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ヨモギ  作者: 横文字苦手
生徒会会長編
10/24

「世界は私を中心にして回っている、な訳ないって」

「よし、じゃあ今日も終わり」

 いつものように元気な斉藤先生のその一言でHRは終わり、放課後という時間になる。

 そして、いつもならこの後生徒会室での時間が待っているんだけど、今日はいつもと違う。というのも、

「あ、みんな。明日は負けんなよー」

 一旦教室から出た斉藤先生が教室を覗いてそんな事を言ってくる。

「はい!他の学校に女性の力の凄さを見せ付けてきます!」

「何なのよ、その女性の力って」

「えっと、何となく」

「それじゃまるで他の学校が男女混合チームみたいな言い方じゃない」

「じゃあ、鏡女パワー?」

「それなら、まあ」

「という訳で頑張ります!」

 そして先生の言葉に、冗談半分でそんな掛け合いをするクラスメイト。

 つまり、明日がいよいよ学校対抗のスポーツ大会が行われる日だったりする。

 それでうちの学校は今回その会場からは除外されてるから鏡花女子生徒会の出番は無し。だから明日は、土曜だけど私のような文化部の人間には学校は休み、いや、正確には自主登校だけど、個人的に休み。

(……だって、他の学校に行ったら以前の醜態の事で指さして笑われるかもしれないし)

「じゃ、さようなら」

「あ、うん。会長、さようなら」

 だから私は隣の席の人にそう挨拶して帰ろうとしたんだけど、

「いや、ちょっと待て大澄。お前に用事があるんだ」

 なんて私の名前を呼ぶ先生。

「それって、生徒会関連ですか?」

 今現在先生に呼び止められる理由が、成績か『それ』という非常に珍しい状況の私。それで今はテストとは時期が離れているからそう尋ねる。

「ああ。生徒会長宛だったから、ならお前に最初に伝えるのが筋だろうという事でな」

(そんなの、榊先輩や田村副会長に直接伝えればいいのに)

「で、何です?」

「これなんだけどな」

 そう言って斉藤先生が手渡して来たプリント。

「何でこんな……先生、これ何とかならないんですか?」

「私1人の判断ではどうにも。悪い、よりによってこんな事になるなんて」

 文句を垂れる私に一応はそう謝ってはくれるけど、でもどうにもならないこの状況。

 それに書かれていたのは、明日、生徒会の人間宛に学年別に5教科のテストが配布されるという内容の文面で、つまりは生徒会役員限定の模試というそれ。

「何で生徒会までこんな、学校の名前を背負うような形での競争なんてこんなことしなければならないんです?今までありました?」

「いや、去年まではこんなの無かったな。会議の時どうだったんだ?」

「副会長からはそんな話は聞いてません。何でよりによって私の時に……」

「まあ、とにかく伝えたからな。後は頼む」

「あの、先生……1つ聞きたい事があるんですけど?」

「ん?何だ?」

「あの……先生、今やってる勉強って……」

 とそこまで口にしたものの、とっても酷く尋ねにくいその質問。だってこの疑問は、取り様によっては目の前の人を含めた学校の先生全員を非難しているようにも受け取られかねないもので、

「……勉強が、どうかしたのか?」

「……何でもないです」

 そして結局口に出来ない私。だけど斉藤先生にはそれである程度伝わったようで、

「そうか……まあ、心のどこかで『そういうもん』だと割り切っているんだ。みんなな」

 なんて事を言われる。

「……はい」

「因みに、先生ではなく、人生の先輩としてアドバイスするとだな、『明治から後の時代のものは色眼鏡で見た方がいいかもしれない』……なんてな。ま、あんまり深く考えるな」

「……はい」


「生徒会長からの連絡です。本日、生徒会役員に対し連絡事項がありますのでこれから生徒会室へ集合してください」

(……角が立ちそうで、やだなあ)

 生徒会室でその校内放送を聴きながら憂鬱な気分になる私。

 まもなく、まだ学校から外へ出ていない10名の人が生徒会室に来てくれた。

(でも副会長と榊先輩は居ない……私が説明するしかないのね)

