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1.マグ・メル

 建速ミコト、18歳。大学一年生。運動能力は高いが学業の成績は下の中。

 性格は気分屋で好奇心旺盛。他人から言われることは「何考えているかわからない」が一番多い投票結果でした。一人だけに言われただけだからこんな投票結果になっているんだけど。

 座右の銘は、「漁夫の利」、「他力本願」と本人は普段から言っているが単に努力した所を人に見られるのが恥ずかしいだけである。大体一人で物事を進められる能力は少なからず持っていると改竄。

 困っている人を見逃せないとてもお節介な部分も持っている。本人曰くただ好奇心が人より高いだけで、だから、そんな気分ではない時は悠々と見逃すよ、と弁解をいれていると訂正。


 そんな彼は老人が買い物袋の中身をぶちまけたのを見ていつものお節介ですぐに駆け寄り、リンゴやら大根やら缶詰を一緒に拾い助けた。お礼として転がり落ちたリンゴを受け取って家に帰ろうとした時に急に眠気に襲われ気絶した。


 するとミコトはリンゴを手に持ったまま森に移動していたのだ。


 いくら走っても、歩いても、這いつくばっても、木に登って落下しても森から出る事はできなかった。

 二日目に痛みで起きると左胸に赤い線で刻印のような印が刻みつけられていた。すでに全身に恐怖が刻み込まれていたので少し錯乱状態になって走り回ったけどそれ以降身体に異常はなかった。精神の異常は多少あったけれど。なんだろ、この刻印は?


 一日目は発狂して錯乱状態で走り回った。

 二日目は左胸に刻印が刻まれ錯乱状態で走り回った。

 三日目は空腹に耐えきれずに水たまりを啜り、葉っぱを食べた。

 四日目は身体が異常をきたし動きが鈍くなり天使が迎えに来てくれた。


 このサバイバル生活を日記に綴るとこんな感じ。三日坊主だから四日目の日記を書くのが面倒だったけど書いておいてよかった。だって、俺の最後の文章になったのだから。あ、冗談です。日記を書く道具も日記もないんだから。


 短い人生だった。もっとしたいこと沢山あったのに。あんなことやこんなことムフフなことやイヤーンなこと・・・etc。

 お、天使がお呼びのようだ、行ってきます。まず目指すは大きく天使長かな、何百年かかるか分からないけど頑張るよ。よし、最初の仕事はなんだろな。







 ミコトが目を覚ますとそこは天界でも地獄でもなくどこかの部屋だった。


 シートのような薄い布団からゆっくりと上半身だけ起き上がると額にあったぬるく湿った布が床に落ちた。目は覚ましたが脳はまだ就寝中のようでぼけっと壁を見つめていた。

 俺の脳は寝坊助さんでなかなか起きてくれない。眼球だけは元気に一点集中の超集中力を保っている。だけど目標の個体情報を詳細にできない。だって壁だもん。


 部屋の外から、ギシギシ、と木製の床を踏みこむ音が下から上へとそしてこの部屋に向かってくる。

 ガチャリとこの部屋の扉が開いた。そこで脳も起床したようだ。まだ完全に起きたわけでなく寝ぼけている状態だけど。


「わっ!!びっくりした。起きていたんですね」


 声のする方に首だけ回転させて見ようとするが真後ろだったので無理だった。


「無理しなくていいですよ」


 声の主は俺の横に正座した。よく見ると俺を迎えに来てくれた天使の女の子だった。でも、羽も生えてないし頭上には天使の輪もなくエプロン姿に頭には三角巾を付けていた。第一印象はお店の人気看板娘。


「えと、ここは?」

「私の家です。料理屋ですけど、その二階になります」

「あれ、俺は森で迷って・・・」

「ええ、びっくりしましたよ。山菜採りに森に出かけたらあなたが倒れていたんですから。それにひどく衰弱していたから家まで引きずってきたの。お母さんは毒草でも食べたんじゃないかって言っていたけど」


 いやいや、毒草なんて物騒なもの食べるはずないですよ。青々しい新鮮な葉っぱを食べただけです。でも葉っぱ食べてから身体の調子が悪くなったような気がする。苦辛い薬草ではなくただの毒草だなんて思いたくないだけですけど、あんなに我慢して食べたのに。生きるために食べたものが毒だったという皮肉。


