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至れり尽くせりなのです

 俺は甘かったのかもしれない。

 クランを単なる仲良し集団だと思っていたが、実際結成するとなると中々ややこしいのだ。今まで知らなかったが、クランはクエスト請負業者という会社のようなものらしい。今まで俺なんかは流れ者だったから、国に払う税金などは冒険者ギルドの方で処理していたが、これからは所属するクランで税金の処理をする事になる。また、俺個人としてもこの街に住民登録をする必要があるらしく、俺はしばらくそうした手続きに奔走する事となった。


 こうした手続きをするにあたって、大きな力となったのが、あの強引ヒゲ親父ことキスクワードが派遣してきた事務員。メガネをかけたひょろ長の青年、ローランドだった。神経質そうな男で、肌が白く少々不健康そうな印象を受ける。銀の髪を肩まで伸ばし顔立ちはまるで女性なのだが、尖った耳が特徴的なエルフであり、こうした顔立ちはエルフでは普通なのだとか。セーラが男女の区別がつかなかったと言う理由の一端が垣間見えたような気がした。


 とにかくそのローランドにアドバイスを受けながら、俺は様々な事務手続きをこなしていった。特に住民登録に関しては日本とまるで違う項目が多く、混乱する俺をよくサポートしてくれた。例えば『宗教』である。日本で信仰してる宗教など書かせようものならちょっとした騒ぎになるが、この世界では必須項目なのだと言う。


「宗教って、何も信仰してない場合はどうなるんだ?」


「それなら『無し』と書けばいいだけです。この国はミリア教国で、要はミリア教の施設を使う時に割り引きになる証明書を発行するか否か、なんですよ。あと、特定の宗教を信仰している人たちに対する宗教勧誘は禁止されてますから、もしそうしたトラブルが起きた時には国から守ってもらえます」


 なるほどねぇ。


「住民登録だけでも公共施設の割り引きはしてもらえますから安心して下さい。クエストで遠出した際にも、国が直接運営している宿なら5割り引きですからかなり助かります。もっとも、冒険者割り引きの効く宿屋の方が得な場合が多いですけどね」


 国の直接運営……ゲームでは全く無かったシステムであり、この世界が独自の進化を遂げているのが良くわかる話だった。


 続いて、種族や職業、使える魔法などを記入して行く。魔法やスキルに関しては以前に聞いていた通り、火炎系が問題視されているようだ。被害を出した際の損害は全て自分が責任をとる、という誓約書を書かされるのだとか。ちなみにリリーも火炎剣を使えるようになった関係で書かされたようだ。なかなかに面倒くさい。


 こうした手続きをなんとか終えたのが、あのクラン結成の書類にサインをした3日後。丸3日事務手続きに費やし、やっと落ち着いたという所で俺はローランドと共にクランハウスへと向かった。セーラやリリーたちは既に掃除や荷物の整理の手伝いでクランハウスを出入りしている。ルシアやボンゾは自分たちの職場を優先させているので居ないが、それ以外のメンバーは基本的にクランハウスに常駐しているようだ。ちなみにローランドはクラン所属の事務員になるとか。休日以外は夜も寝泊まりするらしい。……死なないのだろうか。


 そんな可哀想なローランドと共に、俺はクランハウスへと向かう。場所はホテル『ヴァンドーム』の裏手にあり、広い庭と赤レンガの立派な雰囲気のある建物である。周囲に建物がひしめくような一等地にこれだけゆったりとした庭を持てるのだから、どれだけ優遇されているかが良く分かるというものだ。


 そんなクランハウスであるが、俺たちが訪れた時は丁度荷物の搬入時だったらしくリリーやアメリアたちの姿が開かれた門扉のそばに見えた。馬車からは鎧や剣といった武具が下ろされている。クロスたちの物だろうか。……ん? こっちに向かって手を振っているのはリリーだろうか。涙目なのは俺に会えたのがよほど嬉しいという事か。困るな、俺も嬉しいがセーラという立派な嫁が……


「カトさぁぁぁん! 私じゃ鎧とか壊しちゃうから、荷物運びお願ぁぁぁあいっ!!」


 ………。


 わ、分かってたんだからね! 残念だなんて思ってないんだからっ! だから俺の肩に手を乗せて慰めるなローランド、本当に悲しくなってくるだろ!


