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カトーとエロフと薬草と

 朝。俺は久しぶりにホテルの一室で目を覚ます。スプリングのしっかり利いたベッドと清潔で良い匂いのする布団のコンビネーションはなかなかに強力で、非常に気分良く目覚める事が出来た。これでセーラの寝顔があったら文句無しなのだが、それはまぁ仕方がない。後一日の辛抱だ、我慢しよう。


 昨日は俺にしては少し酔ってしまったようで、随分と頭の悪い会話をしてしまった気がする。筋肉魔法の開発の下りは今思い出しても恥ずかしいが、それだけバカになるくらいに俺も酒を楽しんでいたんだろう。気分良くホテルに戻って、そのまま眠ってしまったようだ。


 時刻は朝6時ジャスト。俺はバスルームでウォーターキュアによるシャワーを浴び身体を清めると、少し早めの朝食をとる事にした。このホテルの良い所は沢山あるが、かなり早い時間から食堂を開けている所もその一つだろう。俺は『うみんちゅシリーズ』を着てから、地下食堂へと向かった。


 で、階段を下りてロビーの受付前を横切った時なのだが。珍しい事にホテルの従業員から声をかけられた。


「おはようございます、カトー様。実は先ほどカトー様宛てに荷物が届いたのですが……」


 その男性従業員は手に大きな平べったい箱を抱えていた。材質は木のようだが、中身は一体なんなのだろう。俺は箱の上に貼り付けられている紙を見る。そこには『ツァーリー防具専門店ドミトリ工房』という文字が並んでいた。防具? その下には贈り主の名前が書いてあり、やけにしっかりとした文字でこう記されている。


『未来の共同経営者より』


 ………。


 共同経営者って。


 これはどう考えてもキスクワードだな。確か以前くれた解毒薬や白鳥君の餌とは別に、防具を贈るとか言ってたような気がする。今の今まで忘れていたが、本当に彼には世話になりっぱなしだな。


「受け取りのサインをいただいて宜しいでしょうか」


「分かった。わざわざありがとう」


 紙にサインをしてから木箱を受け取ると、俺は一度部屋に戻って中身を確かめる事にした。セーラに贈られた胸当てやスカートはなかなかに素晴らしい出来だった。あのクオリティを見てしまうと、期待は否が応でも高まるというものだ。


 部屋のベッドの上に木箱を置いて、ドキドキしながら蓋を開ける。横にスライドさせて行くと中からあらわれたのは……


「ローブ? 真っ白いローブじゃないか」


 如何にも魔法使いが着てそうな、フード付きのローブが入っていた。その色は純白。光の加減で微妙に柔らかなクリーム色のようになったりして、何となく上等な絹織物を想起させる。俺の体格に合わせてくれているのでやたらとデカく、これなら全身をすっぽり覆う事も可能だろう。


 箱の中には他に、一枚の紙が入っていた。そこに書かれていたのは、主にこのローブのサイズや特殊効果の解説だった。


【聖者の衣】

 サイズ…巨人S 属性…聖

 材質……クリスタルワームの糸100%


 温度変化と汚れに強いクリスタルワームの糸を使ったローブ。劣化防止の為の魔法処理もしてあり、その効果は二年間続きます。また魔力を通す事により強い光を放つ事も出来ますので、暗い場所でも快適に過ごしていただけます。このローブの名前『聖者の衣』はかつて聖職者たちが未開地に布教へ行った際、この発光機能を使い原住民たちを驚かせて布教した事に由来します。

 貴方も是非本製品を装着してご機嫌な聖者ライフをご堪能下さい。


※しかし間違っても、本当に布教活動等に本製品を利用しないで下さい。そうした行為で何かしらのトラブルが起きても、当方は責任を取れません。






 えーと……


 能力だけ見たら結構凄いと思うんだが、名前の由来とかは最悪だな。現地人にハッタリかまして布教とかみみっちいにも程があるだろ、それに感動して信者になる奴らもアホすぎる。聖者ライフを堪能しろと煽っておいて実際に布教活動はするなとか、この解説書を書いた奴もどうかしてると思う。


