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第8話 霧島 星羅(5)


「――」

血まみれになったまま意識を失い、俺の腕に抱かれている霧島(きりしま) 星羅(せいら)


チュッ…

そんな彼女の唇に強くキスをしながら、

命の欠片を押し込むように、細かく砕いたチョコレートを直接彼女の口の中へと運ぶ。


「……」

しばらく何の変化も見せなかった霧島(きりしま) 星羅(せいら)だったが、


「………う、うん……」

小さな呻き声と共に、力の抜けていた瞳にもゆっくりとかすかな光が戻り始めた。


(霧島(きりしま)、意識が戻った!だとしたら……)

さらに強く抱きしめ、喉が詰まることを懸念して慎重に渡していたチョコレートの欠片をより積極的に押し込む。


「う、うん…!?んう…んん……!!」

突然の事態に思考が追いつかないのか、かすかに残った体力で俺の唇から逃れようとする彼女。


まだだめだ。チョコレートをちゃんと飲み込ませるまでは……!

固い意志で霧島(きりしま)を抱きしめたまま、口の中のチョコレートを確実に伝える。


「う…んっ…!……!!」

短い時間、小さく首を振りながら頑なにそれらを拒んでいた彼女は、

「…ん……ううん……ゴクッ。」

やがて諦めたように目を閉じたまま、渡されたチョコレートの欠片を飲み込んだ。


(……これで、ある程度は大丈夫になっただろうか…?)

ゆっくりと霧島(きりしま)の唇から離れ、彼女の状態を再び確認する。


「はぁ…はぁ… …うぅっ……」

顔を真っ赤に染めながら視線を逸らす彼女。


黒く染まりかけていたシールドは依然として赤みが残ってはいたがオレンジ色に安定していき、

眼差しもまた困惑に満ちてはいたが、確実に俺を認識できるほど好転したのは確かだった。


賭けは結局、成功した。

(ふぅ…一時は本当にどうなることかと思ったけど、マジで助かった……)


「…………」

しかし、依然としてその霧島(きりしま)本人には何の言葉も無かった。

突然現れた隣の男子に抱きかかえられているにもかかわらず、

彼女はただ小さく身を寄せたまま、何かを待つように横目で俺を見ていた。


夕焼けに照らされて金色に輝き始めた銀髪と、小さく涙が滲んだ目元。

チョコレートが薄く塗られた唇で彼女は小さくつぶやいた。

「……もう少しだけ、だめ…?」


「――」

瞬間、理性という概念が消え去る。

返事さえせず、再び彼女の唇に自分を重ねる。


「あ…う…はぁ……!」

霧島(きりしま)もまた激情的に俺の口の中をまさぐり、俺たちはしばらくそうやって互いを貪り合っていたが――


―バッ。

慌てて俺を突き放した霧島(きりしま)によって、唐突に状況は終了した。


「…………(じん)君、いや、あなた……」

依然として上気した表情だったが、非常にはっきりと『愛情』ではない別の感情で満たされ始めた霧島(きりしま)


「う、うん…?」

突然の彼女の変化についていけず、ただ目を瞬かせるばかりで彼女を見つめる。


「……私、チョコレート欲しいって言ったの!だ、誰がキ、キ、キ…スしろって言ったのよ!!?」


……


…あぁ。もっとくれって…アレのことだったのか……

いや、考えてみれば当然か……?

たった数時間前に俺を告訴した子が、いきなりキスを要求するわけないじゃないか。

俺だってさっきまで自分勝手ヒロインだのなんだの、散々星羅(せいら)を罵ってたのに……


何だかどっと気が抜け、急激な疲労感が押し寄せてきた。

「あ…うん。ここに…残りの…」

まだ半分ほど残っているチョコバーを、依然として俺に抱かれている霧島(きりしま)に手渡す。


「…………」

しかし、何を考えているのか、渡されたチョコレートをただ見つめているだけの彼女は、


「?お腹空いてるんだろ、ほら……」

見かねた俺が再び言いかけた途端、


チュッ。

抱かれた体勢のまま、自分の唇をチョコバーに持っていった。


「……!」


言葉で表現し難い当惑に包まれ、そのまま固まってしまった俺の腕の中で、

…カリッ。サクッ。

霧島(きりしま)は目を閉じたまま少しずつ、ゆっくりとその甘いものを噛んで飲み込んだ。


……

何分だったのか、何秒だったのか分からないチョコレート伝達過程が終わり、


「….. あ!」

黙って俺に抱かれていた霧島(きりしま) 星羅(せいら)が、何かが突然思い浮かんだようにぱっと身を起こした。

少しふらついたが、幸い顔色を見る限りシールドの色もほぼ安定化が完了した彼女。


(まさか今回も俺を非難するんじゃないだろうな…?)

なぜか本能的にそんな心配をしていたところ、


「あの女、どこへ行ったの?!」

霧島(きりしま) 星羅(せいら)の緊張感の高い言葉に、はっと我に返る。


そうだ、こんなことしてる場合じゃなかった……!

