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パトロール(中)人助けであります

 太陽が真上にある。昼だ。結局何も出現する事無く昼休みをとる事になった。憲兵の一人が来てくれて、最初にセーラとボンゾが食事をとりに街へ戻った。その間、俺は憲兵とのんびり話をしていた。


「そうか、君がカトー君か。やたらと強い木こりがいるって話題になっていたんだ。バンプウッドを一人で倒したんだろう?」


「ああ、魔法で吹っ飛ばしてやったよ。MP切れさえ起こさなけりゃ、あの手の力押しモンスターは戦いやすいんだ」


「魔法使いは短期決戦が命だからな。長びいたらさすがに厳しかったか」


「多分殺されていただろうな」


 適当に話をした。憲兵の話を聞く限りでは、俺もそこそこ注目されているようだ。強さをアピールして変な目をつけられたら嫌だから、俺は自分の実力を下方修正して話をする。パンツ無しでは殺されていたから、あながち嘘という事でもない。


 俺たちの話は、最近の街周辺に関する事に移って行く。モンスターが活性化している、隣国の動きがきな臭い、移民増加と犯罪集団の流入。国内は全体的にまだ平和だが、隣国に近いこのフォーリードは少し危うい気配が漂って来ているらしい。そこに今回の盗賊団。憲兵たちは非常にピリピリしてきているようだ。


「君のように命をはって大物モンスターを倒し、周りの人間を救った実績を知られてるなら警戒もされないが、今回の件で冒険者は信用をかなり失った。何の実績もない低ランクの子たちは、周囲から厳しい目を向けられるだろうな」


「……朝のあの連中の態度は、そこから来たのかもしれないな。クロスたちと仲良くしてたら凄い視線を感じた」


「妬みはあるだろうなぁ。何にせよ、君たちは今注目をされている。不快感もあるだろうけど、サラッと流せるようにしておいた方がいいよ」


「ありがとう。忠告は有り難く受け取るよ」


 この憲兵は良い人のようだ。ううむ、この世界はもしかしたら日本よりも優しい人が多いのではないか。そんな事を考えていると、セーラとボンゾが戻って来た。俺は2人と交代して休憩に入る。憲兵は既に休憩をとったらしく、俺が戻ってきたら別の場所を見回りに行くらしい。


 街の近くにある森へと歩く。昼食はパンを買ってあるので街には戻らなくて良い。だからそこら辺りで適当に休憩しても良かった。が、トイレタイムは流石に見晴らしの良い場所では出来ないので、森で済ませてしまおうと思ったのだ。


 その時……。


 俺の索敵スキルに奇妙な反応があった。敵は赤いマークで脳内マップに表示され、味方は青で表示されるのだが、目の前の森の中に青から赤に変色するマークを2つ見つけたのだ。それも、その近くには青のマークが一つ。そして索敵スキルの種類は先ほどから変えてない。『女の敵』だった。


「や、やめて下さい! 私はそんなつもりでパーティーに入ったんじゃありません!」


「いいから大人しく脱げよっ、お前ら女は股開かなきゃ食ってけねえんだろ!」


「俺がこっちを押さえる、お前は早く脱がせちまえ」


「いや、いや……むぐうっ!?」


 ううむこれは。

 確かに女の敵だった。というか憲兵近くに居るのに、よくこんな真似出来るな。さてどうやって助けるか。


 その時脳裏に奇妙な文章が現れた。


【Check!】ヒーローの条件が満たされました。ミラクルパンツは第2形態に変化し、ミラクルヒーローパンツとなりました。変身ヒーローの気分を存分に楽しんで、世界の平和を守って下さい(笑)


 ………。



 最後の(笑)ってのがなんともムカつく。しかしこの変化はもしかしたらプラスかもしれない。少なくとも変身したら俺だとはバレないだろう。男連中の恨みが直接俺に向かう事も防げる。面倒事は少ない方がいいのだ。


 俺は走った。森へと一直線に。そして跳躍し、奴らの頭上へと身を踊らせるとあのセリフを叫んだ。





「パンツマン、参上!!」


 ピカアァァァッ!!




