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トレット村のイカ騒動(10)また会う日まで

 俺はどうやら随分と疲れていたらしい。あの後膨大な海産物が乗りまくったイカ墨スパゲッティをペロリと平らげた俺は、休憩に戻った宿舎でいつの間にか熟睡していた。持久力が人並み外れていても、やはり慣れない海での戦闘は精神的に負担が大きかったようだ。次の夜警備の時間まで俺は泥のように眠っていた。


 俺が起きたのは夜の警備が始まる少し前、夕方5時過ぎだった。起こしに来てくれたのは馬番兼警備のエドマンである。彼は少し酒が入ってるのか、赤みの差した顔でやってきた。


「おお、起きてたかね。そろそろ時間だよ」


「ありがとう。……何だか村の様子が賑やかだけど、何かあったのかな」


 宿舎の中にいても、通りの喧騒は聞こえる。屋台が立ち並んで賑やかになる時間帯だが、それにしてもうるさいのだ。お祭り騒ぎ、と言っていい賑やかさだった。


「ああ、それはそうだよ。待っていた救助が明日やってくると聞いて、この街に滞在していた人たちが騒いでるんだ。人によっては二週間も待ってたようだから、喜びも一入(ひとしお)だろうさ」


「なるほど。それははしゃぎたくもなるか」


 ブラッディダゴンの消滅と共に、ダークダゴンの活動も大人しくなる。これでやっとこの村にも船が近寄れるようになったのだ。それはつまり避難していた人たちの、長かった難民生活に終止符が打たれると言う事。今日はこの村で過ごす最後の1日となるだろうから、楽しい思い出を作ろうとしているのだろう。


 そうか、救助がくるのか。それなら副島さんともお別れになるんだろうな。そう考えるとなんとも寂しい気持ちになった。


 この世界で唯一、前の世界の俺を知っている人。俺の面倒をよく見てくれた恩人。会えて嬉しかったし、出来れば一緒にフォーリードの街で暮らしたいとも思う。しかし副島さんは旅の途中だ。副島さんには副島さんの人生があり、俺の気持ちを押し付けるなんて事は出来ない。第一、今の副島さんには新しい家族がいるのだ。少ししか見てないが上手くやれているようだし、あの家族を引き裂く真似など俺には出来なかった。


 だから、お別れ。寂しいけれどお互いにこの世界で生きている事だけは分かったのだ。それだけで充分だろう。


「寂しくなるけど、良い事なんだよな」


「それはそうだよ。君がイカの親玉を倒したおかげで、皆が笑顔になったんだ。もっと胸をはりなさい」


 エドマンの言葉に何となく元気をもらった俺は、すぐにジーンズと皮のジャケットに着替えると宿舎の外にでる。空は夕焼けから夜に変わる途中といった具合だが、地上は屋台の明かりで昼間と変わらない明るさだ。俺はエドマンに「何か腹に入れてから現場に向かう」と告げた。まだ時間はある。副島さんに挨拶をしようと思っていたのだ。


 副島さんは相変わらず例の食堂にいた。ただ違っていたのは、ウェイトレスの格好ではなく私服であろう水色のワンピースを着て子供たちに囲まれていた事だ。どうやら村の子供たちとお別れ会をしているらしく、目に涙を浮かべた子供たちを慰めながら困ったような嬉しいような笑顔を浮かべていた。これは……ちょっと入り辛いな。


「あら、カトーさん。こんばんは、お食事かしら」


 躊躇していた俺に声をかけて来たのは、副島さんの保護者の女性だった。確か名前はトトと言ったハズだ。彼女も仕事着ではなく私服である。幾何学模様の柄の入ったゆったりとしたシャツと、ぴっちりとしたズボンをはいていた。ウェイトレスをやっているのは初めて見る女性だが、恐らく元々この店で働いている人なのだろう。


