Bチーム始動!~あまポテとの戦い(序)
オンラインゲームの醍醐味は見ず知らずの人間とコミュニケーションを取りながらゲームを進めて行く事だと思うが、俺は『ワイルドフロンティア・オンライン』においてパーティーを組んだ事が殆ど無い。サービスを開始した頃は敵のアイテムドロップ率が高い上に錬金や調合も成功しやすく、また敵にも理不尽な強さを持った奴は居なかった。つまりソロプレイがしやすく、パーティーを組む必要がなかったのだ。俺がゲームを止めた後「改悪」「劣化」と叩かれるようなバージョンアップを繰り返してソロプレイヤーたちを困らせたが、それでも上手い奴はソロを貫き通せる、そんな絶妙なバランスのゲーム難度は保っていたらしい。
そんなわけで『ワイルドフロンティア・オンライン』にはソロプレイヤーが多い。勿論俺もその一人であり、パーティーを組んだ数少ない相手にしても普段ソロをやってる上位ランカーだけだ。普通の相手となると、この世界に来てから知り合ったセーラやボンゾくらいである。つまり何が言いたいかと言うと、俺にはパーティーを率いる経験が不足しているという事だ。
「という事で、俺はリーダーを辞退する」
「却下だ」
アメリアの非情な言葉が部屋に響いた。ここはクランハウスの一室。一階入ってすぐにある広々とした応接室である。現在ここにはボンゾ、ルシアとクランメンバーが勢ぞろいしている。時刻は夜、ローランドから武器や防具の説明をしてもらってから約2時間が経過していた。
一応仮の名前としてクラン『クロス&カトー』という何の捻りも無い名前がつけられたこのクランには、俺を含めて9人の人間が所属している。この9人というのは一般的にだいぶ多い人数らしく、メンバー全員で普通のクエストを受けたら報酬よりも人件費の方が高くついてしまうらしい。よって、そうならない為に仕事を受ける時のパーティーを2つに分けるという話になったのだが……
A班
クロス
アメリア
ボンゾ
ルシア
B班
カトー
セーラ
フレイ
リリー
ローランド
……という組み合わせとなってしまったのだ。リーダー的な資質を持ったクロス、アメリア、ボンゾが揃って向こうに行ってしまったがために、こちらの班のリーダーに俺が指名される事となった。うーむ、俺なんか向いてないにも程があると思うんだが。
「そもそも何を基準にして俺を指名したんだ?」
「それは勿論、『死ににくさ』だ。リーダーは最後まで生き残り指示を出さなければならない。カトーなら死なない強さに加えて仲間を死なせない強さも兼ね備えていると判断した。資質だけを見ればフレイだって負けていないが、最近無理をさせすぎたからな。セーラやリリーもそういう気質じゃないだろう? そうなると一番はやはりカトーとなる」
そう言われると、確かにそうかもしれない。しかしその前に聞きたい事があった。
「この班分けの基準はどうなってるんだ? こっちのチームは盾役の出来る人間が俺くらいだし、偏りがあるように見えるんだが」
「それは俺が説明するぜ」
答えたのはボンゾだった。
「これはおめぇも知ってる事だが、俺の目的はMPを成長させる事で、とにかくレベル上げを優先してやりてえと思ってる。となると、高レベルのモンスターと戦う機会の多いクロスたちと一緒なのが一番都合が良い。それでこっちのチームにしてもらったんだが、クロスやアメリアが突撃している間、俺がルシアの盾になるって役回りになる。クロスたちもルシアの盾役が必要だったみてえでな、つまり俺の加入は互いに良い話だったってわけだ。そういう話を昨日クロスたちとしてたんだ」
なるほど。クロスは人間竜巻と呼ばれるような戦士だ、きっと前に飛び出して暴れ回る役割なんだろう。そしてアメリアが2列目から攻撃する、と。ルシアは回復に専念するからボンゾがそれを守る……確かに安定して戦えそうな布陣だ。
しかし、そうなるとこっちはどうなるんだろう。後方からの攻撃を得意とするのはセーラとフレイ、リリーは接近戦で行くのだろうがまだ戦い慣れてないだろうから、しばらくは俺より後ろでセーラたちを守る役目か。となると自然と俺が前に出る形となって……
