第9話 テイラーの手記
この回から、短編版の続きとなっております!
屋敷に戻った次の日、
時間になってもテイラー補佐官が執務室に来ないと
ちょっとした騒ぎになっていた。
執事がテイラーの部屋を開け、
部屋の中を確認したが、部屋が荒らされた様子はない。
そこからは連絡を受けた私とエイミーも同行し、
部屋を調べることになった。
ベッドサイドの引き出しから、
手記が見つかった。
「領主様の死は私のせいだ」と書かれた日記。
自白とも単に自責とも取れる内容。
結局は証拠不十分だ。
これだけで彼が犯人だとは言えない。
しかも本人は黒いモヤになって消えてしまったのだ。
そして黒いフードの男。
これを公に説明することも公表することもできず、
テイラー補佐官は日記を残して失踪したという扱いになった。
黒いフードの男については引き続き私とエイミーで調べることに。
なんともすっきりしない結末。
午後から騎士団長のキースが慌てて屋敷を訪れた。
「テイラー補佐官が行方不明だと聞いたのですが」
「ええ、そのようです」
そして彼の日記を差し出した。
キースがテイラーの手記を見て、
目を見開いて、信じられない、という顔をした。
「テイラー補佐官が?彼が?まさか...」
実はテイラーは黒いモヤで消えてしまったんです、とも言えず、
「官舎にもいませんでしたし、行方がわからないようで。
先ほど心当たりを屋敷の皆さんにきいて探してはみたのですが」
エイミーが説明する。
「彼が事件に関わっているなんて思いもしませんでした。
きっとおそらく皆もそう言うでしょう。
ただ、この手記を見ると、彼は何かを知っている、ということですよね。」
しばらく考え込んで、
「テイラーの捜索を騎士団経由で各地に依頼します。各関所にも知らせておきます。
証拠も不十分ですし犯人ということではなく、あくまで「行方不明での捜索」という形になりますが。」
「そうね、お願いします」
ここで否定するわけにもいかない。
騎士団がテイラー補佐官の行方を探す形となり、
私たちも一旦ここでの調査を終える。
調書をまとめたら、明日にでも王都へ戻ることになる。
「ねぇ、ヴェル。あの時のフードの男が言っていた、アリガサンって何?あなたのこと?」
「さぁ、そんなこと言ったか?」
ヴェルは、毛布の上でう〜んと伸びをしてぶるぶると体を震わせた。
「さあ、飯だ!飯だ!今日の晩餐は何かな」
今回は滞在最後の夜、ということで、料理長が腕を振るってくれるそうだ。
今日はヴェルも食堂へ行くことに。
「なんだか釈然としないことばかりだけど、
なにはともあれ食事よね」
今日料理長が用意してくれたメニューは、
牛の頬肉の煮込みに
骨付きソーセージ
なんだろう、挽肉をパイ生地で包んで焼いた料理もある。
ちょっとスパイシーだ。
そして盛りだくさんのチーズに黒パン。
この前の酒場でのメニューに近いかも。
今日のメニューはワインもいいけどエールも合いそう。
「あっしは難しいことはわかりませんが、
事件はすっきり解決ってわけではないんでしょうね。
でも、新しい領主様も決まったそうですし。皆少しは落ち着くんじゃないかと。
ただ、テイラーさんがいなくなっちまったっていうのは・・・一体どういうことなんだい。
さらわれちまったってことなのかい?」
「わからないわ。騎士団が捜索をすることになったわ」
「テイラーさんは、あの人はいいお人だ。ちっとも偉ぶらないし。
苦労人で、面倒見もとてもよかったから慕っているやつも多くいる。
だれかに恨みをかってるってことはないと思いやすよ。」
と言いながら料理長はデザートも運んできてくれた。
頭がキーンとするくらい甘いパイだ。
疲れた頭には糖分が必要だから、2切れ食べることにする。
明日からまた旅だから、甘いものは食べためておかなくちゃ。
「明日、出発なんですね。」
「ええ、一度報告で王都に戻る予定よ」
「であれば、パンを何種類か焼いておいたんで、
アイテムボックスにいれてもっていってくだせえ。
干し肉も準備しました。もちろん日持ちする焼き菓子も」
「ありがとう、サム。本当にあなたの料理は美味しかったわ」
『おお、気がきくじゃないか、
でもできればパンはふわふわのがいいぞ』
ヴェルは仏頂面で黒パンを前足でつついている。
ヴェルの念話(独り言)が聞こえる。
っていうかヴェルあなた黒パン嫌いなのね。
この噛み締めることで味わう美味しさがわからないなんてお子様だわ。
料理長のおかげで王領セレーヌの最後の夜を
少し和やかな気持ちで過ごすことができた。
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