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8.神器の刻印

 マオウ、魔王? マオウの字が分からないし魔王と被るのでまーちゃん、さーちゃんのどちらかと考えたが、この娘にちゃん付けはどうかと思ったので消去法でサクラに決定しました。好きな名前ではなく消去法で人の名前を選ぶという失礼極まりないことだが罪悪感は一切ない。

 イーシェがどっちって言ったのは魔王とこの娘が同じ読み方だからか。

 作り笑顔で「じゃあ、サクラで」と遠慮しがちに言うと魔王の娘もといサクラは口角をもっと鋭角にして笑顔というよりにやけ顔に変えていた。


「ねぇ、もう一回呼んで」

「……サクラ」


 照れ笑いをしながら俺の両頬を変形させてやるぞという勢いで上下左右斜めに万遍なく手の腹で押される。


「もう一回、ねぇ、もう一回」

「ひゃ、ひゃくや、しゃるら」

「キャーーーー///!!!」


 こちらが叫びたい気分。テンションの上がったサクラは手を高速で動かして頬を歪ませる。二回ほど鼻の穴に綺麗な伸びた爪が生えた指が突き刺さって血管が破裂して真っ赤な液体がベッドに滴る。

 鮮血が付くのを気にすることもなく俺の背中に手を回して強く抱きしめる。

 この娘の強くという表現は基本の強くを20割くらいにしたものと考えて欲しい、とにかく強いのだ。強すぎて背中がバキバキと周りからは気持ちいい音が聞こえるだろう破壊音をさせる。

 肺が圧迫させられて空気が抜けるだけの一方通行状態なわけでして窒息死の寸前まで当然のように追い詰められる。


「いはぁああい、はぁああ、へぇええふぇええ」


 痛い、止めて、と日本語翻訳してみる。


「ん~、何? どうしたの?」


 不思議そうな顔をしながら首を傾げる動作は小動物を連想させる可愛さだが時と場所が違えば印象は違っていただろう。良いか悪いかは別として。

 背中に回されていた腕の力が弱まった一瞬の隙を逃さず新鮮な空気が肺の許容量いっぱいに吸い込んで窒息死までの時間を延ばすことができた。


「……痛い、力が強すぎるんだよ」

「ふっふふ、愛の力はまだまだこれからだよ」


 人がそれぞれ取る解釈って違うのだなってことが分かった。

 恥ずかしい台詞を堂々と言われるがちっとも嬉しくない。だから時と場所と人が違えばなんたらかんたらだ。

 自らの愛の力と比例して腕力で俺の体に痛みを刻みつける。愛とは痛みと比例するのかと間違った解釈をすることとなった瞬間だった。

 腕を脱出させていた俺は痛みを堪えながら少女の整った顔を手で歪ませるが効果はあまりないようで「うにゃ~、うにゅ~」と猫撫で声を発するだけだ。

 指をピースの形に変形させて狙いを定める。さっきのお返しだと思いながら少女の小さな二つの鼻孔に一本ずつ俺の太い指を突き刺すと「にぎゃッッ!!??」とサクラは猫のように飛び上がった。

 成功だ。これから抱きつかれたら一発鼻の穴にぶち込んでやればいいという対応ができた。

 サクラは鼻を抑えながらこちらを睨む。その間に肺に新鮮な空気を吸い込んだり吐き出したりを高速で繰り返す。やりすぎて過呼吸みたくなって咳き込んだ。


「いきなり何をするんだー」

「だから力が……強いんだよ」


 裸にされた上半身を見ると少女の形に皮膚が赤く跡を残していた。それを細く鋭い目付きにしてまじまじと見てくる。


「ミコトは壊れやす過ぎるよ。でもね、壊れたら私がぴゅぴゅーんってすぐ元通りにしてあげるよ~」

「…………」


 人差し指をくるくると回しながら鋭い目つきを緩ませる。

 唖然として言葉がでない。弱いとかなら分かるが壊れやすいと表現されたのは初めてですよ。腕や足が壊されたとして治っても心は治りそうもないかもしれない。

 強さのレベルとか次元がこの娘と俺は時間や空間を越えても尚分からないくらい違うのだろう。初めて会った時から感じたことだけど。

 話題がこの娘の名前やら俺の体の脆さに変わっていたけど本題に戻さなくては。俺はせっかちで余計な話題を盛り込むのは好きではない。嫌いでもないけれど今は自分優先で自己中心的行動に出ても問題はないはずだ。早くこの世界とバイバイキーンしたいから。


「それでお父様に会いたいのだけど」

「お父様に? ええと……!!」


 なにか閃いて納得したようで首を上下に微かに振っていた。


「娘さんを頂きにきましたってやつだね」

「…………」


 どう、どういう風に、どうやってツッコミをすればいいんだ。なにかが間違っている。いろいろ間違っている。話を合わせるべきか、違うと言うべきか。

 下手な答えを出せば将来は決定される。肉体の死か精神の死かどちらかを選べと言われている気がする。

 どちらも無事と言う選択肢が見つからない。面倒でそうだよ、とか曖昧な返事で言うと精神の死は決定だ。嫌だとか否定の言葉は肉体の死は決定だ。どちらにしても最終的な死は変わらないが。


「それはまだ早い気がするんだよね。もっとお互いのことを……」

「ミコトと私は同じなの、一緒なの」


 漆黒に彩られたドレスの肩部分をずらして白い真珠のような綺麗な肌を晒し小振りの形のよい乳房が目の前に現れる。

 視線が上下左右に加速しながら泳ぐ。


「ほら、見て。ミコトと私は繋がっているの」


 両手で顔をがっちりと掴まれて指で目を強制開放され固定される。視界にはシミも傷もない肌が占領している。

 左胸の肌に赤い線が刺青のように入っているのに気付く。

 赤い線は円を描きその円の中には細かに装飾された赤い線が模様を作っていた。それは俺の左胸に刻まれている印と同じだった。多少模様が違うみたいだがほとんど同じ。


「これは……?」

「神器の刻印。私達以外皆殺すために神様がくれた特別な力だよ」


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