「会長。何です?いきなり呼び出して。折角明日は休みなのに」

「えっと……すみません。実は、さっき担任の斉藤先生からこのプリントを受け取ったんです」

 そう言って、私は3年の会長派の中心人物だった先輩にその紙を渡す。

「で、そこに書いてあるように、明日ペーパーテストがあるらしいです。先生は今年からと言っていたんですけど、間違いありませんか?」

「……ええ。去年まではこんなの、聞いた事も無かったけど……」

 面倒そうな声を上げつつも、とりあえずは納得してくれるその人。他の人も、私に文句を言う事に意味が無いのは分かっているらしく、抗議の声は出さないでくれている。

「ですから、ここに居ない人の番号を知っている人には、連絡しておいて欲しいんですけど……」

「分かった。じゃあ、それはちゃんとやっておくわ」

「辻さんには私から連絡しておきますから、後はお願いします……えっと、連絡は以上です。お疲れ様でした」

(ふう。何とか言えた)

 頭を下げ、心の中で一息つく私。そうして頭を上げると、話が終わったというのにまだ殆どの人がその場に残っていて私の方を見ていた。

「あ、あの、もう、連絡は無いんですけど?」

「会長は大丈夫なの?テスト」

 他の人もどうやらそれが気になっていたらしくて、みんな心配そうな顔。

「……なるべく足を引っ張らないよう頑張ります」


 翌日、学校のある日と同じように制服を着てリビングに居る私に不思議そうな顔をするお母さん。

「あれ?白、今日、あんた学校休みって言ってなかった?」

「見ての通りよ。学校、あるんだって」

「何で?あなた運動部じゃないでしょ?」

「運動部じゃないけどあるの。テストの出来で競うなんてやつが……はあ」

「あー、だからあなた昨日、夜遅くまで起きてたの。恒例の一夜漬け?」

「そう。しかも今日1日で5教科」

「テストなんて、普段から勉強しておけば問題無いでしょうに」

「出た、デキる人の自分基準。『こんなの出来て当たり前』みたいなその言い方。どうせ出来の悪い娘ですよ」

「進学校通ってるくせに何言ってるの?」

「……だって、他の人と違って勉強についていくのがやっとなんだもん」

 それこそ先生に『成績落伍者への温情の為』なんて事を入学早々言われ、自分の中でも勉強に関する達成感など全く無く、今の所何とか赤点でないというこの現状。

(『先生が採点を間違えていて実際は赤点だった』なんて事が実際あったとしても、今の私は違和感さえ抱けないもの)

「訳分かんない子ねえ」

「そうよ!訳分かんないの!何もかも!」

 それこそ私より遥かに頭の良い沢山の人が常日頃から話し合っていて、なのに未だに結論の出ていない事に自分なりの結論、『右の人も左の人も両方共問題の本質から目を背けて誤魔化そうとしている』なんて両方から石を投げつけられそうな自分の答えを出してしまった私。

 その答えは私の学力から言って、ほぼ100パーセント間違いには違いないんだろうけど、でも私の中では今の所それを否定する事が出来ないのも事実だったりする。

 だってテレビなんてそれこそ学校、幼稚園に入る前からみんな見ていて、その中で毎年中学生ぐらいの戦争未経験の人が「私達はこれからもこの反省を忘れずに生きていきます」のような事を口にしている現実。

(そして1番分からないのが、『何で私達まで、犯してない罪を反省しないといけないのか?』なのよね。でもこんな事、口に出したら絶対「戦争を知らない子供が偉そうな口叩くな!」って怒られるだけだし)

 そして右の人もそれに反発して『誇り』だなんて馴染みの無い言葉を持ち出して反論しているようだけど、「よく分からないけどとにかく生きている限りは反省をし続けなければいけない、だけども誇り高い人間です!」って、おばかな私には到底その境地は理解出来ない。

 でもそれが私以外の多くの人が違和感を抱かない現実なのはきっと間違いなくて、

「だから私が馬鹿なのは正しいのよ!絶対!!」

 私はそう自分に言い聞かせる。

(だってそうじゃなかったら、この世の中って……)

「……何でそんな事を力説してるんだか……」


「……お早うございます」

「会長、お早うございます」

 私は小声だったというのに、生徒会室に入るなりそんな反応をしてくる田村先輩。

「……何で敬語、なんです?」

「だって会長ですから」

「………」

「どうしました?」

「……いえ、何でもないです」

(何でこんな……『非国民』の私が生徒会長なのよ)

 そうして、いつものような些細な疑問を全力で無視しつつ、机に向かう私。


「よーし終わりだ。じゃあ後ろから回収してくれ」

 なんて声を上げる先生。どうやら、ご丁寧にうちの学校の先生にテストの監督まで頼んでいたらしい他の学校の生徒会の人達。

 まあ、学校単位での成績とかも出すらしいので、それこそ学校ぐるみでの不正を防止する意味で聖職者の介入を頼むのは理解出来るんだけど、

「………」

「ん?何か言いたそうだな?生徒会長?」

「あの……このテストの話、いつ聞いたんですか?」

「ああ。確か……先週だったな」

 なんて呑気にそんな事を言う、それこそ斉藤先生とは違いそれなりに歳のいっている先生。

(やっぱり。だったらせめてもうちょっと早くこっちまで連絡してよ!いくらなんでも前日って……)

「まあ、お前達は優秀だから問題ないだろ?他の学校の奴等に格の違いを見せ付けてやれ」

 なんて、ほぼ初対面のその先生にそんな声をかけられている1年の中で五十音順で最初の私。

(何でこんな学校の代理戦争みたいな事に私が!こんなのは希望者だけで勝手にやってればいいのに!)

