トレット村のイカ騒動(7)激突!ダークダゴン
サメを泳いで倒しました。
そう告げた時のクロスの顔を皆さんにお見せ出来ないのが残念でならない。騒ぎを聞きつけやってきたクロスに事の顛末を話した時、彼は全く理解出来ずに不思議そうな顔をしていた。モンスター討伐の際にはギルドに討伐状況を簡単に報告するのだが、その為の説明を報告係のクロスにしたものの意味が通じなかったらしい。依頼人兼護衛兼見届け人である社長が補足説明をすると、クロスはようやく理解出来たのか苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて言った。
「カトー。モンスターで遊ぶな」
俺、こんな事言われたの初めてだぞ。食べ物で遊ぶな、は分かるけどモンスターで遊ぶなとか……。しかし社長は愉快だったと満足げに笑い、遅れてやって来た馬番のエドマンは是非見たかったと地団駄踏んで悔しがった。周囲の人間には、見世物として概ね好評だったらしい。俺のこのマスクマンな格好も気に入ったようなので、俺は第二形態を解除しないまま警備を続ける事にした。
そんなこんなで現在俺は第二作業小屋に戻ってサメ肉と血をバラまき中。周囲には、危ないと言ってるのに子供たちが戻ってきていた。
「オッサン、やるじゃん」
「くせーよ何やってんだよ海汚すなよ死ねよ」
「なんでお顔隠してるの?」
「見ろよ、すげえモッコリだぞ!」
「顔見せて~」
なんつーガキどもだ、緊張感が無さ過ぎる。そしてどういうわけか保護者らしきお母さん方も遠巻きに此方を見ているが、子供を止めるでも無くただジッと俺を見つめていた。全く……正義の煌めきに参ってしまったらしいな。これだからヒーローは辛い。
若干気分良くリズミカルにサメ肉を沖へ向かって放り投げる俺。その度に腰をクイックイッと振ると子供たちは笑い、保護者たちからは悲鳴に近い声があがった。うむ、正直に言おう。悪ノリをしている。しまいには子供たちまで俺の真似をして腰を振り出す始末。やめろ。さすがにやめろ。教育上問題がありすぎだ。
そんな楽しい時間を過ごしていると。社長の狙いが的中したのだろう、今まで見た事の無い巨大な赤が索敵レーダーに映り込んだ。それは歪な形をした赤いシルエットで、体長は約8メートルとレーダーには記されている。俺はすぐさま子供たちに言う。
「デカいのが来た! 君たちはお母さんの所に戻りなさい!!」
真剣な顔で言うと、マスクを被って迫力が増しているせいか今度は素直に言うことを聞く子供たち。次いで、周囲の大人たちに向けて大きな声で叫んだ。
「巨大モンスター接近中! 恐らくダークダゴンだ!!」
「「「「よっしゃあぁぁぁぁぁっ!!」」」」
そのリアクションが間違ってる事に是非とも気がついて欲しい。どんだけ血の気の多いヤツらが集まってんだこの村は。遠くでは作業を中断して腕まくりをした万之魚水産従業員たち、目をギラつかせてこちらへ走り出していた。いやだから怖いって。
ターゲットはゆっくりとこちらへ向かって来ている。距離はまだ1km先だが、その巨体は既に肉眼でも確認出来ている。海面から少しだけだが、深緑色をした胴体が見え隠れしていたのだ。それはまるでクジラが泳いでいるような、異様な迫力というか威圧感、圧迫感を醸し出していた。
「社長。ここから本当にあの銛を打ち込めるのか」
従業員やクロスたちと共に駆けつける社長。彼に尋ねると、自信満々に頷いてから口を開いた。
「ああ、任せたまえ。このマジックアイテムは有効範囲が異様に広いのだよ」
そう言って取り出したのは伝説の海賊パイオーツ・デッカイヤーの愛用したとされる銛、マジカル銛リンである。大きな黄色い筒のような物の中に、恐ろしく鋭く尖った銛が入っていた。それを社長はおもむろに肩に担ぐと、その切っ先を沖へと向ける。
「そこから、どうするん……」
「発射ぁあああっっっ!!」
俺が言い終わるより早く。社長がバカでかい声で叫んでボタンのような物を押すと、バシュウッという音を立てて銛は撃ち放たれた。その速さは本当に目視出来ない程で、銛から伸び続けるワイヤーのおかげでなんとかその軌道が確認出来る。どうやら敵に命中するまでワイヤーは延々と伸び続けるらしい。そして……