「な、なんだあっ!?」

「目、目があぁぁぁっ!!」


「むぐうぅぅぅっ!?」





 虹色の光が周囲を照らす。光の中心にいる俺の衣服が、次々に身体から分離してアイテムボックスの中へと吸い込まれて行く。股間にはお馴染みのミラクルパンツ、そして頭を何やらマスクらしき物が包み込んだ。ああ、これはきっと某蜘蛛男的なマスクではないか。そして全体的にプロレスラーのような外見になってはいまいか。これで網タイツとか付きだしたら色んな意味で危険そうだが、幸い今はそこまでネタに走っていないらしい。


 でも運営、やっぱり反省なんてしてないだろ。







 気を取り直して、俺は太めの木の枝に乗って叫んだ。


「力にモノを言わせてか弱き女性に乱暴をはたらくとは、許し難き蛮行! 貴様ら女性の敵にはこのミラクルヒーロー、パンツマンが天誅を食らわせてやるっ!!」


「な、なんだってんだてめぇ!」


「お前だって女の敵みてぇな格好してるじゃねえか!」


 失礼な奴らだ。俺の裸を見た女たちは皆、俺と仲良くなったぞ。つまり俺は女の味方なのだ。そういう事にしておく。


「問答無用、パンツマンアターック!!」


 木から飛び降りた俺は凄まじい速さで2人の男の背後に移動する。全く反応出来て居ないようだ、多分パラメーターの補正値が上がったな、これは。力加減に気をつけながら、俺は両手を組む。


 それは忍術。


 俺の故郷、日本には古来より伝わる忍術がある。両手で独特な印を組む事によって成されるこの忍術は、主に小学生が好んで使う伝説の奥義の一つだ。




「カンチョーーーーッ!!」


 ズブッ!


   ズブッ!


「「ウギャアァァァァァァッ!!」」


 忍術奥義を受けた2人は絶叫しながら宙を舞う。ドシャッと音を立てて地面に叩きつけられる男たちに背を向けると、俺はクールにこう言った。




「成・敗!」



 ジーンとしたものを感じ、胸を震わせる。格好良い、これは格好良すぎる。まさか社会人になってから変身ヒーローごっこをするとは思わなかったが、やはりこれは気持ちがいい。子供の頃に憧れたヒーローに、今の俺は並べただろうか。かつてその胸に抱いた夢を、また追い続けられるだろうか。そんな事を考えていると、か細い女性の声が俺にかけられている事に気づいた。ああ、まずいまずい。被害者をすっかり忘れていた。


「怪我は無いか、お嬢さん。助けに入るのが遅れてしまってすまなかった」


「い、いえ、大丈夫です! ありがとうございます、本当に助かりました!」


 彼女は軽装の戦士だった。栗色の長髪が美しい女性で、銅製の胸当てや籠手をつけている。多少着崩れをしていたが、本人の言う通り怪我は無いようだった。


「間に合ったみたいで良かった。さあ、憲兵が近くにいるから彼のもとへ行きたまえ。コイツらの事は放っておいて良い」


「で、でもその……」

 女性は倒れる2人を指さして言った。

「確実に死にますよね、そのままなら」


「む?」


 2人は肛門から夥しい量の出血をしていた。確かにこれはまずいかもしれない。


「全く、だらしがない尻だな。面倒だが治してやろうか」


 俺はウォーターヒールを唱える。パンツマン状態だからその威力も凄まじい。2人の尻は瞬く間に治癒されていったが、水圧に服が負けて暴れ、ズボンが次々にすっぽ抜ける。下半身丸出しで横たわった状態になった。


