うみんちゅ、木を切り飯を食う
どこのスィートルームか、という豪華な部屋のテーブルにアジやらスルメやら麦藁帽子やらを置いた俺は、ベッドに腰掛けて周りを見回した。まるで現実世界と変わらない。テレビが無いだけで、冷蔵庫などの電化製品が普通にあるのだ。多分動力源は魔力なのだろう。和製RPGらしい世界観、間違っても本格派ファンタジーではない。
ここまで現実と変わらないと、逆に自分の今の服装のみすぼらしさが目立ってくる。見た目は完全にくたびれたサラリーマンである。ヨレヨレなスーツのズボン、血の赤茶けたシミのついたワイシャツ。革靴だって履き潰したようにグニャグニャになっている。確か衣服を修復するスキルがあったハズだが、MP切れを起こしている今は、獲得しても使用できないだろう。
そう言えばアイテムボックスに他の装備品は無かっただろうか。チェックしたのは今の所お金だけである。大抵のアイテムはポイントに変えられたから無いだろうが、せめて新規登録時の初期装備くらいは無いだろうか。祈るような気持ちで中身をチェックすると、幸いな事にそれらしきアイテムを見つける事が出来た。
『うみんちゅのシャツ』
『うみんちゅのズボン』
『うみんちゅサンダル』
『うみんちゅおぱんつ』
※クオリタ出身者のスタート特典アイテムになります。それぞれの地方にご当地アイテムがありますので、オールコンプリート目指して頑張って下さい!
……集めねえよ。
沖縄か。沖縄なのか、クオリタ。修学旅行でしか買わねえだろこんなの。しかし今は贅沢など言ってられない、他に着る物が無いんだから。仕方なく『うみんちゅセット』に着替える俺。部屋備え付けの姿見には、頭を丸めた厳つい男の姿が。胸元に毛筆で『海人』という文字が書かれた水色の半袖シャツを着ている。そこに濃い青の半ズボン、草履風サンダル。くたびれたスーツより違和感のある格好だ。
でも仕方ない。開き直って部屋を出た俺は、そのままロビーへ向かう事にした。他の宿泊客らしい戦士風の男や武闘家っぽい女が、俺を見て目を丸くした。こんなお気楽な格好してるが俺だって魔法使いさ、もしパーティーを組む機会があったらその時はよろしくな。
ロビーには既にクロスたちが集合していた。俺の姿を見るなり彼らも引きつった顔をしたが、綺麗な服がこれしかなかったと言うと同情の眼差しを向けて来た。フレイなどは美的感覚がズレてるのか「いいなぁ」とか言っていたが、この世界に病院があるなら一度頭を診てもらった方がいいだろう。
俺たちは次にホテルの地下にある大きな食堂へと向かった。こちらも夜間に活動する人の為に24時間営業らしい。フォーリードへの道中、休憩時間に軽く食べただけだったので、皆腹が減っていた。馬鹿でかい鳥の丸焼きや骨付き肉を次々と注文、テーブルを埋め尽くす。皆に果実酒が行き渡った所でクロスが簡単な乾杯の音頭を取った。
「じゃあ依頼達成&お疲れ様、そしてカトーとの出会いを祝福して……乾杯!」
「「「「乾杯!!」」」」
ゴクゴクと喉を通るのはリンゴの酸味が爽やかな若めの酒。それが疲れた身体に心地よかった。
「っはー、生き返る! 今日は暑かったから余計美味く感じるな」
「実質的にカトーばかりが働いた気がして、仕事した気がしないんだがな」
脳天気なクロスと、生真面目なアメリア。今日1日でこのパーティーの雰囲気が大体掴めて来た。
「そういやカトー、お前さんの取り分を渡さなきゃな。サハギン討伐、それと商人ギルドからの謝礼を加えた175万だ」
茶封筒が渡される。イメージ的に麻袋とかが来ると思っていたから、少しガッカリした。俺はそれを受け取ると、チラッと中を見てから半ズボンのポケットに突っ込んだ。それを見てアメリアが言う。
「数えないのか?」
「信頼してるからな」
「……お前というやつは」