ザクッと、遠くで音がしたような気がした。途端にワイヤーがピンと張り、沖に荒波が立ち始める。
「よおし、皆! このワイヤーを引いてヤツを浜に引きずり上げるのだぁっ!!」
「「「「ウオォォォォォォッッ!!!!」」」」
一斉に大声を上げる従業員たち。俺たちも一緒になって、ワイヤーを握りしめた。これはアレだな、綱引き大会だな。イカ対人の壮大な綱引き大会だ。ジョニー、クロス、エドマン、俺、社長。そしてその後ろに従業員たちが並び、さらには村の漁師たちも一緒になってワイヤーを引っ張り上げる。ググッと力を入れる度に足元の砂に足がめり込んだ。これは……ちょっと足場が悪いな。
「よぉし、ここからはオジサンの出番だ」
そう言うのは一人ワイヤーから離れた場所にいるロニー。あの笛を取り出すと、何やらピーピーと演奏し出した。
『楽曲・ゴーゴンシスターズシンフォニア』
なんじゃそら。思わずつぶやきそうになったが、その効果はすぐに現れた。なんと、足場となってる砂地が固くなって来たのだ。ゴーゴンというからにはメデューサでお馴染みの石化関係のスキルのハズ。どうやらロニーは地面を石化したらしい。なんて便利な能力なんだ。
「よぉし声出して行けぇ!」
「「「「オーエスッ! オーエスッ!」」」」
俄然勢いを増す綱引き。ワイヤーはググッググッと引き上げられ、索敵レーダーでも赤丸がどんどんこちらに近づいて来る。しかし敵も抵抗を強め出し、こちらが少しでも気を緩めると沖へと引きずり込もうとした。
「ロニー、追加であれもやってくれ!」
「よし来た!」
ジョニーのリクエストに応えるように、ロニーの演奏する曲が変化する。それはなんというか、万之魚水産の従業員が好きそうな勇壮な楽曲だった。
『楽曲・戦場の荒くれ者たち/Fight to kill』
ぬおおおお!? 身体が……身体が熱いぞなんだこりゃ! 何だか腹の底からマグマのように熱が溢れ出し、身体中を駆け巡って行く。そしてワイヤーを引く両腕の筋肉が、やたらと肥大し始めた! これはあれか、ステータスアップの補助スキルだな。吟遊詩人って使った事無いんだが、これはなかなか便利かもしれない。俺たちのパワーは益々上がり、綱を引くスピードも段違いに速くなって行く。
「Fight,fight,fight to kill!!」
「「「「殺せ! 殺せ! ブチ・コロ・セッ!!」」」」
物騒にも程がある。
ロニーの奏でる楽曲に勝手に万之魚流の歌詞をつけて歌う従業員たち。しかしこれがハマったのか、ターゲットはもう500メートルも無い位置にまで引きずり上げられていた。もう少しだ。
「よおしもう少しだ、頑張るのだツワモノ共よぉおおおっ!!」
「「「「ウオォォォォォォッッ!!!」」」」
グイグイと引き上げる。凄まじい一体感だ。これなら直ぐに引き上げられるんじゃないか、そう思った時……俺はある事に気づいた。索敵レーダーの赤い丸、それが歪な形をしているのは何故だろう。どんな敵だろうが、ターゲットは丸で映し出されるハズだ。しかし今確認しても、それは綺麗な丸ではなく鏡餅のような形をしていて……
その時俺は反射的に叫んだ。
「ターゲットは二匹いる! 重なって動いているぞ!!」
「何ぃ!?」
誰かがそう声をあげたその時。こちらを引きずり込もうとする力が異様に勢いを増した。すぐそこまで来ていたターゲットが、大量の海水を吐き出して沖へと泳ぎ出したのだ。その力は凄まじく、一気に300メートル近く引き戻されてしまった。
「なんで重なってたんだ、ダークダゴンって合体でもするのか!?」
「いや、多分交尾中だったのだろう! ヤツらはつがいになるとしばらくくっついて行動する!!」
俺の問いにすぐさま答える社長。さすがの知識だが、出来れば前もって教えて欲しかった。くそっ、二匹分のパワーなのかよ、これはキツい。何か俺に出来る事は無いだろうか。このままでは、パワー負けしてしまう。魔法はダメだ、水属性しか持ってないから通用しない。他の属性を今からボーナスポイント使って身につけるか? いや試し撃ちする時間も余裕も無い。どうすれば……
ん?