そりゃ俺にリーダーをやれって言うわけだよな、当面は俺頼りの戦い方になるわけだし。……こうして見ると経験の足りない面子で固められてるし、冒険者ランクの低い人間ばかり。つまりこのチームはこのクランにおける2軍のようなものだ。「高ランクの仕事は受けられないのだから気楽に伸び伸びやって行けばいい」というクロスたちの配慮が感じられた。というかフレイには丁度良いかもしれないな。このチームの中じゃダントツで仕事慣れしてるから自然と俺たちもフレイのやり方に合わせるようになるし、アメリアのようにキツく指導する人間もいないからプレッシャーもかからず、精神的な余裕を持って仕事が出来るだろう。
「そういう事なら、分かった。B班は俺が責任持って率いて行こう」
承諾すると、アメリアやクロスたちはホッとしたような顔をして頷いた。
「あの……」
そんな俺たちに、恐る恐る声をかけてくるのは美少女……いや美青年のローランドだ。
「先ほどの件なのですが、カトーさんの成長スキルは私を含めた全員をカバー出来るのですか? 人数的に無理でしたら私の強化は後回しで結構ですが」
「ああ、忘れてた。確認しなきゃだよな」
さっきの今でもう忘れているとか俺も気が抜けているな、肝心な事を忘れていた。成長補正スキルはパーティー単位での効果があるスキルだが、果たして今現在カバー出来る人数はどれだけのものだろうか。そもそもパーティーを組んだ経験が浅いので、小パーティーや中パーティーが何人の集まりを言うのか分からないのだ。
「皆、冒険者カードを出してくれ。一人ずつパーティーに追加して行く」
現時点で俺、セーラ、ボンゾ、リリーの4人。さて何人までが中パーティーと判断されるのか。俺はカードを出し終えた人から順番にパーティーに入れて行った。やり方はカードを重ねてパーティーリーダーの人間が「追加」と言えば良いらしい。一人一人追加して行って……
見事、全員が中パーティーの範囲に収まった。
「中パーティーって何人までを言うんだろうな。クロスは知ってるか?」
「……多分15人くらいじゃないか。俺は範囲攻撃を使う関係で、攻撃に味方を巻き込まない為にも大人数のパーティーを組んだ事がない。だから詳しくは知らないが、以前盗賊団の襲撃事件で14人パーティーを組んだ事がある。確かあの時中パーティーとカードに表記されたハズだ」
「懐かしいな、確か2年前の事件だ。確かに私たち含めて14人だった。途中パーティーを増員したから、実際にはもっと多い人数でも中パーティーと判定されるんじゃないか」
アメリアもクロスに続いて答える。しかし15人以上か……これが大パーティーになったらどれくらいの人数をカバー出来るんだろうな。楽しみではあるが、しばらくは低ランクの仕事ばかりだろうし補正範囲が広がるのはまだまだ先の話か。
俺がそんな事を考えている後ろでは、フレイやルシアたちがカードを見ながら何やらワイワイと話をしていた。
「うおぉ……これで私もカトーさんたちみたいに滅茶苦茶強くなれるのかな。強くなれたらお姉様に迷惑かけなくて済むし失職しなくて良くなるよね」
「だからフレイちゃんは捨てられたりなんかしないって言ってるでしょ! でも強くなれるのは嬉しいなぁ、それに神話や御伽噺に出てきた神の軍隊の一員になったみたいで素敵です。ミリア様、これもあなた様のお導きなのでしょうか……」
「『私改宗したいんですよね』とか言ってた人のセリフじゃないよね」
「記憶に御座いません」
そんな会話を少し離れて聞いていたリリーが、何やら黒いオーラを身にまといながらブツブツ言っている。隣のセーラが若干引いていた。
「今のうちよ、ああやって喜んでいられるのは。きっとあの子たちも筋力アップで服を破く羽目になるんだわ、そしてカトーさんに裸を晒す事になるのよ。これって、もしかしたらカトーさんの作戦なんじゃないかしら」
「リリーさん落ち着いて下さい! 大丈夫です、きっとリリーさんも『力加減』を覚えて普通に生活出来るようになりますから! それにカトーさんはいやらしい目で見たりしませんよ。カトーさんは私のおっぱいがあればそれで良いって言ってましたから」
セーラ……。
リリーが泣いた。「彼氏居ない歴イコール年齢の私に惚気話って」「胸の成長が15で止まった私におっぱい話って」とか言いながら泣いた。ごめんな、リリー。でも詳しい描写は出来ないが、セーラの胸は確かに最高なんだ。そして今も成長を続けている、それこそ成長補正が掛かってるんじゃないかというくらいにな。もしかしたら今後リリーの胸にも補正がかかるかもしれないから、諦めないで欲しい。
その少し離れた所で一人恍惚の表情を浮かべるのはローランドだ。彼もリリーのように、なにやら譫言をブツブツと口にしていた。
