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ワンコイン・ライブ  作者: 藻塩 綾香
残り5日 初デート
15/43

14話 昼食

 サバンナエリアで、キリンの飼育の値段を考えて二人して落ち込んで、その調子で昼食を食べにきた。


 休憩所という場所に来ている。ここには、簡易な昼食などが取れるばしょで、昼なので昼食をとろうという算段だ。


 しかし昼時とあってか、人がとても多くいる。


「人多いですね」

「ほんとですね……、昼食取れるでしょうか……」


 そう心配するほどに、人が多い……。


 席数もそこそこにあるものの、人の数が少し勝っている。店には、人か小さな列を作っている。


「綾香さん、何を食べますか?」

「そうですね……」


 そういうと、手を顎に当て悩む。


 ん~、と小さく考える姿が、なぜだか可愛らしい。


「それじゃあ、寒いですし、うどんにしますかね」

「ここって、うどん売っているんですかね?」

「きっと、手打ちだと思いますよ」

「その、うちじゃないんですけどね」

「そうですか」


 そういうと、綾香は店内を見渡す。


 フードコートのように、様々な店が入っている訳ではなく、ここは券売機で売っているので、券売機を探さないといけない。


 が、すぐ近くにある柱の傍にあった。


「……?」

「どうかしたんですか?」


 俺がそういうと、綾香はこっちを向いて言う。


「券売機って、どこでしょうか?」


 俺は軽く絶句して、何気無く教えてあげる。


「柱のところにありますよ」


 そういうと、綾香はやっと見つけたのか、「あっ」と言って券売機の方へと歩いていく。

 そして、またこちらの方へと歩いていく。


「……自動販売機と、同じ要領で良いのでしょうか?」


 再び、俺は軽く絶句した挙句に、今度は付き添いながら買いに行く。


「雄一さんは、何にするんですか?」

「見てから、考えようかな」

「そうですか」


 そういうと、綾香はうどんのボタンをポチッと押す。

 

 沈黙の時間が一瞬だけ訪れたが、何も無かったように静けさが流れていく。


「故障でしょうか?」

「……」


 俺は、このときに本当に絶句したのだった。


 心の中では、「なにッ!! そんな訳無いだろ、絶対ないだろッ!! ありえないって!!」と、ひたすら唱えていた。

 あの綾香に限ってである。

 

 しかし綾香に関しては、券売機を軽く叩いていた始末である。


「綾香さん……お金を入れないと、券は出てこないですよ……」

「そうでしたか……」

 

 何食わぬ顔で、ピンク色の長財布からお金を取り出すと、券売機に入れていく。そして、指で『うどん』と書かれたブレートのボタンを押す。ピッと券売機が反応して、中から『うどん』と書かれた券が一枚出てきた。


 その、何気無い光景さえも、先程の行為のインパクトが凄く、何とも言いがたい光景に変わっていた。


「雄一さんは、何にするんですか?」


 何食わぬ顔で、こちらに話しかける綾香。その神経は、測りきれない……。


「それじゃあ、親子丼にでもしようかな」

「そうですか」


 綾香は、俺が購入するのを待っているようで、隣で腕を下ろしながら待っている。


 俺は、普通にお金を入れ、『親子丼』のプレートのボタンを押し、券が出てくるのでそれをとる。

 自分の行為になにも、異常が見られないことを自分で確認すると、綾香の元へと行く。


「この券をどうするのですか?」

「……」


 いや、本当に待ってくれ……。


 天然というのか、無知というのか、綾香は頭に『?』マークが出そうなほどに、首をかしげこちらに答えを求めてくる。

 先程までの、自分の無知さが裏返ったような、逆転の法則のようなものが見える。


「まぁ、着いてきて」

「はい」


 そういうと、俺は小さな行列のあるカウンターに向って歩いていく。

 

「ここに並べばよかったのですか」


 なぜ知らない!!

 

 そんなことは言えるはず無く、俺は無言を突き通すが顔ににじみ出ていないか心配だった。変な不安は、掛けさせたくない。


 ようやく俺の番が来た。


「お願いします」

「はい、分かりました」


 そう言って、カウンターの店員が言うと「うどん入りました」と言い、厨房の方から活気溢れた声が聞こえてくる。

 ついでに、俺の券も出すと「親子丼追加です」と言う声がまた、響く。


「これで、よかったのですか」


 そういうと、一人で納得したように言う。

 先程の店員が「こちらの番号でお待ち下さい」というと、小さな紙を綾香に渡す。そして、二コッと笑ってみせる。


 その意図は察しないことにした。


 そして、開いている席に座る。


「綾香さんって、好きな食べ物とかあるんですか?」


 何気無い質問をしてみた。


「そうですね……。あえて、言うなら甘いものが好きでしょうか。饅頭や洋館と言った和菓子みたいな甘さが好きですね」

「へぇ~」


 意外といえば、意外だった。

 結衣は、ケーキのような甘い食べ物が好きだったはずだ。


「ケーキとか生クリームの甘さは、砂糖の甘さで嫌いです。チョコレートとかカカオが原料って知ってますよね」


 心の中で、ギクッと不覚にも驚いてしまった。

 