属性?
そういや属性が変化した魔法があったよな、あれを使ってみたらどうだろうか。幸い、操るのだけはセーラを実験台にしてかなり上達している。スキルの特性上、水分を使うだろうから水辺はアドバンテージになるだろう。問題は水棲モンスターにどれだけ通用するかだが、属性が変化したと言うくらいだから多少は効くんじゃないだろうか。
これは賭けだ。俺はワイヤーを引っ張りながらも魔力を集中し、祈りを込めてあの魔法を唱えた。
『マッスルミスト!!』
さあどうなる、どうなると言うんだ新魔法! 全身から魔力を吹き上げさせながら、俺は周囲を見る。すると思わぬ変化が目に飛び込んで来た。なんと、海の水ではなく俺やクロス、従業員たちの身体を流れる汗を媒体として、何やらモクモクと白い煙が塊となって宙を浮いていたのだ。それは少しずつ収束して行き、巨大な一つの形を作り上げる。訝しげに見上げる俺たちの前に現れたのは……
高さ10メートルはあろうかという巨大なマッチョだった。
………。
いや……えっ?
「カ、カトー。一体なんだこれは」
「いや、分からん。しかし何だか凄い事をやってくれそうな予感がする」
そのマッチョは凄まじいまでに筋骨隆々であった。体毛は一本も生えておらず、純粋に筋肉のみで作り上げられた巨人である。終始顔には押し付けがましいまでの笑顔を浮かべており、まるでそれが当然であるかのように悠々とポージングを決めている。そして一通りアピールし終わると、海中のターゲットへと歩き始めた。その姿は神々しさすら感じさせる完全なる美。見る者たちの視線を釘付けにしている。俺たちが呆然としている中ワイヤーがピクリとも動かないのは、海中の敵すら呆然とさせていたからかもしれない。
巨人はこちらに向かって親指を立ててニカッと笑う。そして海中に腰まで沈めると、ターゲットをしっかり掴んでこう言った。
『ハッスル、マッスル』
グッ……
ズモモモモモモモモモモッ
『ピギュアァァァァァァッ!?』
途端に凄まじい勢いで海中のモンスターを浜に向かって押し始めた! どうやらモンスターも余りの強さ……もしくは気持ち悪さに悲鳴をあげているようだ。イカってこんな鳴き方するんかいなと思わなくも無いが、とにかくもがき苦しんでいる。触手を巨人に絡めて抵抗を試みているが、巨人は頬を染めるだけだ。キモい。
「形勢逆転だ、引っ張り上げろおぉっ!!」
俺の叫びに、呆然としていた皆の意識が戻る。そして目を輝かせてワイヤーを引き始めた。その顔はやけに笑顔で若干気持ち悪い。
「行くぞツワモノ共よ、我々には筋肉の神がついている!」
「「「「ハッスル、マッスル! ハッスル、マッスル!」」」」
いや訳わかんないぞ、なんなんだそのノリは! 掛け声からして気持ち悪いんだが! しかし今はヤツを引き上げる事の方を優先しよう、少しの我慢だ。
「ハッスル、マッスル!」
「「「「ハッスル、マッスル!」」」」
「ハッスル、マッスル!」
「「「「ハッスル、マッスル!」」」」
………。
いやだなぁ。