「これで階段を上ってる最中に気を失う事もなくなります。メイドの方々にお姫様抱っこされたり、仕事中に子供たちに拉致される事もなくなるでしょう。……ああ、素晴らしい。このクランに配属して下さったキスクワード様には感謝しきれません」
ローランド……愛されてるじゃないか。メイドや子供に揉みくちゃにされるローランドの姿を想像して、ちょっと和んだ。コイツ、もしかしたら強くならない方が幸せなんじゃないだろうか。
とにかく、俺の成長補正スキルは皆に好意的に受け入れられたようだった。クロスやアメリアも「これで仕事がしやすくなる」と言っているが、はて二人のステータスってどんな感じなんだろうな。それを尋ねると、クロスなどは複雑な顔をして言葉を濁した。
「いや……普段の俺のステータス値はリリーより低いぞ。『筋力爆発』のスキルがあるから数分間は身体能力で上回れるが、それだけだ。出来れば成長して彼女を追い抜くまでは、ステータスに関しては秘密にしといてくれ」
「カトー、私も同様だ。本音を言えば私もリリーやセーラたちに追い抜かれて悔しいのでな。これからは秘密の特訓でもして追い抜いてみせるさ」
どうやら彼らのプライドを大いに刺激していたようだ。クロスは確かレベル40くらいだったハズだが、普通に何の補正も無く成長していたら確かにリリーほどの数値には届かない。ポッと出の新人に抜かれたら、そりゃ悔しいだろうな。既に40超えならレベルは上がりにくいだろうが、凶悪なスキルを持っているクロスの事だ、きっと恐ろしく強くなるに違いない。というか『筋力爆発』も持ってたのか、パンツマンみたいなものじゃないか。『筋力爆発』はスキルレベル×2+現在のレベルの数値分、身体能力を底上げするスキルだ。消費するのはHPだけで、自動HP回復(大)を持っているクロスならある程度の時間はパラメーターを上げ続けられるハズ。そりゃフォーリードの英雄とか呼ばれるようになるわな。
メンバーたちのリアクションを見ながら、俺はこれからの冒険者生活が楽しみでならなかった。クロスの凄さが垣間見られた事と、それと並んで英雄視されてるアメリアがどんな成長を遂げるのか。才能の塊と言われたフレイも楽しみだし、何気に一般冒険者の癖にやたらとスキルが増え続けるリリーも気になる。セーラやボンゾは勿論、回復だけでなく実は闘拳術の使い手だというルシアの戦い方も見てみたい。……ローランドはどうだろう。男として恥ずかしくない程度に強くなれるかどうか、そこらへんか。きっとキスクワードも成長補正の実験として彼を送りこんで来たのだろうし、満足行く結果を出して印象を良くしておきたい所だ。
結局この日はパーティー分け、そして成長補正を掛けた所で夜遅い時間となり、解散した。各々が倉庫部屋から自分の武器防具を持ち出して家路について行く。ボンゾはクロスたちの扱う武器が見たいらしく、クランハウスに残った。俺もセーラと共にホテルへと帰ろうとしたその時、何か用があるのかローランドが声をかけて来た。
「あ、カトーさん。申し遅れていた事がありました」
「……ん?」
「キスクワード様からカトーさんに防具が贈られる事になっているのですが、少し出来上がるのが遅れているようなのです。今週中にはクランハウスに届くと思いますから、それまでは今までの防具で凌いで下さい」
あれ、俺の分もあるのか。そう言えば俺のサイズもセーラが教えてたもんな。貰えるなら有り難い。正直、ネタアイテムばかりで少し凹んでいたから。
「ありがとう。色々助けて貰って、本当に頭の下がる思いだ。いつかこの投資に見合う結果を出して、ヴァンドームの名を今まで以上に高める事を約束するよ。そう伝えておいてくれ」
「畏まりました、確かにお伝えします」
一礼するローランド。俺たちがクランハウスを出るのを見送ってから、彼は忙しそうにパタパタと走り去って行った。
「カトーさん、凄い自信満々で言ってましたけど大丈夫ですか? 私、こんな立派な杖や胸当てとか頂いて、ちょっと怖いくらいなんですけど……」
「勿論大丈夫だ。セーラやリリーみたいにレベルが上がりやすい段階で成長補正を受けられるなら、きっとすぐクロスやアメリアのような英雄クラスの冒険者になれるよ。そのうち、その装備ですら物足りなくなってくる日が来る。それもそう遠くない日にね」
「そうですか……なんだか想像できません」