「ごめんなさい、今日は貸切なの。立て看板出すの忘れてたわ。でもカトーさんならシャルロットと仲も良いみたいだし、参加して行く?」


「いや、遠慮しておくよ。夜勤があるし、単に軽く食べようと思ってただけだから。近くの屋台で済ますさ」


「本当にごめんなさいね。明日、出立前には挨拶させてもらうわ」


「分かった。じゃあ、また明日」


 ま、仕方ないよな。俺は諦めて食堂を後にする。背中の向こうで、副島さんが某有名時代劇のオープニング曲を歌っている。人生を考えさせるような歌だが、これ以上時代劇ネタを村に振りまいてどうするんだろう。しかし副島さんらしくて良いか、と笑いながら俺は屋台のある通りへと歩いて行った。







 屋台で焼きモロコシのような物とイカ飯を食べた後、俺は二日目の夜警備に入る。場所は第一作業小屋で、相変わらず生け簀区画ではピチャピチャと魚の跳ねる音が聞こえる。小屋ではまだ数人の従業員がイカを捌く作業をしており、作業台は破れた墨袋から流れ出した墨で黒く染まっている。開かれたイカは桶の中に重ねて入れられていた。浜辺にはおびただしい数のイカが吊されており、今日1日でかなり作業が進んだ事を窺わせた。皆、騒いでいただけではなくちゃんと仕事をしていたようだ。


 索敵スキルを発動させ、俺は警備体勢に入った。敵の反応は無い。ダークダゴンの活動が大人しくなったのは本当のようで、索敵範囲を目一杯広げてもそれらしい反応は1つも見あたらなかった。


 平和で何よりだ。冒険者としては稼ぎが少なくなるけど、それでも平和が一番なのは間違いない。これから夜12時までのんびり出来たら良いなぁ、などと考えながら俺は沖の方へと目を向ける。水平線は暗がりの中で境界を無くし、景色は夜に染め上げられていた。





【その頃クロスたちは】


 カトーが浜辺で警備についていた頃。トレット村のとある家にて、男たちが秘密の会合を開いていた。メンバーは万之魚水産社社長であるディマッジョ、そしてロニーとクロスである。ジョニーはカトー同様警備についており、エドマンは村長宅で酒を飲んでいた。


 まず口を開いたのはクロスだった。


「今回の件で少なくともこの国に害をなす人間じゃない事は証明されたと思いますが、どうでしょう」


 その問いに答えたのはディマッジョだ。日頃の暑苦しさが嘘のように神妙な顔をしている。


「そうだな。彼の能力自体は脅威だが、行動を見る限り善良な人間のようだ。第一あれだけ派手な事をやらかす人間を、姑息で陰気な邪教徒連中が扱えるとは思えんよ」


「彼が盗賊と繋がってる、なんて噂も全くのデタラメだねぇ」

 少し呆れた顔でそう言うのはロニー。手元に小さな手帳を開いている。

「噂の出所も、予想通り西と繋がりのある企業の抱えてるクランだし。出る杭は打たれると言うけど、カトー君も大変だよ」


 その言葉にホッとした表情を浮かべるクロス。そう、今回の仕事はカトーにかけられた嫌疑を晴らしたいというクロスの意向をディマッジョたちが汲んで実現したものだったのだ。勿論元々トレット村に従業員を派遣する仕事はあったのだが、警備員の派遣など万之魚水産社には必要無いのだ。海運会社の警備員を引っ張ってくれば事足りるし、第一従業員の一人一人がLv30以上の戦士や武道家だったりする。巨人族もおり、戦力だけなら本国の歩兵隊に負けないくらい強かったりするのだ。


 そんな彼らがクロスの頼みを聞いた理由。それは前々から問題視されていた邪教徒の動きが活発化している事、そして彼らの矛先がカトーに向けられ始めたのを察知したからであった。カトーの活躍によりフォーリードに入り込んでいた邪教徒や盗賊がいぶり出されたのだから、狙われるのは当然の結果である。そして、街の危機を救ったカトーが狙われるとなったら、そんな彼を守りたいと思う人間が出てくるのも自然の成り行きだった。ディマッジョはかつて隣国の侵攻にさらされたフォーリードの復興と発展に多大な貢献をした男である。あの街を愛する気持ちは誰よりも強く、だからこそ街を救ったカトーを助けたいとも思った。今回の仕事ぶりを見て彼を見極め、見込み通りの人間ならば彼の身の潔白を証明するのに協力しようと決めていたのだ。


