帰り道の狙撃手
「しかし旦那がすっぽんぽんの女を連れて来た時はたまげたね。俺ぁてっきり人攫いでもしてきたかと思ったぜ」
「馬鹿を言うな。俺はセーラ一筋だ」
メンザのくだらない冗談に答えながら、俺は憮然とした表情をする。それをセーラが上機嫌でフニフニと揉みほぐした。
現在俺たちはフォーリードの街へ向けて帰る途中。馬車の荷台にはリリー、フレイ、ローランド、芋姉が乗り、またもや白鳥パンツを装着した俺はセーラをお姫様抱っこで抱えながら低空飛行をしていた。荷台の大部分は芋姉の外壁だったあまポテアーマーの残骸が占拠しており、今現在その残骸を苗床にパラディア草の栽培が行われている。俺とセーラは邪魔になるといけないからこうして外を飛んでいるのだ。
芋姉ことネイ・レズナーはあまポテから生えた植物だが、全身が復元された今はもう自立して動く事が出来る。メンザと会う前に、それまで下半身を覆っていたあまポテアーマーを脱いでいたのだが、その姿は裸の女性そのまま。結果それを見たメンザは慌てて、そのリアクションを見た俺たちも彼女が恥ずかしい格好をしていた事に気づかされた……という一幕があった。全身紫色で初めて見た時から裸だった事と、俺自身が結構な頻度で裸になっているから皆も感覚が麻痺していたようだ。危ない危ない。
現在彼女は俺のあげた黒い5Lサイズのシャツを着ている。いや、素肌にシャツだけというのは裸以上にいやらしい気もするのだが、本人は女性たちが服を貸すと言っても『紫色に染まっちゃうから』と断るのだから仕方ない。ちなみに本当に俺が着せたかったのはYシャツだが、一着しかないので断念した。これはセーラ用だ。
「旦那、あのポテトの残骸はやたらデカいけど、よく倒せたなぁ。途中、ハチやクマも出たんだろう? それを皆やっつけちまうとは、やっぱり旦那たちは俺の見立て通りの強者らしい」
「ハッハッハ、そう誉めてくれるな。顔がニヤケて仕方ない」
それをセーラが揉みほぐすから、今や俺の顔は大変な事になってやしないか。セーラ、そろそろよせ。何がそんなに嬉しかったんだ。
「しかし俺も初めてトレントってやつを見たが、あまポテに吸収されちまうとは結構間抜けな連中なのかねぇ。数が少なくなってるらしいが、そりゃあ仕方ねえと思えてくるな」
メンザはそう言って、豪快にゲラゲラと笑った。
……そう。メンザは初めてネイを見た時に、彼女をトレントだと言った。ゲームでは登場しない種族だし、モンスターとしても登場したかどうか、俺も記憶があやふやで覚えていない。ただこの世界では絶滅を危惧されている種族として知られており、国内のトレント人口は二百人ほどと少ないようだ。森の精霊とも呼ばれており、風と森を尊ぶマンディールでは御伽噺などで頻繁にトレントが登場する。その関係で人気のある種族なのだ、とメンザは語った。
それなら彼女はトレントという事にしよう。これなら俺が変に依頼人に脅しをかけなくても良い方向に転びそうだ。そう考えて皆に目配せすると、直ぐに意図を察して頷いてくれる。フレイも俺のノリに慣れたのか、ニヤリと笑っていた。
そのなんちゃってトレントは、蜂蜜を舐めて俺特製濃厚白濁甘味飲料『男汁EX(某有名乳酸菌飲料風味)』を飲みながら栽培作業の真っ最中。荷台を覗くと、なんとも楽しそうにしている。
『さ~て栄養も補給出来たし、またバンバン生やそうかしら』
「よっ、芋姉! 待ってましたっ!」
「あの、ネイさん? 口元ちゃんと拭いた方がいいよ、なんか凄いエロい事になってるから」
「あ、あわわわわ……私は何も見ていない、見ていない……」
賑やかだ。フレイが堂々と芋姉と呼んでるのも驚きだが、中腰になっているローランドが何より驚きだった。お前、ちゃんと男だったのか……。
それにしてもネイの栽培は見事だった。あまポテアーマーの残骸を苗床に、次から次へとパラディア草を生やして行く。それは手品を見ているようであり、また、ドキュメンタリー番組にあるような植物の早送り成長ムービーを見ているようでもあった。ニョキニョキと伸びるパラディア草は、まるで踊っているかのようだ。
「芋姉、大丈夫なの? もう70くらい作ってるけど」
『あら、もうそんなに生やしてたかしら。まだ蜂蜜は一瓶しか舐めてないのに……まぁいいか、ノルマはもうクリアしたのかしらね』
荷台から顔を出して尋ねて来たので、俺も依頼書を確認して返事をする。
「60株と書いてあるから充分だよ。残りの蜂蜜とジャムは君の自由にしてくれ」