「これで良いだろう。いや、足りないな。ちょっと悪戯してやろうか」


 俺は2人を抱き合う体勢にした。目覚めた時、ビックリするだろうな。そう思って満足げに頷いたら、女性が近づいて来て言った。


「いえ、まだ足りません」


 先ほどの恨みなのだろう。女性は抱き合う2人の手を互いの尻に滑り込ませるように配置した。そして脱げ落ちてる下着を拾ってくると、2人の頭にそれぞれ被せてみせる。


「これくらいやらないと」


「お見それしました」


 声を聞きつけたセーラたちが到着するまで、俺と女性は笑い合っていた。










 セーラはやっぱりあの騒動を聞き取ったらしい。急いで走り寄って来て、開口一番こう言った。


「カトーさん、大丈夫ですか!」


 おおぅ。

 こういうのって正体をバラさないのがセオリーなのに。せっかくマスクで顔を隠した意味が無いではないか。


「な、なんの事かな。私はパンツマン、宇宙の彼方よりやってきた正義の……」


「あ、あの2人は……うわっ、何してるんですか気持ち悪っ」


 聞いてないし。聞いてよ。


「あの、この人はあの2人に襲われていた私を、助けてくれたんです」


「そうだったんですか? カトーさん、怪我はしてませんか」


「いやだから私は正義の「良かった、無傷みたいですね。もう直ぐボンゾさんたちも到着しますから、早く服着ちゃって下さい」パンツ……」


 ニッコリ笑うセーラが怖い。仕方なく俺は観念して従う事にする。冗談とか通用しない人って苦手だ。


「分かった、戻るよ。ドキドキノーパンライフ!」


 身体が光に包まれる。そして光が収束すると、そこには生まれたままの姿の俺が立っていた。


「なんで裸になっちゃうんですかあぁぁぁぁぁっ!?」

「はうぅっ!」


 第2形態はわざわざ服を着直さないといけないらしい。面倒になったもんだとため息をついてから、俺はいそいそとアイテムボックスから服を取り出す。女性2人は顔を真っ赤にしながらも、何故か俺の着替えをジックリと見つめ続けた。









 結局昼食を取らないまま持ち場へと戻った俺は、憲兵に事情を説明して、あの強姦魔2人を連行してもらう事にした。女性は本来であれば仕事など続けられない精神状態だろうに、健気にも仕事を続けるつもりらしい。憲兵の許可を得て、一時的に俺たちのパーティーに入ってもらう事にした。


「リリーといいます、宜しくお願いします」


 彼女はLv5の戦士だった。パーティー追加の際にカードを重ねたが、その時に本人の承諾を得てパラメーターを確認させてもらった。身体能力はだいたい8や9、敏捷だけは11だったが極めて普通の人間だ。セーラとボンゾがいかに異常なのかを再確認した。


「俺たちの受け持ちはこの街道近くの草原だ。今の所モンスターも盗賊も出ていないから、そんなに緊張しなくていいぞ」


「休憩前までは『しりとり』して遊べるくらい暇でした」


 セーラの言葉に苦笑いするリリー。問題発言だが、これはリリーの緊張を解く為だろう。モンスター等が出るまでは、セーラにリリーを任せる事にした。男にそばに居られると、今はまだ怖いだろうからな。




 パーティーを組み直してしばらく。やはりモンスターはあらわれず、のどかで平和である。女性2人は街の買い物スポットの話で盛り上がっていた。こちらは索敵&仁王立ち。流石に腹が減ったから軽くパンを食べたが、基本的に真面目に仕事をしていた。


 一応話はした。先ほどの話だ。


 俺が休憩に行った後、しばらくしてセーラがいきなり走って行った。俺の名前を叫んで、随分慌ててたそうだ。追おうかとも思ったが、持ち場を離れるワケにはいかない。第一追うにしてもセーラはボンゾの約2倍の素早さの持ち主、無理な話だった。ボンゾは憲兵に謝って、そのまま警備を続けた。


「最初は驚いたが、また森の一件のような事でも起こったんだろうと思った。お前ぇなら何が起きても大丈夫だろうから俺は仕事を続けたワケだ」


「それが正しい。セーラさんにはまだ俺が頼りなく見えるのか。だとしたらちょっと寂しいな」


「どうだろうな。あいつはただでさえ心配性だが、最近お前ぇの事が気になってるようだからな。血相変えて走って行ったし、もしかしたらそういう事かもしれねえぞ」


「嬉しい限りだ。彼女が求めてくれるなら、俺はいつだって裸になるだろう」


「2人共私が耳良いって分かって言ってますね!?」


 顔を真っ赤にしてセーラが吠えた。後ろでリリーが笑う。俺たちは互いに肩をすくめて苦笑いした。


 その時。


 草原の向こうから近づいてくる敵を俺の索敵スキルが捉えた。数は一体、なかなか大きい。


「敵だ、北東方向からこちらに向かって一つ。種類は……マッスルスネイクだな」


 緩い雰囲気から戦闘モードに切り替わり、皆の顔が引き締まる。マッスルスネイクはゲームでも序盤の経験値稼ぎにお世話になったが、雑魚の中でも中々しぶとい生命力を持っている。油断は出来ない相手だ。