 俺も泣きたい気持ちをグッとこらえて近寄ると、馬車から下ろされている武具を見ながらリリーたちが感嘆のため息を漏らしていた。……ん? どうしたんだろうと思っていると、セーラが説明してくれた。


「カトーさん、これみんなキスクワードさんからの贈り物らしいですよ。武器に関しては、昔のボンゾさんの作品を探して買い集めたそうです。もう、見てるだけで凄くて震えて来ちゃいますよね……」


 荷台に置かれた立派な木箱。フレイが蓋を開けて中を見ていたが、そこには青く輝く一振りの大剣があった。あれがボンゾの作った剣……たしかに存在感がまるで違う。その場の空気を変える迫力があった。確かにあれに比べたら、俺のディメオーラは見劣りするかもしれない。使い勝手はこちらの方がいいとは思うが。


 まぁ、こんな武具を見たらリリーも運べないよな。もし壊して弁償なんて事になったら破産してしまう、と考えてるんだろう。アメリアなどは何の物怖じも無く運び始めている。さすがお嬢様だ。


「カトー、すまないな。前々からこうした援助を断っていたんだが、さすがにクラン立ち上げ祝いだと言われたら断り切れなくて……承諾したら、全員分の装備が送られてきた。悪いが運ぶのを手伝ってくれ、場所は一階奥の倉庫だ」


「分かった。しかし、全員分とか凄いな、いつ身体のサイズとか調べたんだ? 俺、一度もそんな事されてないんだが」


 その質問にはセーラが答えた。


「一昨日この話があった時、私が皆さんのサイズを測ったんです。カトーさんは居なかったから、以前測った時の記録を渡しました。マズかったですか?」


「いや、マズい事なんて何もないよ。ただ不思議だっただけだ。セーラなら俺の事は大抵把握しているから、納得だな」


 そう言って頭を撫でると、嬉しそうにエヘヘと笑う。ヤバいな、可愛い。しかし俺の居ない間にそんな話があったとは……ボンゾ、怒らないかな。自分の作品がクランにあったら、益々組合から文句を言われそうだが。もしくは、そこまで分かった上でキスクワードは動いたのか? だとしたら性格が悪いにも程があるが……まぁ、大丈夫だろう。セーラの直感なら、悪いようにはならないのだから。


 俺はとりあえず一際大きな黒い鎧を手にした。黒い鎧と言えばクロスが着ているのを見た事があるが、彼が着るのだろうか。俺は軽々持てるが、普通の人間にはキツいだろう重さだ。大体40kgくらいだろうか。他にも盾やら兜やら……ん? ローランドが何やらその兜に手を出してるぞ。


「………」


 両手でしっかり掴んだ。


「……フンッ」


 ふむ。


「……ふぅ」


 ………。


「無駄な努力だったようです」


 持てないのかよ! いやそれ5kgも無いだろ、フルフェイスじゃないんだから。ビックリして俺の方が持ってた鎧を落としそうになったぞ…… ん? その光景を見ていたセーラが近づいて行く。いやセーラ、やめろ。もしお前がそれを持ち上げたら、彼のプライドがズタズタになる。


 ひょいっ

「あれっ? そんなに重くないですよ」


 お前は鬼か。ヴォーンか。ほらローランドが傷ついて……


「素晴らしい。さすがカトーさんの婚約者ですね、二人とも想像を絶する力をお持ちです。わが主が気に入るのも分かる」


 いなかった。なるほど、俺とセットにして怪力枠で認識すればプライドも守れるよな。頑張れローランド、自分の心を守るんだ。


 次々と武具が運ばれて行く。フレイ、アメリア、セーラの手によって小ぶりな物は殆ど運び込まれて行った。俺も重装備品を中心に運び、荷物はものの10分ほどで運び終えてしまった。最後、大きな戦斧を運ぶ際にローランドを見ると、リリーに何やら励まされている。……まぁ女の子に優しくされて良かったじゃないか。引きつった笑顔を浮かべたローランドを見ながら、そう思った。







