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ヨモギ  作者: 横文字苦手
帰宅部編
20/24

社会のルール

「今日から2年生、かあ」

 鏡を前にそんな呟きが漏れる。

 幾多の試練を無事潜り抜け、本当に短かった春休みも終わり、今日からまた学校。というか正確には入学式と次の日だけ2年生は休みで、3年生なんてそれこそ入学式も出なきゃならなかったらしいから実質1日だけ。

(……でもま、春休みには違いないんだろうけどさ)

「白。もうそろそろ時間よー」

「はーい」


 そして学年が上がるという事でクラスメイトの顔ぶれも変わり、

「……あ……」

「……何よ」

「……いい加減、意味無く喚くのは止めてよね。木下さん」

「……意味無くなんかじゃないわよ……」

(確かにそれは、木下さんにとっては意味のある事なのかもしれないけどさ)

「まあとにかく、よろしくね」

「……ええ」

「おーいみんな。とりあえず名簿順に座ってくれ」

 今井先生の声にみんな雑談を止め、各々席に着く。

(今年は今井先生か。まあ、人気が高いって事は多分生徒に気遣いが出来てるんだろうし、悪いと判断するのは早計よね)

 2年になって心に余裕が出来たのか、そんな考えが自然に浮かぶ。

「……じゃ、とりあえず自己紹介をしてもらうか」

 そして恒例のこのイベント。でも今の私にとってはこれぐらいのハードルはもう問題なくて、

「遠藤さやかです。えっと、バレー部に所属しています」

「大澄白です。よろしくお願いします」

「……木下真由美です」

 といった感じで、淡々と言葉を発する事でかえって印象に残りにくそうな自己紹介が自然と出来ていた。


 みんなの自己紹介が終わり、先生が再び話し出す。

「よし。それじゃ今年もこの中から生徒会役員になってもらう人間を選ばないといけないんだが……」

 先生のその言葉にみんなの視線が私に向いているのを感じてしまう。

(……嫌だなあ。去年みたいになし崩しに決まっちゃいそう)

 そう考えていると、今年も思いもよらぬ鶴の一声があった。

「ただ、今年は大澄以外から選んでくれ」

(……え?)

 その言葉に顔を上げて先生の方を見る私。周囲から感じられた視線も、いつのまにか霧散している。

「実はな、これは斉藤先生から頼まれたんだ。『去年は先生が無理矢理頼んだ経緯があるから、だから今年は大澄が立候補するんでなきゃ選ばないでくれ』って。で、どうだ大澄、立候補するか?」

「い、いえ……出来れば……遠慮したいです」

「そっか。じゃあそういう訳だ。他の人間でやってみたい者は居るか?」

(……助かった……良かった)

 これは今井先生からの提案だから多分それ程角は立たないと思う。

「……はい!」

「そうか。他にやってみたい人は居るか?」

「じゃ、じゃあ私も、やってみたいです!」

 それに立候補者が2人以上出たっていう状況はつまり、その椅子に『取り合うような価値が生まれた』という事だから。

(良かった。本当に良かった)

「……じゃあ、中村、よろしく頼むな」

「はい」

 そうしてじゃんけんの結果、2-1の生徒会役員は中村奈央さんに決まった。


「白、あなたどうして立候補しなかったの?」

 休み時間になり珍しく冷静な木下さん。

(……普段からずっとこうなら話しやすいのに)

「どうしてって……やりたくなかったから、ああいう事」

 人より前に出て「私はこう思っています。だからみんな、私の後に付いて来て」みたいな所謂政治的とされそうなそれ。だってそれをするにはどうしたって自分を大きく見せないといけないと駄目だろうし、そんな肩のこりそうな事自体はっきり言ってやりたくない。

 ただそれとは別に、自分がそうやって疲れる思いをして頑張った結果みんなが喜んでくれたり褒めたりとかしてくれたら嬉しいとは思う。

(……でも毎回そうやってみんなが喜んでくれるものが出来るかどうかは分かんないし)