 ボンゾがアイテムボックスから何やら取り出す。それは大きな鉄の盾だった。


「俺が盾役になる。後はカトーが指示を出してくれ」


「分かった。俺とリリーさんはボンゾさんを挟んで左右に展開、敵がボンゾさんに向かったら挟み撃ちで攻撃しよう。セーラさんはボンゾさんの後ろから魔法で攻撃だ」


「「分かりました」」


 今回はパンツマンに成らずにそのまま戦う事にした。一々裸は御免だし、パーティーで戦うのに慣れておかなければならないからだ。実はゲームでパーティーを組んだりした事が殆ど無い俺。実はドキドキである。


 作戦を伝え終わると、丁度モンスターの姿が現れる。ゲームと違い、見た目がやたらと大きい。2メートルほどの、丸々と太ったゴツいヘビが、うねうねと這ってきた。そして鎌首を上げるとボンゾを真っ直ぐ見つめて大口を開ける。


「来るぞ!」


 俺が叫ぶ。ボンゾが腰を落として身構えた。そしてヘビが牙を剥き、凄まじい速さで食らいつこうとすると、ボンゾは力一杯盾を突き出した。


 ガゴンッ!


 盾が攻撃を防ぐ。そこにリリーが銅製の剣で斬りかかり、俺も買ったばかりの短剣ディメオーラで攻撃を仕掛ける。リリーの攻撃がヘビの固い鱗を砕き、俺の攻撃がバターのように肉を裂いた。この世界では武器の性能が数値化されないようなので分からなかったが、やはりボンゾの店で買った武器は凄まじい。性能の差を思い知った。

 大量の血を吹き出しながら、ヘビは後方にのけぞった。そこにボンゾの後ろで控えていたセーラの魔法が発動する。


「ウィンドスラッシュ!」


 セーラの手から放たれた風の刃がヘビの腹に直撃した。流石にエルフの魔法は強力だ。蛇腹が斜めに何本もの裂け目をつける。ヘビは痛みと怒りに我を忘れ暴れ始めた。


「うおら、くたばれ!」


 今度はメイスを持ったボンゾが攻撃に移る。頭でこちらを横なぎにしようとしたヘビにメイスが直撃した。


『シギャアァァァ!』


 かなり効いてるが、ヘビはまだ死なない。もう一度鎌首を上げてボンゾに噛みつこうとしたが、既にまた盾を構えていたボンゾに弾かれた。そこに先ほどと同じパターンで攻撃を仕掛ける。


「ハアァッ!」

「ふんっ!」

「ウィンドスラッシュ!」


 再度3連コンボを叩き込むと、ヘビは横たわり殆ど動かなくなった。そこにボンゾがトドメをさす。


「あばよ」


 グシャッという音を立ててメイスが深々とヘビの頭部にめり込む。最後に大きくビクンッと跳ね、ヘビはそのまま絶命した。


 冒険者として初のモンスター狩り。俺以外の3人の周りに光りの輪が現れ、ファンファーレが鳴り響いた。ボンゾもレベルアップするとなると、それなりにレベルの高いやつだったんだろう。