 さて、クランハウスの奥にある倉庫部屋に荷物を運び終えると、早速ローランドから武具に関する説明がされた。彼はキスクワードから前以ってリストを渡されているらしく、紙を見ながら武具を振り分けて行く。


「部屋の端に固められたブラックメタルシリーズはクロスさんの装備ですね。鎧と盾だけは修繕されたものですが、それ以外は新品です。武器は『ジャギュレイター』、あの青い大剣ですね。アメリアお嬢様には白銀の胸当てと風雷の腕輪、白銀のレイピア『ファンデンベルグ』です。フレイさんには妖精シリーズを用意しました。フェアリーローブにティターニアリング、武器は長弓の『レイン・ボウ』。現時点で装備可能な物で最上の物を用意させて頂きました」


 分からない物もあるが、確かにゲーム序盤から中盤にかけて重宝する武具が揃えられている。特に妖精シリーズと呼ばれた武具は『重さ』がゼロに近い上に素早さに上方修正が入り、尚且つ殆ど劣化しない優れものだ。ゲームでは特定のイベントをこなしてエルフ族の信頼を得てからしか購入出来ない。どうしても中盤以降でしか手に入らないくせに装備可能レベルが低く設定されているから、多くのプレイヤーが「もっと早く手に入れば……」と歯噛みしたという代物なのだ。


「では次にカトーさんたちなのですが、普段どういった装備をされているか、またどういった戦い方をされているかを判断する材料に乏しかったので、ある程度こちらで勝手に揃えさせていただきました。変更を希望される場合は、私にお伝え下さい」


 いや、貰えるだけ有り難いと思ってるから別に何でもいいんだが。運んだ物の中におかしなものは無かったからな。後は……片手剣や胸当てが多かったような。


「まずリリーさんです。あなたにはこちらの戦斧『ルフェーヴル』と片手剣『ブレイズブレイド』の2つを扱っていただきます」


「ふ、2つ!? それもスッゴい高そうなんですけど!」


 リリーが慌てる。しかし今までリストアップされた武具と同じくらいの値段なんだけどな。いざ自分が貰うとなるとビビってしまうのは仕方ないか。ちなみに妖精シリーズにしても片手剣にしても、値段は一つ2000万Yくらいだと思う。勿論高いが、片手剣に関してはゲームだとドロップアイテムでポロポロ落ちてたので俺はそんなに驚けない。戦斧はボンゾ作なのか、えらい存在感だけどな。


「リリーさんが2つの武器を手に戦っていたと報告がありまして、揃えさせていただいたのですが……」


「えっ、あ、あの時かな。こないだカトさんに助けて貰った時、確かに手斧も使って戦ってたけど……偶々木こり道具にあったから使っただけよ? まあくれるんなら使うけど……いいのかな」


「扱えるのなら構いません。それにどちらも丈夫ですから、リリーさんも簡単には壊せないと思いますよ。後は魔法石を組み込んで強度を上げた鋼鉄の鎧と小手ですね。これもかなり丈夫です」


「あ、ありがとう……。なんか壊すの前提で揃えてもらってるのが、悲しいけど」


 確かにね。なんか扱いが子供っぽいと言うか。俺のせいでゴメンな、リリー。


「次にセーラさんですが……」

 ここで困ったような顔をした。

「武器は要らない、との事ですが、本当に宜しいのですか?」


「はい。私には死んだ実父の残してくれた剣がありますから。それに基本は魔法攻撃ですから、使う機会も少ないんです」


 母親の事は聞いたが、父親の事は今まで聞かなかったな。というか実父? どうやら色々と事情がありそうだが、もう亡くなってるのか。うちと違って借金を残さない上に剣をくれるとは素晴らしい父親だ。是非会って挨拶したかったな。