 それにもう1つ、『影のリーダー』がそれなりの位置に居る弊害もあんまり無視は出来ないから。

「……そう」

「大体、そんな事言うんなら木下さんこそ立候補すれば良かったじゃない。選挙の時は立候補したのに」

「あれは……別の理由があったの」

「何なの?その理由って」

「いいの!それはもう!」

「……変なの」


 今日も授業は無事終わり、そして2年生となった今日からは、もう生徒会の事を考えずに放課後は自分の時間を持てる。

(帰宅部って、なんて素晴らしい)

 放課後の教室。こんな無意味な事を考えていて今も刻一刻と時間が過ぎていっている。

 その事実に、時間に追われている生徒会の人やら他の部の人に対し優越感を感じてしまう私。

(ま、社会的に見たら私が1番青春を無駄にしているんだろうけどね……スローライフ万歳)

「白、あなたこれからどうするの?」

 そんな妄想をしていると私と同様まだ教室に残っていたらしい木下さんの声。

「木下さん、部活とか入ってないの?」

「ええ。別に入りたい部活も無かったし」

「そうなんだ」

 以前私も口にしたその言葉を耳にし、少し親近感を感じる。

「それに大体、勉強が忙しかったから」

「……そうなんだ」

 彼女の言葉に改めてその差を意識させられ、何となく距離を取ってしまう。

「ええ。で、白はどうするの?これから?」

「私はまずは家に帰って……今日は勉強(悪あがき)かな?」

(少しでも『社会のメジャールール』が自然にこなせるようにしておかないと……ってこの考えが浮かんでる時点でもう矯正不可能のような気がしてきた……)

「………」

「何で落ち込んでるの!?」

「何でもない。気にしないで」

「そんな事言われたって……」

「木下さんのせいじゃないの。悪いのはみんな私」

(そう。結局人間として駄目駄目な私が悪いのよ)

「白。私以前、そういう言い方止めろって言ったわよね?」

「仕方ないじゃない」

 だって『私が』でなかったら、『私以外の大体が』になってしまうこれ。そんなのどう考えても、『私が』の方が絶対マシに決まってる。

「いいでしょ!もうその話止め!」

(嫌な事から目を背けて、そうして少しでも前に進まないと)

「………」

 私のその一言に不満そうな木下さん。

「それより!木下さんはこれからどうするの!?」

 だから私は強引に話を切り替える。

「え?私?」

「そう!人に予定を聞いて自分は話さないつもり?」

「私は、え、えっとー……」

「暇だったら一緒に勉強でもする?というか勉強教えて」

「え?……え、ええ……いいけど……」

「じゃどうする?図書室に行く?それとも……」

「……どうかしたの?」

「木下さんって……お嬢様?」

「は?」

 結局その後、私の家で勉強する事になったんだけど、

「……ふーん。生徒会って凄い人が多いのね」

「うん、本当に。多分10年か20年後には鏡花女子とかで講演会開いてるんじゃない、あの人。目標は総理大臣らしいし」

「何それ!そんな事言ってたの!?……はー……」

「うん。それにそのお父さんっていうのもまた迫力のある人でさ……」

「ええーっ!?それ、本当!?」

 なんて話ばかりの脱線続きだったり。


 その後木下さんが帰ってからの一家団欒。

「……ねえ、聞いた?」

 突然そんな質問をしてくるお母さん。

「?……何が?」

 意味が分からない私はそう質問を返す。隣のお父さんも不思議そうな表情。

「これ、永井さんから聞いたんだけどね」

 永井さん。お母さんと同じ仕事場で働く同じパートの人。

「なんか、市長が教育の事を言ってたんだって」

「何て言ってたんだ?」

「いや、私も内容までは聞かなかったんだけど。だからこうやって聞いてるのよ」

「……知ってるか?」

「ううん。あんまり興味無いし」

 本当は学生としては駄目なのかもしれないけど、でも私にはそうとしか言いようがない。だって予定では高校を卒業して、そしてとりあえずの就職だから。

(大学行くつもりないし、っていうか良い大学は行ける気がしないし。それに大学行っている間は確かに社会人にならなくて済むけど、でもそれって逃げてるだけにも思えてくるし)

