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ワンコイン・ライブ  作者: 藻塩 綾香
残り5日 初デート
16/43

15話 爬虫類エリアpart1

 昼食を食べ終わった後、俺と綾香ふたりは爬虫類エリアというところに来ていた。

 

 爬虫類エリアは、少し大きめの展示会館のようなもので、灰色の外壁とガラス張りが特徴的だった。その展示会館の中に様々な爬虫類がいるらしい。

 外からは、青々と草木が茂っているのが見える。あの中にカメレオンやヘビなどの動物がいるのだろう。


 俺は少し緊張していた。


 爬虫類というと、子供の頃に居たのはトカゲなどの小さなものだった。


 しかし昔に一度だけヘビに噛まれた事で、病院に行き三十九度の熱を出し、死にかけたということがあり、少しヘビにはトラウマがある。

 小学二年生の頃の話で、案外記憶が鮮明に覚えているもので、ヘビは今でも少し怖い。


 しかし、綾香はそんなことは知らないので、爬虫類エリアに向って歩いて言ったいる。


「雄一さん、爬虫類って好きですか?」

「好きか嫌いかと言ったら、嫌いですね……」

「そうなんですか?」

「爬虫類は普通ですけど、その中でもヘビが嫌いなんですよね……」


 過去のトラウマを思い出してしまう。


「私としては、爬虫類は苦手です……」


 意外だった。

 ずっと、動物関係の話には詳しかったしそれに好きと言っていたのに、爬虫類は苦手というのは驚きだ。


「爬虫類って、なんだか鱗とかあってツルツルじゃないですか。特にトカゲなんて鱗丸出しで、ツルツルじゃないですか……」

「あぁ……」

「それで、手触りも悪くて苦手なんですよね……」


 意外な共通点があって、少し嬉しかったのは心の奥にとどめておきたい。

 

 そう考えながら、俺は爬虫類エリアの館の中へと入っていく。


 玄関と思わしき場所には、大きな看板にこの爬虫類エリアのマップが書かれている。ぱっと見だがかなりの種類がいるようだった。

 そのなかでも、トカゲとヘビに種類が多いようだ。


 俺は、近くにあったパンフレットが置いてある台に、目を向けると『爬虫類生物図鑑』と書かれたパンフレットを見かけたので貰っておく。

 

 軽く目を通して見ると、この爬虫類エリアにいる爬虫類の種類などが載ったパンフレットのようだ。

 役には立つはずだろう。


「トカゲって世界で見たら種類って、絶対多いですよね……」

「まぁ……熱帯地方を中心に四千種類くらい存在していますね」

「やっぱり多いですね」


 俺はそう言うと、爬虫類エリア内へと踏み込んでいく。


 中には、外から見たときにあったとき見えた木が生えており、地面には青々とした草が腰あたりまで長く伸びて生えている。


 そして、少し歩き木に視線を動かしていると早速いた。


 全身が濃い緑色をしており、その体は縦に長細く、顔が乗っている。その顔には、左右に目が付いており三百六十度見渡せるように器用にキョロキョロを目を向けている。


 そう、カメレオンだ。


「カメレオンだ」


 俺がそういうと、カメレオンが俺の存在に気付いたかのように、顔をこちらに向けると目をキョロキョロさせる。

 意思はないのだろうが、目の動きを見るとなんだか恐ろしい。


 俺がカメレオンを眺めていると、綾香が何かを思い出したように小さく「あっ」と言うと、話し出す。


「カメレオンの種類に、ラボードカメレオンという種類がいるんですが、この種はかなり悲しいんですよね」

「……?」


 少し身構える。


「約九か月間を卵で過ごした後に、孵化して二か月で成熟して繁殖した後、四から五ヶ月で死ぬんです」

「大体一年と三ヶ月くらいか……」

「このカメレオンは、二〇〇八年時点で知られている四肢動物としては最も短い寿命といわれるんです」

「……」


 話を聞けば聞くほど、生物に対しての様々な知識が増えていくことを感じながらも、綾香の話に耳を傾ける。


「でも、とっても面白い特徴があってですね、体の色が変化するんです」

「へぇ~」

「黒ずんだりすると、体調不良と体温が低いんです」

「それって、太陽の光で体を温めるためだったりするのかな……?」

「はい、合ってます」


 嬉しい。

 心の中でそう思ってしまった。生物は、高校でも得意ではなかったが、正解できたことに嬉しかった。


「そして、白かったり派手な色に変化したりするんですよ。理由は、その色によってあるんです」

「カメレオンって緑色で擬態するってイメージがあったけど、色変わるんですね。なんか意外だな……」

「擬態もしますし、体の色も変化するんですよね」

「へぇ~」


 そう俺は思うと、カメレオンをまじまじと見てみる。

 改まって正面から見てみると、なんかカメレオンの表情が面白く、少し可愛げがあるように思えてくる。


 カメレオンなどがペットショップなどで売っている理由が少し判る気がする。


「案外、コイツって面白い顔していますよね?」


俺がそう言うと、綾香もカメレオンをまじまじと見る。カメレオンはそれに照れもせずに何食わぬ顔で綾香を見ている。


「そうですかね? 間抜けな顔に見えますけどね」

「あっ……そうですか」


 なんだかちゃっかり否定された気がするのは、俺だけなのだろうか……。


「カメレオンを飼って、野生に放す人って居るじゃないですか?」

「あぁ、ニュースでたまにやっていますね」

「そういう人って許せないと思いませんか? このカメレオンだって間抜けな顔をしていますが、立派に生きているんです。そんなカメレオンを飼ったならちゃんとすべきと思うんです」