もはや狂気すら感じるシュールな光景だが、俺は必死にワイヤーを引っ張る事に集中した。いや、事の発端は俺なんだが、忘れたい。今は忘れてワイヤーに集中したいのだ。そして出来れば巨人共々無かった事にしたい。
……しかし巨人は無情にもその雄叫びで俺を現実世界に引き戻しやがった。
『ぅおっほおおおうっ!?』
「カ、カトー君! 神の様子がおかしいぞ!」
そもそも存在からしておかしいんだけどな。しかし一体どうした事だ、巨人が微妙に苦しいような気持ち良いような気持ち悪い顔をしている。よくよく見ると腰から下、海中には無数の蠢く何かが……
いやだ、やめろ。想像したくない。したくないが、何とかしないと色々とマズいような気がする! 俺はとっさの閃きであの魔法を発動する事にした。これなら巨人も回復するし、刺激でイカもビックリして触手を引っ込めるだろう。
『ウォーターヒール!!(強炭酸)』
ジュワワワワワワ……っと、海面が見る間に泡立って行く。今まで散々炭酸水を作り続けて来たんだ、腕も上がって強烈な炭酸が出来上がってるハズ。例えるならば、限界ギリギリまでガスを溶かし込んだソーダ水にメン○スをぶち込んだような爆発的な刺激が辺りを包み込んでいる状況だ。イカには耐えられないだろう。
『うひぃいぃyyyyyyyyyyyy!?』
ごめん。
巨人に効いてしまったらしい。
しかし体力が回復したのは確かだったようで、ウザい笑顔を益々輝かせて巨人は激しく動き出す。海面が波打ち、巨人を中心に渦を巻き始めた。これは恐らく海中で腰を回しているのだ。一体、何をする気だ!?
『マッスル……フル・チャージ!』
巨人の腰が止まる。海中は白い光に包まれている上に波が光を乱反射してよく見えない。まるで天然のモザイク処理みたいで何とも言えない気持ち悪さだ。そんな状況で巨人はおもむろに腰を引くと、こめかみに血管を浮き出たせてこう叫ぶ。それはあまりにも大きな声と衝撃波で、思わずそこにいた全員がワイヤーから手を離して耳を塞いでしまう程だった。
『ビルドアップ! ハッスルマッスル、ウタマーーーーロッッッ!!!!』
ズンッ
巨人が腰を何かに打ちつけた。そしてその瞬間、海が光って……
爆ぜた。
ドッパアァァァァァァァァァンッ!!!!
『ピギャアァァァァァァッ!』
「「「「うわあぁぁぁぁぁぁぁっ」」」」
それは信じられない光景だった。
まるで水中で爆弾が爆発したかのように強烈な水しぶきと衝撃波が巻き起こる。人々は砂地に打ちつけられ、まばゆい光に目がくらんだ。とっさに背を向けた俺は、目を細めて周囲を確認する。その時視界の端に黒い影が走るのを見つけた。黒い影。やたらと巨大なそれは作業小屋の向こうへと消えて行く。一体何の影だと上空に目をやると、そこにはバカでかいイカ二体が空を舞う姿があった。
えっ。
あ、ヤバい!
駆け出そうとした次の瞬間、まるで地震のような地鳴りと振動が辺りを包んだ。
ズズゥンンンン……
「のわっ!?」
「何だこりゃあ!」
「カ、カトー! 何が起きてるんだ!?」
振り向くと海の巨人は一仕事終えたとばかりにポージングを決めて、霞のように消えて行く。いやお前、最後の最後でムチャクチャしやがったな! なんでイカをあそこまでふっ飛ばしやがったんだ!