「まあ、市長さんなりに考えたんなら、任せておけばいいんじゃないか?」

「……そうかしら?」

 珍しくお父さんに言葉を返すお母さん。それが不思議に思え、なんとなく口を挟んでみる。

「ていうかお母さんって市長さんの事知ってるの?」

「え?ええ……少し、ね」

(……この反応って、個人的に知ってるみたいなんだけど……)

「どうかした?白」

「……何でもない」

(何だか三角関係、昼ドラの臭いがするんだけど……やっぱり政治ってあんまり好きになれない)



「白。じゃあ、今日はどうする?」

「どうするって、いつも通りでいいんじゃない?」

 そんな事を話しながら木下さんと廊下を歩いていると、

「……あ……」

 というどことなく聞き覚えのある声。

 私がその声の方を見てみると、見覚えのある顔。

「……中川さん」

「……大澄さん」

「……じゃあ白。私、先に行ってるから」

「う、うん」

 つい足が止まってしまった私に気を遣ってくれたのか、先を歩く木下さんからのそんな声。


「……えっと……久しぶりね」

 別に喧嘩別れをした訳じゃないんだけど何となく話しにくい私。

「……ええ」

 そしてそれは中川さんも同じらしくて、その声も以前と比べ大分小さい。

「中川さんって……やっぱりまた生徒会入ったの?」

「……ええ」

(そっか。まだ続けてるんだ)

 帰宅部の私には、もうすっかり敷居が高くなってしまった生徒会室。

 田村先輩や中川さんのような身の回りに居たとんでもな人は今は木下さんだけになり、そして今はその帰宅部の仲間と日々を過ごしていたりする。

(……えっと……何か……話は……)

 一旦はそう考えてみるものの、「まあ別に喧嘩した訳じゃないし」という考えも頭をよぎり、「別に無理に話さなくてもいいか」という声も浮かんでくる。

(そうよね。それに生徒会役員さんは忙しいでしょうし)

「じゃ、じゃあ……」

「大澄さん」

 そうして会話を切り上げようとした私の言葉をかき消すようにし、中川さんの声が被る。その声もそして表情もしっかりと私の方を向いていて、

「……えっと、どうかした?」

 その様子から言いたい事があるのは間違いないみたいなので、そう尋ねてみる。

「大澄さん、どうして生徒会辞めちゃったの!?」

 すると真剣な表情でそう尋ねて来る中川さん。生徒会に入らなかった私の事を、裏切ったみたいに考えていそうな気がする。

(……でも、今までの私と比べてみると、去年が異常で今は平常に戻っただけなんだけどな)

 でもこんなのは、中川さんには多分理解してもらえない。

「……どうしてって……えっと……他にやりたい人が居たし」

 とりあえず、中村さんを盾にするような口ぶりで説明してみる私。

「私が聞いているのは、『大澄さんの理由』なんだから、誤魔化さないで!」

(……あう……)

 だけど、中川さんを煙に巻くのは無理みたいで、一言で話を元に戻されてしまう。

「……だって……あんまり、やりたくないんだもの……そういう事」

「……どういう意味?」

「……そういう、人の前に立つ事」

 私はみんなみたいに勇ましい人間じゃないから、周回遅れで目立たないように気をつけつつ、常に後方に居るのが性にあっている。だって前方に出て、他の人と競争なんてあんまりしたくないから。

「だったら、どうしてこの高校を受けたのよ!?鏡花女子を!」

「!!」

 その言葉に図星を突かれる私。

(……だ、だって……高校受験は……駄目元のおみくじのつもりだったんだもん)

 中川さんの顔を見ないで済むように下を向き、だけど心の中でこんないい訳をしている。


「……ごめんなさい。これは関係無いわよね」

(……え?)

 すると、何故かいきなりそんな声を上げる中川さん。その顔を見てみるとどうやら中川さんも気まずそうで、

(何で!?どうして中川さんが?こんな表情?)

