第6話 バイト先にて その2
店内に柔らかな笑い声が響き、カフェの穏やかな雰囲気に溶け込む。麻衣が頬を膨らませながら、明るい声で話しかけてきた。
「先輩って、やっぱりすごく優しいですよね!」
「何が?」
「だって、いつも自然に褒めてくれるし、お客様にも気配りできるし、完璧じゃないですか!」
麻衣が大げさに両手を広げながら話す。その仕草が微笑ましくて、思わず肩の力が抜けた。
「そんなことないって。普通だよ。」
「絶対普通じゃないです!学校でもきっと注目されてるんだろうな~。」
麻衣の無邪気な言葉に、一瞬だけ心がざわついた。彼女は、学校での僕――地味で目立たない「僕」の姿を知らない。だからこそ、彼女の言葉が胸に刺さる。
(俺モードの自分をどう見てるんだろう……。)
そんな疑問を抱えながらも、軽く笑って話を流す。
夕方になると、常連のお客様たちが次々に来店した。店内は賑わい始め、僕は「俺モード」に完全に切り替える。
「いらっしゃいませ、ご注文をお伺いします。」
明るく通る声が自然と口をつく。この店では、自分がどんなふうに見られているかを気にする必要はない。むしろ、この「俺モード」の方が自分らしいようにも思える。
「先輩、相変わらず女性のお客様からの人気がすごいですね!」
麻衣がクスクスと笑いながら、小声で囁いてくる。
「気のせいだろ。」
僕は苦笑いを浮かべながら返事をしたが、確かにカウンター越しに熱い視線を感じる。
「あの店員さん、イケメンすぎる……。」
「ほんと、砂糖いらないくらい甘い笑顔!」
そんな声が耳に届くたび、どこか居心地の悪さを感じる。演じている自分を褒められているようで、素直に喜べないのだ。
夜になり、閉店準備を終える。最後のお客様を見送った後、マスターが近づいてきた。
「今日もお疲れさま、悠真くん。」
「ありがとうございます。無事終わりましたね。」
「君は本当に気が利く。学校ではどんな感じなのか気になるよ。」
マスターの言葉に、一瞬だけ心が揺れる。彼が優しく微笑むその表情に、学校での自分――「僕」の話をしてもいいのではないかと思った。けれど、すぐにその気持ちを押し殺す。
「まぁ、あんまり変わらないですよ。」
曖昧に答える僕に、マスターは深く追及することなく、軽く頷いて作業に戻った。
店の鍵を閉めると、外で麻衣が待っていた。
「先輩、一緒に帰ってもいいですか?」
「いいけど、何かあった?」
「夜道がちょっと怖くて……。」
麻衣が少し恥ずかしそうに笑う。その言葉に、「先輩として守らなきゃな」と軽く肩をすくめた。
「わかった。一緒に帰ろう。」
「ありがとうございます!」
麻衣の明るい笑顔に、自然と足が軽くなる。
帰り道、街灯の光が二人の影を並べて映し出す。
「先輩って、どうしてこのカフェでバイト始めたんですか?」
「うーん……落ち着ける場所が欲しかったからかな。」
「先輩にとって、この場所って特別なんですね。」
麻衣の声が少しだけ遠慮がちに響く。その言葉に、彼女も学校では違う一面を抱えているのかもしれないと感じた。
「麻衣はどうなんだ?学校は楽しい?」
「楽しいですけど……正直、少し疲れることもあります。」
麻衣がほんの少し俯く。その表情に、学校での彼女がどんなふうに振る舞っているのかを想像した。
「でも、ここでは自分らしくいられるんです。だから、このバイトが好きなんです。」
その言葉が胸に響く。学校では「僕モード」として、バイトでは「俺モード」として――どちらが本当の自分なのか分からないまま過ごしている自分に重なる気がした。
交差点で麻衣と別れると、彼女は元気に手を振って家路についた。
(麻衣も、いろいろ抱えているのかもしれないな。)
スマホが振動し、ポケットから取り出すと画面には「橘美咲」の名前が表示されていた。
ところで、実際にイケメン店員がいるカフェって最高だと思いませんか?☕✨ 店員さんが爽やかに「いらっしゃいませ」と微笑んでくれるだけで、何気ない一日が特別に感じられる気がします(笑)。そんなカフェがあったら通っちゃいそうですよね!
物語の中の「イケメンモードの悠真君」も、もし実在したらこんな風に輝いてるのかな……なんて想像しながら読んでいただけたら嬉しいです!感想や応援コメントも、ぜひお聞かせください!