 全くもっての正論だった。これに反論する気なんて思わないほどの正論に、俺は少し感動を覚えてしまった。

 そう言う綾香は、何事も無いようにカメレオンを見ていた。


「確かにそうですね。それは、僕も思います」

「ちゃんと飼い主として、飼っている生物をちゃんと見てあげるべきです。そんな人がいたら、私は許せません」


 綾香の口調は少しだけ荒っぽくなっているのに俺は気付くが、その後も何気無くカメレオンの姿を見る姿を見ると、それも気のせいじゃないかと思える。

 

 やはり俺の気のせいなのだろうと心に留めておく。


「そんなことより、他を見ましょう」

「そうですね」


 そのまま、道なりに歩いて行くと目の前を小さなトカゲが通って行く。その光景を見ると、とても野生という雰囲気をかもし出しており、トカゲが活き活きしているようにも見える。


 だが、少し踏んでしまいそうで怖い。


 俺はふと、先程の種類のトカゲが気になり貰ったパンフレットを開いて見てみる。

 全身が黒く、黄色っぽい色の斑点が見えた。しかし、その尻尾は少し不規則な斑点模様だったな、などと考えつつ俺はそのトカゲの正体を掴む。


「クロイワトカゲモドキか……」


 なんか凄い長い名前だが、その意味が少し中二っぽいと感じる。


「何ですか?」

「いや、さっき通ったトカゲの名前です」

「あの黒いトカゲのことですか?」


 そういうと、綾香がふとしたことを呟く。


「そのクロイワトカゲモドキってなんでモドキって付くか不思議ですよね。それにトカゲモドキ科ですし……。トカゲじゃないんでしょうか?」

「何ででしょうね……?」


 二人とも小さく「うーん」と唸りながらそれについて考え始める。俺に関しては全く思いつかなかった、否思いつくがまともな考えじゃないのだ。

 なんか名付け親がふざけてつけたとかそんなところだ。


「名付け親がふざけたのでしょうか?」

「……」


 あの綾香も俺と同じ事を考えていて、少し驚いた。今日みたいに、もっと専門的な言葉が出てくるとばかり思っていた。


「まぁ、それもあるかも知れないですね」


 と、俺が言うと前に目の前の葉にまたトカゲがいるのに気づいた。


 全身が鮮やかな若葉のような色に包まれ、腹から顎にかけ白色が続いている二色のトカゲ。特徴的なのが、のどについているピンク色の袋みたいなのが付いている。


「これ、ペットショップで見たことあるな……」

「グリーンアノールですね」


 綾香の顔が俺の顔のすぐ横にあり、その近さに俺は緊張してしまった。一気に顔が赤面したかのような恥ずかしさのようなものが込み上げてくる。


「グリーンアノールですか?」

「アメリカやキューバとか西インド諸島にもいますよ。あっ、あと日本にも一応、生息はしています」


 綾香は少し考えるような素振りをした後に、「間違ってないはず」と小さく呟く。


「生息はしていますって、今絶滅危惧種か何かですか?」

「いえ、外来種なんです。だから、日本は本当の生息区域じゃないんですよ」

「コイツ外来種だったんですか」

「はい、沖縄島や小笠原諸島の父島、母島とかにいます。結構被害も出ているんですよ」


 外来種の被害と言えば、ブラックバスなどが日本古来の生物などを捕食し、絶滅などが危惧されるとニュースでやっているのが頭を過ぎる。

 日本の生態系が崩れているという言い方が正しいのだろう。


「オガサワラシジミなどの昆虫類に、壊滅的被害を与えているんです。そこの地上性の動物がほとんど姿を消すってくらい生息していないんですよ」

「そ、そんなにですか!?」


 俺はつい驚きの声を上げてしまっていた。

 

 俺の家の周りでも、普通に蝉はミーンミーンと夏はなり、春になればカマキリなどの昆虫を見る。それがほとんど見られないという光景を想像するだけで、ありえない、と言葉が出てくるほどだ。


「だから、環境省などが徐々に駆除しているはずでしたよ」

「そうなんですか……」

「ですが、その島のトカゲを食べる生物に影響が出るんじゃないのかって声も出てきているんですよね……」


 一理あるだろうが、そのグリーンアノールが生態系に影響を与えた時点で駆除すべきなのだろう。そんな、素人な考えしか俺は思いつかなかった。


「でも、思うのが日本の生物って弱いですよね」


 俺は、何気無く行ったつもりだったが、綾香の反応は違った。


「違うんです。日本の生物が弱いんじゃなくて、外国の生物が強いんです。弱いものは強いものに勝てない、それが弱肉強食の世界なんです」


 綾香はいつにもなく語気を荒げているように思えた。そして、俺はその綾香らしい言葉の裏に何かあるように感じてしまう。


 これは、俺の勘などではなく経験のようなものからだ。


「でも、日本って色々弱いですよね。野球でも、日本野球はアマチュアだとか言われてますし」

「それは、同感です……」


 しかし、やっぱり綾香は綾香だった。

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