仕方ないな、という感じのため息を一つ。アメリアの中の俺は、完全なお人好しキャラとなった。
パクパク食べながらも話は進む。クロスたちは3日後から遠出の仕事が入っているらしく、明日からその準備に追われるそうだ。クロスとアメリアはそれなりに名の売れた冒険者らしく、指名の依頼を受ける事が多いという。ルシアは基本的に教会で働くシスターだが、時折冒険者として働いてお金を稼がないといけないらしい。フレイは駆け出しの冒険者で、才能を買われて最近このパーティーに入ったとか。つまりはこの4人はそんなに付き合いが長いワケではないのだが、不思議と馬が合いこうして一緒に仕事をする機会が増えたという。
「なかなか楽しそうだな」
「ああ。大変な事も沢山あるが、それ以上に楽しい事が多い仕事だな。もっとも、組む人間によっては最悪な事も起こり得る。俺は今のメンバーには本当に感謝しているよ」
こういう感謝の気持ちを恥ずかしげもなく言えるのが、このクロスという男の良い所なのだろう。俺には無い要素だ。
「クロスさんは冒険者ランクAなのに威張ったりしないですから。アメリアさんっていうしっかりした奥さんが一緒だし、私たち女性冒険者も安心して仕事が出来るんですよ」
と、フレイ。
ああ、夫婦だったのかこの二人。
「気性の荒い人が多い仕事ですから、女性は狙われやすいんです。私は教会の推薦を受けた方とだけ仕事をしているから大丈夫ですけど、他の方は大変みたいですね」
教会の推薦。つまりクロスはそっちの人間からも認められているワケか。逆を言えば、俺みたいな根無し草的人間は全く信頼がないから、こうしたまともな人間とパーティーを組むのが難しいという事にならないか。対人関係が苦手な俺には苦痛の方が多そうだ。
「そういやカトーはこれからどうするんだ?」
クロスの質問に、俺は即答できない。俺は今悩んでる事をそのまま話してみる事にした。
「実は迷ってる。冒険者になりたいとも思ったが、仕事よりも対人関係の方が俺には危険そうだ。かと言ってどこかの店に入って働いても、いざまた旅に出るという時に簡単に辞められるか分からない。日雇いの仕事を見つけてコツコツ貯めるというのが、現実的だろうな」
「……確かにお前は騙されやすそうだし冒険者向きではないだろうな」
アメリアの言葉が胸に突き刺さる。
「サハギンを一人で仕留める力は冒険者向きだけどな」
クロスが笑いながら言った。
「けど今魔法使いの需要はあまり無いから、冒険者になっても活躍出来るかどうかは分からないな。回復は教会の人たちの方が低コストで上手くやれるし、攻撃魔法は便利だがMP切れになると戦えなくなる。カトーみたいに戦えるヤツは少数で、だから魔法使いというだけで敬遠する冒険者は多いんだ。最悪パーティーを組めないという事もあり得る」
嫌われ過ぎだろ、魔法使い。今の話で冒険者の道は無しとなった。
「……あ、そう言えば」
ルシアがつぶやいた。
「ギルドに護衛の依頼がありましたよね、ほら、木材運搬の。あれって木こりさんも募集してませんでしたっけ」
「あ、してたね。期間限定で一週間だっけ? 護衛も木こりも集まらないわで急募がかかってた。……カトーさん、体力あるならやってみたら?」
フレイの提案は非常に魅力的だった。木こり。木を切り倒す。何かしらスキルが上がりそうな予感がする。
「木こりも冒険者ギルドで受け付けしてるのか?」
「ううん、そっちは普通の職業斡旋所。街の中心にあって、緑色のデッカい建物だから直ぐ分かると思う」
よし、決まった。
「明日行ってみるよ。当面は木こりとして頑張ってみるつもりだ」
翌日。
現実と変わらない壁掛け時計の針が朝の8時を指した頃。俺は早めに朝食を済ませクロスたちに挨拶をしてから、早速職業斡旋所へと向かった。フレイの言う通り、街の中心地にその建物は異様な存在感を持って佇んでいる。横に長く、屋根から壁から何まで全てが緑。横たわる芋虫のような風体だ。