『ありがとう、そうさせてもらうわ……って、何してるの?』
こちらを見て目を丸くする。
「いわゆるイチャラブというやつだ」
『……そう。全く羨ましくないけど、お幸せに』
そうですか。確かに俺もなんだか微妙だよ。恋人同士のイチャラブって、こんなに顔をグニグニするもんなのかね。
「セーラ。ちょっと頼みたい事があるんだが良いか?」
「エヘヘ……なんですかぁ?」
良い具合にとろけてて可愛いのだが、いい加減顔が痛くなって来たので仕事を与える事にした。アイテムボックスであるポシェットから四角い箱を出し、セーラに手渡す。それはキスクワードから貰った白鳥の餌だった。
「殺人蜜蜂退治では白鳥君が頑張ってくれたから、褒美に餌をやろうと思ってたんだ。代わりにセーラがやってくれないか。きっとコイツも、俺がやるよりセーラに食べさせて貰った方が嬉しいだろう」
突然話を振られた白鳥君は驚いて此方を振り向く。俺が目で「話を合わせてくれ」と訴えると、白鳥君は仕方なくセーラを見て『クワッ』と鳴いた。
「そ、そうですか? 分かりました、それじゃあ沢山食べて下さいね」
良かった。やっと顔を解放された俺は、ホッとため息をつく。セーラは楽しそうに白鳥君に餌をあげ始める。茶色い粒は白鳥君の好みに合っていたのか、勢いよくパクついていた。……パンツ、なんだよな。食ったもんは一体どこへ行くのだろう。考えると少し不気味だった。
さて、そんな風に和気あいあいと帰っていたのだが、日はどんどん傾いて何時の間にか空は真っ赤に染め上げられていた。フレイの説明では、川の蛇を食べに行っている大型モンスターが森に帰ってくる時間帯らしい。既に街道に戻って森から離れているとは言え、用心に越した事は無い。俺はセーラや白鳥君と楽しい一時を過ごしながらも、索敵だけは発動させたままにしていた。
そして、やはりモンスターとの遭遇は避けられなかったようだ。レーダーに現れる赤点は3つ、距離はおよそ500メートル先。中型モンスターに分類されるマッスルスネイク1体と、同じく中型のヨロイトカゲが2体。どうもモンスター同士で争っているらしく、灰色のゴツゴツとした皮膚のトカゲたちが、マッスルスネイクを食おうと必死に飛び交っていた。
「敵だ。マッスルスネイク1、ヨロイトカゲ2。こちらには気づいていないようだな」
俺の言葉にメンザは少しげんなりした表情を浮かべる。
「大して金にならねえ上にしぶとさだけは半端じゃねえやつらか。食うと美味いんだが、割に合わねえんだよな」
「美味しいんですか?」
セーラは食いしん坊キャラだったのか? しかし確かに蛇やトカゲって食べられるって言うよな。マッスルスネイクは毒が無いので肉の多い蛇、なかなか食べ応えのありそうな感じだ。トカゲって鶏肉みたいで結構イケる、というのも何かの本で読んだ。仕留めて調理してみるのも良いかもしれない。
「遠距離から攻撃してみようか。セーラ、また魔法で攻撃してみてくれ」
「はいっ、分かりま……あれ?」
その時。セーラの服を、白鳥君がクイクイと引っ張った。何やら瞳をキラキラさせているが……
「カトーさん、白鳥さんが何か訴えてますけど」
「もしかして、自分がやると言ってるのか」
尋ねると、白鳥君はキリッとした表情になって一言『グワッ!』と鳴いた。つまりあれか、ウォーターカッターをやるのか。また吐いたりしないだろうな? 餌を食べてからやけに元気だから大丈夫だとは思うが、ちょっと心配だ。
「分かった。なら白鳥君は変にブーストかけずに魔力だけで魔法を放つ事。いいな?」
『グアッ!』
クイッと前方を向き直す白鳥君。口をパカッと開けると膨大な魔力が頭部全体に流れ込んで行く……俺の身体から。なるほど、俺から引っ張ってたのか。そりゃ強力になるわけだわ。
『グワバァァァァァアア!!』
そして発射。って、なんだそりゃ! やたら太い水のレーザーが口から出てきて……まるでウォーターポールじゃないか、扱えるのはカッターだけじゃないのか! しかし撃った反動も大きいらしく、白鳥君は少しのけぞりセーラの胸に後頭部を埋もれさせた。……オィ。
「は、白鳥さん!?」
『クルァオワワオアァアアァァ!!』
慌ててセーラが白鳥君の頭を両手で持って固定した。その姿はまるで狙撃手のようだ。狙いが定まらず街道やその周りの地面を削り飛ばしていた水流は、真っ直ぐとモンスターたちのいる方向へと飛んで行き……
見事命中。
その次の瞬間、聞き慣れない音が周囲に鳴り響いた。
ドッパアァァァァンッ!!
