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プロローグ
俺は、聞きこんでいた。
余り良いとはいえない音質の音楽を奏でるラジカセに、地面に三本足で立つマイクスタンド、それに年代を感じさせるギター。
駅前に立ち寄った、俺はその声に聞き込んでしまっていた。
目の前では、夜の暗闇に反抗するかのように一層に輝いて見える彼女の姿。真上にある電灯が、綺麗な黒髪を光らせ、薄手の服から見える白い肌の輪郭を際立たせる。
そして、俺は彼女にほれ込んだのかも知れない。
まるで、透明と言って良いのかも迷ってしまうような綺麗な声。ラジカセの音質が逆に、うっとおしく感じてしまうほど、その声が一番輝いていた。
俺は、目の前で路上ライブをしていた彼女に惚れてしまった。