表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/69

第46話 葵の回想 その2

 涙を拭きながら、彼の顔をじっと見つめた。彼の優しい微笑みと、真っ直ぐな瞳に、不思議な安心感を覚える。


 “どうしてこの人は、こんなにも自然に私に優しくできるのだろう?”


 その思いが胸に浮かび、私はふと口を開いた。


「白石君って、不思議な人ですね。」


 突然の言葉に、彼は少し戸惑ったように首を傾げる。


「そうかな?ただ、普通に思ったことを言ってるだけだよ。」


「普通…ですか。でも、私の外見を気にせず、こんな風に話してくれる人は初めてです。」


 言葉に自分でも驚いた。これまで、外見を褒められることが多かった私にとって、それを無視して接してくる彼は、確かに特別に映っていた。


「見た目なんて、ただの表面だよ。話してみなきゃ分からないことの方が多いんだ。」


 その言葉は、私の胸にじんわりと響いた。彼がそう思っているだけでなく、本当にそう信じていることが伝わってくる。


「でも、世の中って外見で判断されることが多いじゃないですか。それが普通だと思ってました。」


 私がそう言うと、彼は少しだけ考えるようにしてから答えた。


「たしかに、そういう風に考える人も多いかもしれない。でも、それが正しいとは限らないよ。僕は、人の本当の魅力は内面にあると思うんだ。」


 彼の真剣な言葉に、思わず目を見張る。彼の考え方は、これまで私が触れてきたどんな言葉とも違った。


「内面…。」


「うん。たとえば、さっき葵さんが涙を拭いてた時、その仕草がすごく優しさに溢れてたと思う。それは外見だけじゃ分からない部分だよね。」


 その言葉に、胸の奥がぎゅっと熱くなる。普段の私は、外見やイメージだけで評価されることに慣れてしまっていた。そんな私に、彼は内面の優しさを感じ取ってくれたと言う。


「そんな風に言われたの、初めてです。」


 自然と涙がこぼれそうになったが、それをぐっと堪える。アイドルとして、いつも笑顔を見せることが求められてきた私にとって、今の彼の言葉は特別だった。


「僕も昔、ちょっと外見で誤解されたことがあってさ。それ以来、見た目よりも中身を見ようと思ってるんだ。」


 彼が照れくさそうに微笑む。その笑顔を見た瞬間、心の中で何かが柔らかくほどけた気がした。


「白石君は、素敵ですね。」


 私が思わず口にすると、彼は少し驚いたようだったが、すぐに苦笑した。


「僕なんて全然普通だよ。でも、ありがとう。」


 彼の控えめな返事が、さらに彼の人柄を物語っている気がした。そんなやり取りをする中で、ふと時計が目に入る。


「あ、もうこんな時間。帰らなきゃ。」


 荷物を整える私に、彼は一歩近づいてきた。


「じゃあ、またどこかで会おうね。もし何かあったら、僕を頼っていいから。」


 その言葉に、胸が温かくなる。初めて会ったばかりなのに、こんなにも私を気遣ってくれる彼の存在が、とても大きく感じられた。


「本当に…ありがとう。白石君のおかげで、少し元気になれました。」


「それなら良かった。」


 彼は軽く手を振りながら歩き出す。その後ろ姿を見送りながら、心の中で何かが静かに動き出すのを感じた。


(彼…同じ学校なんだよね。でも、私に気づかないなんて。)


 それを思うと、不思議と微笑みがこぼれた。これまで、名前や外見だけで判断されることに慣れていた私にとって、一人の人間として向き合ってくれる彼の存在が、とても新鮮だった。


(また、話せるかな…。彼ともっと話してみたい。)


 そんな思いが胸の中でじんわりと広がる。彼との出会いは偶然だったけれど、これからもっと知りたいという気持ちが静かに芽生えていた。


 胸の中で新たな感情が芽生えながら、私は軽やかな足取りで帰路についた。


筆者の励みになりますので、よろしければブックマークや★の評価をお願いいたします。温かい応援、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