「そこで我が主キスクワード様と相談して、こちらの品をお渡しする事にしました。えーと……こちらの箱に入っております。ん、んんっ、これは重い!」


 ああもう見てられん! 俺は代わりにその箱を運び、セーラの前で開けて見せた。長い箱だったが、中に入っていたのは一振りの杖だった。見た感じ普通の木の杖なんだが……セーラが魔法使いだからだろうか。それを見たアメリアが、驚いたような声をあげる。


「これは父様の杖じゃないか! 私も久しぶりに見たな、まだ残してあったのか……」


「これはキスクワード様が若かりし頃。まだ一介の魔法使いだった頃にお持ちだった杖です。結局魔法使いとしても冒険者としても成功出来なかったキスクワード様ですが、やはり未練があったのでしょう。大切にしまってあったのですが、今回クランに魔法使いが入ると聞いて、是非とも使って欲しいとこの杖を贈る事にしたそうです。自動MP回復効果のある杖ですから、そのスキルをお持ちでないセーラさんにお渡しするのが良いと思いました」


「そ、そんな凄い物を……本当に良いんですか?」


 俺だって聞いた事無いぞ、そんな杖。自動MP回復のついた杖とか、かなりレアなんじゃないだろうか。魔法使いの弱点であるMP切れが無くなるんだから凄まじいアイテムのハズだ。逆を言えば、こんな凄いアイテムを持ちながら成功出来なかったと言うのがなんとも悲しい。本人に才能が無かったのか、それとも魔法使いという職業そのものが嫌われているせいなのか。


「使ってやってくれ。きっと父様も喜ぶ」


「はい……ありがとうございます、大切にします!」


 アメリアに言われて、少し涙ぐみながら答えるセーラ。ううむ、キスクワードという人間がちょっと分からなくなってきたな。ただの金持ちホテル王かと思ったら、苦労してそうな過去があったり、こうして大切な杖を譲ったり……。ただ一つ言える事は、物や情の使い所が分かってる人間なのかもしれない、という事か。現にセーラなんかはやたらとやる気になってるからな。侮れない。


「セーラさんは自ら前に出て戦う事もあるという事なので、ローブではなく白金の胸当てと魔法で強化されたスカートを用意しました」


 ぬ……。


 スカート。スカートか。思わぬ所でスカートをゲットしたな、結局セーラは買い物でスカートを買わなかったから俺的にとても嬉しい。侮れん、侮れんぞキスクワード! 白というよりクリーム色のスカートには、金糸で何やら装飾がされている。上の白金の胸当てと色を合わせているらしい。なかなかに可愛らしい。


「カ、カトーさん……どうしよう、これ結構短いですよ。私、穿かなきゃいけませんか? 変えて貰った方がいいですよね」


「いや、せっかくの好意を無下にしてはいけない。明日からしっかり穿くように。確実に今より守備力も上がるし、セーラにとって大きなプラスになるはずだ」


「……どうして露出箇所が大きくなって守備力が上がるんですか?」


「それが世界の摂理だからだ」


 というかタブーに触れてくれるな、と。俺だって前々からこういうRPG設定を不思議に思ってたけど、突っ込まなかったんだから。


 さて。


 次はついに俺である。俺にはどんな物が用意されていると言うのか……って、あれ? 運んだ物に関しては、武具らしい武具はもう終わってないか? 後は箱が幾つかあるだけで、少なくとも武器は無い。あれぇ?


「カトーさんには何を贈って良いのか、見当もつかないとキスクワード様はおっしゃいました」


 なんだとっ!? 今までの好感度上昇が一気にキャンセルされたぞ、どういう事だ!


「と言いますのも、パンツマン……でしたっけ? カトーさんが変身して戦う姿を見た人に聞いた所、どうもマスクマンになった途端に服と一緒に武器がアイテムボックスの中に消えて行くのだそうです」


 む……そう言えば。確かに第2形態になると、いつの間にか武器が無くなって魔法ばかり使っていたような。なんでだろうな?


