第67話 秘密を守れ!作戦会議と女子トーク
放課後の教室は、窓から差し込む夕日に照らされ、オレンジ色の優しい光に包まれていた。机を囲むように集まったのは、美咲、真琴、菜月、そして悠真の四人。文化祭の喧騒が遠い昔のように感じられるほど、教室は静けさに満ちていた。しかし、その静けさとは裏腹に、四人の間には、ある種の緊張感が漂っていた。
「それで、どうする?」
真琴が、おもむろに口を開いた。その表情は、どこか面白がっているようにも見えた。
「どうするって、何が?」
「麻衣ちゃんの疑惑だよ、疑惑!あの感じ、完全に怪しいでしょ?」
「まあ、確かに、ちょっと勘づかれてるかもね。」
「そうね。麻衣ちゃん、悠真君のこと、すごく気にしてるみたい。」
美咲は、少し心配そうな表情で言った。
「だから、作戦会議だよ、作戦会議!麻衣ちゃんの疑惑を、どうやってかわすか、真剣に考えないと!」
真琴は、まるで子供のように目を輝かせた。
「作戦会議って……そんな大げさなことしなくても、普通にしていれば大丈夫じゃない?」
「それがダメなんだよ、悠真君!普通にしてたら、余計に怪しまれるんだって!」
「じゃあ、どうすればいいのさ。」
「うーん、そうだなぁ……。ここは、一つ、弟設定とかどう?」
「弟設定?どういうこと?」
「だから、美咲の弟ってことにすれば、麻衣ちゃんも納得するんじゃない?『あ、美咲の弟か』って。」
真琴は、得意げに言った。
「いや、無理があるでしょ。第一、私に弟なんていないし。」
「まあ、そうだよね。それはさすがに無理がある。」
「じゃあ、菜月、何か良いアイデアある?」
「そうね……ここは、自然体でいくのが一番じゃない?変に隠したり、ごまかしたりする方が、余計に怪しまれると思うし。」
菜月は、冷静に分析した。
「確かに、菜月の言う通りかも。」
「そうね。変に意識する方が、不自然になるわ。」
「つまり、今まで通り、普通にしていればいいってこと?」
「そういうこと。麻衣ちゃんが、勝手に諦めるのを待つしかないわ。」
「まあ、それしかないか。」
「それで、話は変わるんだけど、夏休みの予定とか、何か考えてる?」
真琴は、急に話題を変えた。
「夏休み?まだ、何も考えてないけど。」
悠真は、少し困惑したように言った。
「えー、つまんない!夏休みは、海とかプールとか、行きたいじゃん!」
「そうね。たまには、みんなで遊びに行きたいわ。」
美咲も、賛成した。
「ねえ、悠真君!海とか行ったら、私の水着、見たいでしょ?」
真琴は、突然、水着を見せるような仕草をした。
「えっ……!?(俯いて赤面)」
悠真は、顔を真っ赤にして、目を逸らした。
「ふふふ、悠真く〜ん。エッチな想像しちゃだめだぞ!!」
菜月は、笑いを堪えながら言った。
「もう、菜月ってば……悠真君、困ってるじゃん!」
「だって、悠真君、可愛いんだもん。」
「それと、7月上旬にある定期考査の勉強会とか、どうかな?」
美咲は、話題を変えるように言った。
「勉強会?いいね!私も参加したい!」
「私も、いいわよ。」
「じゃあ、グループラインで、葵ちゃんにも聞いてみようか。」
菜月は、スマホを取り出して言った。
「うん、そうね。葵ちゃんも誘ってみましょう。」
▼グループライン
菜月:火曜日に勉強会やるけど参加する?
葵:勉強会やるの?参加したいけど……多分、その日は無理かな~
美咲:無理しないでね、葵ちゃん。仕事頑張って!
葵:ありがとうm(_ _)m
葵:水曜日なら参加できるから水曜日もお願い
悠真は、グループラインのやり取りを見て、小さく笑った。
「葵ちゃん、忙しいみたいね。」
「まあ、仕方ないよね。葵ちゃんは、アイドルだもん。」
「そうね。でも、また、みんなで集まれる機会があるといいわね。」
「「うん!」」
真琴と菜月も、笑顔で答えた。
「じゃあ、今日は、この辺で終わりにする?」
菜月が、そう提案した。
「そうね。そろそろ、帰る時間だし。」
美咲も、同意した。
「うん、そうだね。今日は、ありがとう。」
「どういたしまして。悠真君、今日は、付き合ってくれてありがとう。」
美咲は、悠真に笑顔を向けた。その笑顔に、悠真は少しだけドキッとした。
四人は、教室を出て、それぞれの家路についた。夕焼けが空を赤く染める中、美咲はふと立ち止まり、小さくつぶやいた。
「この夏、何かが変わるかもしれない……。」
彼女のつぶやきは、誰にも届かないまま、夕焼けの空に溶けていった。




