21話 突然の訪問
カーテンを開くと眩しい朝日が部屋中に入ってきて、目を瞑ってしまう。そして、夏には無い肌寒さが体を包む。
「……うぅ、寒い」
まだベットの上は夏仕様なので、少し寒くなってきて対応し切れていないのかも知れない。そのせいか、体がブルリと震え上がってしまう。
時計を見ると朝の七時を指しており、少し寝坊をしてしまった感がある。丁度今日は土曜日という事もあり、妹も起きている頃だろうが起さないのも当然だろう。
ベットから出ると、腕を伸ばし大きなあくびを一つする。
「ふぁ~あ」
あくびと同時に背骨がバキバキと鳴る。完全に変な体制で寝ていたせいなのは確実だろう。
昨日一日は綾香が学校で何か用事があると言うことなので、一日中ずっとダラダラと時間を潰していた。丁度見たい映画もあったので、午前中にお店で映画をレンタルしてきた。
昼飯はかなり手抜きで、カップラーメンを啜っていた。
午後からは借りてきた映画をひたすら見続けていた。
ソファーの上でずっとゴロゴロしながら映画を鑑賞しつつ、片手でポテチをひたすら食らいつつ、炭酸飲料を飲む。
そんなことをしていたら、いつの間にか妹が帰ってきており、晩飯が出来ていた。そして、晩飯を食べた後に風呂に入り歯を磨き、そのまま寝た。
そんなグダグダとした一日をしていたせいか、なぜだか体がだるい。全身に何キロかのおもりが着いているかのようなだるさだ。
「あぁ~、眠たいな……」
そんなことを良いつつも、リビングへと降りていく。
リビングへと入った瞬間に、ニュースが聞こえてきて、朝食を食べる妹が目に入った。
「あっ、おはようお兄ちゃん」
「おはよう」
そう言い返すと、なぜだか妹がクスクスと笑っている。
「何がおかしいんだ?」
「いやっ、髪型が……」
きっと寝癖が酷いのだろう。毎回の事だ、あまり気にしない。しかし、やっぱり直しておいたほうが良いだろう。味噌汁でも吹かれたら困る。
「後で、直しておくから大丈夫だ」
そう言いながら、席に着くと自分の席には朝食が用意されていなかった。
何も無いテーブルを見つめた後に、妹を見るが無反応のままテレビを見ていた。きっとわざと無視をしているのだろう。
「おい」
「何、お兄ちゃん?」
「俺はお前に、こんな陰湿ないじめをするように教えた覚えは無いのだが」
「……休日くらい休ませてよ」
そういえば、普段なら妹は朝からクラブがあるはずだった。
「今日は無いのか?」
「プールが使用できないからお休み。せっかくの休日なのに、なんで人の分の朝食を作らないといけないの?」
「お前、それで結婚できると思っているのか?」
そう訊くと、以外は反応が返って来た。
「私は可愛いから、勝手に男が寄ってくるの」
俺は少し呆気に取られつつ、情けなくなってくる。
「こんな妹を持った俺が、本当に情けなくなってくるよ」
「心配されなくても、私は勝ち組だから」
そう言ってドヤ顔してくる妹が一層むかつく。が、実質妹の方が俺より成績、運動、友人関係など色んなものをとっても有望なので、口出しできないのが悔しい。
「それさえ直せば、完璧なのにな……お前」
「残念でした。これを直さなくても、私は完璧なの」
さらにドヤ顔をかましてくる。
あえて気にせず、席を立つとキッチンへと向う。
何となく冷蔵庫を開けてみるが、案外色んなものが過疎していた。ベーコンや卵など頑張れば簡単な朝食が作れるだけの材料しか残っていなかった。
となりの棚を漁ると、パンが出てきた。朝食はパンになりそうだ。また冷蔵庫を開くと、マーガリンを探すが見つからない。
「あっ、マーガリンは昨日から切れてるよ」
「……」
なんだろう、心の中から色んなものが込み上げてきた。
「やっぱり、俺はお前にこんないじめを教えた覚えは無いんだけど」
「うん、教えられてないよ」
非常にイラッとくる妹である。それさえ、直せは本当に自慢の妹なのだけどな。そう考えつつも、冷蔵庫の材料で何とかパンを作る。
「あっ、確か棚に新品のマーガリンがあったはずだよ」
「そうか」
先程いたわれた通り、棚を探してみる。下から物色して行くが何も見当たらない。さらに上へと調べて行き一番上までいったが結局何も見当たらなかった。
「無いぞ」
「じゃあ気のせいだったかもしれない」
あっ、イラつくのレベルじゃなくて、本当に怒るレベルでした。
◆◇◇ ◇◇◆
何とか朝食を済ませると、自室へ戻る。
狭い部屋だとは何度思ったことだろう。そんな事を思いつつも、パジャマを脱ぎ服を着替える。
その最中、携帯端末がピロリンピロと音楽を奏でていた。それを取り、確認するとメールが一通着ていた。
またマクドナルドのクーポンか、アマゾンの商品紹介かと思ったが違うようだった。
差出人は結衣で、件名が『訪問!!』と書かれていた。
「なんだ、アイツ?」
そう疑問に思いつつも、メールを開く。
中には、結衣と綾香と昔何かの実行委員会で一緒になった咲良が三人で映った写真が貼り付けてあり、内容は『昼から綾香ちゃんと家宅訪問しに行きます』と書かれていた。
「……なんでだ?」
なんで結衣と綾香が二人でいるのかが、不思議だった。学校も違えば、遠い友人関係でもそんなに会うはずは無いだろう。そんな考えが頭を巡っていく。
それよりも、二人で家に来るとはどういうことなのだろう。
確かに、結衣だけなら幼馴染近い関係なので何回か家に来たことはあるが、綾香と一緒とはどういうことなのだろう。
綾香が来るなんでどういう風の吹き回しだろう。それに、この二人が仲良く話す光景が思い浮かばなかった。
何か巧妙な裏があるようにしか思えない。
雄一は部屋を出るとリビングにいる妹に聞こえるように大きな声で聞いた。反響しながらリビングに声が届くはずだ。
「おい、お前何か隠していることは無いか?」
そういった瞬間、すぐに反応が返ってきた。
「マーガリンは、実は買い物袋に入ってました」
そんな回答が訊きたかったわけではないのだが、まともな回答が帰ってこないところから察するに、妹が関与していることはないはずだ。
何か裏があるような気がしなくも無いが、気にするだけ無駄なのかも知れない。あの、どこか抜けている結衣の事だ、何かの弾みで会ったのかもしれない。そんなに気にすることではないのだろう。
そう思うと、先程のメールに『分かった』とだけ返信しておく。
なぜだか、急にソワソワしてきたのだった。




