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第57話 文化祭準備!勝者の重圧と新たなドラマ

 放課後の教室は、文化祭の準備に向けた熱気で包まれていた。窓から差し込む夕日が、机や椅子の影を長く伸ばしている。机を囲んだクラスメイトたちの声が重なり合い、あちこちで意見が飛び交っていた。


「じゃあ、今年の文化祭はコロッケ屋とドリンク販売に決定だね!」


 真琴がクラス全体に向けてそう言うと、大きな拍手が湧き上がった。クラスメイトたちの表情には、どこか期待感が漂っている。


「でも、メニューとか具体的な内容はこれからだよね。どうする?」


 菜月が言葉を投げかけると、数人が頷きながら意見を出し始めた。


「コロッケの味付け、何種類か作るのはどうかな?普通のだけじゃなくて、カレー味とかチーズ入りとか。」


「それいい!あと、見た目も大事だよね。可愛いピックを刺したり、ラッピングを工夫したり。」


「ドリンクは、カラフルなものを出したら映えそうじゃない?フルーツジュースとか、炭酸飲料をカクテル風にアレンジするとか。」


 話題が広がる中、真琴が悠真に目を向けた。


「白君、ドリンクのメニューとか考えてくれる?」


「えっ、僕が?」


 唐突に振られた役割に驚きつつも、悠真は控えめに頷いた。


「いやいや、白君が作るってわけじゃなくて、アイディア出しね。こう、センスある感じで頼むよ!」


「センス……あるかどうかはわからないけど、頑張るよ。」


 周囲から「頼むぞー!」と声が上がり、悠真は少しだけ肩をすくめた。隣にいた美咲がにっこり微笑みながら口を開く。


「じゃあ私は、コロッケの味付けとかに関わろうかな。おいしいものを提供しないとね!」


「美咲が関わるなら、きっと美味しくなるよ。」


 その一言に美咲の頬がわずかに赤く染まる。それを見た菜月が「おー、いいねぇ!」とからかい、教室がさらに和やかな雰囲気に包まれた。


「でもさ、実際に調理する人ってどうやって決めるの?ずっと揚げ物してると大変だよね。」


 菜月の現実的な指摘に、クラス全体が一瞬考え込む。そこで、真琴がパチンと手を叩いた。


「揚げ物の担当は交代制にしようよ!1時間ごとにローテーションして、負担が偏らないようにすればいいんじゃない?」


「それならいいかも!揚げるのが苦手な人は、販売とかドリンクの準備に回ればいいし。」


「あと、衛生面もちゃんと考えないとね。手袋とかマスクとか用意しておこう。」


 意見がまとまり始めると、次第に具体的な役割分担が決まっていった。


「ドリンクの準備班は白君をリーダーにして、何人かつけようか。飲み物の仕入れとか、容器のデザインも考えないといけないし。」


「僕がリーダー!?……自身がないけどがんばります!!」


 不安そうに頷く悠真に、美咲が励ますように言った。


「大丈夫だよ。悠真君ならきっと上手くいくから。私も味見とか手伝うし!」


「味見だけでなく、手伝ってもらえると助かるよ。」


 そんなやり取りに周囲が笑い声を上げる中、真琴が再び声を張り上げた。


「よし!じゃあ、準備スケジュールも考えないと。文化祭まであと2週間しかないんだから、早めに取り掛かろう!」


「オッケー!じゃあ、試作会とかやらない?実際にコロッケ作ったり、ドリンクの見た目を確認したりしてさ。」


 菜月の提案に全員が賛成し、試作会の日程も決まった。




 一方、別の場所では、城山葵が撮影現場で忙しく動き回っていた。スタジオの窓から見える青空は、どこまでも澄み渡っている。


 撮影の合間、葵はふと窓際に立ち、遠くを見つめた。


(今頃、みんな文化祭の準備をしてるのかな……。)


 鮮やかな青空の下、悠真たちが楽しそうに話し合いながら準備を進めている姿を想像する。美咲が真剣な表情でコロッケの味付けを考え、悠真がメニュー案を真琴や菜月に説明している光景が目に浮かぶ。


(あの場にいられたら、きっと楽しいだろうな。)


 軽く息を吐きながら、葵は自分の胸元をそっと押さえる。


「私も、もっとみんなと一緒にいたいな……。」


 小さく呟いたその声は、誰にも聞かれることなくスタジオの空気に溶け込んだ。


 仕事という大きな壁があるとはいえ、普通の高校生としての時間を少しでも共有したい。その想いが胸の奥で静かに膨らんでいく。




 教室では、準備の話が佳境を迎えていた。


「じゃあ、明日からはグループに分かれて本格的に動き出そう!」


 真琴の言葉にクラスメイトたちが一斉に声を上げる。


「白君はドリンク班ね。頼りにしてるよ!」


「うん、わかった。頑張るよ。」


 そのやり取りを横で聞いていた美咲が、にっこり笑いながら悠真に言う。


「困ったら相談してね。私もできることは手伝うから。」


「あ、ありがとう。美咲も大変だろうけど、無理しないでね。」


 その言葉に、美咲がふっと微笑む。


「悠真君もね。」


 教室内の活気と、仲間たちとの温かなやり取り。その一方で、遠く離れた場所で同じ空を見上げている葵の存在が、悠真の胸の中でふとよぎった。


(葵さんも、きっと文化祭の準備を一緒に楽しみたいって思ってるんだろうな。)


 教室の窓から見える茜色の空が、次第に深い青へと移り変わっていった。文化祭への期待と、それぞれの思いが交錯する中、物語は次の幕を迎えようとしていた。


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