パン屋ローナー襲撃事件
時刻は正午を回った所。ネイたちとの面談を終えた俺はマゼンタと共に、クランハウスを出て昼食を買いに出かけている。ネイとティモシーは孤児院で子供たちと食事をとるらしく昼前に帰ったが、帰り際に気になる事を言っていた。
「カトー君。僕は何度か君が居ない時にこのクランハウスに通ってたけど、その時にレーダーに嫌な反応があったんだ」
「レーダー?」
「うん。僕はレーダー系スキルでも珍しい『やましさレーダー』というスキルを持っていてね。心にやましい所のある人間を自動的に察知する事が出来るんだ」
ルシアの『優しさレーダー』といい、この家系はどうなってるんだろう。この流れで言うなら『やらしさレーダー』もありそうだが、俺とか真っ先に引っかかりそうで怖いから考えないでおく。ちなみに索敵スキルとレーダー系スキルの違いはMP消費の有無だ。前者は明確にターゲット位置を知る事が出来たり細かな条件付けが可能だが、MPを消費する。後者は曖昧にしか分からなかったり条件付けもアバウトなものだがMPを消費しない。つまりティモシーは四六時中やましい人を察知出来るというわけだ。教会本部に勤めていたら気が狂いそうだな。MPは消費しないが、神経は絶対磨耗している。
「その『やましさレーダー』の結果は?」
「この付近は、いつも結構な数の反応があるんだ。キスクワードさんが寄付金に関する話をしてからは減ったけど、それでも入れ替わり立ち替わり反応があってゼロになる事がない。注意した方が良いよ」
「……そうか、分かった。知らせてくれてありがとう」
怪しい奴らがウロウロしてるから気をつけた方が良い、というティモシーの言葉に従って、俺は昼食を買いに外出する際マゼンタの同行を求めた。襲撃者がどんな奴だろうが俺一人で撃退可能だろうが、マゼンタと二人ならそもそもちょっかいを出して来ないだろうと踏んだのだ。ターゲットが一人で周囲に通行人がいない、そうした条件が揃わないと誘拐犯もなかなか手を出しづらいのだと、何かの本で読んだ事がある。やましい奴らもきっと似たようなもんだろう。加えてマゼンタはこの街をかなり隅々まで知り尽くしているらしく、後々行こうと思っていた魔法協会や憲兵宿舎の場所を聞いたら案内してくれるという。願ってもない申し出だったので、俺は一も二もなく承諾した。
人通りの多い大きな道を選んで、俺とマゼンタは目的地であるパン屋を目指す。ここの所イカばかり食べていた為、久しぶりにまたあの固いパンを食べたくなったのだ。ホテル・ヴァンドームで食べるという選択肢もあったのだが、あの空間じゃ何を食べても気が休まりそうに無いし、何よりパンは柔らかい物を使っているという事なので却下した。顎が疲れるくらいの気合いの入ったパンでないと、食べた気がしないんだよな。
「俺のオススメはシンプルにハムとチーズと野菜を挟んだパンだ。ハムとチーズは少し塩気が強いんだが、それがパン自体の甘さを引き立たせているんだよ。たまに無性に食べたくなるんだ」
「私は子供の頃にあそこのスティックパンを食べて乳歯が三本折れました。それ以来怖くて近づいてないんですが、そこまで評価されるのならば試してみたいですね」
「……子供の歯なら確かに折れそうだな。大人向けかもしれない」
あの爺さんは容赦ないな、子供むけに柔らかいパンを作るくらい出来るだろうに。いや、出来たとしてもあの爺さんはやらないか。マゼンタみたいな女性の言う事なら聞きそうではあるが……
あ。
そう言えばあの爺さん、かなりのドスケベだったな。
「マゼンタ。店主は女に目が無い。変な事をされるかもしれないから、店の外で待っていても良いぞ」
「いえ、構いませんよ。そういった人のあしらい方は心得てますので」
さすがだ、ローランドとは格が違う。あいつなら言われるがままに流されるだけだろうな、そしてひん剥かれて爺さんをビックリ&失望させて何故か怒られる……展開が読め過ぎて泣ける。
「まぁ無理そうなら言ってくれ。その時は俺が仕留める」
「カトー様を犯罪者にさせないよう頑張ります」
どういう会話だ。
かつて通っていた職業斡旋所の近くを通り、大通りを一つ外れて家と家の間を通る細道を行く。緩やかにのぼる石畳の坂、その所々で小さな猫に似た動物が寛いでいた。索敵には未だ何も引っかからず、どうやら今日は安全らしい。この細道は近所に住む人たちの抜け道になっており、何かトラブルが起きても音を立てれば付近の住民がすぐ気づく。追跡者がいたとしても、この道に入ってしまったからには諦めざるを得ないだろう。
その細道を抜けた所に、パン屋『ローナー』はあった。昼食の時間を少し過ぎた事もあって、窓の外から見る分には置いてあるパンは少なそうだ。まぁ仕方ないよな、と軽くため息をついてから俺は金属製のベルのついたドアを開けた。
ガラン……
「爺さん、また来たよ」
「む、しばらく来ないと思ったら生きてたか大飯食らい。悪いがいつもの……むむっ!?」
つるっぱげに丸眼鏡、鳥と見紛うばかりの鷲っ鼻の店主パウエルは、俺の斜め後ろにいる人物を視界に収めた途端に目を剥いて唸った。やはりか。やはりそこに目が行くか。
「お、おっぱ、おっぱ、おっおっおっ……」
「落ち着け爺さん、興奮しすぎて昇天しそうな勢いだぞ」
プルプルと震える指をマゼンタへ向ける爺さん。ゆっくりと近づく姿はちょっとしたホラーだ。ほらマゼンタも流石にひいてるじゃないか、人を指差すとか失礼な真似を……って、違う!
