゃん。久しぶり」
「結衣さん、お久しぶりです」
家に入った直後に女性社会というのを見た気がする。なんだろう、少し怖いものを感じてしまう。
結衣は昔からの関係もあり、結構家に来たこともある。子供の頃なんて、普通に晩飯を食べにきていたこともあるほどである。
妹とも仲がよく、妹も結衣の家に行くこともある。
だからか、かなり家にズカズカ入り込んできて、リビングへと一直線へ向って行った。
綾香は俺の家にはじめた入ったからなのか、少し緊張気味のようだった。玄関で小さく右左と視線を動かしていた。
「どうぞ、入って」
「それでは」
そういうと、綾香は靴を脱ぎそのまま結衣が入っていったリビングへと向っていった。
俺は、ふと玄関の靴を見てみると、綾香が綺麗に整えられているのに対して、結衣の靴があらぬ方向に飛んでいるのに気づいた。
この辺が、女性としての違いなんだろうな、と思いつつ結衣の靴をちゃんと整えてやる。
まぁ、あの結衣だから仕方が無いと観念すれば、それほど苦でもない仕事だ。
リビングに入ると、早速ソファーを確保した結衣。なぜか見慣れてしまった、あの王様のような座り方をしている。少し、礼儀を教えたほうが良いだろうか。
綾香が座り位置に困っているのを見て、俺は近場にある小さな座椅子を取るとテーブルの横に置く。
「ここ、座って良いよ」
「ありがとうございます」
一昨日、タメ口で良いですか、などと言ってみたりしたがやはり何か緊張が抜けないのか、タメ口というタメ口にならない気がする。それに、いつもの自分の話し口調がどういうものか忘れてしまうようだ。
「で、結衣、なんで突然訪問なんて来たんだ?」
「それより、お兄ちゃん」
突如、横から割り込んできた妹。
「何か、お茶かジュースでも出してあげたら? ちなみに私コーラ」
「……。それは、疑問形じゃなくて普通に頼みごとだろ、ちゃんと頼め」
「私コーラで良いよ」
妹に関しては、綾香が来たのをあまり気にしていない様子だった。あの、妹がガチガチに固まっていたら、それはそれで居ずらいものだが。
「それじゃあ、綾香と結衣は何にする? 一応、炭酸はコーラとファンタがある。炭酸じゃなかったら、オレンジジュースがあるけど」
「私はファンタが良い」
「私もファンタでお願いします」
そう言ったのを確認すると、俺は棚からコップを四つ出す。そして、冷蔵庫からコーラとファンタを取り出すと、コップ二つにコーラを、残り二つにファンタを注ぐ。
俺は一応、コーラである。まぁ、ファンタも苦手ではないがやはりコーラには勝てないと思う。
そんなことを思いつつも、テーブルにコップを置く。
妹が一番に、コーラに飛び込むとゴクリゴクリと飲みだす。炭酸をアレだけ飲めると鳴ると、喉が強いのだろうかと思ってしまう。
そして、すぐに飲み干してしまった。
「お兄ちゃん、おかわり」
「……、あまり年上をこき使うなよ」
そういいつつも、妹のコップを取るとキッチンまで戻りコーラを再び注ぐ。そして、それとは別に棚からいくつかのお菓子をと思ったが、ポテトチップスしかない。
仕方なく、ポテトチップスを二袋取り出す。コップと同じくその袋を取り出すと、テーブルまで運ぶ。
そして、俺の仕事はそこでようやく一段落するのだった。
「で、結衣、この訪問は一体なんだよ? 俺全く聞いていないんだが」
そういうと、結衣は困った表情一つせずに綾香に一度視線を向けたかと思うと、淡々と話し出す。
「いや、昨日友達とカフェに入ったら……」
「あそこは喫茶店ですけど」
「……、まぁ入ったら、たまたま会っちゃってさ。それで、話しているうちに仲良くなってね」
「そうですね……。そんな感じです」
以外だなと思いつつ、結衣のコミュニケーション能力もなかなか侮れないものがある。本気で無視すれば、一言ともなくなるが、仲良くなればそれは一気に親友まで発展するほどだ。
色んな意味で怖い。
「それじゃあ、それがどうなったら、俺の家に来るって話になるんだ?」
「まぁね、綾香さんと雄一が良い関係にあるなら、家くらい教えてあげようかなって思ったから」
「……。お前は、それが嘘だったらどうするつもりだったんだ?」
「いや、綾香さんが嘘つくはずないじゃん。それ以外、理由は無いよ」
「結衣さん、それはそれで、不安要素があるのですが……」
「そうだぞ。俺の家に勝手に変な人とか呼び込むなよ。綾香だったら、別に良いんだけど」
それを言った瞬間、なぜか綾香が驚いたような表情をした気がする。が、結衣が「それじゃあ、別に良いでしょ」と言ってくるので、反応に困ってしまう。
否定しても良いのだが、結局いたちごっこになってしまうオチのような気がするのだ。諦めも肝心だろう。
「まぁ、お前がしっかりしてくれれば、それで良いんだけどさ」
そう言って、小さく溜息をついていると、綾香が声を掛けてきた。
「雄一さん、この映画って借りてきましたか?」
「ん?」
そう言って、綾香が手に持っている映画に目を通してみると、『ホワイトハウスダウン』という映画だった。
「あぁ、昨日暇だったから借りてきたんだ」
「これって、見れますか?」
「えっ、もちろん見れるけど……。見る?」
「映画館に行こうと思ったのですけど、なんだかんだ用事が入ってしまって見れなかったんですよ」
そう熱弁する綾香。なんだか、綾香らしいと思ってしまった。
「それじゃあ、見るか?」
「ぜひ、見ましょう」
自分の好きなものに関しては、絶対と言って良いほど執着のある綾香だ。見れないなんていったら、それでこそ関係悪化につながりかねない。
それに、別に時間もあるのだ。何も気にすることは無い。
「そういえば結衣、この映画で血が出るが大丈夫か?」
「……なに、からかってるの。子供じゃないんだから、大丈夫だよ」
「そうか。なら良いんだけど」
そういうと、俺は映画のディスクを取り出すとプレイヤーに入れると、テレビの画面で操作。
お世辞にも大画面の大迫力とはいえないものの、そこそこの画質は有ると自負している。
操作し終えると、テレビの画面に広告が流れ始める。
「雄一さん、出来たらカーテンを閉めてもらえるでしょうか? 光が入るとテレビが見づらいので」
「あ、あぁ」
すごいこだわりだな、と思いつつ部屋のカーテンを全て閉める。すると、部屋は電気の明かりだけになり、少しだけ暗く感じる。
すると、いつの間にか本編が始まっているようだった。
この映画は、主人公であるジョン・ケイルという元軍人が、テロが起きたホワイトハウスで大統領を守る話しである。
内容としても、案外濃くて日本の三流映画よりも面白い。
それに、個人的にアメリカの映画でも銃をドンパチするような映画が好きだ。
例を挙げると、ウォンテッドなんかはリアティー無視のダイナミックアクションが好きだし、ダイ・ハードなんかはアクションものとしては有名だ。
かなり、こういうジャンルは好きなのだが、綾香はそれを上回るのだろうかと、思ってしまう……。
そして、本編を見ていく。