「……とにかく言い過ぎたわ……大澄さんにばかり頼ってちゃ駄目よね」

 そして最後にそんな言葉を呟きつつ去っていく中川さん。

(……訳が……分からないんですけどー……)


 その後気持ちを切り替えてから、また木下さんと合流した私。

 今はのんびりと帰り道を歩いている。

「ねえ……木下さん?」

「ん?何?」

「木下さんって、どうして鏡花女子受けたの?」

「私?私はやっぱり、自分の実力から判断して決めたけど」

「そっか。あ、私はえっと……」

 木下さんに聞いた代わりに私も理由を話そうと思ってそこまで口にはしたけど、

(何だかこの理由って、すっごく恥ずかしいんですけど)

「……何よ?話すんなら話しなさいよ」

「う、うん。あの……笑わないでね」

「はあ?」


「……くっくっく……それ、とってもあなたらしいわ」

「笑わないでって言ったのにー」

「ごめんなさい。でも……確かにそれじゃ、他の人が眼中に無い訳ね。だってずっと自分の背中見てるんだもの……」

 私に聞こえないぐらいの声で何かを口にする彼女。

「何か言った?」

「白って面白いなって」

「……なんか違う事言わなかった?……まあいいけどさ」

 よく分かんないけど、「詮索すると、自爆しそう」と囁く私の女の感に従い、それ以上は止める私。

「でも何だったのかしら中川さん。勝手に怒って勝手に謝って。木下さん、心当たりある?」

「何で白が気付けない事を、私が気付けると思うのよ。そっちの方が付き合い長いのに」

「……だって、たまにいきなり怒られてたんだもの。以前のあなたみたいに」

「……鈍いのか、それとも鋭いのか……微妙よねえ」

「人の顔見て『微妙』って言わないでよー」

(また前半声が小さくて聞こえなかったし)

「ま、向こうが謝って去っていったっていうんだったら気にする事無いんじゃない?」

「……うん、そうよね」



 それから数日後。

 学校に入ると、いつもと違いなにやらざわついた雰囲気。

 その事に多少違和感を感じつつも、とりあえず教室の中へ。そしてそのざわついた雰囲気は教室の中にもしっかりと存在していて、どうやら学校中に浸透しているみたい。

(何があったんだろう?)

「あ、白!」

 そう考えていると、私の姿を見つけ話し掛けて来る木下さん。

「ねえ、どう思う?」

「?……何の事?」

 いきなりのその疑問符付きの言葉に、私もそれをつけて返す。

「だから、今日の新聞」

 その言葉を聞いても、私には何の事だか全く見当がつかない。というのも、

「……うち……新聞、取ってないの」

「え?嘘!?」

 やっぱり驚かれてしまうこの事実。

 これは要するにお父さんが新聞が苦手なのが原因で、その影響で私も殆ど目にする機会が無い。

(お父さんは以前、「どうせあんまり見る時間無いし、それだったらお母さんや私と話していた方が良い」って……何だか照れくさい理由を言っていたんだけど)

 それに私も、『もし仮に自分が新聞記者だったら』って考えると、毎日毎日正確な情報を集めて、そしてそれを翌日の朝に間に合うように文章を書いて提出だなんてかなりハードで、書いててつい気が抜けちゃうような気がする。

 どちらにしろそんな少ない時間しか掛けられない文章よりも、同じく時間を費やすならもっとじっくり考えて書かれた本にかけた方が楽しめると思う。

(……あんまり聞かれる事無いから話す事も少ないんだけど、でもやっぱりこれって変なのかなあ?)

 って、

「あ!?……ああ、ああ」

「ど、どうしたの!?いきなり変な声出して」

「……何でもない」

(そうよ!これよ!多分私、小さい頃から新聞が身の回りになかったから『大人の常識』から外れたのよ!きっと!)