 でも、これは想像以上に良い物だ。


 温度変化と汚れに強く、二年間殆ど劣化しないというのは素晴らしい。しかも光る。夜道とか安全に歩けるし、夜間の戦闘とかでは目くらましとして活用出来るかもしれない。それだけではない、使い方によっては俺のヒーローライフに大きな力となりそうだ。


 つまり。

一、変身したいと思ったら魔力をローブに通す。

二、周囲をまばゆい光で照らし俺を見えなくしてから「パンツマン参上」と叫ぶ。

三、変身と同時にローブはアイテムボックス(パンツ)の中へ。光が解除される。

四、光の中からパンツマン参上。


……これはヤバいくらいに格好良いな。想像するだけで胸が震えて、その振動波だけで部屋の壁を粉砕してしまいそうだ。この発光→変身という流れは、演出として最高と言う他無い。


 キスクワード。彼はもしかしたら、セーラに次ぐ俺の理解者になるかもしれない。素敵すぎる贈り物に俺は思わず涙を流した。


 さて、早速ローブを着てみよう。うみんちゅシリーズの上に真っ白なローブというアンバランスな組み合わせではあるが、どうせ外から見えるわけでも無し構わないだろう。案の定すっぽりと全身を難なく覆い隠すローブ、裾は床スレスレピッタリに合わされており、見事に俺の体格に合っていた。サイズは巨人のS。……人間としてはデカくて巨人にしては小さいという所か。


 続いてフードを被ってみる。目元どころか鼻まで覆ってしまったが、どういう仕掛けか裏地からは外の景色が透けて見えていた。これはマジックミラーか何かだろうか。外からは見えず内側からはスケスケ。前々から魔法使いが顔を隠すようなローブを着て普通に動けるのを不思議に思っていたんだが、これで謎が解けたな。奴らはスケスケだったのだ。見放題だったのだ。このスケベ野郎、今日から俺も仲間だよろしくな。……いや、嘘です。多分ウチの女性陣とか強いから、普通にエロい視線に気づいて攻撃してくるだろう。危ない真似はやめとくに限る。


 とにかく。ローブを身に纏った俺は真っ白い巨大な何かになった。部屋の姿見の中の俺は、何だか馬鹿でかい蝋燭のようにも見える。ここから光り輝いてムキムキのパンツマンに変身したら、敵のビックリ具合は半端じゃないだろうな。これはちょっと楽しくなって来たぞ。


 俺は幾分テンションを上げて、この格好のまま食堂へと向かう事にした。









 地下にある食堂に向かうには、どうしてもロビーの受付の前を横切る事になる。先ほど俺に荷物を届けてくれた男性従業員とまた顔を合わせる事になるのだが、彼は俺の姿を見た瞬間に目を剥いて固まった。


「やあ。誰か分かるかな」


「カ、カトー様ですか?」


 正解だ。彼はもしかしたらとても優秀なんじゃないだろうか。


「さっき届けてくれた荷物はこのローブだったよ」


「は、はぁ……見慣れない姿だったものですから、驚いてしまいました。失礼致しました」


 謝る必要は無いけどな、こっちもある程度狙っていたから。


「このローブは魔力を通すと光るから、暗い場所でも楽々歩けるらしいよ」


 ついでにちょっと自慢してみる。何気に気に入ってるのだ。試しに魔力を通してみると、ローブは強烈な光を放ち始める。朝日である程度明るくなっているロビーなのだが、俺の発する光は更に強いらしくその場にいた従業員たち全員が目を細めた。……ちょっと魔力を通し過ぎたようだ。


「すまない。光が強すぎたな、これで歩いたりしたら余りにも不審すぎる」


「……出来ればホテル内では控えていただけると助かります。夜中ですと見回りの者が驚いて腰を抜かすと思いますし」


 そんなにか。ならやめておこう。正直に言えば多少考えてたんだけどな……闇夜にドッキリ幽霊騒動。さすがにそれで腰を抜かしたら気の毒だし、下手したら傷害罪に問われるかもしれない。こっちの法律はよく知らんけど。


「分かった、気をつけるよ。なるべく光らないようにする」


「ありがとうございます」


 よくわからない事を言って俺はロビーを後にした。何なんだろうな、「なるべく光らないようにする」って。初めて口にするが、これは本来ホタルか何かのセリフだろう。










 ホテルの食堂で朝食を済ませる。今日は鱒のような魚の切り身を焼いた物を中心に、魚貝類をふんだんに使った豪華な定食だった。実は日本にいた頃は魚中心の食生活をしていた俺。このホテルでの生活はストレスが溜まらなくて本当に心地良い。