建物に入ると横に長いカウンターがあり、窓口が幾つもある。それぞれの窓口に行列が出来ており、俺の順番が回ってきたのは並んでから30分も経った頃だった。担当した若い女性の話では、件の木こりの仕事は本当に急募だったらしく、その日から仕事があるとの事。何でも作業期間はもう始まっているのだが、怪我人や途中でやめる人間が続出して作業が滞っているのだそうだ。
怪我人。なんでもモンスターに襲われたらしい。
危険でも木材は採らなきゃならない、そんな理由があるらしいのだが、俺は興味無かったので聞かなかった。普通の人間ならそんな危なっかしい仕事などやりたくないだろう。しかし俺にとっては作業でスキルを上げモンスターでレベルも上げられるかもしれないお得な仕事だ。
俺は直ぐにその仕事を受けた。作業で使う皮手袋と斧は向こうが支給するらしい。問題は服装だが、まだこの時間帯は店が開いてないので作業着などは買えない。そればかりは諦めるしかなさそうだった。
指定された集合場所は、フォーリードの街の東門前の広場だった。そこには運搬用の荷馬車が五台。馬四頭で引く大型だ。その手前に20人ほどの人だかりがあり、中心には一際大きな身体をした男がふんぞり返っている。多分俺と同じくらいの身長だろう。レスラーのような身体つきをしている。髭もじゃで、眼光するどくこちらを睨みつけていた。……ん?
「おい、お前募集に応じたやつか」
近づくと声をかけてきた。ああ、と答えると途端に眉を怒らせ怒鳴り始める。
「てめぇ、なんて格好で来やがったんだ! 仕事なめてのかコラアァァァッ!!」
まあ、そりゃそうなるわな。俺の格好は昨日と変わらず『うみんちゅセット』、加えて麦藁帽子である。遊びに行く格好だ。しかし、だからって胸ぐら掴むのはどうかと思うのだ。怒るのなら口だけで、手を出す必要などないだろうに。
俺は胸ぐらを掴む男の手首を、右手でしっかりと掴んだ。そして思いっきり力を込めて握りしめる。俺の筋力は23という値だったが、これは人間の平均値の約2倍。この男にしたって日頃力仕事をしているのだから多分同じような数値なのだろう。しかし筋力と言っても色々ある。俺が他の人間より抜きん出て強かったのは、実は腕力ではなく握力だったりするのだ。高校の頃で右も左も100キロ以上、今ならレベルアップしてるしもっとあるだろう。
ギリギリと握りしめると、男の顔が苦痛に歪む。もう片方の手で俺の手を引き剥がそうとしたから、左手でその手を同じように握りしめてやった。
「力はこの通りだ。服装に関しては申し訳なく思うが、俺は回復魔法が使える。怪我の心配はしなくていい。お前は作業の段取りを組んで適切な指示を出す事だけ考えろ、金額分の働きはする」
手を離すと、男はよろけながら頷いた。作業リーダーとしては周りに情けない姿をさらしたくなかっただろうが、そこは諦めてほしい。先に手を出したのはそちらなのだから。
俺が来てからさらに2人ほど加わった所で、作業場へ向けて出発する事になった。移動は馬車の荷台。俺は一番後ろの馬車に乗った。同乗した奴らは俺が怖いのか話しかけて来ない。あの程度で怖がるという事は、身体能力は普通なのだろう。というか、他人の具体的な数値を知らないから判断つかないのだが、ひょっとしてこの世界の人間は俺のいた世界の人間より弱いのではないだろうか。
荷馬車は揺れる。
移動に使ってる馬は非常に馬力のある馬らしく、昨日乗った馬が馬鹿みたいに思えるくらい馬鹿馬鹿しい速さでパカパカ走る。時速何キロ出てるのか知らないが、少し凹凸があると衝撃で乗ってる人間が跳ね上がるくらいだ。途中でやめる奴は、この移動が苦痛だったんじゃないだろうか。ちなみに俺は平気だ。乗り物酔いはした事がない。