「まぁスカートには飽きてもらいたくないけどな。個人的に」
「カトーさんは最近特にエッチですね……そんなにスカートって良いんですか?」
「正確に言えばスカートから覗くセーラの太腿が良いのであって、スカートそのものが良いわけじゃない。でも肌を晒す事になると俺以外の男の目がセーラに向かう事になるし、そこらへんは悩み所だな」
「カトーさんは何で恥ずかしい事をサラリと言えるんですか……」
なんでだろう。俺が恥ずかしいワケじゃないから、かもしれないな。
そんな取り留めの無い会話を交わしながら、俺たちはホテルへの道を歩いて行った。さあて明日からはどんな楽しい日々が待っているのか。そんな事を考えながら……
◆◆◆◆◆◆◆
毎度の事ながら、俺の朝は早い。それは日本にいた頃から変わらないが、この世界に来てから益々早くなったような気がする。空気が綺麗で飯が美味く、尚且つ綺麗な婚約者まで居るとなったら、寝ているのが勿体なく思えてくるのは自然な事だろう。その綺麗な婚約者の愛らしい寝顔を見るのが、俺の日課であり朝の楽しみだったりするのだが……
いやぁ可愛いなぁ。
可愛いですよ。
可愛いんですけどね。
よだれ思いっきり垂らしやがって、どうしてくれようか。
現在俺の胸板の上で幸せそうに弛みきった寝顔をさらしているセーラ、その口元から流れる透明な液体。俺のウォーターキュアによる、寝る前のブレスケアのおかげで臭う事は無いが、ひんやりと冷たい感覚が微妙な気持ちにさせる。俺はこのシチュエーションを何かに活かせないかと考え、よだれを使った魔法の実験を思いついた。
『ウォーターミスト』
それは霧を発生させる魔法。水魔法は魔力だけでなく空気中の水分などを利用できる。今回はセーラのよだれを使った。胸板に溜まったよだれと口元から流れるよだれ、それらが霧状に拡散してセーラの顔を包み込む。
「う…ぅう……?」
寝ながらも異変に気づいたのか、セーラの眉間にシワがよる。その間、俺は全神経を集中して霧のコントロールを行っていた。グルグルとセーラの顔の周りを霧が流れて行く。そしてある程度の量が溜まったら、ゆっくりとそれをセーラの口の中へと誘導した。
「う……んぅ…」
ゆっくり、ゆっくり……
「ううっおふっ、わうぉ」
ゆっくり……
「おぶぁっ!?」
起きた。
「ケホッ、ケホッ! なんですかコレ、なんで水……」
「おはよう、セーラ。今日も賑やかな目覚めだな」
「またカトーさん変な事したーーーっ!」
パキッ
「ほぶぅっ!?」
思いの外強烈な右ストレートが俺の顔面に炸裂した。ふむ、なかなか良いものを持っている。これは将来世界チャンピオンになれるぞ、とワケの分からない事を考えながら、俺は意識を手放すのだった。
「ゴメンナサイ……」
あれから直ぐに目覚めて、とりあえず着替えて食堂へとやってきた俺たち。まだ人もまばらなフロアのテーブルに座ると、セーラはショボンとした顔で俺の頬を撫でた。
「いや、変な事してたのは事実だからな。セーラは何も悪くないぞ」
「でも私がよだれを流してたのが一番悪いんです」
「うーん……そう言えばセーラって、最初は枕とか俺の肩に頭を乗せてても、朝には胸板に移動してるよな。なんでだ?」
注文した朝食セットが運ばれて来る。ウェイトレスからそれを受け取りながら、俺はセーラに尋ねた。すると、顔を赤らめながらもセーラが口を開く。
「あの……カトーさんがいつも移動させるんですよ? 寝相で、いつも私を抱きかかえるんです。それで頭を撫でてくれるから、私も気持ち良くてグッスリ眠れちゃうんですよ」
ガチャッ、とウェイトレスが食器を落としそうになった。なんとかこらえたが、顔が赤い。ふむ、どうやらこういう話題はあまり人前でしない方が良さそうだ。それにしても……俺、そんな寝相をしていたのか。それならセーラのよだれも仕方ないかもしれない。原因は俺にあるのだから、セーラは何も悪くないだろう。
「それなら俺のせいだから、セーラのよだれも仕方ないな。……それにしても、寝相の悪さは直さないとなぁ」
「いえ、それは直さないで下さい。むしろもっと撫でて欲しいくらいですよ、頭とか背中とか。でも無意識にパジャマの隙間に指を入れるのは止めて欲しいかも……今はともかく、冬は風邪をひいちゃいますから」
ガチャガチャガチャッ
セーラ……