慌ててあの女――ショートヘアのストーカーが飛び降りた窓際を見る。


霧島(きりしま)を救うという最優先目標を達成した今、

次に重要なミッションは、この全ての元凶であるストーカーを捕まえることだった。


エーテルを最大限に目に集中させ、アパートの正門周辺を睨む。

(ダメージを負ったまま5階から飛び降りたんだから、完全に無傷で逃げられるはずがない。隠密状態で攻撃を仕掛けた以上、彼女の得意技である認識阻害ももう通用しないだろう)


「あそこ、あそこよ!」

俺より早くストーカーを見つけ出した霧島(きりしま)

俺もまた正門ではなく、アパートの塀を越えて逃げようとするショートヘアのストーカーを肉眼で確認する。


しかし、

(遠すぎる…どんなに短く見積もっても200メートル以上はある。あの距離じゃ攻撃できる手段がない……!)

俺がそう悔しさに拳を強く握った刹那、


―ブオン。

霧島(きりしま) 星羅(せいら)の体の周りから銀色の光が放たれ始めた。

斜めに体を向けたままストーカーに向かって左手の人差し指を向ける彼女。


『エーテル系エネルギー射出型レンジアタッカー』霧島(きりしま) 星羅(せいら)


別の言い方をすれば遠距離攻撃手である彼女は、当然ながら名前の通り遠く離れた場所に攻撃をすることができた。


しかし、

(彼女のヒロインパワーは午前中に確認した時、だいたい95HP……)

エネルギー射出は距離に比例して急激に威力が落ちる性質を持っているから、その程度のヒロインパワーじゃ100メートル以上離れた相手にはまともなダメージを与えられない。


(……止めるべきか?)

ある程度回復はしたが、依然として彼女のコンディションは正常とは程遠かった。

こんな状態でわざわざそんなエーテル浪費をさせる必要は――


バチッ。

その瞬間、霧島(きりしま) 星羅(せいら)の人差し指の先から発生し始めた白色の稲妻のような何か。


(エーテルプラズマ?!)

それは一般的に『非常に強力なヒロインの周辺で発生する有色の放電』と定義されるだけだ。


しかし俺は、

『標準大気圧基準、198.7HPを超える高エーテル出力によって周辺空気がプラズマ化する現象』だということを、姉さんとの経験を通じて正確に知っていた。


――ドオオオォォン!!!

次の瞬間発射された純白の光。


それは周辺の空気層をイオン化させながら直線に進み、

200メートル先のストーカーを正確に貫いた。



……


それから約30分後、

「私たち今日でもう二回会うね、天海(あまみ) (じん)君?せめて今回は被疑者じゃなくて本当に良かったね?」

俺と霧島(きりしま) 星羅(せいら)は、ほんの数時間前に訪れたヒロイン治安隊に再び訪問することになった。


「あの…悪いストーカーを捕まえてきたんですから、とりあえず少しだけでも褒めていただけませんか、治安官のお姉さん?」

「はぁ、全く。誰かが聞いたら君が捕まえてきたと思うじゃない、(じん)君?結局ヒロインの星羅(せいら)ちゃんに解決させたくせに、あまり恩着せがましくしちゃダメよ~?」


「……」

少し悔しい気持ちがこみ上げ、当事者である霧島(きりしま)を黙って見つめたが、

「コホン!」

肝心の彼女は俺から視線を逸らしたまま咳払いをするだけだった。


「はぁ……」

何が気に障るのか積極的に助けてくれない彼女を見て、ただ小さくため息をつく。


まあ、男である俺が「ヒロイン」ストーカーを捕まえてきたと説明するのは常識的に無理がある話ではあった。

結局実際にストーカーを直接制圧したのは霧島(きりしま)だったし。


でも、その霧島(きりしま)を危機から救ったのは俺なのに。

ストーカーで変態っていう汚名を着せられる危険を冒して実行した、まさに勇猛果敢?な行動だったのに。

でもそれをまた褒めてもらおうとわざわざ話すのもちょっと……


そんな少し了見の狭い悩みをしていたところ、

「ところで結局、(じん)君も星羅(せいら)ちゃんの家に無許可で入ったんじゃないの?」


ビクッ。

治安官のお姉さんの言葉に驚き、言葉を失ってただ目を瞬かせる。

「あ…いえ、僕は話した通りストーカーを確認して彼女を助けようと…いや、それでも侵入は侵入…ですが!善意があったので、いや善意しかなかったので!その部分はどうか酌量を……!」

そう慌てて弁解していたところ、


「ははは!ただの冗談よ、そんなに真剣に受け取らないで~」

治安官のお姉さんが冗談だというように手を振りながら続けた。


「それにしてもあなたたち、まだ学生なんだからほどほどに、そして安全にしなさいね~?」


「……はい?いえ、一体何を…ですか?」

あまりにも突然な治安官のお姉さんの話題転換に頭がついていかなかったが、


「何って何よ~二人とも堂々と口にチョコレートつけてるくせに~」

その言葉に霧島(きりしま)と俺は顔を真っ赤に染めたまま、ただ慌てて口元を拭うしかなかった。


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