「おめでとう、皆。中々歯ごたえのあるモンスターだったが、無傷で倒せて良かった」


「久しぶりにレベルアップしたぜ、よくまあこんな大物が出てきたもんだ」


「私、ヘビ苦手なので一人で出会ってたら何も出来ないまま殺されてましたね……」


 ボンゾが額の汗を拭いながら言い、セーラは横たわるヘビに顔を青ざめさせて身震いする。そんな俺たちを見ていたリリーは少し困惑していた。


「リリーさん。どうかしたか?」


「……あの、皆さんFランクの方ばかりなんですよね?」


 恐る恐る、という感じで聞いてくる。俺たちは頷いた。


「いえ、他の人たちは皆さんの事を弱いと言っていたので……こんなに強くて連携が取れてるとは思わなくて、ビックリしたんです」


 なるほど。

 連携に関しては、木こりをやってた1ヶ月で嘘みたいに取れるようになっていた。今回も作戦通りに上手く行っていたし、駆け出しには見えなかったかもしれない。


「俺たちは冒険者をやる前からの知り合いで仕事仲間なんだ。肉体労働だから身体も出来てる。でも君だって凄い、俺たちの動きにしっかり合わせていた。急造のパーティーとは思えないくらいスムーズに戦えてたし、これなら今日1日何も問題無く仕事が出来そうだ」


「あ、ありがとうございます。今日1日、宜しくお願いします」


 答えるリリーは少し顔を赤くして照れていた。







 仕事は夕方6時まで。それまでの時間に、俺たちはさらに6体のモンスターをしとめていた。先ほどよりも少し小さいマッスルスネイクが2、おおきなネズミモンスター『デズラット』が3、木こりの時にも見かけた狼モンスター『ロンリーウルフ』が1。そのどれもを無傷で倒して、メンバーはさらにレベルを上げる。俺も一つレベルを上げ、『ウォーターキュア』という状態回復魔法を覚えた。中々の収穫だったと思う。


 解散は朝と同じ南門前。ギルド職員の話では、盗賊アジトを3つ確認したがどれももぬけの空だったらしい。捜索の仕事は明日もあるので、今日参加した人は引き続き仕事を受けて欲しい、と言っていた。


 また、憲兵が引き上げて冒険者だけになると、強姦未遂事件が起きた事が知らされた。勿論被害者と加害者の名前は出なかったが、分かる奴は分かるだろう。あまり被害者のいる所では言わないで欲しかったのだが、仕方ないんだろうな。リリーは辛そうに俯き、セーラが肩を抱く。俺は周囲を見渡したが、リリーが被害者だという事は何人か気づいていたようだった。クロスたちは失望と怒りで表情を変えていたが、そんなのは少数だ。きっとこんな事件は日常茶飯事なのだろう。酷い。


 解散が宣言され、皆が散り散りになる。俺はリリーに聞いた。

「もし心細いなら、宿泊所まで送ろうか。俺でなくても、セーラさんもいるし」

「そうですよ。遠慮なんてしないで下さい」


 リリーは少し考えて、口を開く。


「いえ、大丈夫です。こんな事でへこたれてたら冒険者なんてやってられませんから。でもお気持ちは凄く嬉しいです、ありがとうございます」


 断る際にも気遣いの言葉を忘れない。素晴らしい。こんな人、俺のいた職場には居なかったぞ……。こういう人が辛い目に遭うのは悲しい。


 そんな風に思った時、それまで黙っていたボンゾがリリーに声をかけた。


「ところでお前さん、ちょっとヤワな得物使ってるな」


「えっ!? あ、はい。ちょっと切れ味が悪くなってきました。けど、あんまりお金なくて新しい武器は買えないんです」


「俺の店に来な、叩くだけなら今の俺にも出来る。今日はお前さんにも助けられたからな、タダで叩いてやるよ」


 ボンゾが言う。そして俺に向かってニヤリと笑った。


 なるほどなぁ……そんな送り方があったのか。きっと武器屋を出た後は、奥さんたちを同行させるんだろう。買い物があるから、とか言わせて。こういう所に男としての差を見せつけられるんだよな、ボンゾには。俺もこんな男になりたいもんだ。


 強引とも言える申し出に、オロオロしながらも承諾するリリー。セーラも一緒に行きたいらしかったので、俺たちはここでパーティーを解散する事にした。3人が街へと帰って行く。その姿を見送りながら、俺は先ほどのボンゾ言葉を思い出していた。


 叩くだけなら、今の俺にも出来る。つまり今は叩く事しか出来ない。鍛冶屋を辞めた経緯は分からないが、深い事情があるのだろう。そしてボンゾの事だから、きっと男前な理由に違いないのだ。そんな気がした。











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