 ただ今日は、嫌な視線が少し多くて居心地悪かったけどな。


 食堂には俺以外の冒険者がチラホラといたんだが、最初は全身真っ白な俺を見て驚いている奴らが殆どだった。が、俺がフードを取って従業員たちに挨拶を始めると視線の質が変わる。何というか、こちらを推し量るような、品定めをするかのような、気持ち悪いものに変わったのだ。多分俺の不在時に起きた騒動、もしくは未だに流れているであろう質の悪い噂のせいなのだろう。せっかくの美味い料理の味を損ねるような真似はして欲しく無かったが、俺一人だったからそこは我慢した。これでセーラも一緒だったら食堂を出てルームサービスに切り替えていただろうな。もしくは、奴らに向かって光り輝いて目潰ししてやる所だ。

……ふぅ、セーラが帰って来たら相談してみようか。しばらく食堂を使うのを控えるかどうか。いっそ新しく家を買って移り住んでしまうのも良いかもしれない。









 さて、食事を終えた俺は早速クランハウスへと向かった。今日は色んな人と会わなければならない。冒険者ってもっとお気楽な生活が出来ると思っていたんだが、なかなかそうは行かないようだ。それとは別に、俺には植物の水やりという大切な仕事がある。この5日間はローランドに任せっきりだったが、今日からは俺がしっかりと水やりをして行くつもりだ。

……しかし大丈夫なのだろうか。明らかに怪しい成長を遂げていたよな、あの薬草たち。それとも元々ああいう種類なのだろうか。


 フォーリード西区、この街最大のホテルの裏手にある我らがクランハウスに到着すると、そこには意外なくらいに平和な光景が広がっていた。


 庭の一画、俺が作ったカトー農園に一人の女神が降臨している。手には如雨露が握られ、まるで踊るようにかろやかにその女神は薬草たちに水を与えていた。薬草たちはワサワサと葉っぱを揺らし、まるで喜びを身体で表現しているかのようだった。また、その場に流れる女神の歌声が美しいのだ。これは何の歌なのだろうか、聞いた事の無いメロディだが親しみやすく、心が洗われるかのような清涼感をもって周囲に響き渡っている。少し耳をすませてみようか。


◆◆◆◆◆◆◆


 抱きしめて 離さないで


 私の心 縛り付けて


 貴方をいつも感じていたい


 噛んで 跡が残るくらい


 動いて 私が壊れるくらい


 貴方が与えてくれるもの


 痛みすら悦びに変わる


◆◆◆◆◆◆◆



「カトー・フラアァァッシュ!!」


 ピカァァァッ!

「きゃあぁぁぁぁっ!?」


 光ってみた。

 光ってツッコミを入れるとか新しいよね。


「な、な、何者ですかアナタは! ま、眩しくて目が……」


 お前こそ何者だよ。朝からとんでもない歌を歌いやがって、子供とかが聞いたらどうするんだ。全く、変に美声だから余計に質が悪い。


「目に頼るな、心の目で感じとるんだローランド」


「この声はカトーさんですね」


 人の話を聞け。思いっきり耳に頼りやがったなこんにゃろう。驚いてひっくり返っていたローランドだったが、視力が回復してきたのか目をシパシパさせながらも立ち上がった。今日は何故かメイド服を着ているが、何かの罰ゲームだろうか。


「えーと、それはキスクワード様が贈ったローブで間違いないですね。もう、いきなり光るからビックリしましたよ。あとフードまで被ってたら余計に誰だか分からないので取って下さい」


「……仕方ないな」


 何故か俺が怒られた。納得いかないが言われた通りにフードを取る。


「わっ、また眩しい!」


 てめぇ、全国のスキンヘッダーに謝れ。


「冗談です。ちょっと仕返ししてみました」


「元はと言えばお前が卑猥な歌を歌ってるのが悪いんだろうに……で、朝から水やりをしていたのか。今日から俺がやろうと思ってたんだが、悪かったな」


 話が進まないので強引に話題を変える。ローランドは何でも無いように答えた。


「単に水をやるだけですから別に構わないですよ。今日は特にギルドからの依頼も無いですし、クロスさんも無理に仕事をしなくて良いと言ってましたし。これからもカトーさんは仕事で街を離れる事が多いでしょうから、何なら私がずっと水やりをしていてもいいんですよ?」


