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第1話 極東ヒロイン高校


2035年3月、人類連合 統合首都、新京。


俺、天海(あまみ) (じん)がヒロイン専門学校「極東ヒロイン高校」の校門を通り過ぎた瞬間、


ドン!

「おお、仁ではないか!本日も良い朝であるな!」

上半身を揺らす小さな衝撃と共にかけられた声。

「……真之介、いつまで先に殴ってから話すつもりだ?」

あまりにも昔から続いている朝の挨拶に、振り返ることなく答えた。


五十嵐(いがらし) 真之介(しんのすけ)

小学校からの友達で、ふわふわした茶色の薄毛が目立つ身長160cmのチビ野郎。

なかなか顔の目立つ奴だが、壊滅的に低い身長のせいか女性にモテるようなことはなかった。

「おい、今や見向きもせぬか友よ?拙者は悲しいぞ。」


訂正。

こいつがモテない理由は、この時代錯誤な口調のせいだ。

その時、登校する俺たちを見つけてひそひそと話し始める女生徒たち。

「見て!天海 仁と真之介よ!」

「本当だ。噂は聞いてたけど、実際に見たのは今日が初めて」

「うわ…本当に来たの?ここに?頭おかしいんじゃない?」

「実は重度のマゾヒストだったりして。wwww」

「シーッ!あんた、何かあったらどうするの?」

「何か?何かって?馬鹿なこと言わないで。あいつらが 何かやられるならともかく」

「あいつらじゅない。当然、後ろ盾の話よ」



「……」

どうせ予想していたことだし、入学初日だった昨日ほどではなかったが…


やっぱムカつく、この見世物にされた感じ。


「はは、ご婦人方の風変わりな歓迎方法と思うのだな。拙者は気にしておらぬ故、そなたもあまり気にするでないぞ」

眉をひそめた俺を慰めるようにかけられた真之介の言葉。


しかし、

「これ全部、お前のせいだろ!!」

気楽な真之介に向かって、我慢してきた苛立ちをぶちまける。

「?何故すべてが拙者のせいであるか?半分というならまだしも納得できようが」

何の問題もないというように、しれっとしている奴。

「お前が、お前の五十嵐(いがらし)グループが運営する学校だからって理由で!俺をここに!無理やり配属させただろ!!」



極東ヒロイン高校。

この学校は1999年から始まった異星生物群SLIME(Silicon-based Liquid Intellectual Modifiable Extraterrestrial)の侵略に対抗する人類唯一の対策『ヒロイン』を育成する特殊目的高校の一つであり、

そのヒロインたちの超能力は、何故か女性にのみ発現したため――


当然ながらここは、

限りなく『女子校』に近い場所だった。



「ほっほっ~、そのようなことを気にしておったのか?拙者を見よ。非常に平安に見えぬか?そのようなものは全て我々心中の煩悩に過ぎぬ――」

「戯言はやめろ!そうさ、お前は世界を牛耳る五十嵐グループの後継者だから関係ないだろうけど、一般人の俺はどうなるんだよ!」


危機感のない真之介の言葉を途中で遮り、俺の悔しさをぶちまけてみたが、

「ほう、天海 仁、そなたが『一般人』とな……それもまた実に興味深い観点であるな」

細く目を開けたまま小さく微笑む奴のせいで言葉に詰まってしまう。


そんな中、ますます大きくなっていく周囲の視線。

「うわ、あいつら喧嘩してるの?」

「マジマジ?」

「www、可愛いね。あれが喧嘩してるつもりなんだ」


俺が少し立ち止まったせいで、俺たちへの関心はますます高まっていき、

「五十嵐の御曹司と<あの弟>の組み合わせなんて、喧嘩しようが転がろうが超興奮よね?!」

「はぁ…こいつマジでヤバい」

「ヒロイン治安隊に通報必要。ちなみにあいつらじゃなくて、あんたのこと」


そろそろ聞きたくなかった単語まで耳に入り始めた。

「……あー、もういい。真之介、ここに突っ立ってないで、とりあえず俺たちのクラスに行こう」

神経質に後ろ髪を掻きながら真之介に言う。

「先に立ち止まったのはそなただが、賢明な考えであることには同感であるぞ」


相変わらず憎らしい言葉で返す真之介を適当にあしらい、1年生の教室へ向かう階段を上っていた時、


「おい、新入生なら新入生らしく、まず先輩にご挨拶しろよ、シカトするつもりか?」

「クスッ」

「そうそう、帽子も脱いで丁寧にね。丁寧~に!」

新入生一人と、彼女を取り囲む2年生の先輩三人が視界に入る。


「おお…ここまでも険悪な空気が漂ってくるな。別の道に迂回するのが上策と思われるが、そなたの考えは如何か?」

一目見ても不良っぽく見える先輩たちを前に、素早く尻尾を巻く真之介。

…こいつ、俺には一言も負けないくせに逃げ腰になりやがって。


まあ、当然か。

一般人の男である俺とは違い、相手は――


ドゴォォン!!

