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名無し少女とおしゃべりカマドの、森でまったり錬金術スローライフ  作者: 京々
RECIPE1 延命ポーション

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Fランクのレシピ


 さて、グレイシスさんがここに泊まると言っても、彼にも準備がある。彼は一旦帰って諸々の準備を整えてまた来るらしい。


 何か調達してほしいものはあるかと聞かれたので、「美味しいご飯」と答えたらすごく呆れた顔をされた。なんで? ふざけたわけじゃないよ、一番大事でしょ。


 まあアルバンくんが切迫した状況なのは変わらない。

 私はグレイシスさんに貸す部屋をざっくりと確認したあとで、引き続き勉強の続きをすることにした。


 えっと、どこまでやっていたっけ。Fランクのレシピを作ってみようとしていて、素材を持ってきたところからだったっけ。

 私は『錬金術の基礎』の本を開いた。


「そういえばカマド、この薄情カマド。私がグレイシスさんと話す間ずっとだんまりして、ずるいんじゃない?」

『仕方ねえだろ。味方かどうかも知れねえ奴に姿は見せるなって先代の頃から言われてんだ。ま、あれなら次から姿を見せてやってもいい』

「ふぅん。そういうもんか」


 カマドとお喋りしながら、まずは植物オイルを作っていく。レシピはこんな感じ。



『【植物オイル】


 レシピランク:F(初心者でもできる)


 必要素材:

 オイルナッツ×3

 蒸留水×1


 必要設備:

 錬成用かまど(加熱Lv1以上)

 錬成鍋(小)

 乳鉢

 包丁

 薄布

 空き保存瓶


 手順:

 オイルナッツを叩いて砕く。

 砕いたものをさらに包丁で刻む。

 さらに乳鉢で潰す。

 鍋に入れ、蒸留水を加えて弱火で加熱する。

 焦げ付かないよう混ぜながら煮詰める。

 薄布で濾し取り、出てきた油を保存瓶に回収する。


 成功率:97%

 完成数:植物オイル×1、ナッツの残りカス×1』



 これ、レシピを見ていても思ったんだけど、ひたすら腕力と根気のいる作業だ。すごく大変。


 頑張ってひたすらオイルナッツを砕いて刻んで潰す。もうこれがとんでもなく重労働。

 まず、まあまあ堅いナッツを叩いて砕くのはすごく大変だった。いや普通に生きていて、叩くなんて動作はあんまりしなくない? そんなに普段から何かを叩かないでしょ。そのせいか、叩いても叩いても砕けない。


『腰が入ってねえなあオイ!』

「腰ってなに! 叩くのに腰いる!?」

『いる。すんげえいる』


 いるらしい。


 とりあえずなんとかナッツを砕き切ったら、次は包丁で刻む。

 包丁ならちょっとは楽かなと思うでしょう? そんなことないんだよ、堅いから結構体重も乗せて刻まないといけないんだよ。


『それが腰を使うってことだろ』

「腰? どのあたりが?」

『腕だけの力でやるんじゃなくて全身使えってこと』


 それはまあもっともかも。


 そして、砕いて刻んだナッツをさらに乳鉢ですり潰す。自分の体重も使ってごりごりと。ここまで自分の体重を使うことを覚えたので、潰すのはまあまあ効率よくできた気がする。


 全体を通して超重労働でしたよ。終わった時には腕が痛くなってしまっていた。


 でもそれで終わらない。このあとはひたすら煮詰めて水分を飛ばす作業だ。香ばしいいい匂いが漂う中、焦げないように注意しながら根気強く混ぜ続けなければならない。かなり時間かかるし。


「これ、なんとか楽できたりしない?」

『ケケケ、弟子をとってやらせるか、家事手伝いの妖精と契約してやってもらうかだなぁ』


 へえ、家事手伝いの妖精もいるんだ。


 私のイメージだと妖精って、火や水、風や土に由来する小さな精って感じなんだけど。実際の妖精はカマドだったり家事手伝いの妖精だったり、イメージと違う感じだ。その感じだと、妖精ってすごくたくさんの種類がいるね?


 そんな話をしながら、最後に分離してきたオイルを薄布で濾していく。


 カマドが『ててーん! 錬成成功〜』と楽しげに結果を教えてくれた。なんとか成功したらしい。

 レシピ通りに、ほんのり色づいた植物オイルと、薄布で漉して布に残ったナッツのカスができた。


「この残りカスは何かに使えるのかな?」

『あんまり使い道ねぇが、単純に美味いらしいぜ』

「いただきます」


 すぐに少しだけ摘んで食べてみる。そしてその美味しさに驚いた。


 確かにこれは、ローストしたナッツのように、いやそれ以上に香ばしくてほのかに甘い。


「〜〜!」


 そのままでもすごく美味しい。美味しいんだけど、これ、クッキーやケーキに混ぜたらもっともっと美味しいのでは? 香ばしさがもっと濃厚にふわりと口の中に広がるお菓子になっちゃうのでは?