「きゃああぁっ!?」
「ぬおっ!!」
凄まじく水っぽい爆裂音。そして膨大な量の水しぶきが辺りを覆う。しばらくして靄状となった水分が全て風に流され視界が開けると、そこにモンスターたちの姿は見当たら無かった。いや、あるにはあったのだが原形を留めていなかったのだ。
細切れに千切れ飛んだ肉片と、飛び散った血。非常に非常にスプラッターな光景がそこに広がっていた。
『グワッグワッグワッ』
得意気に鳴いてみせる白鳥君だが、俺もセーラもメンザも固まってしまった。荷台の中で遊んでいた面々も何事かと飛び出して来て、その余りの惨状に言葉を失う。そしてシーンとなってしまった空気を引き裂くように、セーラの周囲を光の輪が囲みファンファーレが鳴り響いた。あれ?
「セーラのレベルが上がったのか?」
「そうみたいですね。私、白鳥さんの頭を支えただけですけど……」
冒険者カードを見ると、確かに一つレベルが上がってる。そしてステータス欄には意外なスキルが増えていた。
『射撃(Lv1)』
なんじゃこら。射撃……ああ、狙撃手みたいだったもんな。あんな事でスキルが増えるなら誰だって狙撃の名手になれるじゃないか。白鳥君は元々レベルがあがる存在ではないし一応特殊装備という事になるから、それを使った人間に経験値が入る仕組みなのだろう。
……と、いう事は。
「セーラ。これならローランドも安全にレベル上げ出来るんじゃないか?」
「本当ですね! 早速交代してみましょう、次にモンスターが出たらローランドさんにお任せします」
ローランドは何が何だか分からずチンプンカンプンといった顔をしている。安心しろ、ローランド。お前を安全に強化する方法が見つかったんだ、フォーリードにつくまでにお前を人並み以上の男に鍛え上げてみせるぞ! セーラに促されるまま困惑した表情を浮かべ、ローランドは俺の元へとやって来る。その表情は猛獣の餌にされようとしてるウサギのようだった。
「聞いて下さいよ、カトーさん! フレイさんは本当に酷いんです」
さて、セーラと交代する形で白鳥君に跨がる事になったローランド。ずっと怯えたままでいるかと思いきや、どうも荷台での居心地が悪かったらしく、開放感いっぱいの晴れやかな表情で俺に愚痴を言い始めた。ちなみに先ほどモンスターを倒してから約一時間たったが、未だに追加のモンスターはあらわれない。せっかく食用にしようとしていたトカゲたちは木っ端微塵となってしまったから、今度あらわれたら綺麗な形で仕留めようと思っていた。が、今のところ肩すかしの状況だ。長閑な空気の中、ローランドの愚痴が続く。
「ネイさんがそっち方面に疎いからって、彼女の内股にカトーさんが作った男汁を垂らしたりするんですよ。で、私の方を向かせて『ごめんなさい、こぼしちゃった』とか言わせるんです。更にそれを拭かせようとしたり……からかうにしても、限度ってものがあると思うんですよ!」
どんなキャバクラだよ。というかローランドがその行為の意味を知ってるというのがそこはかとなくショックだ。誰だ、この青年少女を汚したやつは……
「ローランドは嬉しくないのか? そういうシチュエーションに興奮したり喜んだりするのは、男として自然な事だと思うんだが」
「全然自然じゃないですよ。少なくとも、私の好みではありません」
あれま。ならどういう事に喜びを感じるというのか。そもそもローランドの好みってどんな人だろうな。
「ローランドの好きなタイプの女性って、どんな感じなんだ? ネイさんにはドキドキしたりしなかったのか」
「……まぁ、捕まった時はドキドキし過ぎて失神しました」
そうだろうな。
「けど、女性としてどうとは思いませんよ。格好にドキドキしても、それは一時的なものです。私はどちらかというと……」
瞼を閉じて、考えるローランド。少し頬を染めながら口を開いた。
「ボンゾさんが、女性になった感じが好みです」
「「ブフォッ!?」」
俺と、話を聞いていたメンザが吹き出した。いやいやローランド、それはあまりにマニアック過ぎる! メンザなんか呼吸困難になっているぞ、俺だって今頭の中に気味の悪い映像があらわれて冷や汗が噴き出してるし。
「ボンゾさんとは少ししかお話出来ていませんが、それでも頼りがいがあって優しい方だというのは分かります。ああいった落ち着きのある大人に、私は憧れるのです」
ああ、そういう事か。内面の話ね。それなら分からないでもない。
「ああいった方に強引に組みしだかれたら、と思うと胸が高鳴りますよね……」