「そこまでだ。指の進路を変えろ」
指を掴んだ。
「な、何をするか馬鹿もん! ちょっとした挨拶じゃろうが、触れ合う事で分かり合えるって素敵じゃと思わんか」
「真っ先に胸に向かう指から分かるのは下心だけだろう。頼むからアホな真似をしないでくれ、店を紹介した俺の品格まで疑われる」
「フンッ、全身真っ白な布切れで覆って聖職者を気取った所でお前さんに品格などつきゃせんわい、この筋肉達磨が」
これが客に言う言葉か。そして何気に達磨という言葉が通じるのか、つくづく仏教文化に強いなこの世界は。パウエルは鼻を鳴らして指を下げると、真面目な顔をしてマゼンタに向き合った。
「ユニスニーク家のお嬢ちゃんじゃな、母親によく似て綺麗になったわい。また来てくれてありがとう」
「……!! 覚えてらっしゃったんですか!?」
驚くマゼンタ。ユニスニーク家というのはよく分からないが、マゼンタの実家の事だろうか。とにかく爺さんは彼女の事を覚えていたようだ。呆け始めてもおかしくない年齢だろうに、恐ろしい記憶力だな。
「勿論覚えておるとも。パンを食べて口を血まみれにした娘はお嬢ちゃん以外におらんからな。忘れろと言う方が無理じゃ」
「ぅう……」
恥ずかしそうに俯くマゼンタ。キリッとした印象しか知らなかっただけに、こうした表情が新鮮に見える。
「何にせよまた会えて嬉しいわい。残念ながらパンは少なくなってしまったが、良かったら見て行っておくれ」
いつになく柔らかな顔をしているパウエル。マゼンタも先ほどまでより幾分リラックスした表情をしている。これはマゼンタを同行させて正解だったようだな。しかし……パンはやっぱり少ないか。食事時のピークは少し過ぎてしまったから仕方ないが残念だ。
俺は話を続ける二人をよそに陳列棚を物色し始める。お目当てのパンは2つだからこれは全部買うとして、他にベーコンとオニオンみたいな野菜の乗ったパンにセーラが気に入ったサーモンのやつ。ああ揚げパンまであるのか、これは試してみたいな。後は干した果物が沢山練り込まれた物や菓子パンみたいな物ばかりだな。
「残ってる惣菜系のパンをみんな買おうかな」
「お前さんはいつも豪快じゃなぁ。ワシ、そういう所好きよ」
そうかい。そんなカミングアウト困るけど。
「マゼンタ、君はどうする? 惣菜系のパンは取りあえず押さえたから後でクランハウスで選んでもらうとして、おやつに好きな物を選んでくれ」
「……いいんですか?」
「そりゃ付き添いをしてもらってるんだからこれくらいするよ。さあ、幾つでも好きなのをどうぞ」
俺が促すとマゼンタは困惑しながらも陳列棚へと向かった。俺が爺さんの所へ行くと、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて奴は言った。
「お前さんは女を見る目があるのう。ムチムチでボインボインな所ばかりに目が行きそうじゃが、あの娘は色々と苦労をしとるし頭も良い娘じゃ。大切にしてやるんじゃぞ」
「いきなり何を言ってんだ、今日初めて会った子だぞ」
「時間なんて関係ないじゃろう。ワシなんて初対面の娘でも三秒でキスまで持っていけるぞ」
犯罪だろう、それは。冗談でもそういった危険なネタを言うのはやめてほしい所だ。
「それにしても……」
俺は少し前に考えていた事を口に出していた。
「子供むけの柔らかいパンを作ろうと考えなかったのか?」
「うむ……そういったパンは婆さんが一時期作っとったが、婆さんが死んでからは作らなくなったのう。この周辺の子供は近くのケーキ屋に行っとるから元々こちらには来んのじゃよ」
そうだったのか……客層が違うのなら仕方ないか。住み分けが出来てるのなら今更無駄に客を奪うような行為はしない方が良いだろうし、第一この爺さんは趣味で続けてるだけだと以前言っていたからな。今になってわざわざ新しい事にチャレンジするというのも……
「しかし今日マゼンタ嬢ちゃんを見て閃いてしまったわい」
するんかい。凄いな、何をする気だ?
