第13話 校内選考会(5)
ブオン―
霧島 星羅がハイブエリアの外から強く投げたキューブ。
「……シュート、完全に外れてるじゃない。クスッ」
ゴールから大きく外れたその軌道を見て、木崎 静姫がふっと笑った次の瞬間。
キューブは空中で急激に「く」の字に軌道を変えた後、
ドン!!
まるでゴールに吸い込まれるように、そのまま叩きつけられた。
……
コン、コン。コン…
依然として衝撃に揺れるリングの下、床に落ちたキューブが数回床を跳ねた後、やがて止まる。
しばしの間、沈黙に包まれた競技場。
「2 – 4、ですよね、審判?」
その沈黙はリングの下に立っていた俺の言葉が終わった後、
[ゴ、ゴール―!1年生チーム、初得点で追い上げます!4 – 2!!]
審判の宣言と共に大きな歓声へと変わった。
「ダンク!?今、『あの弟』がダンクしたの?!」
「それも空中でそのまま掴んでアリウープダンク!!」
「??今の3点シュート、エアボールになる状況じゃなかったの?」
「エアボール?私Aパスだって最初から分かってたけど」
「分かってたって何だよ、『あークソみてぇなシュート!』って叫んだのお前じゃねぇ?」
「あいつ、どこから急に現れたんだ??」
「全然見えなかったけど、一体何なに?!」
ピーッ、ピッー!
そんな中、次の攻撃が始まる前に前半終了のホイッスルが鳴り、
後半が始まるまで15分間の休憩が与えられた。
「結局2点差しかないじゃない!」
「…..ちくしょう、五十嵐……この野郎!」
自分たちが勝っている状況で前半が終了したにもかかわらず、口を尖らせて競技場を後にする崎田 千代と赤木 朱音。
「……クスッ、星羅ちゃんにばかり気を取られすぎたかしら」
俺を完全に見失ったことを自分でも理解できないというように首を横に振る木崎 静姫。
静姫先輩は悪くないですよ。まあ、それを話してあげる気もないし、その必要もないけど。
何とか使うことができた。
霧島のストーカーから借りた『認識阻害』。
能力を見破られた相手を除けば完全に認識範囲外へ抜け出せるチートスキル。
(だが、この戦略はもう使えない)
この技の致命的な欠点は、効果が終了するのを一度でも見てしまった相手には全く通用しないという点だった。
俺が空中でキューブをキャッチした瞬間、『認識阻害』は即座に終了したため、この技はもはやこの競技場の誰にも効果がなくなる。
(じゃあ後半戦は……)
ドカッ!
「仁殿!!お見事でござった!!拙者もそなたがその場所にいたとは全く知らなかったでござる!」
いつの間に周りに駆け寄り、俺の肩に体当たりをかましながら話す五十嵐 真之介。
「この野郎、痛ぇじゃねえか!」
奇襲を受けた肩をさすりながら反対側を見ると、
「天海君!ナイスシュート…!!」
霧島 星羅もまた革靴でちょこちょこと駆け寄り、俺に親指を立ててくれた。
「いやしかし、このような計画を持っていながら、どうして拙者にはわざわざ話さなかったのでござるか!これは誠に残念至極でござる!」
「あ、それな。この能力は一度でもトリックを見破った相手には二度と通用しなくなるんだ。だからわざと話さなかったんだよ」
「いや、拙者は味方なのにそれが何の関係があるのでござるか!」
「お前に教えたら間違いなく目で俺を追うだろうから、それで先輩たちが気づくかもしれないと思ったんだ」
「ううむ……悔しいが否定はし難いでござるな」
「敵を欺くには、まず味方から…ということね!天海君 、本当に賢――……え…?」
さっきまで上がりっぱなしだった霧島のテンションが、突然急激にダウンする。
(霧島、急にどうしたんだ?まさか、お腹が空いたとか…?)
もしやと思い準備しておいたチョコバーを探っていると、
「…… 天海君、筆箱…どうして……」
…?筆箱?急に何で筆箱?
「あ、もしかしてパイのこと?」
やはり能力を乱射した彼女だからお腹が空いた――
「いや、天海君 、あなたの筆箱のこと!」
「??」
何のことだ?
霧島の言葉が全く理解できなかった。
「あ…そなた、何か深刻な過ちでもまた犯したのでござるか…?」
真之介の奴、またとんでもない憶測を。
俺は今日は誓ってそんなおかしな行動はしていな――
「筆箱、どうして天海君が登校する前から机の上に置いてあったの…!?」
……しまった。
『認識阻害』を使って登校した朝。
俺の体だけじゃなく、筆箱も一緒に避難させるべきだったのに……!