目的地についたのは、移動を始めて一時間ほど経った頃だった。森の入り口付近、既に伐採が終わった区画は切り株も取り除いて広場にしてあり、馬車はそこに停められた。作業監督の一人から皮手袋と斧を貰う。伐採はチームで行うらしく、俺は背の低い髭もじゃのオッサンと耳の尖った痩せた女の子と組む事となった。オッサンはノコギリとツルハシを手にしていて、女の子はロープと梯子、鉈だ。
作業を始める前に、あのリーダーっぽいヤツから全員に話があった。
「これから各班に別れて作業に入ってもらうが、知っての通りこの付近にはモンスターが出る! 今回護衛に来たのは戦士5名のみで、索敵スキルを持った人間は居なかった! おかしな気配を感じたり、モンスターの姿を見たやつは直ぐに近くの護衛に知らせろ!」
うおぅ。
大丈夫なのか、それで。フォーリードって冒険者が沢山いるハズだよな、なんで索敵スキル持ったヤツが一人も来ないんだよ。確かフレイも言ってたな、人が集まらないって……。賃金が悪いのだろうか。ちなみに木こりの報酬は日当3万だった。そこから色々引かれて2万ちょい。多分リスクから行くと異様に安いと思う。
「じゃあ各自作業を開始しろ! 分からない事があったら作業監督に聞け! 休憩は時間が来たらベルで教える!」
凄く適当な指示を出して、男は去って行った。うん、ブラック企業臭い雰囲気だ。けどまあ色々楽しめそうだし、まずは大人しく作業に向かうとしよう。
俺たちが向かったのは他の連中より少し森に深く入った所だった。作業監督が一人ついて来ているのは、俺が全くの初心者だったからだろう。
「先ずは初めての方もいらっしゃいますので、自己紹介させていただきます。作業監督のマルセルと申します、宜しくお願いします」
リーダーと違い、非常に丁寧な言葉使いだった。歳は30くらいだろうか。メガネをかけた中肉中背の男性だ。
「今回この場所を選んだのは、周りに作業員がいない事と護衛が居なくてもモンスターを撃退出来るメンバーが揃っている事が理由です。セーラさんは魔法が使えますし、ボンゾさんも怪力の持ち主。朝の様子を見る限り、カトーさんもなかなか強そうだ」
にこやかに言うマルセル。そう言われると恥ずかしいものがある。あれは大人気ない態度だった。
「作業の方も基本的にセーラさんとボンゾさんの指示に従って下さい。お二人はこの作業のエキスパートですから。セーラさん、ボンゾさん、宜しく頼みますよ」
「おう、任せとけ」
「心配する事は何もありませんから、緊張しないで作業して下さいね」
二人は人の良さそうな笑みを浮かべて言った。うん、昨日に続いて良い人に巡り会えたっぽい。もしかしたら朝のアレを見て、わざわざこの人たちと組ませたのかもしれないけどな。
「では、作業を始めましょう。午前中は私も指導にあたりますよ」
こうして、俺の木こり生活第一日目はスタートした。
木を切る、というのは思っていた以上に手間のかかる難しい作業だった。
今回必要な木材は『コトの木』という木で、幹周りがだいたい1メートルの物をターゲットにしている。密度が高く固い木で、枝も広範囲に伸びるタイプだ。木を切る時は、まずどちらの方向に倒すかを考えなければならない。初心者の俺が加わった班が他の作業員から遠ざけられたのは、この事でミスっても被害が出ないようにする為だった。
倒す方向を決めたら鉈で枝を切り落として全体の重心をコントロールする。ロープと近くの木を使って、ターゲットとなる木が別の方向に倒れないように固定する。そしてノコギリなどで「受け口」と呼ばれる切れ目を入れて、そこで初めて斧を入れるのだ。ここまで俺の作業はほとんど無し。ロープを張るにしても専用の結び方があり、それを覚えるので手いっぱいだった。それでも、どの作業も一発で覚えられたのはやはりスキルの成長補正のおかげなのだろう。