「子供でも食べられる、ふわふわのパンのアイデアじゃ。すべての子供、そして男たちの夢を具現化したパン、その名も……」
まさか。
「『おっぱいパン』じゃ!」
「いっぺん死んでこい」
思わず絶命しろと言ってしまった。いやしかしそれは無いだろう。
「何故じゃ? 2つの大きなふわふわにかぶりつけるんじゃぞ。甘くて柔らか、歯に優しい。これ以上何を望む」
「モラルだな。というか嫌だぞ、かじられる胸とか。端から見たらカニバリズムに走ってるみたいでグロ過ぎる。子供なら躊躇なく食うかもしれんが、大人はまず食べないだろう」
「そうかのう。いや、練乳とかかけまくったら官能的で思わず買ってしまうじゃろ?」
「本気でいっぺん死んでこい!」
この爺さんはもうダメかもしれない。そんな脱力するような会話をしている中、マゼンタは陳列棚に並ぶパンを眺めながら楽しそうにしていた。その純粋な瞳があまりに無邪気で、余計にこちらが汚く思えてならない。俺は爺さんにツッコミをいれながらも、そのあまりのギャップに悲しくなっていた。
さて、このまま何事も無く用事が終わってクランハウスへ戻れたなら、きっと良い1日で終わっていたのだろうと思う。ネイやティモシーとの面会、マゼンタと爺さんの再会、美味いパンも買えて楽しい1日になったと満足していただろう。しかし残念ながらそうはならなかった。
和やかな雰囲気の中会計を済ませ、店を出る俺たち。爺さんも店の外に出て俺たちを見送る。じゃあまた、と俺が言って坂道を行こうとしたその時……
爺さんが恐ろしいスピードで、何か棒のような物を近くの家の物陰へ投げた。
グサッ!
「ぐあぁっ!?」
何かに突き刺さる音、そして男の呻き声。驚いて振り向くと陰から黒い塊のような物が飛び出してきた。まさか敵か!? いや索敵には何も引っかかっていなかったぞ!?
「ここはワシにまかせい」
「お爺ちゃん、駄目よ!」
マゼンタが慌てて止めるが俺は爺さんの姿を見て愕然としていた。いつの間にか両の手に握られていた細長い棒。それはなんとカチカチに焼かれたスティックパンだったのだ。そして飛びかかってくる黒い塊は大きな犬。いや犬といっても殆ど狼と言って良い大きさだ。その黒い犬を、次の瞬間爺さんは……
袋叩きにしていた。
ドゥルダダダダダッ
ダッツーダダダッ・ドカドカドカドカ・ドゥルダダダダダダダダダ……ッ!!
