表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

歌わないオルゴール

掲載日:2025/12/23

母が死んだ。

事故だった。

あっさりしていて、拍子抜けするほどだった。

母子家庭で、二人きり。

他に引き取り手もなく、私は仕方なく実家に戻った。


母は、とても厳しい人だった。

門限、成績、言葉遣い。

私はいい子じゃなかった。

嘘をついて、反発して、逃げることばかり考えていた。

正直、大嫌いだった。


大学生になり、親元を離れてみると、案外うまくやれている。

なんだ。

あんなに厳しくされなくても、生きていけたじゃないか。

そう思った矢先に、母は死んだ。


遺品の中に、小さなオルゴールがあった。

蓋を開けても、音は鳴らない。

歌わないオルゴール。

母が大切にしていたものだと、思い出した。

でも私は、それを捨ててしまおうと思った。

音の鳴らないオルゴールなんて、意味がない。


念のため、もう一度蓋を開ける。

中に、細く丸められた紙が入っていた。

抜き取った瞬間、

オルゴールが、くるりと回り始めた。

静かに流れ出したのは、トロイメライ。

母が、よく聴いていた曲だった。

紙を開く。

「鏡台の引き出し」

……なに、それ。

保険金?

隠し財産?

半信半疑で、母の部屋に向かう。


鏡台の引き出しに、また紙。

今度は、

「台所の砂糖の中」

はあ?

思わず紙を握りつぶしかけて、手が止まった。

子どものころ、母と宝探しをした記憶が、ふいに浮かんだ。

笑いながら、必死で家中を探した、あの日。


砂糖の中から、また紙。

「押し入れの青い箱」

次々と続く、意味のない指示。

なのに、なぜかやめられなかった。

思い出したのだ。

小さいころ、私は一度、誘拐されかけた。

それから母は、別人のように厳しくなった。

口うるさく言われたあれこれ。

身についた習慣。

一人暮らしが、何事もなくできている理由。

全部、母の言葉だった。


最後の紙は、オルゴールの底に貼ってあった。

「おしまい」

宝は、どこにもなかった。


オルゴールは鳴り続けている。

トロイメライが、部屋に流れる。

今さら、母を好きにはなれない。

厳しかった記憶は、消えない。

それでも私は、

この宝探しに、最後まで付き合ってしまった。


歌わないはずだったオルゴールが、

今日も、静かに歌っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