第39話 デート(麻衣編)
ゴールデンウィークの晴れた朝、私はショッピングモールの入り口で悠真先輩を待っていた。待ち合わせの時間はもうすぐだ。心の中では、「楽しみ」という気持ちと「緊張」という感情が混ざり合っていた。
(先輩と二人で出かけるなんて、なんだか特別な感じがするな……。)
少し早く着いてしまった私は、足元の石をつつきながら、自分の服装をもう一度確認する。今日は、少し気合を入れたコーディネートだ。
すると、遠くから悠真先輩が歩いてくるのが見えた。
「おはよう、麻衣。早いな。」
「おはようございます!先輩、こっちです!」
元気よく手を振る私に、先輩は軽く笑いながら近づいてきた。その姿に、胸が少しだけ高鳴る。
「じゃあ、行こっか。」
「はい!今日は絶対に楽しい一日にしましょう!」
モールに入ると、私はさっそくお気に入りのバッグが並ぶ店に向かった。目を輝かせながら商品を見渡し、いくつか候補を選び出して先輩に尋ねる。
「これどうですか?先輩ならどっちがいいと思います?右?左?」
「うーん……右のほうが色合いが落ち着いてて使いやすいんじゃないか?」
「おお、さすが先輩!私のこと、ちゃんとわかってるんですね!」
嬉しそうに笑いながら、私は右のバッグを手に取った。
(やっぱり、先輩に聞いて良かった!)
次々とお店を回り、試着コーナーでは鏡の前で服を合わせてみる。私の中で「これだ!」と思った服を持って、先輩に意見を求める。
「先輩、この服、どうですか?似合いますか?」
「うん、すごく似合ってるよ。……なんていうか、そのまま雑誌の表紙に出られそう。」
「えっ!?」
先輩の予想外の褒め言葉に、一瞬動きが止まった。鏡に映る自分を見つめると、頬が赤くなるのがわかる。
「ぴ、ぴったりって……先輩、そんな風に言うのズルいです!」
思わず言い返してしまったけど、心の中ではその言葉が何度もリフレインしていた。
(ぴったり……似合ってるって、先輩がそう思ってくれるなら嬉しいな。)
カウンターに服を持っていくときも、顔が熱くなるのを抑えられなかった。
ショッピングがひと段落し、フードコートで休憩を取ることにした。私は迷わず巨大なパフェを注文し、テーブルに運んできた。
「それ、大きすぎないか?一人で食べきれるのか?」
「大丈夫ですよ!甘いものは別腹ですから!」
「じゃあ、俺が手伝おうか?」
「ダメです!これは私専用です!」
パフェを抱きかかえる仕草に、先輩が吹き出して笑う。
「そんな必死にならなくてもいいだろ……。」
「だって、これくらいなら一人でいけますもん!」
夢中でパフェを食べながら、ふと手を止めて先輩に尋ねた。
「先輩、午後も予定があるんですよね?」
「ああ。友達と映画に行くことになってて。」
「そっか……。」
その言葉を聞いた瞬間、胸の中に少しだけ寂しさが広がった。でも、それを顔に出すわけにはいかない。
「でも、映画が終わったら感想教えてくださいね!私も映画好きなんです!」
笑顔を作り直し、明るく振る舞った。先輩は少し驚いたようだったけど、すぐに頷いてくれた。
「もちろん。麻衣もバイト頑張れよ。」
「はい!でも、感想がつまらなかったら罰ゲームですよ!」
「罰ゲーム!?なんでそんなルールがあるんだよ!」
「ふふ、秘密です!」
最後の一口をパフェに運びながら、小悪魔的にウインクしてみせた。その無邪気な仕草に、先輩が微かに微笑むのを見て、私は少しだけ誇らしい気持ちになった。
(妹みたいな存在……だけど、もう少し特別に思ってくれたらいいのにな。)
帰り際、バイト先へ向かう道で、先輩に手を振りながら走り出した。振り返ると、先輩がスマホを見ているのが見えた。
(美咲先輩……だよね。でも、私は私で、ちゃんと先輩に見てもらえるように頑張らなきゃ。)
心の中でそう誓いながら、バイト先のドアをくぐった。
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願いが叶う“ドリームノート”を拾った僕、急接近する美少女との予想外な日々も同時に連載中ですので、そちらもよろしくお願いいたします。温かい感想もお待ちしています




