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名無し少女とおしゃべりカマドの、森でまったり錬金術スローライフ  作者: 京々
RECIPE2 属性を打ち消す薬…?

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ポーションアンドポーション②


 グレイシスさんのポーション納品の依頼は、私のスキルアップには渡りに船だ。


 ポーションはレシピランクEからSまで、幅広くレシピがある。

 順に作っていけば錬成に慣れるに違いない。できるだけたくさん欲しいって言われたし、たくさん作ればそれだけ練習になる。


 錬成部屋にて、私は頬杖をつき、でっかくて分厚い本を見下ろした。


「でも、ポーションってすごーくたくさんの種類があるんだよね」


 なにせ『ポーションの作り方』の本は初級編、中級編、上級編の三冊セット。加えてどれも分厚い。ボリューミー。


 パラパラとページを捲ってみるだけでも、傷治しポーション、止血ポーション、骨継ぎポーション、毒消しポーション、火傷治しポーション、体力回復ポーション、魔力回復ポーションなどなど……とんでもなく盛りだくさん。


 まあ私が作れるのはその中のごく一部なんだけど、それでも種類が多いのがポーションだ。奥深い薬なのである。


 そこまで考えて、私はふと顔を上げた。グレイシスさんの群青色の瞳とすぐに視線が合った。


 錬成部屋には私の他にもグレイシスさんがいる。錬金術を見学したいとのこと。

 なおアルバンくんは自室でお休み中。カマド? 当然いますよ?


「グレイシスさんって優先的に欲しいポーションとかあります? 今のところ私が作れるのは、ここからここまでなんですけど」

「かなり種類があるな」


 グレイシスさんはまずその圧倒的な種類に驚いて、そして悩ましそうな表情をした。


 現在の私が作れる範囲は、ランクFからDまでだ。その範囲だけでも結構な種類がある。


 グレイシスさんは本を丁寧に読み込んで、ひとつひとつ私に質問した。私も本を読みながら質問に答えた。


「傷治しポーションというのはどれくらい治るんだ?」

「擦り傷、切り傷、刃物傷、打撲……いろいろと?」

「回復バテはあるか?」

「回復バテ? ん、本によると無いらしいですよ」

「ほう」

「ただ、傷治しポーションは軽傷にしか効きません。大きく肉が抉れているとか骨が折れたとか手足が切断されたとかは、別のポーションの範疇になります」


 使い方の注意書きの部分を読みながら、グレイシスさんに説明する。

 グレイシスさんはじっと考え込み、私を見た。


「参考までに、どの傷がどのポーションで治せるんだ?」

「んーと……大きく肉が抉れたレベルの重傷だとハイポーションが、骨折には骨継ぎポーションが、切断だと手足をくっつける処置にはその両方が必要です。手足が残っていない欠損なら、またさらに高位の別のポーションが要ります」

「使い分けるための勉強も必要そうだな」

「そうですね。ポーションを使い分けるための症状診断の本も書庫にはありましたから」


 というか、なんなら使い分けのための本の方がバリエーションが豊富だったりする。


 ポーションごとの使い分けから、症状からの逆引き辞典まで。『ポーション使いのためのケーススタディ』なんて怪我編、病気編、状態異常編、などなど! シリーズ化されて棚一つ埋まってました。


 ポーション、奥深い薬である。


 私たちのやりとりを聞いていたカマドがケケケと笑った。


『薬効なんざ細かいもんだろ。今の時代にはポーション使いはいねーのか?』

「いないな。そこまでポーションの流通がない」


 グレイシスさんがキッパリと言う。


 そうなんだ。魔物の脅威が多い修羅の世界なのにポーションもないんだ。修羅すぎる。


 でも、ポーションって錬金術で作れる薬なんだっけ? 魔女がいないから仕方ないのか。


「このあたりだと、錬金術を嗜むのはフォリアフォリスの薬の魔女だけだ。多少なら我が領にも売ってもらえるが、傷治しポーションとハイポーション、魔力回復ポーションの三種類のみだな」

「一人だとそれくらいかぁ」


 むしろ他の領に流せるくらいに頑張って作ってくれていると考えるべきかも。


 確か、フォリアフォリスの薬の魔女さんって、アルバンくんを診て「延命しかできない」と診断した人だ。


 今の三種類のポーションだと、一番難しいのはレシピランクCの魔力回復ポーションである。私には作れないランクCを作れるなんて、今の私よりも高い実力を持っているってこと。妖精とも交流できているのだろう。普通に会ってみたい。


 グレイシスさんが続けた。


「ポーションがない代わりに、現代魔法には回復の呪文がある。使い手は非常に少ないが、彼らのおかげで長く魔物と戦えている」

『古代魔法にも回復の魔法はあるぜ。ただ、ありゃあ本人の治癒力を高める仕組みだから治った後で超ダルいらしいぜ〜』

「回復バテだな。現代魔法も同じだ」


 なお、ポーションにはそういうのは無い。


 そもそも体力回復ポーションとかいう疲労を吹き飛ばして動けるようにする薬もある。ポーションは薬効が細かい代わりに、いろんなケースに対応可能って感じなのかな。


 グレイシスさんが腕を組んでしみじみと頷いた。


「ポーションは本当に助かるんだ。回復の呪文は体力がない者に使うと衰弱死することもある。瀕死の者の生存率がグッと上がる」


 彼は喜び方がシビアだなぁ。


 私とグレイシスさんはしばらくポーションの薬効の話をした。

 そして、グレイシスさんは決めたらしい。群青色の瞳が私とかち合った。


「それなら、まずは止血ポーションだ。次点で体力回復、傷治しだな」

「オーケーです」


 曰く、シルヴェイン領の魔物討伐では圧倒的に出血が脅威らしい。失血して体力がなくなり、回復の呪文をかけてもそのまま……というケースが多いのだとか。だからまずは速やかに止血したいと。


