第55話 二人の想い、僕の選択?
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放課後の廊下は賑やかな雑踏に包まれ、窓から差し込む柔らかな夕日が床を淡い橙色に染めていた。僕――白石悠真は、今日の勉強会の余韻を胸に抱えながら、下駄箱に向かっていた。
靴を履き替えようとしたそのとき、不意に名前を呼ばれる。
「悠真君!」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこには橘美咲が立っていた。ストレートの長い髪が夕日を浴びて輝き、その瞳はどこか揺れているように見えた。
「美咲?どうしたの?」
「一緒に帰ろうかなって思って。だめ?」
美咲の言葉に、一瞬息が詰まる。こんな風に素直に頼まれると、断る理由なんてどこにも見当たらない。
「喜んで!」
僕がそう答えると、美咲は小さく微笑んで「じゃあ、行こ」と言いながら並んで歩き出した。
学校の門を出て、少し歩いた頃。話題に困らない美咲が、自然に会話を続けてくれる。
「悠真君、今日の勉強会、葵ちゃんすっごく楽しそうだったよね。」
「ああ、そうだね。最初は緊張してたけど、すぐ馴染んでたみたいで良かった。」
「うん……良かった、けど……。」
美咲が言葉を濁す。その先を聞こうとする前に、横から別の声が割り込んできた。
「こんばんは、白石君!」
驚いて振り向くと、そこには城山葵が立っていた。控えめな笑顔を浮かべながら、手にカバンを持っている。
「あ、城山さん。こんなところでどうしたの?」
「さっきまで先生に提出物を確認してもらってて、それで遅くなっちゃったんです。偶然、白石君たちを見つけて……。」
偶然――本当に?美咲はそんなことを思いつつ、葵の自然な笑顔にそれ以上は突っ込めない。
「じゃあ、私も一緒に帰っていいですか?」
「あっ、うん。橘さんも良いかな?」
「う、うん。もちろん」
美咲が一瞬だけ複雑な表情を浮かべたけれど、それ以上何も言わずに歩き出した。三人で並ぶ形になり、僕の左右に美咲と葵がそれぞれ位置する。
会話は自然と進むけれど、どこかぎこちない雰囲気も漂う。特に、美咲の視線が葵に向かうたびに、微妙な火花が散っている気がする。
「白石君って、本当にすごいですよね。勉強みんなにわかりやすく説明してくれるし。」
葵が微笑みながらそう言うと、美咲が少し間を置いて口を開く。
「まぁ、悠真君は昔から面倒見が良いからね。困ってる人を放っておけない性格なの。」
「あ、そうなんですね。でも……昔からって、何か特別な関係でも?」
葵が控えめな笑顔で返しながらも、わずかに首を傾げる。その言葉に美咲はほんの少し目を細めた。
「特別ってほどじゃないけど、クラスの中ではいつも頼りにしてたし、こう見えて結構お世話になってるのよね。」
「そうなんですか。でも、私もこの間助けていただいて……本当に優しい方ですよね。」
柔らかな口調ながら、葵が悠真への感謝を強調すると、美咲が「ふーん」と少しだけ目を伏せて笑う。
「それは良かったわね。悠真君、最近忙しそうだから、あまり無理させないであげてね。」
「もちろんです!白石君の負担にはならないようにしますから。」
微妙な緊張感をはらんだやり取りに、僕はただ困惑するばかりだった。
帰り道、公園に差し掛かったところで、美咲が突然立ち止まる。
「ちょっと休憩しない?」
「あ、いいよ。」
ベンチに腰を下ろすと、美咲が少し真剣な表情を浮かべて僕を見つめた。
「悠真君、今度、私と二人で勉強しない?」
その提案に驚く間もなく、隣に座っていた葵が即座に反応する。
「それなら、私も一緒に!みんなで勉強した方が効率がいいですよね?」
二人の視線が交差し、静かな火花が散る。どちらの提案も断りづらく、僕は戸惑いながら言葉を探す。
「じゃあ、三人で……。」
「そういう問題じゃないの!」
美咲が突然声を上げた。その表情は涙ぐんでいて、僕はさらに混乱した。
「橘さん、どうしたの?」
「わかんない……私、なんで泣いてるの……?」
美咲は頬をぬぐいながら言葉を絞り出す。
「ただ……葵ちゃんがいると、なんだか気になっちゃって……。」
その言葉を聞いた葵も複雑そうな表情を浮かべる。
「私、橘さんのこと嫌いじゃないです。むしろ尊敬しています。でも……白石君のことをもっと知りたいって思ってて……。」
二人の想いが交錯する中、僕はただ立ち尽くしていた。胸の中に湧き上がる感情を整理できないまま、彼女たちの言葉を受け止めることしかできなかった。
(僕は、どうすればいいんだ……?)
空は茜色に染まり、三人の影が長く伸びていた。それぞれの想いが胸の中に渦巻く中、静かな夕暮れが降りてきた。
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