第88話『深淵 ――影の主との邂逅』
黒塔の最上階。
石造りの広間は静寂に包まれ、壁面を這う魔法陣が淡く光を放っていた。その光の中心に――“影の主”は姿を現した。
黒衣をまとい、仮面で顔を覆ったその存在は、人間とも魔族とも判じがたい。だがただ立っているだけで、空気が凍りつくような圧が周囲に広がる。
「ようやく来たか……異世界帰りの賢者、リュウジ」
低く響く声に、リュウジは剣を構え直した。隣では仲間たちが緊張に息を呑む。
「お前が……“影の主”か」
「名などどうでもよい。ただ、ここでお前の歩みを終わらせる。それが、この世界に課せられた均衡だ」
言葉に込められた気配は、圧倒的な悪意と冷徹さだった。
リュウジの胸に、かつて異世界で戦った最強の魔王との戦いの記憶がよみがえる。だが、目の前の“影の主”はそれすら凌駕する何かを持っていた。
「均衡だと? そんなものは、お前たちの都合だろう」
「都合……? ふふ、人間はいつだってそうだ。己の生を肯定するために、世界の理すら捻じ曲げようとする」
黒い仮面の奥から、嗤う声が響く。
次の瞬間――広間全体に漆黒の影が溢れ出した。床も壁も天井も、すべてを飲み込む暗黒の奔流。仲間たちは思わず身をすくめる。
「くっ……!」
「下がれ!」
リュウジは仲間たちを背に庇い、魔力を解放する。青白い光が彼の全身を包み、影の奔流と激突した。
轟音。広間が震え、瓦礫が降り注ぐ。
影と光が拮抗する中、影の主の声が再び響いた。
「リュウジ……。お前こそが、この世界を滅ぼす因子だ」
「俺が……滅ぼす?」
「そうだ。お前の“力”こそが、世界を狂わせている。異世界の知恵も、技術も、この地には不要だ」
その言葉は、リュウジの心を抉るように突き刺さった。
自分の歩みが、本当に間違っているのか。
この世界で仲間を守り、未来を切り開こうとしてきたことが……滅びを呼ぶのか。
「……そんな理屈で、俺は止まらない」
リュウジは剣を強く握りしめ、仲間の声を背中に感じた。
「リュウジさん、私たちもいる!」
「信じろ、共に戦う!」
「未来は俺たちの手で掴むんだろ!」
その言葉に、迷いは消えた。
「影の主――お前を倒し、未来を証明する!」
リュウジの叫びとともに、光と影が再び衝突する。
深淵の戦いが、今始まろうとしていた。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
ついに“影の主”が姿を現しました。
リュウジの前に立ちはだかる存在は、これまでの敵とは比べ物にならない威圧感を放っていますね……。
そして彼が語った「リュウジこそ世界を滅ぼす因子」という言葉。これは今後の物語の核心に深く関わってきます。
次回はいよいよ本格的な決戦。仲間との絆、そしてリュウジ自身の覚悟が試される大きな山場になります。
ぜひ次話もお楽しみに!
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それでは、次回もよろしくお願いします!