「それも、どうやらパンツの中に吸い込まれて行くのだそうで……」


 えっ!? マジか、腰につけたポシェットじゃないのか!? ビックリしてセーラの方を向くと、少し顔を赤くして頷いた。


「カトーさんのポシェットも、服を吸い込んだ後にパンツの中に入って行くんですよ。で、何かを取り出す時にはまたポシェットがパンツから飛び出してくるんです。気づかなかったんですか?」


 のおぉぉぉぉぉっ!? どうなってんのパンツ、とってもミラクル過ぎて理解の範疇を超えたぞ、訳わからん! という事はあの馬鹿デカい蜂の巣も一度はパンツの中に入ったってのか、嘘だろ!? いやいや、それ以前に……パンとか食い物までパンツの中かよ、勘弁してくれ!


「……ですから、キスクワード様はおっしゃいました。『想像すると痛々しくて武器など贈れん』と」


「すまなかった。気遣いありがとうと伝えてくれ」


 そりゃそうだよねえ。この話を聞いて、アメリアやフレイが顔をひきつらせていた。うん、変態なんだよ俺。こんな変態でも頑張るから見捨てないでくれ、頼むから。


「カトー、本職の魔法使いって凄いんだな。私も魔法を使えるが、まさかアイテムボックスを下着に設定できるとは思えなかった」


「カトーさん凄いけど、荷物持ちは別の人に頼むね。いや、モンスターの遺体とかならいいかな?」


 フォローありがとうアメリア。そして酷いなフレイ、俺だっていつもパンツに物突っ込んでる訳じゃないんだ、普段はポシェットだから。というか俺だって動物の死体をパンツの中に入れたくないぞ。殺人蜜蜂の針は二百以上入れてたけどな。……何やってたんだ俺。


「ですから、贈るのは武器以外の物になります。そこの箱を開けてみて下さい」


 もはや自分で開けようともしないローランド。開けるくらいは出来るだろ。仕方なく俺が自分で箱を開けると、そこには見慣れないパッケージの紙箱と沢山の瓶、そしてチューブ式の塗り薬があった。なんじゃこら? 箱を見ると可愛い鳥のイラストと、茶色い粒々。これは……


「鳥の餌です。白鳥の好む餌だと聞いてます」


「ア・ホ・かぁぁぁあっ!」


 笑うな、笑うなリリー! セーラは目を輝かせるな、希望を抱く要素など何処にも無いっ! アメリア、フレイ、ポカンとしてるけど分からなくていいから。分からなくて一向に構わないから!


「勿論、冗談です。ちょっとしたお茶目さも兼ね備えているのがキスクワード様ですから。因みに塗り薬も中々素晴らしいですよ」


「お茶目的な意味で、だな?」


 手にとって見てみると、そこには『毛生え薬』と書いてあった。


 ………。


「その若さでさぞ辛い事だろう、とキスクワード様はお嘆きでした。そこで幅広い人脈を駆使して探し当てたのがその塗り薬です。毛根が生きているなら、恐ろしいまでの生命力を吹き込み毛を生やすのだそうです。本当に高いんですよ、一つ350万Yです」


 ジョークに金かけすぎだろ、馬鹿かキスクワードは! しかし、確かに効果があるならそれくらいするわな。カツラだってウン百万の世界だって言うし。けどなぁ……。


「言っておくけど、俺はハゲじゃないからな。毎朝剃ってるんだ、この頭は。最近じゃツルツルじゃないと違和感を感じるくらいになって来てるから、余計な気遣いは無用だと伝えて欲しい」


「畏まりました。……最後にその瓶ですが。それは本当に真面目な贈り物です、大切にしてください」


「これは……解毒薬か」


 残された瓶だが、これは高価そうな装飾のされた瓶だった。手で触れると、俺のウォーターキュアのような魔力の波動が伝わってくる。それも、かなり強力な。パンツマン第2形態でウォーターキュアを使った時と、多分同じくらいの効果があるだろう。とんでもない薬である。


「何故、解毒薬なんだ? それもこのレベルの薬をよく持ってたな。かなり強力だぞ、これ」


 そう問いかけると、それまで何があっても涼しい顔を崩さなかったローランドが、少し悲しい表情を作った。


「キスクワード様は今まで7回毒殺されかかってます。そうした経験があるので、これから嫌でも注目を浴びる皆さん……特にカトーさんの身を案じて、こうして貴重な薬を贈る事にしたのだそうです。勿論自分で使わずとも、誰かを助ける為に使って頂いても良いのです。とにかく何かあった時に回復する手段がある、そうした心の余裕を持っていただきたいのですよ」