 分厚い毛皮でこっちの剣は通らないのに、魔物は鋭い爪で攻撃してくるのだそう。そんなのと日夜戦わなくちゃいけないなんて、嫌になっちゃうね。少しでも役立てるといいんだけど。


 私は座っていた椅子から立ち上がった。


 じゃあオーダー通りに作るとしましょう。


「カマド、やるよ」

『おー』

「止血ポーションと傷治しポーションはランクE、体力回復ポーションはランクDだね」

『〜♪』


 錬金術に使われるのが嬉しいカマドは、私の声にボボボッとエメラルドグリーンの炎を膨らませた。


 止血ポーションのレシピがこんな感じ。



『【止血ポーション】


 レシピランク:E(初心者には難しい)


 必要素材:

 ポーションベース×1

 エイドハーブ×1

 アカマリ花×1


 必要設備:

 錬成用かまど(加熱Lv1以上)

 錬成鍋(小)

 包丁

 空き保存瓶


 手順:

 エイドハーブを刻む。

 アカマリ花を少量のポーションベースの中に入れ、色が出るまでよく揉む。

 ポーションベースを鍋に注ぐ。

 刻んだエイドハーブを鍋に加え、加熱する。

 沸騰する前に火を止め、アカマリ花を抽出した水を魔力で馴染ませながら混ぜる。

 完成したポーションを保存瓶に回収する。


 成功率:93%

 完成数:止血ポーション×1』



 止血ポーションは意外とシンプルだ。


 ポーションともなると、素材Aから素材Bを作って、さらに素材Bと CからDを使って、それを使って作ります、みたいな迂遠なのが多い。

 でも、止血ポーションの材料はポーションベースの他はエイドハーブとアカマリ花というお花のみ。


 エイドハーブは傷を塞ぐ効果を持ち、アカマリ花は多少の血を補ってくれる。


「アカマリ花はどこにでも生えている花だな。というか、今日ラテリースに贈ったリースにも使っている」

『そういやラテリース、今日は随分と可愛いな?』

「ほぁ」


 私は思わず変な声を上げた。


 そう、グレイシスさんは早速次の日から私にお花のリースを贈ってくれていた。

 アルバンくんを散歩に連れ出し、そのときに二人で作ってくれたリースをもらった。こう、赤詰草とクローバーを編みました、みたいな素朴で可愛いやつ。


 せっかく作ってもらったので、載せたまま過ごしているのだ。


 この赤詰草みたいなお花がアカマリ花か。


『頭に花載せてんの、いいと思うぜ』

「ラテリースはまったりした緑色の髪なので、何色の花でも似合う」

「ど、どうも」


 そんなに褒められると照れる。


 まあせっかくならこのアカマリ花を使って作りますか。


 いつも通りに蒸留水を作って、そこからポーションベースを作って、あとはエイドハーブを持ってくれば素材は揃う。


「アカマリ花は熱を加えすぎるとよくないので、まず成分を揉み出します」

「なるほど」


 少量のポーションベースの中にアカマリ花を入れて手できゅっきゅっと揉んでいると、すぐにポーションベースに色が出て赤い液体ができる。


 逆にエイドハーブは加熱してもいいので、カマドに鍋をかけて刻んだエイドハーブを煮て……。でも沸騰するとアカマリ花と混ぜるときに熱すぎるからその前に止める。


 あとは混ぜるだけだ。この二つは相性がいい素材なので、魔力を混ぜて馴染ませるのもやりやすい。

 ゆっくりと混ぜていくと、エイドハーブを煮出した液体にアカマリ花の赤が加わって染まっていく。


 ずっと錬成の様子を見ていたグレイシスさんが、ふと口を開いた。


「ところで、アカマリ花は食用可能な花だ。遠征でもいざとなれば非常食料として採取される」

「せちがらい……」

「本題はここなのだが、アカマリ花は加熱しないと非常に苦い」


 多分、その苦味成分が薬効なのかもしれないですね。


 でも、ん? そう考えると、このポーションってめっちゃ苦いのでは。


「味まで考えたことなかった」

『薬なんて苦い方がいいだろ。美味しかったら無闇に食われるぞ。特にポーションなんて即効性なんだから、健康な奴が飲むと色々まずい』


 そっか。あれだけ細かく使い分けの本があるくらいだしね。『ポーション事故事例集』とかいう本もあったもんな。


「でも、苦いと子供は嫌がりそう……ん?」


 不意に、私はアルバンくんのために作り置きしてある生命力増強ポーションを取り出した。錬成部屋にある程度作って置いてあるのだ。


 きゅぽんっと瓶の蓋を取り、少しだけ手の甲に出して舐めてみる。


「うえっ」


 すっごく生臭くて不味かった。


 アルバンくん、いつも嬉しそうにお礼を言ってからなんでもない顔で飲んでくれるんですけど、こんなのを飲んでくれてたんですね!? 


 いつもごめん! そしてポーカーフェイスすごいな!!


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