プロローグ
今日も良い天気だ。雲ひとつない快晴で清々しい、実に清々しい。爽やかな風が木々をすり抜け肌に当たるのが気持ちいい。
でも、今の気分的には雨が降ってほしい。この四日間満足に飲まず食わずのサバイバルでもう瀕死の状態。喉がカッラカラで腹ペコぐ~だ。まぁ、そこら辺の葉っぱを食べて生き延びているが21世紀で暮らしていたもやしっ子には限界です。
何もない森の中で大の字で仰向けに倒れている俺こと建速ミコトは生まれて初めてのサバイバルに悪戦苦闘しています。
ああ、生きるってこんなにも大変なことなんだな。全て人任せに生活してきたゆとりっ子でもやしっ子な訳で強制サバイバルを生き残るのは不可能に近いことが身を持って知った訳ですよ。
そもそも、なんで俺がこんな森でサバイバル生活を行っているかと言うと、正直俺でも分からない。だって、いつの間にか森にいたのだから。
今はこんな冷静でいるがこの森に来た当初はパニックを起こして発狂していたけど、今じゃ身体を動かすのもおっくうになって頭も冷えた。ついでに身体全体が冷たくなってきそうな気分。
さて、そろそろ誰かがタイミングよく助けにきてくれるはずなんだが一向に来ない。漫画みたいにそう簡単にいかないものらしい。人生なかなか上手くいかないなぁ。初日からこの台詞を呟いているのだけど、もう三日が過ぎた。
人間限界を超えると悟りを開くと言うが今まさに俺は悟りを開いていると自分で勝手に思った。あ、いや俺が言いたいのは人間限界を超えると精神がおかしくなるんだな、ってことだと訂正する。
自分で何言っているんだか分けわからない。とうとう俺もおかしくなってしまったらしく悟りを完全に開眼した仏様になるまでのカウントダウンが始まったようだ。
眠い、眠いよ、パトラッシュ。天使が見えるよ、パトラッシュ。そんな犬はここにいないのだけど天使ははっきり見える。ほら、天使が俺に手を差し伸べてきたよ。ああ、天使を包む光がとても暖かいや、太陽の光のことだけど。
とても気分がハイになっているらしく走馬灯が駆け巡る代わりに意味不明な言葉が頭を駈けまわっている。俺よりも先にパトラッシュが天使に連れて行かれたよ。一人にしないで、一人は寂しいから幻覚でもいいから傍にいてよ。
「大丈夫ですか?」
天使が優しく声をかけてきた。俺は天使を見つめながら「いいえ、大丈夫ではないです。でも、やっとお迎えがきてよかった」と乾燥しきった口内で干乾びた舌を懸命に動かしながら声を振り絞った。
「よかった、まだ生きてる。安心して私が連れて行ってあげるから」
天国に連れて行ってくれるなんて、やっぱり天使だった。神様とか信じていなかった俺だけど神様ありがとう、こんな優しい天使を俺のために遣わせてくれて。
私、建速ミコトは死して信者になります。なんの神様かは分かりませんが天国で会えるでしょう。そうしたら私も天使として神様にお仕え申したいと思います。
視界がぼやけていく。まるで霧に包まれたかのようにどんどん白く、そして暗くなっていく。
さようなら、お父様、お母様、妹様、こんな親不幸の息子をお許しください。私は天使になります。お父様、お母様が心配していた就職先は天界でした。天使になった後は天界でお仕事に励みます。これで永久就職決定です。後、大学卒業できなくてすみません。私は立派な天使にな・・・・。
ミコトの電源はブツッと強制的に途切れた。