「「グハッ!?」」
やっぱりアブノーマルじゃねえか! よし分かったローランド、お前は変態だ。そのふざけた性癖は女性陣に内緒にしといてやるから、なんとか普通の女の子と付き合って変態を卒業しろ。幾ら何でも今のお前はレベルが高すぎる。
「リリーなんかお前の事を気にかけていたけど、優しいお姉さんみたいで良いなって思わないか?」
「……確かに力が強くて、私がどんなに抵抗しても逆らえないという点で魅力的ではありますが」
もう論点からしてズレまくってるというか、ぶっ飛んでるんだが。これはちょっと修正不可能かもしれない。ローランドの業の深さに、俺は強烈な眩暈を覚えるのだった。
フォーリードの街まであと10キロほどの地点までやって来た。辺りはすっかり暗くなってきていたが、そのおかげか街の明かりが夜の闇によく映える。ああ帰って来れたんだ、という安堵感と共に、索敵レーダーに敵の存在を見つけてウンザリする。俺は敵の詳細を探りながら、ローランドに指示を出した。
「前方800メートル先に……小型モンスターの反応が一つ。多分ロンリーウルフだろうな。的が小さい上に距離があるから、ちょっとこちらから近づいてみるか」
「む、無益な殺生は良くないのでは?」
「仏教徒かお前は。だいたいお前の強化になるんだから充分有益だよ、今更怖じ気づくんじゃない。メンザ、俺たちはちょっと先行してモンスターと戦ってくるから、普通にそのままのペースで歩いててくれ」
「はいよ、旦那たちも気をつけてな」
何かと戦わない言い訳をしようとするローランドをあしらってメンザにそう告げると、俺たちは空高く舞い上がる。俺が「狩りの時間だ」と言うと、白鳥君はニヒルな笑みを口元に浮かべて『グアッ』と鳴いた。そして、悲鳴を上げるローランドを無視してその大きな翼を羽ばたかせ始める。この時点で、俺は白鳥君の微妙な変化に気づいた。
「ん? 白鳥君、ちょっと微妙に方向が違うんじゃないか……おわっ!?」
「ひゃあああああああっ!!」
『グワワワワッ!!』
言い終わる前に高速移動を始める白鳥君。いやしかしどうした事だ、コースが大きくズレてしまったぞ! 俺たちはロンリーウルフのいる地点の遥か西へと突き進む。ああ、まさかこれは……いや、そうとしか考えられない!
『鳥目だから、夜が苦手』
そう、夜目が効かないのだ。意外な弱点が発覚してしまった。俺はすぐに白鳥君へ大声で指示を出す。
「白鳥君、俺と同じスキルが使えるなら索敵レーダーで位置を確認しろ! ターゲット付近にまで来たら、俺たちでなんとかする!!」
『グワァ~~……』
いや良いんだ、君が悪いわけじゃない。気づいてやれなかった俺の責任だよ。気にするな、と彼の首筋を撫でてから、俺は再度ロンリーウルフの位置を確認した。白鳥君は空中でアクロバティックな切り返しを見せて、今度こそターゲットへ真っ直ぐに接近する。
「ひ、ひゃあぁっ、カトーさん私は実は高い所が苦手で……」
「大丈夫、落ちないようにしっかり捕まえててやる」
「ああっ、抗ってもふりほどけない……悔しい、でも感じてしま…」
「突き落とされたくなかったら黙ってろ!」
今日1日でローランドの印象が滅茶苦茶になって来てるんだが。とにかくアホな発言を無視して、俺たちは一気にターゲット付近にまで接近した。ロンリーウルフはというと、空を見上げて固まっている。そりゃそうだ、こんな光景見たら俺だって固まる。
「ローランド、白鳥君の首を持て! しっかり狙いを定めるんだ!!」
「ええっ!? こ、こうですか!」
ローランドは慌てて白鳥君の首を持つ。なんだか首を絞めてるようにも見えるんだが、大した筋力じゃ無いので大丈夫だろう。白鳥君も気にしていないようで、口を開けて攻撃体勢に入った。
「行け、白鳥君!」
『グワワワワッ!!』
口から高圧噴射された水の刃が飛び出した。ウォーターカッターだが、その威力は俺の魔力を使ってるだけあって強烈だ。しかし……
着弾直前、ロンリーウルフは目にも留まらぬ速さで身を翻して、それを避けてしまった。
「カトーさん、外れましたよ!?」
「ヤバいな、逃がしてしまうかもしれない……」
『グワァ…………ァア、アア゛ア゛ア゛……』
うおっ!? 何やら白鳥君が興奮して……これは怒ってるのか。自分の不甲斐なさに怒っているような、そんな感情が伝わってくるぞ。いやいいんだ、君が悪いわけじゃない、だから何をしたいか知らないが無茶だけはするな、尋常じゃない魔力が頭周辺に集まってるぞ!?