突然、雨のように流れ始めた冷や汗。
そんな俺の反応を見て、
霧島の顔もまた急激に赤く染まっていった。
「天海君…全部…全部、聞いてたんだね……」
やがて赤くなるのを通り越し、泣き出す寸前の状態になった霧島 星羅。
「ぜ、全部じゃない!そ、ほぼ完全に最初の方から…聞いてなかった!すぐ、本当にすぐ教室から出たから!」
ありのままの事実を話してみたが、
「……ひどい」
うつむきながら小さくつぶやく彼女。
「昨日、私、ストーカーにあんな目に遭ったのに……天海君も同じようなことするなんて……私、私……」
もはや言葉を続けられず、涙を盗みながら控え室へと駆け込んでいった霧島。
「…………」
返す言葉もなかった。
いやそれより俺、今日一体いくつのミスを重ねてるんだ……?
混乱した頭でぼんやりと、しばらくその場に立っていると、
「仁殿…まこと救いようのない変態でござるな……」
呆れたように、どうしようもないという目つきの真之介が静かにつぶやいた。
…
……
約15分後、
後半のため再びグラウンドに集まった6人。
幸いなことに霧島も再び競技場に出てきてくれたが、
「……」
完全に表情が消えた彼女には、一言話しかけることさえ難しかった。
『そなた、この状況をどうするつもりだ…!』
『……え…うーん、さあ……』
『これは一体どういうことだ!この状態では方法が無いであろう!まさにノーアンサーだ!!』
霧島に聞こえないように囁きながらも怒りを露わにし、ぴょんぴょん跳ねる五十嵐 真之介。
奴が興奮するのも一理あるとは思ったが、ハーフタイム中にいくら頭を捻ってもすぐに妙案は思い浮かばなかった。
ピーーーッ!
そんな中、後半の開始を告げる審判のホイッスル。
前半を2年生の赤木崎田組の所有で開始したため、俺たち1年生の攻撃権で始まる後半。
床のキューブを見つめ、しばし考え込む。
(どうすればいい…?とりあえず、俺がキューブを運びながら――)
その瞬間、
バッ。
芝生の上に置かれたキューブを奪うように掴み取った霧島が、相手陣営に向かって走り出した。
(……!追いかけないと!)
彼女のバックアップのため、少し距離を置いて俺もまたゴールポストに向かって走り出す。
「……」
しかし、と言うべきか、やはりと言うべきか。
横で一緒に走り出す俺には目もくれない霧島 星羅。
赤木 朱音が霧島を止めようと動きかけた瞬間、
「おっと、朱音先輩、どこへ行くのでござるか!拙者と共に楽しい時を過ごさねばならぬではないか!?」
前半と同様に真之介が彼女を阻んだ。
しかし、
「ごめんけど、もうどいてくれ」
何かを決心したように、ついに真之介を肩で突き飛ばして進もうとする赤木 朱音。
ドン!
「うおあああっ~!?」
170cmの赤木 朱音と160cmの五十嵐 真之介。
真之介は肩でのぶつかり合い一回であまりにも軽く、埃のように遠くへ弾き飛ばされてしまった。
「……うっ」
弾き飛ばされて芝生の上を転がる真之介を見て、しばし立ち止まる赤木先輩。
そんな彼女が目をぎゅっと閉じ、霧島の方へ向かおうとしたその時、
ピーーーッ!
試合中断のホイッスルが鳴る。
[赤木 朱音選手、キューブと関係ない場所での攻撃行為!警告1回!]
「え?ただ肩で少し押しただけだって!これは攻撃じゃない!むしろ五十嵐が私の進路をずっと邪魔してるんだって!!」
赤木 朱音が慌てて抗議してみたが、審判は首を横に振るだけで判定は覆らなかった。
「本当に納得いかない!判定をこんな風にしちゃったら――」
「…朱音、とりあえず落ち着いて。減点まではされなかったんだから」
興奮して審判に向かっていった赤木 朱音を何とか木崎 静姫が止める。
「いや、こんなんじゃ試合をどう進めろって言うんだよ!?」
それでも納得がいかず首を横に振る赤木先輩。
(十分に理解できる、その気持ち)
普通なら当然問題にならない程度のボディコンタクト。
しかし奴が五十嵐グループの子息であるという点が作用したのか、
それとも160cmのチビな一般人男性という点のせいか――
いずれにしてもこちら側に有利に下されたその判定に小さく安堵のため息をつき、吹っ飛ばされた真之介に近づいて手を差し伸べる。
「いいぞ、五十嵐。お前の演技のおかげで赤木先輩はますます萎縮せざるを得なくなった」
「う、ううう……」
しかしホイッスルが鳴ってからしばらく経っても、そのまま芝生の床に突っ伏している真之介。
「真之介、もう起きろ。演技はもういいって」
「そ、それはそうでござるが…」
「時間を稼いだら逆にこっちが反則になるかもしれないぞ?」
「わ、分かったでござる……す、少しだけ…イタタタ……」
何とかふらつきながら俺の手を掴んで立ち上がった真之介。
「じゃあ、攻撃を再開しよう。お前は引き続き赤木先輩にくっついてくれ」
そうして再び自分の場所に戻ろうとする俺の背中に、真之介の一言が突き刺さる。
「拙者…その、か、肩が外れてしまったようでござる…」