表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

3 ヤシマ誕生秘話

「すみません。何から何まで」

「いいんです。明日楽しみにしてます!」


 結局、ヤシマことマックスが一人でホテルに戻れるか桜子が心配して、桜子の父が車を出した。マックスがホテルの中に入るのを確認してから、桜子の父は車を出す。


「桜子。私は反対だぞ。あんな身元がしっかりしていない男とデートなんて」

「マックスはヤシマよ。変なことなんてするわけないでしょう?」

「いや、信用おけない。明日どうせなら、私も一緒に」

「いや。絶対についてこないで」


 桜子は心配症の父を必死に止め、明日への期待に胸を高まらせる。

 雲の上の存在だと思った配信者、ヤシマとデートできるのだ。

 夢のようだとうっとりする。

 動画上のヤシマはリアクションが大きく、腕にも刺青を入れていて、軽そうなイメージだった。

 実際のマックスは全然異なり、刺青もシールで張るものと気が付いた。ピアスだと思ったのもどうやらイヤリングだったらしい。

 リアクションが大きいところなどは実際の彼もそうだった。

 とても可愛らしい反応で思い出すだけで桜子はニマニマしてしまう。


「桜子。やはり明日は私が」

「絶対にダメ。ついてきたら、嫌いになるから!」

「わかった。けど、二人っきりにならないように。沢山の人がいるところに行きなさい」


 父にそう言われたが、約束ができなかった。

 マックスが行きたいところは、僕学のロケ地だろう。そうなると観光地ではなく、繁華街から離れる可能性が高い。

 桜子は嘘をつきたくない。

 だから、父の言葉に返さなかった。


「桜子」

「心配しないで。パパ」


 桜子の家は喫茶店の上にある。

 喫茶店は民家を改装して作ってあるのだ。

 なので、車を下に止めてから、階段を登って上に上がる。


「二人ともどこ行っていたのよ!」


 家にたどり着くと、母親が帰っており、心配そうに出てきた。

 母に連絡してなかったと桜子が反省、父も同様。

 二人して母から説教を食らうことになった。

 けれども明日マックスと出かけることについて、母は全面的に賛成。

 小言をいう事はなかった。


 そうして翌日、桜子は送っていくという父を止めきれず、マックスの滞在するホテルへ向かう。父を無理やり帰らせてから、桜子はロビーで彼を待った。


「桜子」


 スマホをいじりながら待っていると声を掛けられ、顔を上げる。

 そこには昨日と同じ、ナードな恰好をしていたマックスがいた。

 黒縁眼鏡に昨日とは色がちょっとだけ違うパーカー、おそらく昨日と同じジーンズを着ている。


「マックス!」


 対する桜子は、動きやすい恰好はしているが可愛らしい眺めのカーディガンに、スリムな白色のジーンズ。靴はカーディガンと同じ色で桃色だ。

 マックスは、桜子を見ながらちょっと頬を赤らめている。

 配信者ヤシマとは全く別人の反応に、桜子は悶えそうになる。


(これが萌えるってことなのね。可愛い。マックス)


「今日行きたいところ教えて。一緒に行きましょう」

「ありがとう」


 マックスに微笑まれ、桜子はその可愛らしさにまた悶える。

 

(目がくりくりしていて、犬みたい。可愛い)


「どうしました?」

「なんでもない。まずはどこから行きましょうか」

「……ヤシマの学校のモデルになった学校に行きたい。もちろん、外から見るだけでいいんだ」

「南川高校ですね。バスに乗っていきましょう!」


 桜子は昨日のうちに予習をしていて、ヤシマの学校、有名なシーンの場所のモデルになったところの住所は調べ上げていた。

 そのルートも割り出しており、迷うことなくバス停にたどり着く。


「十分くらい待つみたいです」

「日本のバスは正確って聞いたことがあります。そうなんですか?」

「そうみたいです」


 桜子は実は海外旅行をしたことがない。

 日本しか知らない。

 だから、マックスの質問には曖昧にしか答えれなかった。

 

「バス来ました!」

「すごい。本当時間通りだ」


 感動するマックスに声をかけて、バスに乗り込む。

 小銭は十分持っているので支払おうとしたが、マックスが代わりに二人分運賃を入れた。

 彼も準備はしてきたようだった。


「お金くらいは支払わせてください」


 マックスは生真面目にそう言って、それがまた可愛いと思ってしまった桜子だった。


「桜子、ありがとう。僕一人だったら色々迷って大変だった」

「どういたしまして」


 バスで目的地まで30分ほどだった。


「桜子は僕がなぜ僕学のロケ地に行きたいか聞かないんですね」

「好きだからですよね?」

「そうです。僕は僕学が一番好きです。そして僕学が最初に僕が見た日本のアニメで、僕を救ってくれたアニメなのです」

「救った?」

「僕は見た通り、弱いです。だからいじめられてきた。卒業しても同じで、本当に生きているのが嫌だった。そんな時、僕学を見たのです」


マックスは少し涙目になりながら、僕学のすばらしさを語る。

僕学は正直、よくある少年漫画のストーリー。だからこそ、そこまで爆発的に人気が出ることはなかった。

マックスは、ヤシマに同調して、生きる気力をもらったと語った。そしてそこから日本のアニメに興味をもって、見始めて感想を共有したいことから、海外リアクターとして配信を始め、今に至る。

 普段の自分とは違う人物を演じることを決め、色々考えた結果、あのヤシマが出来上がったと語った。


「やっぱり軽そうに見えますか。それを意識したのですが、昨日桜子のお父さんに指摘されて考えちゃいました。でもあの変身のおかげで、誰にも気がつかれたことはないです」


 マックスはそう言って笑う。

 それが可愛くて、桜子は魂が抜けそうになった。


「桜子?大丈夫ですか?僕の話面白くなかったよね。配信と違って」

「そんなことないです!ヤシマの誕生秘話が聞けて嬉しかった。あと、マックスが本当の姿を私にさらしてくれて嬉しい。かわいいし」

「か、かわいい?聞き違いだよね」

「ああ、いっちゃった」


 恥ずかしい。

 桜子は自分の失言に頬を赤らめ、マックスはかわいいなんて言われて恥ずかしくてそっぽを向いた。


 車内で交わされる英会話。

 内容までわからなくても、周りの乗客は可愛らしい二人を優しく見守っていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