 それと腕とか脚とかが擦り傷だらけなのを今気付いた。痛い、気付いた瞬間からチリチリと痛みが出始めた。


「えと、私はユユと言います。あなたは?」

「俺は建速ミコト」

「タテハヤミコトさんですね」

「ミコトでいいよ。他の連中も大体そう呼んでるし」

「はい、分かりましたミコトさんですね。それとお腹は減っていませんか?」


 とても、とっても腹ペコぐ~でペッコペコです。腸が腹の中でびちんびちん跳ねまわって暴走状態でギュルギュルと断末魔の如く叫び続けていてお腹と背中がこんにちはしそうなくらいの空腹感だね。


「かなり減ってるかな。ここ数日葉っぱと水たまりだけだったから」

「ええ!? それは大変でしたね。待っていてください今持ってきますから」


 ユユと名乗った少女は一緒に持ってきた水の入った桶を置いたまま部屋から急いで出て行った。

 そこで頭の中に浮かんでいる脳もようやく問題なく運動できる程に目を覚ましてくれた。


 さて、ここはどこだろう。ユユって娘は料理屋の二階と言っていたけど、部屋を見た感じ木のテーブルと椅子、押し入れくらいしか家具がない質素な部屋だ。押し入れが家具に入るかどうかわからないけど。

 まぁ、言葉が通じているのだから日本のどこかっていうことは分かり安心できた。なんで森にいたのかは分からないが。とにかく人と接触できたことが何よりも安心できた。

 部屋の窓から青空が見え、外がどうなっているか気になったので体力ゲージがギリギリの状態の身体を立ち上がらせた。





「・・・・・・・・・・・・・・」





 窓の外から見える風景を一言で表すのなら賑やかな商店街。そう、商店街。


 俺の知っている日本の風景とは違う。道には馬で荷車を引いて移動しているのが見える。馬? 剣を背中に背負っている人がいる。剣? 鎧を身に纏っている人が笑っている。鎧? 人の2,3倍はある巨人と目が合い『あ、どうも』と無意識に会釈。巨人? 空を箒で飛んでいる人が・・・・。






「・・・・・・・・・・・・・・」






 どこだ、ここ? どこだ、ここ? どこだ? どこ、どこ、どこ。夢、夢、ゆめ、ユメ、yume。


 全俺インターネットを集中しこの現状を理解しろ。


 ――起床したばかりの脳がオーバーヒートを起こし焦げ付いた模様でエンジンの取り換えが必要と判断。まず高温状態ですので冷却します。一時布団へ帰還することを推奨します。


 ――了解。

 

 脳内会議を無事終了し布団を覆い被った。


「ご飯持ってきましたよー。あれ、なにしてるんですか?」


 布団を被ったと同時にユユが料理を乗せたお盆を持って部屋に入って来た。

 料理の旨そうな香りで、怪盗なんとか三世みたく布団から飛び出した。布団を被った瞬間布団から飛び出す奇異な行動を取った自分が恥ずかしい。

 お盆にはご飯、唐揚げ、サラダ、漬物、お茶が乗っていた。うん、全部大好物です。はい、今は料理全部大好物です。


「余り物ですがすみません。お客様がもう少し少なかったらもっと美味しい料理を持ってきてあげられたのですけど」

「いやいや、料理を食べさせてくれるだけで満足だよ」


 余り物料理も大好物ですからね。「いただきやす」と添えてあった箸を持ちながら合掌した。

 唐揚げを箸でブッ刺し豪快に口に運ぼうとしたが、人の前ですからと行儀よく箸で掴み下に手を添えてゆっくり口へと運んだ。もぐもぐ。ごっくん。


 ああ、美味しい。衣がサクサクと中から肉汁がぶわぁ、最初の衣の良い歯ごたえと後から口の中で溶けていくような肉と肉汁が喉へと流れ込む、幸せの一言。


「旨い。ああ、旨い」


 涙がほろりと流れる感じがした。ユユは感想を聞いて天使の微笑みから女神の笑顔へと格上げされたかのようだった。

 ユユは俺が食べている姿をずっとニコニコしながら見ていた。ずっと見られていて少し恥ずかしかったが羞恥よりも空腹の方が勝っていたので食事を続けた。


 もぐもぐ、もぐもぐ、ごっくん。もぐもぐ、ごっくんを繰り返しあっという間に完食致しました。ごちそうさまでした。ベリーベリーデリシャスでした。ああ、ご飯最高。料理最高。かわいい娘最高。


