第69話 麻衣の疑惑、ついに核心へ!?
昼休みが終わり、午後の授業を控えた教室は、適度なざわめきに包まれていた。教室の窓からは、青空に白い雲が浮かび、心地よい風がカーテンを揺らしている。
そんな中、藤崎麻衣は、廊下からそっと教室の中を覗いていた。視線の先には、一人静かに本を読んでいる白石悠真。
(また一人で読書してるんだ……)
文化祭で見た悠真とは、まるで別人だった。美咲先輩と楽しげに話し、クラスの中心にいても違和感がなかった姿。それに比べ、今の彼はどう見ても「ただの地味なクラスメイト」だった。
(……やっぱり、変だよね?)
麻衣の心の中で、違和感は確信へと変わりつつあった。美咲先輩はクラスメイト全員に平等な態度を取るタイプだ。それなのに、悠真に対する接し方は、どこか特別に見えた。
麻衣は小さく息を吸い込み、決意を固めた。
「あの、悠真先輩」
廊下から声をかけると、悠真は少し驚いたように顔を上げた。
「……藤崎さん? 何か用?」
悠真は、できるだけ自然に振る舞おうとした。しかし、麻衣のまっすぐな視線に、少し居心地の悪さを感じる。
「あの、先輩って、髪型とか雰囲気を変えたら、けっこう印象変わると思うんですよね」
「え?」
唐突な話題に、悠真は戸惑った。
「それに、文化祭のときの悠真先輩って、すごく楽しそうでしたよね? いつもより……ずっと明るい感じで」
麻衣は、探るような視線を向ける。
「そ、そんなことないよ。ただ、文化祭だったから、雰囲気に流されただけで……」
悠真は、言葉を選びながら返す。しかし、麻衣は納得した様子がない。
「でも……橘先輩が悠真先輩にだけ、すごく親しげなの、ちょっと不思議なんですよね」
その言葉に、悠真の心臓が一気に跳ね上がった。
(やばい、これは……)
悠真がどう返すか迷っていると、突如として背後から明るい声が割り込んだ。
「ちょっとちょっと! 何話してんの?」
真琴と菜月、そして美咲が悠真の隣に並び、さりげなく麻衣との間に壁を作る。
「別に、大したこと話してないよね?」
真琴がにっこり笑いながら言う。
「え、でも私、悠真先輩に質問してたんですけど?」
麻衣は一歩も引かず、真琴たちを交互に見つめた。
「いやいや、悠真なんて地味男だから、別に探るようなことなんてないでしょ?」
菜月が軽く肩をすくめる。
「そ、そうだよ! 悠真君はただのクラスメイトだから!」
美咲も慌ててフォローを入れた。
しかし、この必死なフォローが逆に「何かある」ことを証明してしまった。
(……みんな、何かを隠してる)
麻衣の視線が鋭くなる。
「ねえ、美咲先輩」
麻衣は、美咲の瞳をじっと見つめながら、静かに問いかけた。
「先輩は、悠真先輩のこと、どう思ってるんですか?」
その質問に、美咲は一瞬、言葉を詰まらせた。
「え……?」
真琴と菜月も、美咲の反応を見て「やばい」と思った。
(しまった……!)
美咲は、自分の動揺が表に出ないように、必死に平静を装った。
「悠真君は……大事なクラスメイトだよ」
笑顔でそう答えたが、その声にはほんの少しの揺らぎがあった。
(先輩……嘘が下手すぎる)
麻衣は、美咲のわずかな動揺を見逃さなかった。
(やっぱり、何かある。悠真先輩には、私の知らない顔があるはず……!)
麻衣の胸の中に、ますます探求心が膨らんでいく。
「そうですか……。じゃあ、もう少しだけ、いろいろ知りたくなりました」
にっこりと微笑みながら、麻衣はその場を立ち去った。
その後ろ姿を見送る悠真たち。
「……終わった?」
悠真が、不安げに尋ねる。
「終わってないね、むしろ次のステージに進んだ感じ」
菜月が冷静に分析する。
「悠真、今のうちに変装グッズでも用意しとく?」
真琴が冗談めかして言うが、悠真は笑えなかった。
「もうこれ、逃げられないんじゃ……?」
悠真は頭を抱えた。
そして、そんな悠真を横目で見つつ、美咲は小さく息を吐いた。
「悠真君、大丈夫……私が守るから」
そう呟いた美咲の横顔には、静かな決意が宿っていた。