「ローランド、ヤバい! またがってる胴体にしっかり捕まってろ!!」
「へ? ひゃああっ!?」
『ギャワババババァアアアァア!!!!』
その瞬間。
俺たちは恐ろしい光景を目の当たりにした。
白鳥君の口、そして鼻、目。穴という穴から凄まじい勢いで水が噴き出し、地上のロンリーウルフに向かって水の矢となって降り注いだのだ。
「カ、カトーさん、これは怖すぎますっっっ!!」
「俺だってさすがにビビってるよ! 白鳥君、無理するんじゃない! 別に逃がしたって怒らないから!!」
水の矢はホーミングレーザーのようにロンリーウルフへと向かって行く。しかしレベルが高いのか、巧みにそれを避けて行くロンリーウルフ。このままだと白鳥君の体力が持たないと思った俺は、早く戦いを終わらせる為に手助けする事にした。狙いを定めて、奴の足へと攻撃を仕掛ける。
『ウォーターカッター!』
無数の水の矢の中、一つだけスピードも威力も段違いの水の刃が飛んで行く。そしてロンリーウルフの後ろ足を切り飛ばした。
『ギャワンッ!?』
動きが止まるロンリーウルフ。そこへ、今だとばかりに無数の水の矢が襲いかかり……
ドガガガガガガガガガガガッ!!!
全ての矢が命中する。その光景は、ハッキリ言って凄惨過ぎて気分が悪くなるほどだ。余りの破壊力に、あのヨロイトカゲの時のように木っ端微塵に吹き飛ぶロンリーウルフ。その凄まじさは上空20メートル付近をホバリングしていた俺たちの目の前に、ロンリーウルフの頭がふき飛ばされて来た事からも用意に想像出来るだろう。
「ひ、ひぃいいいっ!? 目が、目が合った……ぁあ……」
案の定気を失ったローランド。その身体の周りを、光の輪が囲む。無事にレベルアップしたようだ。それと同時に、俺の脳裏にあるメッセージが浮かんでくる。
『白鳥パンツは体力が0となりました。強制解除します。着地に御注意下さい』
ああ、やっぱり無茶してたんだ。俺は光の粒となって消えて行く白鳥君を見つめながら、深くため息をついた。今までの経験から考えると、どうにも白鳥君は暴走しやすいらしい。ちゃんとこちらで気をつけてやらないと、すぐに無茶をしてしまう。もしかしたら飼い主に似たのかもしれないな、と俺は頭をポリポリと掻いた。
ローランドを片手で抱え地上に降り立つ俺。仲間たちが到着するのを待ちながら、今日は何だか反省する事ばかりだなぁと、また一つ大きなため息をつくのだった。
名前 ローランド (Lv6)
種族 エルフ 22歳
職業 魔法使い(Lv18)
HP 60/112
MP 7/498
筋力 11
耐久力 35
敏捷 21
持久力 15
器用さ 85
知力 29
運 62
スキル
フラワーイリュージョン(Lv25)
天使の微笑(Lv1)
慈愛の歌(Lv3)
癒やしの手(Lv1)
気絶回復(Lv12)
死んだふり(Lv15)
索敵(Lv1)
狙撃(Lv1)
被虐回復(Lv1)
職業スキル
事務員(速記Lv2 記憶Lv8 作業精度上昇Lv3)




