第108話『兆し ――静寂を破る影』
夜の都会は、昼間とはまるで違う顔を見せていた。
ネオンの光に照らされるビル群、その隙間を縫うようにして黒塗りの車が一台、静かに走っていく。
運転席の男は無言。後部座席に座る篠原は、窓の外に流れる街並みをただ見つめていた。
胸の奥に巣くう不快なざわめきは消えない。
あの日――リュシアの瞳を見たときの感覚が、どうしても頭から離れなかった。
(俺は……本当に正しい道を歩いているのか?)
しかし、問いかけた瞬間に胸を突くのは、かつての野心とプライドだった。
政府に従い、力を得て、かつて自分を見下した連中を見返す――そのためにここまで来たのではなかったか。
葛藤の渦に飲まれる篠原をよそに、車はとある施設の前で停まる。
そこは、政府直轄の研究所。地下に隠された施設では、新たな計画が密かに進められていた。
篠原を迎えたのは、一人の研究員だった。白衣を着た男は、無機質な笑みを浮かべながら告げる。
「例の“賢者”に対抗する手はず、整いました。これで彼も無力化できます」
篠原の眉がぴくりと動く。
心臓が強く脈打つ。
それが「安堵」なのか「恐怖」なのか、本人にもわからなかった。
一方そのころ――。
賢者である主人公・悠真は、都内の自社ビルの会議室にいた。
仲間たちと共に机を囲み、新たに判明した政府の動向について情報を整理している。
「……やはり動き出したか」
悠真の声は低い。
リュシアや他の仲間も、真剣な表情で耳を傾けていた。
「次に狙われるのは、間違いなく俺たちの“技術”だ。異世界で学んだ知識を元にした研究成果……それを奪う気だろう」
その言葉に場が重苦しい沈黙に包まれる。
だがリュシアが小さく微笑み、力強く頷いた。
「大丈夫。あなたには、私たちがいる」
その言葉に仲間たちの視線が交わり、空気がわずかに和らぐ。
だが、嵐の前の静けさは長くは続かない。
窓の外――都会の夜空に、不穏な黒い影が瞬き、やがて消えていった。
その正体を知る者はいない。
だが確かに、決戦へとつながる兆しは動き始めていたのだった。
第108話『兆し ――静寂を破る影』をお読みいただき、ありがとうございます。
今回は「決戦前の静けさ」をテーマに描いてみました。
篠原の揺らぎと政府の暗躍、そして悠真たちの仲間としての結束。
大きな戦いの前に、それぞれの想いが交錯し始める瞬間です。
いよいよ物語はクライマックスに向けて加速していきます。
「兆し」が「嵐」となってどう降りかかるのか、次回もぜひ楽しみにしていただければ嬉しいです。
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