俺の力の見せ所となる斧入れの作業。それもただ力一杯斧を入れてはいけない。切れ目は木の二カ所に入れるのだが、方向指定の切れ目を低い位置に。切り倒すインパクトを与える切れ目を前者より高い位置に入れる。このさじ加減が難しく、ボンゾの指導のもと、慎重に行う必要があった。強い力を目一杯振るうのではなく、必要な力を的確に打ち込む事が重要な作業だった。
初めて木を切り倒した時。俺はちょっと感動してしまった。お膳立てをしっかりしてもらっていたとは言え、木は理想的な軌道を描いて倒れて行ったのだ。セーラは手を叩いて喜んでくれた。ボンゾもニヤリと笑って親指を立てる。監督のマルセルも、これなら安心という表情をしていた。
何となく、自分が就職したばかりの頃を思い出した。
さて、昼休みになった。
マルセルは他の班の監督へ行き、現在俺たちは広場へ戻って3人で昼食を取っている。昼食は握り飯が一人あたり3つ支給された。中身は梅干し、山菜、挽き肉である。もう完全に日本だ。普通に田舎の日雇い労働である。足りない分は各自勝手に用意するのだが、一つ一つが結構大きいので俺は満足だった。
作業中は無駄口一つ叩かなかった為、自己紹介らしい自己紹介はしなかったが、今は休憩中。改めて俺たちは自己紹介を交わした。そこで驚いたのだが、何とこの2人、人間ではなかったのである。
「普通、見て分かるもんだがなぁ」
「カトーさんってもしかして、他の種族と会った事無いんですか?」
「……いや、単に種族とか意識して人と接した事が無かった。それに基本的に、あまり他人に関心を持たない性格なんだ、俺は」
苦しい言い訳である。単に田舎者だと言えば良かったのかもしれない。けど言ってしまったものは仕方がない。
「まぁ朝のあの態度見たらそうなんだろうとは思うな。お前ならドラゴン相手にしても啖呵を切りそうだ」
そう言って笑うボンゾ。彼はドワーフ族らしい。言われてみれば、確かにドワーフっぽい。力も強いし、その癖とても器用。作業の正確さは目を見張るものがあった。現在は薄茶色のゴワゴワした作業着を着ているが、皮の鎧と斧を持たせたら一般的なドワーフのイメージそのままである。
セーラはもっとわかりやすい。耳がエルフ耳なのだ。金の長髪、美しい碧眼。顔立ちも美人としか言いようが無い。同じくゴワゴワした作業着だから分からないが、スタイルだって良いだろう。何故今まで気づかなかったのか不思議なくらいだ。
それにしてもエルフにドワーフ。ファンタジー世界の常識的に、この2種族が仲良く作業しているのって、どうなんだろうか。
「……こんな事を聞くのは良くない事かもしれないが。エルフとドワーフって仲が悪いという噂を聞いたんだが、あれは嘘だったのか? 2人を見る限り、噂が本当だと思えないんだが」
そう言うと、2人はキョトンという顔をした。どうやら俺は素っ頓狂な事を言ってしまったらしい。
「そりゃあお前、よっぽど昔の話だろう。俺もガキの頃おとぎ話で聞いた事はあったが……今どきそんな事言うヤツなんぞ居ねえぞ? どこかの地方でそんな宗教があるのかもしれねえが、少なくともこの現代じゃありえねえ話だ」
「ですよねえ。だってボンゾさんの奥さん、3人ともエルフですし」
なんと。
一夫多妻制? それもエルフが3人も?
「すまない。俺もそろそろ周りに関心を向けるべきだな、常識が世間とズレまくってる。変な事を聞いて悪かった」
「ハッハッハ、気にすんな。ここにゃ変わり者が山ほど居る、お前なんかまだ可愛いもんよ」
「そうですよ。私なんて最近まで男女の違いすら知らなかったのに、今では木の切り方だって知ってます。日々これ勉強、世間を知らないなら、これから知っていけばいいだけじゃないですか」
おい今適当言っただろ、このエルフ。いい事言ったつもりだろうが微妙なボケを混ぜるな。
とりあえずよくわからない慰めを受けながら、このお昼休みは和やかに過ぎて行った。