第6話 騎士団長と補佐官
翌朝―
あんなこと(襲来)があったが、
やはりお腹はすく。
我ながら肝が据わっている。
今朝は部屋で食事をとっていて、パンのお代わりを頼む。
といってもヴェルの分だ。
ヴェルがなにやらエイミーに細かく言っていたが、
エイミーがカートで運んできた山盛りのパンの量にびっくりしたわ。
今度来た監査官(しかも第二王女だよ)は、
やたらパンを食べる人とか、
大食いだと思われていそうで怖い。
こっちは一応王族で、
嫁入り前のうら若き乙女なのだから、
大食い認定はできれば避けたい。
でもまあいいか。
気にしない気にしない。
朝食の後に、執務室へと向かう。
騎士団長キースから事件の話を聞くためだ。
とても実直そうなタイプだ。
事件が頓挫しているせいで、もどかしい感じが伝わってくる。
事件は、3ヶ月前。
川で領主の遺体が発見される。
外傷はなし。溺死と見られること。
貴重品は盗られていない。
護衛をつけずに外出することは度々あったようだ。
ようだ、というのは夜に領主が護衛を連れずに帰ってくる姿を何度か見た、
という使用人がいたからだ。
親しくしている女性がいて通っているのかと思っていたと、
その使用人たちは言っていた。
ただ、調べても女性の影は見つからず、
酒場などでも目撃情報はなかったらしい。
結局は事件なのか事故なのかは不明。
「なるほど、報告ありがとう。
でも何もないわけではなさそうよ。
昨夜、部屋に襲撃があったわ」
執事と騎士団長の顔色が変わる。
「一体何があったのですか?」
「窓から侵入しようとした者がいたわ。そのまま消えたけれど」
「消えた、とは?」
騎士団長が不思議そうな声を出す。
「ええ、下に落ちた音がしたけど、何もなかったのよ」
「レオノーラ様、護衛を増やしましょう。騎士団から派遣致します」
「ええ、お願いするわ。」
その後に入れ替わるように、補佐官との面談。
「テイラー補佐官、これまで領内の執政でなにか問題があったのかしら?」
「いいえ、大きな問題はなかったと思います。
領主様もこれまでのやり方を大きく変えたわけではありませんし」
「領民とのトラブルはないの?」
「全くないとは言いませんがそれほど大きなものはないかと。
確かに昨年の収穫があまり良くなかったので領民たちは
少しきついと感じていたかもしれませんが、
今年は豊作が見込まれているので問題はないかと」
感じのいい青年だ。
色々なことをそつなくこなし、人当たりもいい。
彼が補佐官であれば仕事がしやすかったに違いない。
貧しい家の出身らしく、今でも
執務以外にも教会での炊き出しを積極的に運営したり、
休みの日に教会で子ども達に読み書きを教えていたりするらしい。
と、トレバーから聞いた。
でもなぜ領主が殺された?
いや、まだ事故の可能性もあるのか。
お父様はなぜ、私をここに派遣したのか?
ただの左遷?いや何か理由があるのかもしれない。
都落ちという形で来るのであれば、敵もあまり警戒しないからかもしれない。
ともあれ、昨日襲撃があったわけなので私は歓迎されていないわけだ。
脅迫とも取れる。余計なことはするな、と。
舐めてもらっては困るわ。
領主は何かに気づいてしまったから
消されてしまったのかもしれない。
うんうんと考え込んでいると、
「どうかされましたか?レオノーラ様」
「あ、いや大丈夫よ。」
危ない危ない、いつもの癖で。
考え事をするとすぐに意識が他に行ってしまう。
「テイラー補佐官、本日はありがとうございました。」
「いいえ、レオノーラ様、何かあればいつでもお呼びください」
彼は爽やかな笑顔で礼をとった。
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部屋に戻ると、ヴェルが伸びをしながら
「あいつは胡散臭い」
「あいつって誰よ」
「補佐官だ」
「どこで見てたのよ」
「オレは影に入り込むことができる。お前の影の中にいた」
「え、そんなことできるのね。
でもそういうことは先に言ってよ!」
「フン、でもあいつはオレに気づいていた。
普通の人間ではありえない。」
「そうかな、いい人っぽいけどね」
「お前、そんなんで本当にこの前の貴族院の不正を解決したのか?」
「そうよ、私には誰にも負けない嗅覚と運があるのよ!」
「それって行き当たりばったりっていうんじゃないのか・・・」
(でも確かにコイツには加護がある。
危なっかしいが守られてはいるようだ。運がいいのは加護のおかげだな)
とにかくあいつは嫌な感じがする。
影がダブってみえるんだ。
それはつまり、そういうことだ。
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