 私はナッツの残りカスを大事に瓶に入れて保管した。これはよいものです。大事にしましょう。


「サクサク行くよー、次は精油」


 精油のレシピはこんな感じ。



『【精油】


 レシピランク:F(初心者でもできる)


 必要素材:

 ネムハーブ(他のハーブでも可)×20

 蒸留水×2


 必要設備:

 錬成用かまど(加熱Lv1以上)

 錬成鍋(小)

 蒸し器

 冷却器具(ガラス管+水受け)

 空き保存瓶


 手順:

 鍋に蒸留水を入れ、蒸し器にハーブを入れる。

 弱火で加熱する。

 沸騰した蒸気をガラス管に通し、冷却する。

 滴り落ちた液体の上層が精油、下層にハーブ水が分離する。

 上澄みの精油とハーブ水を分けて保存瓶に回収する。


 成功率:99%

 完成数:精油×1、ハーブ水×1』



「うーん、材料に蒸留水がある。最初に作った蒸留水は今の植物オイル作りで使っちゃった。もう一回作らないと」

『あらかじめたくさん作って置いておけよ』

「次からそうしようかな」


 植物オイルにも精油にも、材料に蒸留水が必要だ。蒸留水って、本当に何にでも使うんだな。


 というわけで、またこぽこぽと蒸留水を作ってから、精油作りがスタートする。


 まずはリースのようになっていたネムハーブを丁寧にほどき、並べて蒸し器に入れる。

 しっかしこれがかなり多い。ネムハーブが蒸し器の蓋のところまでいっぱいだ。なんとか押し込んだら、蒸留水を使って蒸して、ネムハーブの水分を蒸留する。


 蒸留された水分は、精油とハーブ水に自然に分離するらしい。浮いた方が精油だから、瓶に回収する。残った方がハーブ水になる。


 精油は植物オイルよりは楽だ。ちょくちょく様子を見ていれば基本は放置でいいから、同時に横でまた蒸留水も作っちゃおう。


 他のレシピについて本で調べつつ、待つことしばし。


『ててーん! 錬成成功〜。品質は普通。ちゃあんとレシピ通りにやってりゃこんなもんだわな!』


 精油とハーブ水が完成した。どちらも透明な液体って感じだ。でも、精油の方が匂いが強い。


 夜を思わせる心地よい湿った森の匂いの中に、ホッと息をつくようなほのかな甘さがあって、気持ちが落ち着く。これがネムハーブの匂いか。いいね、眠るときにこの匂いに包まれたらぐっすりと眠れる気がする。


 精油はこのまま使うものじゃなくて、ここから石鹸や化粧水なんかの匂いをつけるために使うものだ。


「といっても、量はすごく少ないね。こんなに大量にハーブを蒸してるのにほんのちょっとしか採れないんだ。それとも失敗してる?」

『成功だっつの。精油はこんなもんだぜ』

「こんなもんなのかぁ」


 精油ってすごく貴重なものなんだな。なにせ使った材料の量に比べて完成品の量が少なすぎる。


『もうちっと高度な作り方をして、大成功すれば多く採れるようになるぜ』

「そういうのもあるんだ。そういえば今まで成功で品質普通しかできたことないけど、普通以外にもあるの?」

『あるさ。作り方の丁寧さや工夫次第で良質にも低質にもなるぜ』


 そうなのか。錬金術って思ったよりも奥が深そうだ。

 今の私には工夫を加えられるほどの下地はないけれど、いつか挑戦してみてもいいかもしれない。


「よし次! 傷薬!」


 サクサク行きます。

 傷薬のレシピがこんな感じだ。



『【傷薬】


 レシピランク:F(初心者でもできる)


 必要素材:

 エイドハーブ×1

 植物オイル×1


 必要設備:

 乳鉢

 包丁

 薬研

 空き保存壺


 手順:

 エイドハーブを包丁で細かく刻む。

 刻んだものをさらに薬研で挽く。

 乳鉢にエイドハーブを挽いたものと植物オイルを混ぜ、練る。

 よく練って固いクリーム状になったものを保存壺に回収する。


 成功率:99%

 完成数:傷薬×1


 備考:傷口に塗って布で保湿して使う。』



「このレシピ、カマドいらないじゃん」

『そういうのもある』

「そうなんだ」


 そう、傷薬のレシピは、端的に言えば材料を合わせて練るだけだった。


 私は思わず首を傾げてしまう。というのも、傷薬なんてきっと高度なものなんだろうと予想していたのに、意外にシンプルだったからだ。手順も材料も。


「これって、材料がエイドハーブと植物オイルだけだけど、エイドハーブだけで傷が治るの? 植物オイルに傷を治す効果なんてないよね?」

『エイドハーブは人間の体になじむ性質を持つ。治すというより、傷を塞ぐんだ。傷口から悪いものが入らないようにする。あとは自然治癒に任せる感じだな』

「なるほど、絆創膏なのか」


 カマドの説明に納得した。


 じゃあ作ってみよう。

 包丁でとんとんと平たい葉っぱのエイドハーブを刻んで、薬研で挽く。そうして荒い粉のようになったエイドハーブを、植物オイルと混ぜるのだ。


 ここから長いネリネリ時間が始まった。


「オイルだからとろっとしているけど水っぽいね」

『そのうち固くなってくる』


 ねり、ねり。


 カマドの言う通り、最初は持ち上げてみてもとろとろさらさらと落ちていくオイルが、徐々にもったりしてきた。なんというか、持ち上げて落としてみると、もたっと形が残るようになってきたのだ。


 ねり、ねり。


「これ、どれくらい練ればいいの?」

『まだまだ』


 先は長そうだ。錬金術って、根気が必要なんだな。


 ねり、ねり。


 私はオイルを練りながら、ふとカマドに言う。


「ここまでやってみて思ったんだけどさ、錬金術って料理に近くない?」

『Fランクのレシピなら間違いねぇ。ほぼ料理だぜ』

「やっぱり」

『Eランクから違う。魔力を使うからな』


 へえ。そういえば私、魔力のこと全然分からないや。


 ちなみに、ネリネリ時間はそれからしばらく続いた。傷薬作りは成功し、品質は普通だった。カマドを使わなくても判定してくれるんだ。


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