 ふむ……。なんと言うか、凄まじい話で一瞬思考が止まりかけた。毒殺される可能性のある日常を生きて来たのか、あのオッサンは。ならこの過保護っぷりも良く分かる。解毒薬は全部で20本、多分これだけで2000万Yは下らない。今回キスクワードは、どれだけの金額をクラン結成祝いにつぎ込んだんだろう。単なる大企業のバックアップというレベルを越えているが、やはり一番は親としての愛情なのだと思う。俺たちに対する先行投資とか、そうした理由でつぎ込める金額では無い。


「ありがとう、大切にするよ。本当にキスクワードさんには頭が上がらないな。感謝の言葉を伝えて欲しい所だが、あまりに凄すぎてどう言って良いのか分からないよ」


「お気になさらず。キスクワード様は皆様の事を非常に高く買っておりますし期待もしていますが、別に何か見返りを求めているワケではないと思います。あの方は基本的に人をビックリさせるのが好きですから、今回にしてもカトーさんたちがビックリしていたと伝えれば満足するでしょうね」


 なんつー壮大な悪戯だよ。スケールが違い過ぎる。アメリアも「多分そうだろうな」と苦笑いするだけだ。クロスが言っていたが、確かにあらゆる意味で俺たちの上を行く人物だと実感する。何だか圧倒されっぱなしだな、あの人には。


 ただ、最後に一つ気になった事が。


「そう言えば、やっぱりルシアやボンゾには無いのだろうか。正式所属の人だけ、という感じなのかな」


「まさか。勿論お贈りさせていただいてますよ。ただ、あくまで個人的な贈り物ですから御自宅の方に郵送という形です。それも贈り主をカムフラージュしてますから、受け取った人間以外にキスクワード様からの贈り物だとは分からないハズです。それとは別に教会への寄付、武器屋グランフェルトへの武器の発注も別人名義で手配していたように思います」


 もはや何も言うまい。そんな気力も無いし。見るとセーラやリリーも呆然としており、このノリを経験しているであろうアメリアとフレイは俺たちを見て苦笑いを浮かべている。一番元気だったのがローランドというのが、何とも皮肉だった。


 そのローランドであるが。疲れた俺に、申し訳なさそうな顔をして言った。


「それで……あの、カトーさんにお願いしたい事があるのですが。これはキスクワード様と、私からの依頼で受けていただかなくても結構です。出来れば、お願いしたい事なのです」


 ん……。


 やはり、何か来たか。ただでここまで良くしてもらったから、今なら何でも聞いてしまいそうだ。これも計算のうちなのだろうか。


「俺に出来る事なら」


「多分大丈夫だと思います。その……」


 そこで恥ずかしそうに顔を赤らめるな、セーラが警戒し始めてるから。いいかセーラ、彼は男だ。睫毛長いし唇もセーラ並に艶やかだが、男だから。声なんかまるでウグイス嬢かというくらい綺麗だが、それでも男だから。


 そんな赤ら顔の美女っぽいローランドだが、次いで出た言葉に俺も驚いてしまう。それは彼の現状を見れば納得出来るのだが、本当に引き受けて大丈夫なのだろうかと躊躇してしまう内容だった。







「私をパーティーに入れて、普通に日常生活を送れるくらいに鍛えて下さい!」








 名前 ローランド (Lv2)

 種族 エルフ 22歳

 職業 魔法使い(Lv2)

 HP  65/65

 MP  87/87

 筋力  3

 耐久力 3

 敏捷  7

 持久力 5

 器用さ 7

 知力  14

 運   2

 スキル

 フラワーイリュージョン(Lv1)

 天使の微笑(Lv1)

 慈愛の歌(Lv3)

 癒しの手(Lv1)


 職業スキル

 事務員(速記Lv2 記憶Lv8 作業精度上昇Lv3)



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