第96話『兆候 ――動き出す黒手と迫る影』
夜の帳が街を覆う頃、蓮は社の会議室にいた。窓の外に広がる夜景を見下ろしながら、彼は深く息を吐く。
王女救出の作戦からしばらくが経ち、ようやく日常が戻ったかに見えたが――胸の奥底には拭えぬ不安があった。
「……気配が、ある」
蓮の感覚が鋭く警鐘を鳴らす。異世界で培った魔力感知の技術は、現代においても異常なほど有効だ。
空気の揺らぎ、視線の残滓、潜む“意思”。それらが確かに自分たちの周囲に忍び寄っている。
そこへドアを叩く音。
入ってきたのは副社長の玲奈だった。
「蓮、今朝の報告……やっぱりただの偶然じゃないと思うわ」
玲奈はタブレットを手に差し出す。画面には、系列会社の物流網で続発している事故や妨害の記録。
「事故に見せかけた嫌がらせ、明らかに誰かが意図的に仕掛けている」
蓮は頷いた。
「“黒手”か……ようやく表に出てきたな」
その名を聞いて、玲奈の表情は強張る。
裏社会を動かす影の組織。政府高官ですら操るという噂もあり、正体は深い闇の中に隠されている。
そして、蓮が救い出した王女の証言によって、その存在は現実のものとなった。
「やっぱり、こちらを試してるのよ」
「だろうな。……俺たちの力を測ってる」
会議室の扉が再び開き、仲間たちが次々と集まってくる。
情報担当の佐伯は地図を広げ、物流網に仕掛けられた妨害のパターンを指し示した。
「これを見てください。被害はランダムに見えて、すべて一本の線に沿って発生しています。……つまり、彼らの拠点は――」
蓮は眉をひそめた。
「……中央区、旧地下施設か」
そこはかつて廃棄された軍の研究所跡地。
異世界から帰還した者たちが“収容”されていたと噂される場所でもあった。
空気が重くなる。
仲間たちの顔に、恐怖と覚悟が交錯した。
蓮は静かに口を開いた。
「ここからが本番だ。敵は本気で俺たちを潰しに来る。その前に……俺たちが先に仕掛ける」
夜の窓に映る彼の瞳は、異世界で数多の修羅場をくぐり抜けた“賢者”の光を宿していた。
そして、その影には確かに、暗躍する“黒手”の影が忍び寄っていた。
次なる戦いの幕が、音もなく上がろうとしていた――。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
今回は「兆候」と題して、裏で動き始めた“黒手”の存在が本格的に物語へ絡み始めました。
これまで準備や小競り合いだったものが、いよいよ核心へと近づいていく流れになっています。
廃棄された地下施設、そして過去に“帰還者”が収容されていたという因縁の場所――次回以降の展開はさらに緊迫していきます。
読んでくださった皆さまの応援や感想が、本当に次の物語を紡ぐ力になっています。
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それでは、次話もどうぞお楽しみに。




