第37話 一緒に昼食を食べると楽しいね
「……あーん、してほしいの?」
教室が一瞬静まり返る中、美咲が差し出した唐揚げを見つめて硬直する俺。
(いやいや、何そのセリフ!?ここでどう反応すれば正解なんだ!)
「悠真君?食べないの?」
美咲の笑顔がさらに場を凍りつかせた――と、思ったのも束の間。
「え、えーっ!?美咲、そんな大胆なこと言っちゃうの!?じゃあ次、私もあーんしてあげようかなー!」
真琴が両手を挙げて茶化し始め、菜月もそれに続いた。
「いいねー!私もやってみようかな。白君、誰の唐揚げがいい?」
「いや、全員やめてください!普通に自分で食べられるんで!」
慌てて否定する俺を見て、三人は大笑いし始めた。
「もう、悠真君ってほんと可愛いね。」
「いやいや、別に可愛くないと思うけど……。」
そんな賑やかなやりとりがあって、ようやく昼食がスタートした。
昼休み、教室でのお昼ごはんがついに「みんなで一緒に食べる」形に進化した。これまで黙々と一人で食べていた僕にとっては、大きな変化だ。
「悠真君、それ何作ったの?」
菜月が俺の弁当に視線を向けながら尋ねる。彼女の手には、可愛いフルーツのカップが握られている。
「普通に卵焼きとウィンナー、あとは冷凍食品だよ。」
「おお~、意外と普通。でも、彩りがちゃんとしてるじゃん!」
「褒めてるのか、微妙にディスられてるのか分からないんだけど。」
「え、もちろん褒めてるよ〜。でも、次はもう少しインスタ映えするお弁当にしてよね!」
(いやいや、僕の弁当をSNSに載せる予定でもあるのか?需要なんて無いと思うのだが……。)
「橘さんは、どんなお弁当?」
僕が隣の美咲に目を向けると、彼女はにっこり微笑んでお弁当箱を開けた。
「今日はお母さんが作ってくれたの。唐揚げと野菜炒め、それにおにぎり。」
「へぇ~、美味しそう。」
「白君も少し食べる?はい、どうぞ。」
箸で唐揚げを差し出してくる美咲。その一瞬、周りの時間が止まった気がした。
(待て待て待て!これはどう反応するのが正解なんだ!?周りには真琴と菜月もいるし、ここで妙に意識したら終わる!)
「い、いや、僕は大丈夫!自分の分で満足してるから!」
「ふふ、そう?遠慮しなくていいのに。」
美咲は微笑みながら唐揚げを戻したが、その笑顔に俺の心臓は無駄に跳ねた。
「そうだ!菜月、今度みんなでハーレムデート計画しようよ!」
突然、真琴が声を上げた。その発言に菜月がすぐさま乗っかる。
「いいね〜!じゃあ、どこ行く?遊園地とか?」
「それもいいけど、水族館とかもアリじゃない?」
「えっ、待って、何その話の進め方!?僕の了承を取る気はないの?」
僕がツッコむと、真琴はにっこり笑いながらこう言った。
「だって、白君ってハーレム好きそうだし!」
「どこからそんな誤解が!?僕、そんな趣味ないから!」
「ふふ、でもこうやってみんなでいるの楽しいよね。」
菜月がニコニコしながら言うと、真琴がすかさず手を叩いた。
「じゃあ、まずはテストが終わったら打ち上げでお出かけ決定ね!」
「いやいや、その前に数学と物理が待ってるからな。まずはそっちを乗り越えないと。」
「白君、急に先生っぽくなった!」
「いや、真琴、君たちが理解できるまで僕は妥協しないからな。」
「ひええ、白君が鬼教官モードになった!」
昼休みが終わりに近づくと、真琴と菜月は楽しそうに次の授業の話をしながら席に戻っていった。美咲も席を立ちかけたが、一瞬振り返り、僕に小声で言った。
「悠真君、いつもありがとう。次の勉強会、楽しみにしてるね。」
「こちらこそ。美咲がいれば、みんなやる気になるから。」
そう答えると、彼女は少し照れたように頷き、教室の端へと歩いて行った。その後ろ姿を見送る僕の胸には、不思議な温かさが広がっていた。
(昼食の時間が、こんなに楽しいなんて思わなかったな……。)
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願いが叶う“ドリームノート”を拾った僕、急接近する美少女との予想外な日々も同時に連載中ですので、そちらもよろしくお願いいたします。温かい感想もお待ちしています




