表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/69

第8話 デート その2

「それじゃあ、ショッピングでも行こうか。」


「うん!」


 美咲が楽しそうに頷き、僕たちは電車で移動することにした。


 電車はそれなりに混んでいて、僕たちは窓際に並んで立つことになった。吊革を掴んでいると、車両が揺れるたびに吊革がギシギシと音を立て、窓の外には都会の景色が次々と流れていく。美咲は窓の外を見つめながら、ふと口を開いた。


「そういえば、悠真君って普段どんなお店で服を買うの?」


「俺?特にこだわりとかはないかな。適当に済ませちゃうことが多いよ。」


「え~、なんか意外。おしゃれなところで選んでるのかと思ったのに。」


「そんな風に見える?」


「見えるよ。だって、今の服装もすごく似合ってるし。」


その言葉に少し気恥ずかしさを覚えた瞬間、車両が大きく揺れた。


「きゃっ!」


 美咲がバランスを崩し、僕の方へ倒れ込んできた。咄嗟に手を伸ばし、彼女の腕を掴んで引き寄せる。その瞬間、彼女の身体の軽さと温かさが伝わってきて、心臓が一気に跳ね上がる。


「危ない、大丈夫?」


 僕の声が震えていないことを願いつつ彼女の顔を見ると、赤らんだ頬と潤んだ瞳が目に飛び込んできた。


「い、いえ……ありがとう。」


 美咲が小さく呟く。その髪から甘い香りが漂い、僕は瞬間的に言葉を失った。



▼美咲視点


(倒れるかと思った――。)


 電車の揺れでバランスを崩し、気づけば悠真君の腕の中に引き寄せられていた。その瞬間、驚きと安心感が一気に押し寄せてくる。


(……近い。)


 こんなにも近くで、彼の顔を見たことなんて今までなかった。その目が少しだけ心配そうに自分を見ているのがわかり、胸がドキドキと騒ぎ出す。


(心臓の音、聞こえてないよね……?)


 顔を上げることすらできなくて、視線を落としながら小さく呟いた。


「い、いえ……ありがとう。」


 本当はもっと気の利いた言葉を言いたかったのに――。「助けてくれて嬉しい」とか、「ごめんね、驚かせちゃった」とか。でも、頭の中が真っ白で、それ以外の言葉が出てこなかった。


(昨日からずっと楽しみだったから……余計にまともに話せないよ。)


 昨日からこのデートのことばかり考えて、準備も万全にしてきた。なのに、いざ彼と顔を合わせると、全然うまく言葉が出てこない。嬉しいのに、それをどう伝えたらいいかわからなかった。


(でも……この温かさって、なんだろう。無理に話さなくても、なんだか安心できる……。)


 彼の腕の中で感じたのは、ただ支えられたというだけではなかった。まるで冬の日差しに包まれるような、不思議な安心感。それが胸の奥に広がっていくのを感じる。

 隣を歩く彼の存在が、言葉を交わさなくても居心地の良さを感じさせてくれる。普段なら「沈黙」を埋めようとして話題を提供するけれど、今はそうしなくてもいい。彼と一緒にいるだけで、その沈黙が自然なものに思える。


(頼れるって、こういうことなんだ……。)


 普段の私は、頼られる側の人間だった。完璧な「橘美咲」でいるためには、誰かに弱さを見せるわけにはいかなかった。けれど、彼の腕の中にいたあの一瞬、そんな「完璧な自分」を忘れてしまった気がする。


 彼の腕から解放されると、軽く空気を吸い込む。顔が熱くなっているのを自覚しながら、表情を整える努力をする。


(悠真君……ありがとう。でも、まだちゃんと伝えられてない気がする。)



▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲



 車両アナウンスが次の駅の到着を告げ、僕たちは静かにホームへ降りた。美咲が軽く息をつく。


「さっきは本当にありがとう。悠真君がいなかったら、絶対転んでた。」


「いや、大したことしてないよ。でも、無事で良かった。」


「ふふ、やっぱり悠真君って優しいね。」


 美咲が微笑む。その笑顔は普段見せるものとは少し違い、柔らかさがあった。その裏に何かを隠しているようにも見えたけれど、僕はそれを深く追求することはしなかった。


 次のお店を探して歩き始める中、美咲がふと立ち止まった。


「悠真君って……不思議な人だね。」


「えっ、どういう意味?」


「ううん、何でもない。」


 彼女は軽く笑いながら言葉を濁した。その仕草に、彼女の中に秘められた何かがあることを感じつつ、僕はそれ以上追及しなかった。


「じゃあ、次はあっちの通りに行ってみようか。」


「うん!」


 美咲の声は明るさを取り戻したように聞こえたが、彼女の背中に一瞬だけ小さな影が差したように見えた。その影が胸に残る不思議な余韻を生み、次の言葉がすぐに出てこなかった。


(美咲……何かを隠してる?)


 けれど、今はただ彼女の笑顔を見守ることしかできなかった。


 美咲の声が混雑した街のざわめきに溶け込み、彼女の背中に映る影が心にさざ波を立てた。その答えを知るには、まだ時間が必要だった。

イケメンの包容力って、本当に大切だと思いませんか? いや、本当に大切。めちゃくちゃ大切。重要なので2回言いました(笑)。✨ 包み込むような優しさや頼りがいって、見た目だけじゃない魅力ですよね。


そんな包容力が生きる場面を今回はしっかり描いてみました! ぜひ読んで、感じたことを教えてもらえると嬉しいです! 感想や評価、お待ちしてます!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