「しかし……」

 そんなディマッジョだが、顎を撫でながら難しい顔をする。

「別の疑惑も出てきた。あれだけの力を持っている理由、そしてロニー君でも調べられない彼の足取り。トレット村以前の彼の痕跡が全く無いのは、やはり彼がマレビトだからではないか」


 ディマッジョの言葉にクロスも押し黙ってしまう。そう、カトーは強い。強すぎるのだ。そして謎が多すぎる。その結論に至ったのはロニーも同様であり、クロスに少し鋭い視線を向けながら言った。


「やはり本国には報告せざるを得んだろうね。彼の存在を隠すのはもはや不可能だよ、あれだけ派手に軍の人間を助けてしまったんだから。下手に隠すと余計な疑いをかけられてしまうだろう、彼だけでなく君もね。まぁマレビトかどうかは確定していない以上そこはまだ報告しなくても良いかもしれんけど、この国で間違いなく最強と言って良い実力者である事は報告しなくちゃならないよ」


「………」


 クロスだって分かっている。しかしカトーが権力者たちのいいように利用されてしまうのは避けたかった。そんなクロスの心情を察したロニーは、少し視線を緩めて言う。


「まぁ、カトー君なら何があっても悠々とやり過ごせると思うけどね。狙ってやってるのかは知らないけど、彼、ここに来る前に教会に凄い金額の寄付をしているだろう。こうなると教会の連中も動くだろうし、多分キスクワードさんもその流れを利用するよ」


「フッ、ヤツなら必ず食いつくだろうな。カトー君の寄付は本当にタイミング的にも絶妙だった、彼にはこうなる未来が見えてたんじゃないか? 多分彼にかけられた嫌疑は国と教会が解く事になるだろう」

 ディマッジョはそう言って笑う。

「彼は運を引き寄せる何かを持っている。きっとクロス君が心配しているような事にはならないさ」


「……そうだと良いんですが」


 問題は本当に彼がマレビトだった場合だ。クロスはとある使命をおびている。それを知っているのは、この国では彼の妻たちと義父であるキスクワード、そしてこの場にいる男たちだけ。クロスの悩みを察する事の出来る人間は、それだけしか居ない。


「カトー君が邪神の送り込んで来たマレビトだったら……その可能性を考えているのかね」


 ディマッジョの問いに無言で頷くクロス。もしそうであれば、クロスは非情の決断を下さねばならなくなるのだ。


「クロス。きっと大丈夫だよ、彼が何者だろうがあれだけ愉快でお人好しな人間が邪神の手先であるハズが無い」


 ロニーの言葉にクロスも思わず笑ってしまう。そう、カトーが見たままの人間であれば……あれが邪悪な存在であるハズが無いのだ。クロスは自分の目を信じる事に決めた。


「そうですね。アイツは邪神の手先なんてやるようなヤツじゃない。もし万が一そうだとしても、その時は俺が責任持ってなんとかしますよ」


 クロスの目には強い決意が漲っていた。





「フロンティア・ナイツ、クロス・ヴァンドームの名に賭けて」









◆◆◆◆◆◆◆






 次の日。


 結局何事も起きないまま12時までの夜警を終えた俺は、充分に睡眠をとって体調万全の状態で午前の警備にあたっていた。浜辺には船に乗る人たちが集まっており、今や遅しと沖を眺める者、別れを惜しんで涙する者が見られる。その中には副島さんを連れた夫婦もいた。あの茶髪の活発そうな女性と、初めて見るが黒髪の柔和な顔をした男。そんな二人に挟まれた副島さんだが、俺の姿を見つけると夫婦の元を離れてこちらに歩いて来た。


