第56話 因縁のテスト勝負!
昼下がりの教室。窓の外には新緑が眩しく光り、爽やかな風がカーテンを揺らしている。穏やかな時間が流れる中、クラスメイトたちの笑い声が響く。
「白石、ちょっと話があるんだけど。」
その声に、僕はノートから顔を上げた。そこには、クラスの優等生、佐藤信二が立っていた。短髪にメガネ、整った制服の襟元がいかにも真面目そうな彼の印象を強調している。
「何かな?」
内心の警戒を隠しながら答えると、彼は腕を組み、鼻で笑った。
「最近、橘さんや城山さんとやたら親しくしてるみたいだけど……お前、彼女たちのレベルを本当に分かってるのか?」
その言葉には明らかに棘があった。周囲の視線も集まり、教室の空気が微妙に緊張感を帯びる。
「別に、彼女たちのレベルとか気にしたことないけど。」
僕が冷静に答えると、彼はさらに語気を強めた。
「へぇ。だけど、勉強だってまともにやってないやつが、あの二人と釣り合うとでも思ってるのか?何か勘違いしてるんじゃないか?」
嫌味を込めたその言葉に、僕の胸の中に小さな苛立ちが芽生える。周囲がざわつく中、佐藤は自信たっぷりに続けた。
「まあ、お前にできることなんてせいぜい……クラスの片隅で地味に過ごすことぐらいだろうけどな。」
その言葉に、美咲がピクッと反応した。隣に座っていた真琴が、「何それ、感じ悪い」と小声で呟く。
「テストで証明してみろよ。次の中間テストで、俺と勝負だ。」
唐突な提案に、教室がざわついた。真琴や菜月が「やったれ、白君!」と煽る中、僕は一瞬ためらった。
(わざわざ安い挑発に乗る必要はない。でも…)
美咲や葵の視線が気になり、僕は小さく頷いた。
「分かったよ。負けないように頑張る。」
佐藤の顔に満足げな笑みが浮かぶ。その様子を見て、美咲が鋭い目を向けた。
放課後、空き教室での勉強会が始まった。いつものメンバーに加えて、葵も参加している。
「よーし、白君を全力で応援しよう!」
真琴が腕を振り上げて言うと、菜月も続けた。
「白君が勝てば、佐藤なんか鼻で笑ってやれるもんね。」
その言葉に、美咲が笑みを浮かべながら頷く。
「もちろん。悠真君なら絶対に勝てるから。」
その横で、葵が控えめに手を挙げた。
「私も応援します。何か力になれることがあれば、言ってください。」
彼女の真剣な表情に、僕は少し照れくさくなった。
「ありがとう。でも、みんなに頼りすぎるわけにはいかないし、自分でもちゃんと頑張るよ。」
そう言いながらノートを開くと、美咲がそっと近づいてきた。
「でも、ちゃんと力を借りるのも大事だよ。ほら、これ見て。」
彼女が差し出したのは、手書きのオリジナルノートだった。要点が分かりやすくまとめられていて、綺麗な字が並んでいる。
「これ、作ってくれたの?」
「うん。悠真君に負けてほしくないからね。」
美咲の真っ直ぐな言葉に、胸が少し熱くなる。
その横で、葵が何かを考え込んでいた。
「あの…私も何か…」
彼女が鞄から取り出したのは、一冊の英語参考書だった。
「これ、私が受けたオーディションで使ったものなんですけど、発音のコツとかが書いてあって、結構役に立つと思います。」
「葵ちゃん、すごい!」
真琴が声を上げると、葵は少しだけ頬を染めた。
「いえ、そんな…。少しでもお役に立てたらいいなって。」
勉強会は和気あいあいと進むが、どこか美咲と葵の間に微妙な空気が漂っているのを感じる。それぞれの思いが交錯し、僕はその中心で戸惑うばかりだった。
迎えたテスト当日。教室は緊張感に包まれている。
「白石、覚悟はできてるか?」
佐藤が横目で僕を睨む。その視線に動じることなく、僕は軽く頷いた。
「もちろん。全力でいくよ。」
テスト用紙が配られると、教室内が一斉に静まり返る。時計の秒針の音がやけに大きく感じられる中、僕は集中して問題を解き進めた。
(ここで負けるわけにはいかない。美咲や葵、みんなが応援してくれてるんだから。)
答案用紙に最後の答えを書き込むと、僕は静かに深呼吸をした。
テスト後、廊下で待ち構えていた美咲と葵が駆け寄ってきた。
「悠真君、どうだった?」
「多分、全部解けたと思う。」
その言葉に、美咲が笑顔を見せた。
「よかった!さすが悠真君!」
一方で、葵もほっとしたように頷く。
「白石君なら絶対に大丈夫だと思ってました。」
その瞬間、後ろから佐藤が歩み寄ってきた。
「結果発表でわかることだが…俺は全問正解のつもりだ。楽しみにしておけ。」
佐藤の自信に満ちた言葉に、僕は静かに微笑んだ。
「楽しみにしてるよ。」
結果発表は数日後。僕たちの間にはまだ緊張感が漂っていたが、心の中には確かな手応えがあった。
(僕は、負けない。)
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