第40話 デート(美咲編)前半
午後2時少し前、映画館前で美咲が佇んでいた。白いワンピースと小さなバッグを身につけた彼女は、周囲の喧騒の中で際立っていた。風に揺れる髪が光を反射して、どこか儚げな印象を与える。
(早く着きすぎちゃったかな。でも、悠真君、ちゃんと来てくれるよね……。)
美咲が少し不安げに周囲を見回していると、遠くから慌てて駆けてくる悠真の姿が見えた。息を切らしながら駆け寄る彼に、美咲は安心したように微笑んだ。
「悠真君、お疲れさま。間に合って良かったね。」
「ごめん、ちょっと時間ギリギリになっちゃった。でも、楽しみにしてたから。」
彼の顔が少し赤くなっているのは、走ったせいなのか、それとも別の理由なのか。美咲は少しだけいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「どうかな、今日の服装、似合ってる?」
彼女がスカートを整えながら尋ねるその仕草に、悠真は息を整える間もなく答えた。
「うん、すごく似合ってる。今日は……ほんとに可愛いよ。」
言葉が自然に口をついて出た。それが正直な感想だったから。
「か、可愛いって……そんな……。」
頬を赤く染めた美咲が、視線を泳がせる。その様子に、悠真も慌てて付け加えた。
「いや、その、変な意味じゃなくて!普通に似合ってるって言いたかっただけ!」
「そ、そうなんだ……ありがとう。」
彼女がふっと笑みを浮かべる。その表情に、悠真の胸の鼓動がさらに速まる。
「じゃあ、行こうか。映画、楽しみだね。」
映画館で選んだのは、最近話題の青春ラブストーリー。予告を見てお互いに気になっていた作品だったが、予想以上に甘酸っぱい展開で、悠真は少し気まずかった。
(隣に美咲がいるこの状況で、この映画は刺激が強すぎる……。)
主人公たちの告白シーンがスクリーンに映し出される。その緊迫感に、つい視線を逸らしてしまう。だが、隣から聞こえる美咲のクスクスという笑い声が、不思議と救いになった。
(楽しんでくれてるなら、それでいいか。)
映画が終わり、明るくなった館内で美咲が満足げな表情で悠真を振り返る。
「すごく良かったね!最後の告白シーンとか、思わず泣きそうになっちゃった。」
「そ、そうだね。俺は展開が早すぎてついていけなかったけど。」
「ふふ、悠真君も感情移入するんだね。」
からかうような言葉に、悠真は苦笑いを浮かべた。そのまま映画館を出ると、美咲が腕時計をちらりと見て言った。
「まだ夕飯には早いし、少し街を歩かない?」
「いいよ。どこ行きたい?」
「んー……ショッピングとか?」
彼女の提案に頷きながら、街中を歩き始める。美咲が見つけた可愛い雑貨屋に寄り道したり、ウィンドウショッピングを楽しんだりと、自然と会話が弾んだ。
「これ、悠真君に似合いそうじゃない?」
小さなストラップを手に取り、微笑む彼女の様子に、心が和む。
「それ、俺には可愛すぎないか?」
「そう?意外と似合うと思うけどな。」
夕方になり、近くのカジュアルなイタリアンレストランに入ることにした。店内は賑やかで活気があるが、美咲はメニューを眺めながら目を輝かせている。
「これ、美味しそう!悠真君、どれがいいと思う?」
「パスタならこれとかどうかな。俺も好きだし。」
「じゃあ、それにしようかな。一緒に食べるのも楽しいし。」
その言葉に一瞬固まりつつも、悠真は何とか平静を装った。
(「一緒に」って言葉、破壊力が高すぎる……!)
料理が運ばれてくると、美咲はすぐにフォークを手に取り、一口食べる。その瞬間、顔がぱっと明るくなった。
「美味しい!悠真君のおすすめ、間違いないね。」
「そりゃ良かった。」
パスタを食べながら、映画の感想や学校の話をする。何気ない話題なのに、美咲と話しているだけで、不思議と心が落ち着く。
駅へ向かう途中、美咲がふと足を止めた。
「悠真君、今日はありがとう。本当に楽しかった。」
「俺も楽しかったよ。美咲が笑顔でいてくれるなら、それだけで満足だ。」
「そ、そんなこと……。」
頬を赤らめた美咲が言葉を詰まらせる。その時、後ろから大きな声が響いた。
「美咲ーっ!」
振り返ると、そこには真琴と菜月が手を振りながら走ってくる。
「え、美咲、もしかしてデート?」
その問いに美咲が驚いて立ち止まった瞬間、悠真は心の中で深いため息をついた。
(……やばい、これは絶対誤解されるパターンだよな。)
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願いが叶う“ドリームノート”を拾った僕、急接近する美少女との予想外な日々も同時に連載中ですので、そちらもよろしくお願いいたします。温かい感想もお待ちしています




