第42話 不思議なグループ
昼休み、教室の隅で参考書を開きながら、僕は大きくため息をついていた。中間テストが迫っているが、何か落ち着かない。ふと顔を上げると、クラスの男子数人が僕の方をちらちら見ているのに気づく。
(またか……最近やたら見られるんだよな。)
思い当たる理由は明白だ。放課後になると、僕は美咲、真琴、菜月と4人で勉強会をしている。それだけならまだしも、クラスの「カーストトップ」たちと一緒にいる光景はどうやら周囲に衝撃を与えているらしい。
「白石、お前、最近どうした?」
前の席の男子――田中が小声で話しかけてきた。
「どうしたって?」
「いや、お前、あの橘たちと普通に勉強してるだろ?それに……あいつらと普通に話してるの、何気にすごくね?」
「別にすごいことなんてないよ。ただ、勉強を手伝ってるだけだし。」
そう言うと、田中は眉をひそめて俺をじっと見つめた。
「勉強……ねぇ。まあ、確かにお前、数学とか得意だもんな。でも、どうして急に?」
「うーん、流れっていうか……まあ、色々あって。」
「色々ってなんだよ!」
「そ、それは……。」
(やばい、具体的に説明できない。この話はなるべく波風立てずに進めたいんだけど。)
田中の追及から逃れるように視線を戻すと、美咲が真琴と菜月と話しているのが目に入った。彼女たちはいつも通り楽しそうに笑いながら話している。
(放課後では俺もあの輪にいるけど、教室ではこうやって距離を保ってる。これがちょうどいいバランスだよな……。)
そう考えていると、田中がさらに詰め寄ってきた。
「で、白石、どうやったら橘たちとそんなに仲良くなれるんだよ?アドバイスくれよ!」
「えっ、アドバイスって……。」
「だって、クラスで目立たないお前が、突然あのグループに混ざれるとか、普通ありえなくない?」
(うっ……痛いところを突いてくるな、こいつ。)
僕が答えに困っていると、真琴がこちらに気づき、手を振ってきた。
「白君、また男子たちに詰め寄られてる?」
大きな声に教室の視線が一斉にこちらに集まる。
「ちょ、真琴!声大きい!」
「だって面白いんだもん!ねえ、田中君、白君と仲良くなりたいの?」
「え、あ、そういうわけじゃなくて……。」
突然の話題に田中はたじろぎ、美咲と菜月もこちらに視線を送る。
「白石君、大丈夫?」美咲が心配そうに尋ねる。
「うん、全然大丈夫。田中君がちょっと気になっただけみたいだから。」
「えっ?気になるってどういうこと?」
菜月がいたずらっぽく目を輝かせる。
「いやいや、誤解だから!」
田中が必死で否定する。
「じゃあ、放課後も一緒に勉強したいってことかな?」
真琴が茶化すように続ける。
「そ、それは……別にいいけど、俺、数学苦手だからな……。」
真琴と菜月が顔を見合わせて笑い、美咲は「もう、二人ともやめて」とやんわり注意する。
「白石君、放課後もよろしくね。」
美咲が静かに微笑みながら言う。その柔らかい笑顔に、一瞬教室が静まり返った気がした。
(美咲、お前……その笑顔、破壊力強すぎだろ!)
僕は心臓がバクバクするのをなんとか押さえ込みながら頷いた。
放課後の勉強会。教室の一角に集まった僕たちは、相変わらずにぎやかだった。
「白君、これ全然わかんない!なんでこうなるの?」
真琴が頭を抱える横で、菜月が小声で「またか……」と呟く。
「桜井さん、それ、この公式使えば一発で解けるよ。」僕がさらりと説明すると、真琴は驚いたように顔を上げる。
「えっ、白君、天才じゃん!」
「いや、普通に公式だから……。」
「白君、もしテストで満点取ったら何してくれる?」
「いや、なんでご褒美が必要なの!?しかも僕からだし……。」
「だって、白君が教えてくれたおかげだもん。」真琴が少し体を傾け、じっとこちらを見つめながら言う。
「じゃあさ、ご褒美に私が何かしてあげよっか?」
「え、何かって……。」
真琴が色っぽい仕草で頬杖をつきながら、こちらを見上げる。横で菜月が「白君。わ・た・し・も!!」とすぐに乗っかる。
「ちょ、ちょっと待って!何それ!?僕、普通に勉強教えただけだからぁ〜!」
「あんなことや?こんなこと?して欲しい?」
「そ・れ・と・も〜。二人で同時にして欲しいのかな〜?」
二人の提案に、美咲が「あのね、二人とも」と軽く咳払いをする。
「白君困ってるでしょ?それに、みんなで楽しく勉強するのが一番なんだから。」
美咲の言葉に、真琴と菜月は「「はーい」」と渋々戻るが、どこかまだ企んでいるような笑みを浮かべていた。
(何なんだこの二人……でも、美咲のフォローがなかったら完全に振り回されてたな。)
「でも、次のテスト終わったら本当にどこか行きたいね。」
菜月がパラパラと問題集をめくりながら言う。
「じゃあ、そのときは白君、何かおごってね!」
「いや、なんで僕のおごりなんだよ!」
にぎやかなやり取りが続く中、僕たちの不思議なグループはどんどん絆を深めていくのを感じていた。
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