瞬間、轟音と共に強い振動が立っていた階段を伝わってくる。

衝撃の源は隅に追い詰められた新入生。

正確には、彼女のすぐ横に突き刺さった先輩の拳だった。


壁に半分ほど埋まった不良先輩の「鉄拳」。

鉄のように強力だという比喩ではない。

その拳は本当に鋼鉄のように銀色に光っていたのだから。


「うわあああ… や、やはり早く逃げるのが上策であるぞ!あの拳、間違いなく、そ、そのお方だ!」

その殺伐とした光景を前に足を震えながら俺を引っ張る真之介。

俺もこの学校に来た以上、当然知っていた。


赤黒い癖毛に170cmの長身、

まだ学生でありながら正規ヒロイン平均出力を30%も上回る130ヒロインパワーを持つ怪物。


赤木(あかぎ) 朱音(あかね)


「赤木! 赤木先輩ですぞ!あの『赤木崎田組(あかぎさきたぐみ)』の頭、赤木 朱音のことだ!しかも、三人が全員揃っている!」

赤木(あかぎ) 朱音(あかね)木崎(きざき) 静姫(しずき)崎田(さきた) 千代(ちよ)

三人の名を合わせて赤木崎田組(あかぎさきたぐみ)と呼ばれる彼女たちは、

この極東ヒロイン高校の誰もが認める問題児集団だった。



「なぜじっとしているのだ!目でも見えぬのか!?だめだ、こうなった以上拙者だけでも――ぐはっ!」

子犬のようにわなわな震えながら逃げようとする真之介の首根っこを掴んだまま状況を窺う。

奴があんな質の悪い先輩たちを目の前にしてこんな反応を見せるのは至極当然ではあったが……


「お前こそ目が見えないんじゃないか?」

「え、え…?」

ようやく無駄な足掻きをやめ、そちらを見る真之介。


深く被ったキャップ帽に黒いレギンス、白いスニーカー。

凶悪な先輩たちに囲まれた1年生は、


「クレイジーアナグマ、冴島(さえじま) (りん)じゃないか」



五十嵐中出身なら知らないはずがない「クレイジーアナグマ」冴島 凛。

彼女は壁に叩きつけられた拳をしばし目で流し見た後、

「そっちから歓迎の挨拶をしてくれるとは、探す手間が省けたぜ。私もアンタら、近いうちに叩きのめしてやろうと思ってたからな」

朝から喧嘩を売ってくる不良上級生たちに向かって不吉に微笑んだ。


「……このアマ……」

「―クスッ」

「な、なんだって!?あんた…!」

予想外の新入生の反応に雰囲気はさらに険悪になり、

数人いた見物人さえ良くない雰囲気を避けるようにその場を離れた。


「あ…あわわ…いくら『クレイジーアナグマ』冴島でも予備ヒロイン三人を一度に相手するのは不可能であるぞ…!あ、拙者も急用を思い出したのでこれにて…げふっ!!」

他の生徒たちに紛れて逃げようとする親友、真之介(しんのすけ)の襟首を掴んで考える。


ヒロイン中出身の2年生三人 vs 一般中卒業の1年生一人。

普通に考えればそもそも比較が無意味なほどの戦力差だったが、


……冴島なら、もしかしたら…?


「朱音!こいつ、適当に『イエロー』くらいにしてやろうと思ったけど考えが変わったわ!」

「てめーは即刻『ブラック』行きだこの野郎…!!」

「……フッ」


ヒロインの身体周辺には彼女たちの身体を保護するサイキックエーテルシールド――普通『シールド』と呼ばれる――が常時展開されている。

シールドは健康な状態で衝撃を受けると青色に点滅し、

ヒロインの状態が悪くなるにつれて青から黄色へ、そして赤色へとその色が変わる。

シールドが赤色、通称『レッド』になるということは、運動競技の場合、即時棄権処理されるほどの深刻な状態を意味し、


「き、聞いたか!?ブ、ブ、ブラックだと…!先生、いや治安隊を呼ばねば…!とりあえず拙者がその役目を買って出て電話機のある職員室へ…げふっ!」


最後に『ブラック』とは、

ヒロインが死亡する直前60秒間展開される緊急救助用絶対保護膜を指した。

ブラックが展開されたヒロインは最低三日以上意識不明に陥り、ひどい場合は……二度と目覚めない。


つまり、

殺してやるという意味以外、何物でもなかった。




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