 なんて文句は勿論口に出来なくて、

「……努力します」

「じゃあ後の教科も頑張るんだぞ」

 そう言って去っていくその先生。

(あの先生、あの後私の答案見たら、どんな顔するかしら?)

「……ほんと『常識』なんて、消えてなくなってくれればいいのに……」


 そうしてその先生と、もう1人の見知らぬ先生が交互に監督をする中で4教科が終わり最後のテスト。

「よう、頑張ってるな」

「あ、斉藤先生!」

 教室に入るなり私に向かってそう声をかけてくる1-2の担任。

「先生、どうして……」

「どうしてって、どうかしたのか?」

「いや、だって、今までの人とその……毛色が違うような気がして……」

 斉藤先生に対して、こんな言い方は失礼だけど『自分をはっきり持っている』という印象を持っていた私。その雰囲気を何となく格好良く感じていて、だから私には傾いているように思える今回のこのイベントには一定の距離を取ると思っていたんだけど、でも今目の前に居る。

「……大澄。お前はなんというか……」

 そんな私を見て先生はやれやれといった表情。

「……すみません」

 頭を下げつつも、そこから余裕みたいなのが見え、少し安心する。

(先生って、何だかお母さんみたい)

「まあいい。それで引き受けた理由だが、お前に対する侘びみたいなもんだな、こんなのに無理矢理引っ張り出して、すまんな」

「あ、はい」

(生徒会長、って事よね?『こんなの』ってのは)

「……人を見る、人を育てるというのは、中々上手く行かないものだな」

 そして私に対してこんな難しい事を口にする先生。

「そう……なんですか?」

(私は先生じゃないから、そんなのは分かんないけど……)

「でも先生なら上手く行きますよ。きっと」

 何となくそんな気がする。根拠はないけど。

「……そうか。ありがとうな。じゃあお前も……負けんなよ!」

「はい!」


「よし!そこまで!」

 斉藤先生のその声で努力の時間が終わり、裁きを待つ時間が始まる。

「大澄、あんまり深く考えるな。別にこのテストが成績に直結する訳じゃないんだから」

「でも、全く影響しない訳でもないんですよね?」

 だって学校のレベルを重視する人にとっては、それこそ『馬鹿な生徒会長』なんて存在自体が許せないと思う。

(それこそ「誇りを傷つけられた」とか言って。それに私は確実に平均点下げちゃっただろうし)

「だから深く考えるなって。大丈夫だ、前向いてりゃなんとかなるさ」

「……はい」

「それに……榊」

「先生?」

 いきなりどこかに向かって話しかけたかと思ったら榊先輩の声。

「言いたい事は、分かっているよな?」

「はい?」

「という訳だ大澄。いざという時はこいつを存分に使ってやれ」

 なんてはてなマークを浮かべている先輩の肩を押す先生。

「使う、ですか?」

「つまり頼れって事だ。こいつの父親はマスコミの人間だからな、使えるぞー」

「確か……新聞社の人、ですよね?」

「ああ。弱きを助け強きを挫く正義の味方だ。だからどんどん助けて貰え、なあ榊?」

「何を言ってるのか分かりませんけど、力になれるなら、まあ」

「良かったな大澄。これで将来は安泰だ。じゃあな」

 そう言って先輩が事情を理解しない内に去っていく斉藤先生。

「ねえ白ちゃん。先生と何話してたの?」

「……くすっ、そうですよね。自分が全てを知っているなんて、そんな訳ないですもんね」

 不思議そうな顔で私を見る榊先輩を見て、ようやくそんな当たり前の事に気付けた私。

(そうそう。今までのはぜーんぶお馬鹿な私の妄想で全く事実じゃないって、つまりそういう事よ)

「じゃあ、榊先輩、今日はもう終わりでいいですよね?」

「え、ええ」

「という訳です。皆さん、お疲れ様でしたー」

 そうして私は正義の問題を正義の味方に押し付け、無視する事にした。

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