 そういえば社会を知る為に新聞は必要みたいなのもCMで見た事ある気がするし、きっと『社会のルールブック』として新聞は今の世の中に存在しているんだろう。

(この後図書室とかでしっかりと新聞を読まなくちゃって、まあそれはそれとして)

 私はそこで妄想を一旦止め木下さんとの会話を再開する。

「……えっとそれで、この学校の雰囲気が変なのと新聞と何の関係があるの?」

「あ、ああ。それはね、えっと……」

『本日これから全校集会があります。生徒は体育館に集合してください。繰り返します、本日これから全校集会があります。生徒は体育館に集合してください』

 それに木下さんが答えようとした所でこんな校内放送。

「多分この集会もそれに関する事だと思うわよ。とにかく体育館行きましょ」

「え、ええ」

(でも、『それ』って一体何の事なの?)

 やっぱり、新聞を軽視すると色々イタイ目を見るのは間違いないみたい。

(榊さん。あなたの仕事はやっぱり立派です)


 体育館で、『それ』に関する話を始める校長先生。

「生徒のみなさんはもう新聞等で知っていると思いますが……」

(知らなくて悪かったわね!)

 そう考えつつ話を聞いていると、

「……つまり、この地域の学校の再編が考えられている訳ですが……」

 私の耳がこんな言葉を拾う。

(……え?……再編って……)

「……という話からすると彼等はこの学校もその再編計画に入れているらしいのですが、もし鏡花女子が他校と統合という事になりますと……」

(と、統合!?)

「……ですから私はこの学校の伝統を守る為に、断固としてこの計画に反対します!」

 そんな言葉を含んだ長い話をする校長先生。


「………」

 パチパチパチパチ

 いきなりのその情報に置いてけぼりの私。

 だけど私以外のみんなは既にその事前情報を知っていたのか校長先生のその言葉の後に拍手が巻き起こっていて、

(って、私もやらないと!)

 そういう訳で、とりあえず私も拍手。

(でも何なの?一体みんなどうしちゃったの?)

「……では、このように生徒のみなさんも賛成してくれたようですし、これからはその代表である生徒会役員とそして私達教員一同でこの問題にあたっていく事とします」

 そうして全校集会が終わる。


(えっと……色々と、分からない事が多過ぎるんですけど……)

 そんな想いを抱えつつ次の休み時間。

「ねえ?どういう事なの?さっきの集会」

「どうって、だから、この学校を守るっていう校長先生の決意表明でしょ?」

「……うん、そうなんだろうけど……なんていうか……」

「……どうしたの?」

「う、うん。あの……どうして守らないといけないの?」

「だって、他の学校と統合したら鏡花女子じゃなくなって学校のレベルが下がるじゃない」

 自信満々にそう答える木下さん。

 私はそのまま次の『何で?』を口にしようと思ってたんだけど、つい言葉がつっかえるような感覚がして、

「……あ、と……その……」

「変なの。何当たり前の事聞いてるの?」

 そう言って本当に不思議そうな顔をする木下さん。

「……そうよね。ごめんなさい」

 だから結局言えない私。

(……何で学校のレベルに拘ってるの?だって木下さん成績良いし、それに学校のレベルが絶対に下がるって決まった訳じゃないじゃない。新しく同じ学校になった人達が頑張って今と同水準を維持出来るかもしれないじゃない)

 それこそ可能性だけなら私みたいな人間が増える事による授業レベルの低下もあるかもしれないけど、その反対に私レベルが木下さん達に良い刺激を受けて今までよりワンランク上の学力になるという事も無い訳じゃない、と思う。

 それに結局学力は受験において最も必要とされる能力で、そして受験は個の能力で合否が判定されるんだから、一次的には影響は無いような気がする。

(……でも授業の質が下がれば影響が出ちゃうからあんまり無視も出来ないかも?)

 それにそもそも受験をしない私がこの事で口を出しちゃうのは、なんか駄目な気がする。

(……そうよね。私は場の空気に従う決断をしたんだから、なるべくこの空気を維持しないといけないのよね)

「……ねえ?」

「え?何?」

「まだ何か話あるの?」

「あ、ごめんなさい。ちょっとボーっとしてただけ。じゃ」

 不思議そうな表情の木下さんにそう声をかけ、自分の席に戻る。

(……とにかく、今の私に必要なのは新聞の情報って事よ。きっとそれに答えが書いてあるんだろうし)

「……あたりまえ……か」

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