慌てふためくウェイトレスが何とか料理を置いて去って行った後。なにやらフラフラしながらルシアが食堂に現れた。ルシアはいつも通りシスターが着るようなローブを身につけているが、歩く度にカシャカシャと音を立てている。俺たちの姿を見つけると笑顔で手を上げたが、その時袖口から銀に光る何かが見えた。
「おはようございます、カトーさん、セーラさん。席をご一緒して宜しいですか?」
「おはようルシア。構わないよ、座ってくれ」
「おはようございますルシアさん。私の隣にどうぞ」
現在丸テーブルに向かい合わせに俺とセーラは座っているが、セーラが左隣の椅子を引くと「ありがとうございます」と言ってルシアが腰を掛けた。その時も、金属のこすれ合う音が。なんだか気になるな。
「ルシア、そのローブの下に鎧でも着ているのか? カシャカシャ音がしてるが」
「あ、そうなんですよ。昨日実家の教会に届いた鎧です。白銀の胸当てとメタルプリーツ、素早さを上げるフェアリーリングも付けてますよ。教会の人間は鎧や装飾品をローブの下に着なきゃいけない決まりがあるので、どうしてもこうなっちゃうんです」
なるほどなぁ……ゴツゴツした鎧とか着たら大変な事になりそうだ。教会も良くわからない決まりを作ったものである。そんな事を考えてると、他に気になる事があるのかセーラが口を開いた。
「あの……フレイさんとアメリアさんはお部屋ですか?」
尋ねると、ルシアは困った顔をする。
「ええ、2人は朝食にルームサービスを使ってるので、ここには来ませんよ」
「ルームサービスなんてあるのか。それは一度試してみたいな」
「……そうなると私は一人ぼっちになるんですね。いいんですけど……」
なぜそうなる。そもそもアメリアとフレイはどうしてルシアと一緒に食事をしないのか。それを聞くと、少し顔を赤らめながらルシアは説明した。
フレイとアメリアは仲良くなったらしい。いや、仲良くなりすぎた、と言っていいだろう。同じ部屋に泊まるようになり、同じ布団で眠るようになり、その仲の良さは周囲に色々と怪しまれる域にまで達していたという。そしてある朝、ルシアが部屋を訪ねるとその中で繰り広げられていたのは……
「フレイ、お前は私の可愛い子猫だ。子猫は何て鳴くのか……分かるな?」
「にゃん……にゃあん、にゃあん♪」
ルシアは何も言わず、そっとドアを閉めたという。
それ以来、気を遣って朝は別々に食事をとるようにしているという。なんというか、俺のあの説得がキッカケになったのだとしたら、申し訳ない気持ちで一杯になるな。アメリアも立派な旦那さんがいるというのに何をやってるんだか……
「わかった。寂しくなったら俺たちの所に来ればいい。食事は皆でとった方が美味いからな」
「うぅ……カトーさん、ありがとうございます……やっぱりカトーさんは優しいなぁ」
「カトーさん、フレイさんは子猫なんですか?」
「セーラ、混ぜっ返さなくていいから。どうしても気になるなら今度本人に聞いてみると良い」
「カトーさんそれは止めて下さい情報の出所は私以外ありえませんから! 前言撤回、優しくないじゃないですか……」
すまないな。俺は今、基本的に「優しさ」ではなくて「面白さ」に重きを置く生き方をしているようだ。この生き方は良いぞ、ストレスが溜まらないから。オススメのライフスタイルである。
そんなやりとりをしながら、朝食の時間は賑やかに過ぎて行った。ルシアは小さい身体に似合わず健啖家で、2人前はあろうかという大盛の炒飯をペロリと平らげていた。そして一通り食事も終わり、お茶を飲みながら寛いでいると、自然と話題は今日の仕事の話となる。一体今日はどんな仕事があるのかな、と俺が言うと、ルシアが意外な事を言い出した。
「あの……多分、今日はカトーさんたち、討伐系のクエストをすると思いますよ」
「……? 何故知ってるんだ?」
「いえ、実は昨日、教会の方から冒険者ギルドに依頼が出されるって話を聞いたんです。確かDランクだったと思うんですけど、クロスさんならきっとチェックしてカトーさん達の所に依頼書リストを持ってくると思いますよ」
ほほう、討伐系。教会の依頼なら怪しい仕事ではなさそうだし、Dランクなら手を出し易い。確かに初仕事にはうってつけかもしれないな。
「あの……その討伐対象ってどんなモンスターなんですか?」
セーラの問いに、ルシアはちょっと苦笑いを浮かべる。どうにも言いにくそうな感じだが、少し間を置いてから口を開いた。
「あまポテです」
……あまポテ?
 




