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第58話 嬉し涙と悔し涙

 昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響くと、教室内には緊張感が漂い始めた。中間テストの結果が発表される日だ。


 担任の森田先生が教室に入ると、生徒たちが一斉に姿勢を正した。その手には、テストの結果が入った厚紙の封筒が握られている。


「みんな、今回のテスト、お疲れ様。結果が出たからこれを配る。静かに受け取ってな。」


 森田先生の言葉に、教室は一瞬の静寂に包まれた。次々と名前が呼ばれる中、誰もが自分の結果を待つ緊張感で体を硬直させている。


「白石。」


 名前を呼ばれて前に出た僕は、封筒を手渡されると、そのまま席に戻った。中身を開く手が少しだけ震える。


(……頼む、良い結果でありますように。)


 封筒を開けて中を確認すると、「学年7位」の文字が目に飛び込んできた。一瞬、言葉を失う。


「悠真君、どうだった?」


 美咲が少し身を乗り出して聞いてきた。僕は封筒を持ち上げて彼女に見せる。


「7位だったよ。」


 その言葉に、美咲の目が大きく見開かれた。


「すごい!悠真君、本当にすごいよ!」


 彼女は感激した様子で僕の腕を軽く叩き、そのまま眩しいくらいの笑顔で笑った。


「美咲、ありがとう。今回の結果は本当に嬉しいよ。」


 その横で、菜月と真琴が「やったね!」と声を揃えて拍手を送る。


「さすが白君。勉強してた甲斐があったね!」


「7位なんて、本当にすごいじゃん!」


 その時、森田先生が口を開いた。


「ちなみに、上位20位の成績は廊下の掲示板に貼り出してあるから、見に行きたい人は行ってみろよ。」


 教室内がざわつき、何人かが立ち上がる。僕も美咲や菜月に促され、一緒に廊下に向かうことにした。


 廊下に出ると、掲示板の周りに生徒たちが群がっていた。上位20位のリストが大きく張り出され、そこに目を凝らす。


「悠真君、あったよ!7位!」


 美咲が指差した場所には、確かに「7位 白石悠真」の名前があった。その隣には、「9位 佐藤信二」の名前が記されている。


「やったね、白君!佐藤を超えたじゃん!」

 真琴と菜月が声を揃えて褒めると、美咲がその隣で優しく微笑んだ。


「悠真君、本当に頑張ったんだね。私、信じてたよ。」


 その言葉に、悠真は少し恥ずかしそうに目を伏せた。


「ありがとう。でも、みんなが応援してくれたからだよ。」


 美咲はその言葉に胸を熱くしながらも、ふと視線を落とした。そんな彼女の様子に気づいた菜月が、「泣いてる?」と茶化すように声をかける。


「泣いてないってば!」


 美咲が慌てて否定するが、頬にはうっすらと涙が滲んでいる。


「まあまあ、美咲ちゃん、嬉し涙ってやつでしょ?」


 菜月が肩をすくめると、教室中が笑いに包まれた。




 一方その頃、葵は仕事先で撮影を終えたばかりだった。スタジオの窓から見える青空をぼんやりと眺めていた彼女の頭には、昼休みに見たグループチャットのやり取りが浮かんでいた。


「悠真君、結果どうだったんだろう……。」


 スマホの画面を開いては閉じる。その繰り返しに、自分でも落ち着かない気持ちを自覚する。


「城山さん、お疲れ様です!」


 スタッフが声をかけてきて、葵は慌てて笑顔を作った。「お疲れ様です!」と返事をするが、その心はどこかここにあらず。


 撮影の合間、ふと窓辺に立つと、遠くの空に浮かぶ雲を見つめた。


「いつか、もっとみんなと一緒に過ごせたらいいのに……。」


 そんな思いを胸に、葵は自分のスマホを再び手に取った。そして、グループチャットにそっとメッセージを送る。


葵:悠真君、結果お疲れさまでした。

葵:みなさんとお祝いできたら良かったのに……。

悠真:ありがとう、城山さん。次はみんなで楽しく過ごそう。

悠真:(ありがとうのスタンプ)






 教室では、佐藤信二が悠真に近づいてきていた。短髪にメガネの彼は、微妙に緊張した表情を浮かべている。


「白石……俺の負けだ。お前、すごいな。」


 意外な言葉に教室が静まり返る。悠真が軽く頭を下げると、佐藤は少し苦笑した。


「ただ、次は負けない。今度はもっと完璧にして挑むからな。」


「楽しみにしてるよ。ただ、今回の結果は佐藤君のおかげでもある。これからも良いライバルで頼むよ。」


 悠真の穏やかな返事に、佐藤は少しだけ悔しそうな顔をしながら教室を出ていった。その背中を見送りながら、菜月がニヤリと笑う。


「白君、これから注目の的じゃん!どうするの?」


「どうするも何も……普通にするだけだよ。」


 悠真が苦笑すると、美咲がそっと手を握り、「私も応援してるからね」と小声で囁いた。


(これからどうなるんだろう。だけど、少しだけ楽しみだ。)


 夕焼けが教室を赤く染める中、それぞれの思いが胸の中で静かに芽生えていた。



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