第68話 ボッチの壁、崩壊の危機!?
放課後の教室は、生徒たちがそれぞれの帰路につく準備を始める時間帯だった。窓から差し込む夕日が、教室全体をオレンジ色に染め、どこかノスタルジックな雰囲気を醸し出していた。そんな中、麻衣は、自分の席に座りながら、さりげなく悠真の方へと視線を送っていた。
(……やっぱり、気になる)
文化祭での、美咲と悠真の親しげな様子が、どうしても頭から離れない。二人が楽しそうに会話をしていたあの光景は、麻衣の心に小さな引っ掛かりを残していた。しかし、今の悠真は、いつも通りの”地味で冴えない”ボッチモード。一人静かに読書をしている姿は、文化祭の時とはまるで別人だった。
(本当に、ただのクラスメイトなの? どうして橘先輩があんな男の子と……)
麻衣は、悠真の姿を観察しながら、内心で自問自答を繰り返していた。悠真の仕草、表情、そして周りのクラスメイトとの関わり方。一つ一つを丁寧に観察することで、何か決定的な証拠を掴もうとしていた。
一方、悠真は、麻衣の視線に気づいていた。「なんか見られてる…」と内心でソワソワしていた。できるだけ目を合わせないように、そっと視線を逸らしながら、読書に集中しようと努めた。しかし、麻衣の視線は、まるでレーダーのように、悠真を捉えて離さない。
(まさか、バレたのか……? いや、そんなはずはない。いつも通りのボッチモードでいるはずだ)
悠真は、内心で焦りながらも、平静を装っていた。周囲のクラスメイトたちは、特に気にする様子もなく、それぞれの時間を過ごしていた。しかし、美咲、真琴、菜月は、麻衣の視線に「ん?」と異変を感じ取っていた。
放課後、いつものように、美咲、真琴、菜月が集まった。
「ねえ、麻衣ちゃん、なんか悠真君のこと、気にしてない?」
美咲が、心配そうな顔で言った。
「うん、私もそう思う。なんか、ずっと悠真君のこと、見てる気がする」
真琴も、同意した。
「私もそう思った。視線が、まるで獲物を狙うハンターみたいだったわ」
菜月は、冷静に分析した。
「やっぱり、バレそうになってるのかな……?」
美咲は、不安そうな表情を浮かべた。
「もう、いっそのこと、バラしちゃえば?」
真琴が、冗談めかして言った。
「ダメに決まってるでしょ! 絶対にダメ!」
美咲は、真琴の言葉に、即座に反論した。
「でもさ、美咲が悠真君のことを特別扱いしてるのは事実じゃん? 周りの人も、薄々気づいてるんじゃない?」
菜月が、鋭い視線を美咲に向けた。
「そ、それは……!」
美咲は、顔を真っ赤にして、言葉を詰まらせた。
「ほら、やっぱり! 美咲、顔真っ赤だよ!」
真琴は、面白そうに美咲をからかった。
「もう、真琴ってば……! からかわないでよ!」
美咲は、頬を膨らませて言った。
「まあ、それは置いといて、どうする? このままじゃ、麻衣ちゃんにバレちゃうかもしれない」
菜月は、話を元に戻した。
「そうね……。ここは、悠真君にも相談してみましょう」
美咲は、そう言って、悠真を呼び出した。
「どうしたの? みんなして」
悠真は、少し緊張した面持ちで、三人の前に現れた。
「実はね、麻衣ちゃんが、また悠真君のこと、怪しんでるみたい」
美咲は、悠真に事情を説明した。
「また? ……まあ、別に、何も言わないのが一番じゃない? 普通にしていれば、大丈夫だと思うけど」
悠真は、落ち着いた口調で言った。
「いやいや、悠真、それは甘いよ! 麻衣ちゃん、結構、勘が鋭いんだから」
真琴は、悠真の言葉に反論した。
「バレたらどうするの?」
菜月が、鋭い質問を投げかけた。
「……考えてない」
悠真は、少し困ったように答えた。
「えー! 考えてないの!? 悠真君、意外と危機感ないんだね」
真琴は、驚いたように言った。
「悠真君なら、うまくごまかせると思うけど……」
美咲は、悠真をフォローするように言った。
「いや、悠真君、割と動揺するタイプだよね? 顔に出やすいし」
菜月は、冷静に分析した。
「……そんなことはない(でも、若干動揺)」
悠真は、菜月の言葉に反論したが、内心では少し動揺していた。
その頃、麻衣は、依然として悠真を観察し続けていた。
(……やっぱり、何かおかしい。でも、証拠がない。あの文化祭の時の雰囲気は、気のせいだったのかしら?)
麻衣は、悠真の”ボッチモード”の姿を見ながら、半信半疑のままだった。
「とりあえず、しばらく様子を見るしかないわね」
美咲は、結論を述べた。
「そうね。麻衣ちゃんが、何か動き出すまでは、静観するしかないわ」
菜月も、同意した。
「まあ、そうするしかないか」
真琴は、少し不満そうに言った。
麻衣は、最後に小さく呟いた。
「……やっぱり何か変なんだよなぁ」