 確かにローランドの提案は有り難い。実際今回みたいに長期の仕事で街を出る事はこれからもあるだろうからな。ただ……この言い方、ひょっとするとローランドは水やりが気に入ってるんじゃないだろうか。


「水やりは楽しいか?」


 そう尋ねると、やはりローランドは笑顔になって言う。


「はい、とても。最初はいきなり書き置きだけ残して押し付けられたから、嫌々やっていたんですけどね。この子たちはとても成長が早くて、私の歌を誉めてくれたり色んな反応を見せてくれるので段々楽しくなってきました。昨日なんかは愚痴を聞いてくれて、更に慰めてくれたりしたんですよ。いい子たちです」


 なんだろう。植物に慰められるエルフ……葉っぱで頭でも撫でて貰ったのだろうか。というかローランドの場合、慰みものになってそうで怖い。どうしてもソッチ方向の意味にとってしまいそうになるのは俺がいけないんだろうか。


「それならこれからもローランドに頼もうかな。自分の仕事に支障が出ないように、無理の無い範囲でやってくれ」


「分かりました。と言っても朝だけだから全然負担じゃないんですけどね」


「……それとちょっと聞きたい事があるんだが」

 今まで気になっていた事を、勇気を出して聞いてみた。

「その服は、その、ローランドの趣味なのか?」


「えっ?」


 不思議そうな顔をするローランド。いや、それが素でお前の趣味ならば俺はお前に対する警戒レベルを上げなければならないんだ。


「いえ、水やりってこの服でやるものなんでしょう?」


 は?


 なんだと?


「カトーさんに水やりを任された日に言われたんですよ。ホテルのメイド長さんに、水やりをするなら正式な服装でやりなさいって」


 ………。


「私も最初はビックリしましたけど、それが作法なら仕方ないかなって。一応私も元々はホテルで働いていましたし、ヴァンドームに仕える者として無作法な真似はしたくありませんから」


「そうか……。まあ、ローランドが納得しているならそれで良いんだ」


 明らかに騙されてると思うんだが、本人が気づいてないのなら放っておいても良いだろう。話を聞く限りローランドはメイドたちのオモチャ……いや、お気に入りみたいだし、メイド服の着用にしても彼女たちの欲望によるものに違いない。ここで俺がバラしてローランドがメイド服を拒絶するなんて事になれば、恨まれるのは間違いなく俺だ。それはなんだか嫌だった。


 まぁ、確かに似合ってるし。変な歌さえ歌わなければ問題は無いのだろう。


 水やりの話を済ませたら、次は本題となる面会の話となる。今日は俺が救出した軍関係者が街に到着する日だったハズだ。話は勿論その件を中心にして進められた。


「確かに今日中に到着する予定ですけど、憲兵さんたちの所にも用事があるらしいですよ。移動の疲れもあるでしょうから、クランを訪れるのが明日以降になる可能性もあります。どの道隊長さんはホテル・ヴァンドームに宿泊される予定ですから、遅くとも今夜までには従業員が確認を取って連絡してくれますよ」


「なるほど。要は到着待ちで向こうに合わせるようにすればいいんだな。教会の方はどうなんだ?」


「カトーさんが帰ってくる日は既に知らせてありますし、多分今日の昼前にはこちらにやって来ると思いますよ。ティモシーさんは忙しい方ですが、直接カトーさんに会って御礼を言いたいと足繁く通ってらっしゃいましたから」


「それなら俺はこのままクランに居た方が良さそうだな」


「そうですね。あ、それならちょっと手伝ってもらって良いですか? 薬草たちの周りに生えた雑草を取ってしまいたいんですが、私一人じゃ大変だったので」


 こうして、俺は教会の人間が来るまでローランドと一緒に草むしりをする事となった。これから面会しようという人間が野良仕事をしていて良いものかとも思うが、別に王族みたいなお偉いさんと会うワケでもないので気にしなくても良いだろう。スーツに着替えるのも面倒だな。教会関係者ならこっちのローブの方が印象は良いかもしれないし、これでいいや。