『……、………ッ!?』
腕が、余りの速さでタコ脚のような残像を残す。その凄まじいスピードで繰り出される攻撃は無駄にリズミカルで、まるでドラム・ソロを聴いてるようだった。黒い犬の影は攻撃に耐えられず実体を失い、煙のように消えて行った。
「ワシに喧嘩を売るには100年早かったみたいじゃのう」
爺さん一体何者なんだ。そしてそのスティックパン……まさかそれを子供時代のマゼンタに食べさせたわけじゃないだろうな。
色々気になったがしかし今はそれどころじゃない、襲撃者をどうにかしないと。見ると黒い犬を放った奴は坂道を駆け下りている。俺はマゼンタを爺さんに任せると、奴を追う事にした。
「爺さんすまない、マゼンタを頼む!」
「うむ、流石に走るのはしんどいからお前さんに任せよう」
「カトー様!?」
襲撃に気づかず格好悪い所を見せたが、今度はそうはいかないぞ。このまま逃がすと思ったら大間違いだ。俺は怒りを込めて力の限り叫ぶ。スピードに特化したこの能力で地の果てまで貴様を追いかけてやる、と心の中でつぶやきながら……
『パンツマン、参上!!』
飛行可能な白鳥パンツは、飛ばなくても驚異的なスピードを発揮出来る。生身でも捕まえる自信はあるが、念には念を入れて確実に奴を捕まえようと決めたのだ。身体の中で爆発的に増加してゆくエネルギーを感じながら、その熱き魂のほとばしりに俺は胸を奮わせる。嗚呼怒りよ奴を討つ力となれ、筋肉の精霊よ我を勝利へと導き給え。さあおしおきの時間だ、舐めた真似をしてくれたじゃないか。今そっちに行くからね……
『グアァ~……』
白鳥君も俺の怒りを感じているらしい。姿を現した白鳥君はその瞳に炎を宿しながらゆっくりと鎌首をもたげた。
……ローブの下で。
「きゃっ……カトー様、ちょっと!?」
「ううむ、これは立派じゃ」
………。
そうか。俺はまた、やってしまったな?
少し考えれば分かる事だった。全身すっぽり覆うローブを着たまま白鳥パンツを発動させれば、そりゃ股間だけ巨大なテントを張ったようにせり上がるわけだよ。変態だ。間違いなく変態だ。しかし今はやり直してる場合じゃない!
「行くぞ白鳥君!」
『グアァ!!』
俺は駆けた。猛然と駆け出した。とにかく一刻も早くその場を立ち去りたい、一分一秒でも速く奴を捕まえねば。だから今の俺に悔やんでる暇なんか無いんだちくしょおぉぉぉぉぉぉっ!!
◆◆◆チックさんの休日◆◆◆◆
何だか陽の光が黄色く見えます。久しぶりの休日、私は溜まっていた洗濯物をやっつけてから、重い身体を引き摺るように街へ買い物に出かけていました。
この街に来て3ヶ月。キンロウの研究所にいた頃とは比べものにならないくらい、忙しい毎日を送っています。モンスター鑑定士という仕事は想像以上にハードで、間違えた鑑定が即ギルドの大きな損失に繋がったりトラブルになったりするので神経が兎に角すり減るんです。冒険者の方々にも荒っぽい人が多く、また鑑定士を騙そうとする人も多くて恫喝される事もしばしばです。お給料は結構良いとは思うんですが、このままでは潰れちゃうんじゃないかなって、私……
ああダメダメ、愚痴なんか言ってたら益々元気が無くなっちゃう!
悪い事ばかりだったら気が滅入るだけですが、良い事だってあるんです。例えば、このフォーリードには伝説の冒険者がいます! 隣国からの侵攻から街を守り、また数々の大型モンスターをやっつけてきたフォーリードの竜巻夫婦、クロス様とアメリア様です!
つい最近、初めてあの方たちの討伐モンスターを鑑定させていただきましたけど、そのラインナップといったら本国のへなちょこ冒険者なんか話にならないくらいの豪華さで、もう私は感動と緊張でまともに話が出来ないくらい。ずっと舌が回らず一生このまま喋れなくなるかと思いましたよ。特に大型のグリーンドラゴン三体は私もサンプル資料を見た事があるだけで本物は初めて。今にも動き出しそうな迫力に、ちょっと漏らしそうになったのはここだけの話。また、クランメンバーのフレイさんという狩人の方はなんとゴールデンフォックスを退治するという偉業を達成! 標本でしか見た事無かったゴールデンフォックスを鑑定出来る人なんて、この業界では殆ど居ませんから兎に角感動の嵐で前が見えないくらいでした。いや、ちゃんと鑑定しましたよ? 他の鑑定士さんと一緒に首に巻いて遊んじゃったのは内緒です。
でもそんな凄い活躍をされてるクロス様たちですが、今一番注目を集めているのはカトーさんという無名の新人冒険者です。クロス様たちに次ぐ英雄と言われている彼は、一部の人たちからは盗賊と繋がってるとかコネと金でランクを買ったとか言われてる人で、正直に言えば私の抱いていた印象は胡散臭い人という感じでした。けれど、この人の討伐して来たモンスターのリストは、そうしたマイナス評価を払拭してしまうのに充分な物だったのです。