「やあ、加藤君。どうやら今日でお別れらしい」


「副島さん……寂しくなりますけど、旅を続けられて良かったですね」


 互いに大人である。みっともないから涙なんて見せられないが、寂しい気持ちは変わらないらしい。しばらく言葉が見つからず苦笑いを浮かべるばかりだったが、俺はふと思いついて副島さんに声をかける。


「そう言えば副島さん。別れる前に一つ恩返しをさせてくれませんか」


「ん?」


 何の事か分からず首をかしげる。外見だけは少女だから微妙に可愛く、それがまた絶妙な違和感を醸し出していた。


「俺は仲間の能力の成長を促進させる力を持っているんですけど、もし良かったら副島さんもその力の成長補正を受けてみませんか。この世界は厳しい世界です。副島さんがこれからどんな生き方をするにせよ、力があるに越した事はありません」


「ほう、成長補正か。確かに物騒な世界だから有り難いかもしれんなぁ。私個人は強くなりたいなどとは思わんが、あの夫婦に何かあった時に助けてやれるようになれたら、とは思っていた」


 やはり副島さんは副島さんだ。考え方が大人だった。かつて自分が研修生だった頃に見た頼もしい副島さんの姿を思い出して、俺は思わず笑顔を浮かべてしまう。きっと副島さんなら、強大な力を手に入れてもそれを悪用する事は無いだろう。


「じゃあ、冒険者カードを出して下さい」


「冒険者カード……ああ、あの身分証明書か。待ってくれ、すぐに出すから」

 そう言って財布らしき物を調べるが、入っていない。あれ、あれ、と言いながら探しまくって、結局副島さんは葉巻のケースから冒険者カードを取り出した。……なんでだよ。


「昔から大切な物は一つにまとめておく癖があってね。ほら、カードだ」


「……お預かりします」


 葉巻と身分証明書が同列なのか。色々言いたい事はあったが小言はあの夫婦に任せるとして、俺は副島さんのカードを自分のカードに重ねて『登録』と念じる。すぐに副島さんのカードが光り輝いて、カードの端に『補正効果アリ』という文字が現れた。誰かに見られたら厄介そうなので、俺の方で文字を消しておく事にする。文字が消えた事を確認してから、カードを副島さんに返した。


「これから色んな事に成長補正がかかります。副島さんなら大丈夫だと思いますけど、力に振り回されないように気を付けて下さい」


「うむ、充分に注意しよう。ありがとう加藤君、何も返せる物が無くて気がひけるよ」


「いいんです、気にしないで下さい。今まで沢山世話になった恩を、少し返しただけですから」


 そんなやりとりをしていると、いつの間にか沖の方に大きな船の影が。救助の為の船がやって来たようだ。船は思いの外スピードが速く、10分もしないうちに浜辺近くにまでやってくる。俺は名残惜しい気持ちを抑えて副島さんを夫婦の元へと促した。


「お元気で。俺はフォーリードの街にいますから、いつか立ち寄る機会があれば気軽に声をかけて下さい」


「加藤君こそ元気でな。そして、今度は私より長生きするんだぞ。向こうで生きられなかった分、こちらの世界で沢山生きて、幸せになりなさい」


「……はい!」


 力一杯返事をする俺に副島さんは笑顔で手を振ると、夫婦の元へと歩いて行った。救助の船から送迎用の小船が幾つも降ろされ、乗客たちは次々に小船に乗り込み浜辺を離れて行く。副島さんの家族もこちらにお辞儀をしてから、小船に乗り込んで行った。


 寂しい。


 どうにも寂しい気持ちが抑えきれず、笑顔を作っていられない。鼻にツンとくるのを感じながら、俺は小さくなって行く副島さんたちを見送っていた。


「……カトー。ほんの数日で、やけに仲良くなってたんだな」


 それまで遠巻きに見ていたのか、クロスが近づいて来てそんな事を言う。ああ、俺と副島さんの関係を知らない人からすれば奇妙に思うだろうな。どうごまかしたらいいんだろうと考えていると、同じく近づいて来たロニーがこんな事を言った。