 俺はローランドと一緒に草取りに使う鎌や汗拭き用のタオルなどを取りに行った。勿論庭仕事に欠かせない麦藁帽子もしっかり用意してある。ローブに麦藁帽子という、絵画にでも描かれそうな素敵な格好で、俺は草むしりに挑むのだった。









 俺は植物に関して余り詳しく無いのだが、それでも目の前の薬草が異常なのだという事は良く分かった。ローランドの手によって育てられた薬草は、なんと葉っぱの部分を器用に使って草むしりを手伝い始めたのだ。この世界に来てからそれなりに長い時間を過ごして来たが、未だこの世界には驚かされるばかりである。


 薬草の形状は、分かり易く言うとアロエである。ぱっと見は細長い葉っぱを四方八方に伸ばした背の高い草なのだが、よくよく見ると葉っぱは分厚く、表面には空に向かって鋭く伸びるトゲが生えていた。そのトゲを使って、自分の周囲に生える雑草を引っ掛けたり土をほじくり返したりして器用に取り除いて行く。俺とローランドは彼らの届かない場所の草むしりをするだけ。非常に楽だった。


「明らかに異常成長だと思うんだが、ローランドは何か心当たりが無いか?」


「私も初めて育てる薬草なので……」


「冒険者カードを見て、何かスキルが増えていないか確認してみてくれるかな。成長補正系のスキルに目覚めている可能性がある」


 俺がそう言うとローランドは半信半疑という表情をしながらも言われた通りにカードをスカートのポケットから取り出す。そして注意深くスキル欄に目を通すと、ある一点を見つめたまま身体を硬直させた。これは何か増えていたな?


「カトーさん大変です。原因が分かりました」


「どうした。何が増えていたんだ」


 差し出されたカードを見ると、そこにはこんな文字が記されていた。




『無軌道成長(Lv3) ※一種類のみ』




 おい……。


 これ、俺のスキルよりよっぽど危険じゃないか?


「ローランド、多分このスキルはかなりヤバいと思う。自分で解除したり、コントロール出来るか?」


「やってみます、確かにこれは危険すぎますよね」


 さすがに事の重大さに気づいたのか、ローランドの表情が強張り始める。薬草に両手を突き出し、何とか解除しようと目を閉じて念じていた。そうしてしばらくすると薬草の周りを、何やら奇妙な文字の羅列が輪のように囲んでいるのが浮かび上がって来る。ローランドは目をカッと見開くと力強く叫んだ。


『解除ほぉ!』


 疳高い上に裏返ったぞ。


 しかし解除自体は上手く行ったらしく、文字の輪はパキィンというガラスの砕けるような音を立てて崩れて行く。


「な、なんとか上手く行きました」


「ご苦労さん。しかし成長結果が覆るわけじゃないから、この薬草はこれからもこうして無駄に活動的なわけだな」


 ズボズボと雑草を根っこからほじくり返している薬草たち。無軌道成長のスキル名の通り、滅茶苦茶な成長を遂げてくれたようだ。薬草としての効果も大分変わったんじゃないかと心配になって来るな。


「神父が来たら、ちょっとこの薬草たちを調べてもらうようお願いしようか。ネイならこの薬草たちがどんな状態か分かるだろうし、育て方に関する助言も貰えると思う」


「そうですね。もし危険な毒草に変化してしまっていたら、管理を厳重にする必要がありますし」


 そんな変化だけはしないで欲しい所だな。俺たちは複雑な表情を浮かべながら、薬草たちを眺める。彼らはそんな懸念などまるでお構いなしとばかりに、雑草だけでなく地中の虫までほじくり返して攻撃を仕掛けていた。俺の目には既に厳重管理が必要なレベルに映ったんだが、どうなんだろう。




 結局神父がクランハウスを訪れたのはそれから約一時間後の事であった。ネイを伴って来てくれたのはとても都合が良かったのだが、そのおかげで俺たちは更なる衝撃を受ける事になる。


 無軌道成長。その常軌を逸した成長によって得られた薬効が、誰も予期していなかった変化をもたらす事になったのだ。





……ネイの身体に。









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