「あのデカいイカ、村の真ん中までふっ飛びやがった! クロス、ジョニー、ロニー! 急いで討伐に向かうぞ!!」
返答を待たずに俺は駆け出した。村人を避難させた先にイカが落ちたらシャレにならないし、家とかが潰れて死者なんて出したら最悪だ。とにかく急いでイカの落ちたであろう場所に向かった。
作業小屋が並ぶ浜辺と、住居が並ぶエリア。その中間地点に、巨大イカ『ダークダゴン』はいた。夜であれば屋台が立ち並ぶ通りだが、幸い日中は何も無い更地であり通行人もいなかった。先ずはホッと胸をなで下ろしたが、しかしダークダゴンは陸に打ち上げられてもまだまだ元気らしく、触手をバタつかせてなんとか動こうとしている。動こうとしているが、自身の重みでピクリとも動かない。建物にしがみつこうにも触手が届かず、どうにもならない状況だった。
あの巨人は狙ってここにふっ飛ばしたのだろうか。それなら素晴らしい仕事と言えるが、もし一人でもワイヤーを掴んだままだったら一緒に飛ばされて大惨事になっていただろうな。あの魔法は使い所が難しいようだ。何にせよ今は結果オーライという事で頭を切り替えよう。
ダークダゴンは二体。どちらも地面にグニャリと横たわっている。動かなければ討伐は楽そうだが……
「カトー、待たせたな」
「クロスか。見ての通りだ、どうやって倒す?」
ようやく駆けつけたクロスたち。武器を手に戦闘体勢に入った。
「カトーは向こうのダークダゴンをやってくれ。俺は武器が大きい分、接近戦を仕掛けるヤツが他にいると上手く動けないんだ」
「……そうか。分かった、それならジョニーもこっちだな」
ジョニーは片手剣を装備している。一方ロニーは笛&吹き矢だからクロスと同行する事になった。
「ジョニー、宜しく頼む」
「任せろ。先ずは安全に触手の届かない方へ移動しよう」
こうして、ダークダゴンとの本格的な戦いが幕を開ける事となった。
ダークダゴンはバカでかいイカだ。緑色をしていて若干グロいものの、その形状はメタルイカのような一般的なコウイカのそれに近い。違う所と言えば、触手がやたらと太くて素早く動く事くらいか。特に触腕と呼ばれる二本の長い触手は、重力を無視したかのような俊敏さで俺たちを狙う。触手の届かない頭頂部を目指して回り込もうにも、なかなか上手く行かないのだ。
「くっ……カトー、この触手を何とかしよう!」
「ああ。しかし下手に捕まったら厄介そうだぞ」
ビュンビュンとうなりをあげて振り回される触手。身を屈め避けるものの、想像以上の速さに俺たちは少し面食らっていた。試しに向かってきた触手にチョップをかますと……
にゅるっ
「ぬおっ!?」
触手がぐるりと俺の身体に巻きつこうとうねる。俺はとっさに飛び退いて難を逃れた。
「やりにくいな……」
「少し離れてくれ、俺が魔法で何とかしてみる」
ジョニーはそう言うと、剣を横に持って魔力を込め始めた。この気配は知ってるぞ、セーラがよく使っている魔法だ。
『ウィンドスラッシュ!』
ビュンッと風切り音を立ててカマイタチが放たれる。しかしセーラと比べるとその威力は低く、触手は殆ど傷つかなかった。
「なんてヤツだ、マッスルスネイクすら真っ二つにする魔法が効かないとは……」
それって凄いのか? ……いや、凄いか。ゲームでは序盤の強敵だし生命力じゃ同レベル帯のモンスターの中で群を抜いてるからな。それを一撃で仕留められるなら凄いハズだ。セーラたちと比較する方が間違ってるよな、うん。
……その時。視界の端に小さな人影を見つけた。それはまだ遠くに居るものの、こちらへ向かって駆け寄ってくる。なんだろうと目を向けると同時に、俺は吹き出してしまった。
タタタタタタタタタ……
「ぬあああああ、捕まってたまるかぁ!」
「……ッ! 副島さん!?」
なんとそれは犬耳少女こと副島さんだった。砂塵を巻き上げこちらへ向かって走ってくる! いや、何でだ、このイカが見えないのか!?