最近多くなったバンプウッドの発生、彼は一人でLv50前後の個体を倒しています。また、パーティーを組んでからも一体倒してますし、小、中型モンスター討伐数も短期間でかなりの数を記録していました。特に殺人蜜蜂は300を越えてますし、これは多分国内最多討伐数になるんじゃないでしょうか。他にもダーティーベアのような大型モンスター、昨日はダークダゴンとブラッディダゴンの討伐も確認されたという連絡もいただきましたし、彼の実力を疑う者はもう存在しないでしょう。
それにリストを見れば分かりますが、彼は本当に危険なモンスターを優先して討伐しているようです。そこらへんの弱いモンスターを倒して生活費を稼いでいるだけの冒険者と違い、この街の人たちの生活を脅かす本当に危険なモンスターに立ち向かっている。殺人蜜蜂なんてそうした意識を持っていない人なら真っ先に放置するような存在ですからね。ハイリスクローリターンの最たるものです。だからこそ私は彼を尊敬する。その在り方に、小さな頃に夢に見た英雄の姿が重なるのです。
でも……。
ちょっとイヤな事もあったりするんですよ。
最近ギルドに上がってくる報告で、新種のモンスターの目撃報告があるんですが、これがどうも彼っぽい。
空飛ぶ坊主、頭の2つある羽の生えた化物。地上に向かって水を吐き散らすとか、ギルドの戦闘経過報告を参照する限り、明らかにカトーさんの戦い方に重なるんです。アメリア様にそれとなく確認しましたが、「察してくれ」とだけ言われました。いやあの察してと言われても。私が本人に確認とらなきゃだめですか? 本当に? カトーさんは何となく良い人っぽいから構わないんですが、もし彼だとしたら、悪い噂を立ててる人たちがまた騒ぎ出すんじゃないかと思って気が引けるんですよね。変な人たちがいるんですよ、最近。
だから、騒ぎなんて起こして欲しくないんです。尊敬してるんです、心配してるんです、だからこそ心を鬼にして言いたい。
そこの白いの、自重して。
◆◆◆休日崩壊◆◆◆◆
走る、走る、駆け抜ける。
風になれマイ・ハート、俺たちは自由だ。
白い風となった俺たちは坂道を猛スピードで下り、逃げる男へと迫る。男は緑色のローブを着た魔法使いで、此方を振り返ると顔を青ざめさせ叫んだ。
「ぎゃああ、変態だぁああっ!!」
失礼な、それが聖職者にかける言葉か! ちょっともっこりしてるだけじゃないか、取り消せ!
「貴様、そんな誹謗中傷をして只で済むと思うなよ! ふんづかまえて白鳥君の餌にしてやる!!」
『グェッ!? グワババババ!』
だから白鳥君、ローブの下で首を振るんじゃない。普通そんなグネグネ動かないから。なんか違う存在になっちゃってるから。
「くっ……何としてでも尻は守り通す! 『ウィンドエスケイプ』!!」
何を勘違いしたのか男は必死の形相で魔法を唱える。逃走速度を速める魔法らしく、奴のスピードがどんどん上がって行った。しかしパラメーターはこちらの方が上だ。距離は50メートルを切り、あと少しで捕まえられる。よおし覚悟しろ、と前方を見据えると、マズい事に前から歩いてくる女性の姿が。
もし奴が彼女を捕まえて人質にとってしまったら。そう考えた俺は、奴が彼女の側に近づく前に勝負に出る事にする。魔法だ。魔法を使って奴を仕留めるのだ。俺の決断は白鳥君も察したらしく、その口元に魔力を集中し出した。おお、これぞ以心伝心。育んだ絆が生み出した超絶無二のコンビネーション。さあ行くぞ白鳥君、殺さない程度に痛めつけてやるのだ! 来たれ、正義の水柱……
『グワババ、バアァァァァァァッ!!(マッスル・ポール!!)』
「何ぃ!?」
全然伝わってねえ! 何故その魔法を選んだんだ白鳥君、俺が使うのと君が使うのじゃ同じ魔法でも効果が変わってしまうのは分かっていただろう!? あの恐ろしい魔法が白鳥バージョンでどうなってしまうのか……
あ、分かった。
俺は反射的にローブの裾をたくしあげた。それと同時に、恐ろしい勢いで伸びてゆく白鳥君の……
『ギャワアァーーーーーーーーーーッ!?』
首。
そしてそれは、女性に飛びかかろうとした男に向かって一直線に伸びて行き、予想通りの結果を引き起こしたのだった。
ズンッッッ……
「アッーーーーーーーーーー!?」
『#◎☆♂%§※→∀℃▲=!?』
「きゃあああああああああっ!!」
すまんかったーーーーーッ!!