「いやいや、無理にごまかさなくて良いよ。誰しも浮気の一つや二つは経験するもんだ。秘密にするから安心していい」


 な、なに言ってんの? いくら何でもそれは無いだろう、中身は思いっきりオッサンなんだぞ、あの人は! しかし追い討ちをかけるかのように続いてやってきたジョニーがとんでもない事を言う。


「気持ちは分からんでも無い。人はみな子供の頃は純真無垢な天使なんだ。金や嫉妬や性欲にまみれて汚れてしまった大人を相手にするよりは、ずっと健全なのかもしれない」


「はやまるな」×3


 ジョニーが末期です。助けて下さい。そしてそんなキラキラした目で副島さんを見るな潰すぞ。そもそも葉巻をスパスパ吸う子供が純真無垢なわけあるか、なおかつあの人は某有名時代劇の入浴シーンを集めた動画を大切にパソコンに保管してたら奥さんに見つかって離婚危機にまで至った伝説の持ち主だぞ。……いや、可哀想だから黒歴史は封印しておこう、うん。


 三人のアホな追求をかわしながら、俺は副島さんたちの乗った救助船が沖へと離れて行くのを見送る。ああ、行ってしまう。さようなら、また、会う日まで。俺は心の中でそうつぶやきながら手を振った。さすがにあんなに小さくなってしまったらもう見えないか……残念だ。なんとかしてこの気持ちを伝えられないかと考えながら、俺は魔法を発動させた。










【救助船上にて】



「シャルロット、そろそろ船室に入ったら? もうそこからじゃ村なんて見えないでしょう」


「いや、もう少し……もう少しこのままでいさせてくれ」


 船室に入らず、海風を浴びて暴れる髪の毛を抑えながら海の向こうを眺めるシャルロット。その姿を見ながら、彼女の保護者であるトトは少し寂しい気持ちになった。愛娘にそっくりなこの少女も、いつか大人になって自分たちの手を離れてしまう。今回の滞在でシャルロットはもしかしたらあの男に恋をして、また一歩大人に近づいたのかもしれない。そんな風に思ったら、寂しくなってしまったのだ。


 隣に立っていた夫のボズが、そんなトトの肩を抱いて慰める。シャルロットの成長を祝福してあげよう、大人になるからと言って絆が無くなるわけでも、家族じゃなくなるわけでもないのだ。恋が彼女を成長させるのならば、それは素敵な事じゃないかと言い聞かせる。そして二人は、そんな恋に身を焦がしているであろう義娘を見守り続け……



「ふ、ふはっ!? あ、あはははははははは!!」


「「……!?」」


 固まった。


 それまで切ない眼差しで海の彼方を見つめていたシャルロットが、突然腹を抱えて笑い出したのだ。なんだなんだ、一体何が起きたと困惑する。そしてシャルロットが笑い転げながら指差す方向を見て再度固まった。



 遥か水平線の彼方、トレット村のある方向に素っ裸一歩手前の巨人が立っていて。小躍りしながら、大きく手を振っていたのだ。暑苦しい笑顔と無駄に白い歯をキラリと輝かせながら、何が楽しいのか分からないくらいのテンションの高さで飛び跳ね手を振る巨人。シャルロットはビクビクと痙攣しながら笑いを止める事ができないでいる。


「ひっ、ひっ、あはっ、ひははははははは! ひーっ、ひーっ、加藤君、君は私を笑い殺す気かっ!?」


「「…………」」




 夫婦は思った。


 この恋は間違っている、と。


 この子を立派な淑女に育てあげる為にも、とりあえずあの男との恋は潰してしまおう。そんな事を決意しながら、夫婦は遠くで小躍りする巨人を睨みつけるのだった。











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