「副島さん、ダメだ! こっちに来ちゃ危ない!!」
「いや、それどころじゃないんだ加藤君! というか加藤君なのか、けったいな格好だな!」
俺の制止する声も聞かずに勢いを落とさず走り続ける副島さん。というか格好の事は放っておいてくれ……って、ああダメだ! 案の定、イカの近くまで来た途端に触手に巻き付かれた!
にゅるるるっ!
「うおぉっ、何だ!? 誰だこんな所に大王イカを捨てたのは!」
「副島さーーーんっ!!」
だから危ないって言ったのに! まずいぞ、副島さんは全然レベル上げをしてないから、まともにダークダゴンの一撃を食らったら十中八九死んでしまう!
俺は駆け出した。なんとしてでも副島さんを助け出してみせる! しかし迫り来る触手をかいくぐって走り出した俺をよそに、副島さんは呑気に懐をゴソゴソとまさぐり、何かを取り出した。そして……
「父の仇!」
よくわからないセリフを叫んで巻きつく触手に何かを突き刺した。あれは包丁か? そしてそのセリフはやっぱり時代劇なのか?
『ピギュアァァァァッ!?』
えっ?
奇声をあげるダークダゴン。全身をピンと張った後、ゆっくりと力を抜いて行く。副島さんは触手を剥がすとパタパタとこちらに駆け寄ってきた。
「まったく、ナマモノはきちんとゴミの日に然るべき場所に捨てるべきだよ。そうは思わんかね、加藤君」
えっ。いや、あの……。
「むむっ! まずい、もう追いついて来たな。加藤君、名残惜しいが急用が出来た、私はこれで失礼するよ。ああお昼はウチで食べて行きなさい、今日はヒラメの煮付けがオススメだ。じゃあ、そういう事で!」
シュタッと片手をあげてから、猛然と突っ走って行く副島さん。それを見送る俺の横を、同じく猛然と駆け抜ける一人の犬耳女性の姿が。
「むぁてシャルロットォォォ! 調理酒と葉巻を返しなさあぁぁぁぁぁいっっっ!!」
「ぬあああっ! しつこいぞ奥さん、これは私のささやかな楽しみだあぁぁぁぁっ!!」
ダークダゴンがいる事など目に入ってないのか、二人は凄まじいスピードで追いかけっ子を繰り広げている。副島さんは身体に無数の光る輪を巻きつけながら益々速さを増して疾走して行った。……光る輪?
「おい、カトー。大変だ」
二人を見送る俺の肩を、つんつんと指でつつくジョニー。振り向くとそこには、力無く横たわるダークダゴンがいた。
「まさか……」
「ああ、そのまさかだ」
ダークダゴン、オッサン少女に包丁で刺され死亡。
手こずらせた割になんとも呆気ない最期であった。
名前 シャルロット(Lv17)
種族 人狼族 ?歳
職業 忍者(Lv19)
HP 62/290
MP 35/95
筋力 13
耐久力 11
敏捷 29
持久力 11
器用さ 33
知力 12
運 20
スキル
力加減(Lv9)
無音走り(Lv1)
必殺(Lv22)
分身の術(Lv1)
隠れ身の術(Lv1)
逃走確率上昇(小)
フロンティア・ナイツの祝福
※確率に左右されるスキルの大幅強化 (効果期間残り351日)