「はい」

「カカオは本当は、案外苦いんですよ。それを砂糖やココアバター、粉乳を入れて味を隠しているんですよ」

「へぇ~」

 

 また、豆知識が出てきたな。と思いながら、綾香の話に耳を傾ける。


「挙句の果てに、コスト削減のために乳化剤を加え、風味を出すために色んなものを加えているんですよ。まるで、保存性を高めるために、保存料を大量に入れたコンビニ弁当かと、思うほどです」

「……」

「だから、チョコレートはあまり好きでは無いですね」


 また、俺の中でチョコレートの美味しいランキングの順位が確実に落ちた。


「でも、食べられないわけじゃないんですけどね」


 あっ、そうですか……。


「雄一さんは、好きなものとかあるんですか?」

「そうだな……」


 基本好き嫌いはあまり無いほうなので、あまり考えたことが無かった。


「あえて言うなら、肉料理が好きかな……」

「へぇ~」


 頷いてみせる綾香。


「部活をやっていた頃に、筋肉を付けるためによく食べていたんですよ」

「そうなんですか」

「鶏肉をよく食べていたかな。高タンパク、低カロリーだったので。ハーブ焼きとか、美味しかったですね」


 俺は、いつの間にか鶏肉について語りだしていた。


「鶏肉ですか……。私も、お肉は好きなのですが、牛肉の方が好きですね。よく神戸牛や飛騨牛なんかを食べていましたから」

「高いな……」

「父が家に居ない代わりに、家にお金が凄い入ってくるので、それで食べてましたね」


 まさか、綾香がお金持ちの家系だとは思わなかった。どこの社長か何かだろうか。大企業なんかを営業している人だったら凄いな、と思ってしまう。

 アメリカなんかで実業家なんか、していたらもの凄いお金が入ってくるのは、間違いないだろう。


「でも、今は一人暮らしで、仕送りが少ないのでスーパーの安売りで生活していますけどね」


 また、驚きのことが聞けた。綾香が一人暮らしと言うことだ。


「綾香さんって、一人暮らしなんですね?」

「そうですよ。家賃は親負担なのですが、生活費は安い仕送りで何とかやっていかないといけないので、贅沢できませんしね」


 俺の家の場合は、親が家にいるものの余り居ないと言えばいない。が、綾香ほど居ない日は多くない。

 夜になれば家に大概は居る。それに、妹が家には居るので、特には孤独は感じなかった。


 でも、綾香の話から一人暮らしがとても辛いということが伝わってくる。


「そうなんですか」

「まぁ、ちっちゃな贅沢をするって良い事ですよね」


 綾香が自分の着ている茶色のコートを触る。

 あのコートは綾香が自分で買ったものなのだろう。


 俺は、それに小さな喜びを感じていた。

 この一週間のために、俺はバイト代で服を数着買った。それは、この一週間を楽しむためと、ダサい服装をしないためと二つあった。

 

 もし、綾香もこの一週間を楽しもうとし、新しい服を買ってくれたのなら、何よりも嬉しいことの一つに入るだろう。それだけのものを、俺は感じた。


「そういえば、雄一さんって部活は何をやっていたんですか?」

「あぁ、バレー部ですよ」

「バレーですか、私は運動は余り好きでは無いので、よく知らないのですが」

「まぁ、男子でバレーは案外人数少ないですね。男子は野球やサッカーに行ってしまいますから」


 俺の入っていたバレー部は、三年生が八人と多かったが、二年生、一年生とあわせて八人で、余りにも少なかった。

 人気の無いスポーツと、いえてしまうだろう。


「レギュラー入りも出来ない部員でしたけど、案外楽しい部活でしたよ、大会とかでもそこそこの成績は残せましたしね」

「そうなんですか」


 そういうと、綾香はカウンターの方を向いて言う。


「なかなか呼ばれないですね」


 思えばそうだ。


「雄一さんって、何を頼んでいましたか?」

「俺は親子丼ですよ」


 なぜそんなことを、聞くのだろうと思っていたが、思わぬ発言が飛び出すのは避けられないことだったのだろう。


「親子丼って、結局アレは親子じゃないと思うんですよね。卵と鶏って」

「えっ……」


 卵と鶏って、親子じゃなかったっけ。と、自分の考えが、間違っていたのかと不安になってしまう。

 

「種類で言ったら親子でしょうけど、使った鶏と卵がDNAが一緒じゃなかったら、親子とはいえないような気がしますしね」

「……」

「それに、言ってみれば卵から孵ったヒヨコを育てるのは、養鶏場の方ですし。親と言えるのは、親鳥じでは無いような気がするんですよね」


 絶対に聞かないほうが良い言葉が、飛んで来た。


「卵はヒヨコにならない残念な卵のことですし。孵らないですしね」


 親子丼って、親子じゃないんだって知った。

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