 はっ、と先程の外のビックリ仰天目を疑い取り換えようと思った風景を思い出した。


「えと、ここはどこ? ああ、いや、料理屋の二階とかじゃなく地名みたいな。日本のどこ?」

「地名というと、マグ・メルって呼ばれていますね」

「マグ・メル?」


 脳内辞書を高速で読み調べていく。日本の都道府県でマグ・メル。日本の市町村郡でマグ・メル。日本のマグ・メル。検索中・・・・検索中・・・・検索中。


 ――検索条件に一致する項目がありません。


 もう一度検索。検索。検索・・・・・・・・・・。


 ――検索条件に一致する項目がありません。 


 ・・・・夢だ。これは夢なんだ。うん、ユメ。やっぱり、yume。そもそもさ、こんなかわいい娘が俺のためにご飯なんか持ってくるはずないんだよ。いや~、てっきり騙されるところだったよ。さて、どうやって夢から覚めるんだろうか。そうだな、全力で自分を叩いて現実とリンクしよう。


 掌という俺の武器に今持てる全ての力をオーラとして籠め頬に穿つ。その衝撃は計り知れないモノがあり、それは衝撃波を生み出し頬から口内へとダメージは蓄積されビックバンが起きた。そして自分の掌でノックアウト寸前に追い込まれた俺は床に倒れた。一部フィクションがありますのでご注意ください。


「ひゃっ!? なにしてるんですか」


 ユユは俺の理解不能な行動に驚いていた。俺も今の状態に理解できていないけどね。ああ、痛い。夢なのに痛いや。ははは、どうしよ。


 あれ、本当に涙が出てきた。ははは、頬の痛みで泣いているのか、それともここが日本とは別のところだと知って泣いているのか、はたまた夢でないことに泣いているのかどれなんだろう。

 森で起きた時から今まで異常なテンションで自分で何を言ってるかも考えてるかも分からずにいたが元の状態に戻ってきた。


「あの、ミコトさん、どうしたんですか?」

「俺さ、たぶん、いや、この世界知らないや」

「はい?」

「えと、知らないんじゃなくて。この世界は俺がいた世界とは違うんだ」

「ああ、はい。ミコトさんのいた国はどういった国ですか?」


 ユユは世界を国へと変換して勝手に理解したようだ。まぁ、そうだよね。違う異世界からやってきました、てへ。みたいに言っても信じてくれる人なんかいないな、俺がそんなこと言われたら、この人は電波ちゃんか、としか思わないな。

 俺はユユに元いた世界である日本の話をした。まだ、この世界が地球以外の異世界と決まったわけではないし、どこか俺が知らない場所なのかもしれない。

 そんな希望も断たれる。やっぱり違うみたいだ。


 ユユの話を聞く限り印象的なのは機械がほとんど存在していない、ということと魔法が存在しているということだった。

 このマグ・メルの地には俺の元いた世界では日常にある、車に電車、テレビや電話等がなく電化製品はほぼ全てと言っていいほどない。移動手段は馬や獣を使うと言っている。明かりについては魔法で召喚した火をランプ代わりに使っているという。


 魔法についてはこの世界の住人全てが魔力を持っていて誰もが魔法を使える素敵な世界だ。しかし、余程の才能と魔法に特化した家系ではなければ杖などの道具を使用しないと魔法が行使できない。ユユは残念ながらどちらも恵まれなかったようで魔法は全然使えず苦手みたいだ。


 種族も多種多様なようで人間、エルフ、ドワーフ、獣人、巨人等がいるようで、まさに絵に描いたようなファンタジーな世界だ。困った、困った。いや、本当に困った。日本はおろかアメリカなんかも知らないというのだからどうすればいいんだ。完全に別世界だよ、ここ。こういうのは来た時にゲートやらなんやらで異世界に迷い込むというパターンとかなら戻るための方法は見つけ出せそうだけど俺はどうやってこの世界に来たか分からない、完全なる迷子。それに召喚されたのなら召喚者が近くにいるだろう普通。

 言葉が通じるだけ幸運なわけだが何故言葉が通じるのだろう。日本語が世界共通語になった英語が苦手な学生にとって素晴らしい世界なのだろうか。

 とにかく、もとの世界に帰還する方法を見つけなくてはならない。どうやって? それはRPGにもよくある冒険の旅へ出発だ。みたいな感じでなりそう。


うわぁ、そういうのは嫌だなぁ。


 仲間を酒場で集めて店で武器防具を買って道端の悪意あるモンスターを狩って勝って狩りまくって経験値を貯めてレベル上げて魔王を倒して実はその魔王は手下で真のラスボス登場で驚きを隠しつつも挑み倒し世界を平和にして伝説の勇者になってめでたし、めでたし。・・・・目的が歪曲して世界を平和にするために冒険に変わっているし。やっぱり剣と魔法のファンタジー世界なら異次元空間を移動できるチート能力の持ち主いるだろう。うん、そういう人探そう。


 異世界を渡れる魔法使いの捜索という方針が決定致しました。これまた、時間のかかりそうなことだ。


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