第34話 秘密の笑顔
昼休みが終わり、教室に戻ろうと廊下を歩いていると、美咲の友人である真琴と菜月が声をかけてきた。悠真とは少し距離を取って歩いていたため、周りからは一緒にいたことには気づかれていない。
「美咲、お昼どこ行ってたの?教室で見かけなかったけど?」
真琴が首をかしげながら尋ねる。菜月も何か面白い話が聞けるのではないかと期待しているのか、興味深そうに美咲を見つめていた。
「えっとね……ちょっと図書室で勉強してたの。数学の復習がしたくて。」
なるべく自然な声で答える。真琴の目が探るようにこちらを見ていて、少しだけ心拍数が上がる。
「へえ、真面目だね!でも、図書室にいた割には、顔が妙に明るい気がするんだけど?」
「え、そりゃ集中してたから頭スッキリしてるってだけだよ。」
「ふーん……本当に?勉強してたのにその妙に幸せそうな顔は何?」
真琴がニヤニヤしながら覗き込んでくる。
「な、何それ!そんな顔してないし!」
「いやいや、してるって。なんか、"恋する乙女"みたいな。」
「ちょっと変な事を言わないでよ!ただ勉強してただけだから!」
美咲が慌てて否定するが、真琴は口元を押さえて笑いをこらえている。
「うそつけー、絶対なんかあったでしょ?菜月、どう思う?」
突然話を振られた菜月は、困ったように首を傾げながらも面白そうに話に乗る。
「うーん、美咲って、嘘つくときに耳が赤くなるんだよね。」
「なっ……!?」
美咲は反射的に自分の耳を押さえた。その仕草を見た二人は、同時に「やっぱり!」と声を上げる。
「ほらね!絶対なんかある!男か?男なんか?」
「ま、待って、そんなことないってば!本当に勉強してただけだし!」
必死に弁解する美咲だったが、真琴と菜月の笑い声は止まらない。
「まあいいや、でも勉強でそんなに顔が明るくなるなら、私も今度一緒に行こうかなー。」
「だから、本当に勉強だけだから!」
美咲は赤くなった顔を隠すように前髪を触りながら、二人の笑い声を背に歩き出した。
その時、ポケットの中でスマホが軽く振動する。悠真からのメッセージだった。
▼メッセージ
悠真:先に教室戻ってるね。
美咲:(了解のスタンプ)
美咲はスマホをそっと閉じ、友人たちと一緒に教室へ戻ることにした。
教室に戻ると、真琴がまた話題を切り出した。
「そうだ!ゴールデンウィークさ、どこか買い物行かない?映画とかショッピングとか、いろいろ行きたいお店あるんだよね!」
菜月も楽しそうに頷きながら続ける。
「それいいね!美咲も一緒に行こうよ!」
「うん、考えておくね。でも、菜月、中間テストもあるし、勉強大切だよ。」
「うげ……。真面目かよ!」
「真面目だよ!!」
二人と話しながらも、美咲の心には別の考えが浮かんでいた。
(悠真君とまたどこか出かけられたらな……。)
数学の授業中、先生に突然指される。
「橘!次の問題、答えてみろ!」
「えっ、えっと……。」
頭が真っ白になる。黒板の文字を見つめても内容が全く入ってこない。悠真君との昼休みのやりとりや、ゴールデンウィークのことが頭を巡り、集中できていなかった。
その時、隣の席からそっと紙が滑り込んできた。視線を落とすと、そこには問題の答えが丁寧に書かれている。
(悠真君……!)
心の中で感謝しながら、その紙を頼りに答える。
「えっと……答えは、3x²−4x+5です。」
「正解だ。次回はもう少し自分で考えるように。」
先生が軽く頷いて次の生徒に移る。美咲は胸をなでおろしながら、そっと悠真の方を振り返った。悠真は小さな笑みを浮かべながら頷くだけだったが、その表情が妙に頼もしく見えた。
授業が終わると、感謝の気持ちを伝えたくて、美咲は素早く悠真の隣へ向かった。
「悠真君、ありがとう……。さっき、助けてもらった。」
「別にいいよ。同じチームだろ?」
「チーム?」
「そう、僕たちはチーム『秘密の昼休み』だ。」
悠真がふざけたようにウインクすると、美咲は思わず吹き出した。
「もう、変な名前つけないでよ!」
「でも、秘密がバレるのを防ぐためには、チームワークが大事なんだよ?」
「はいはい、わかりました。チームリーダーさん。」
美咲が笑いながらそう返すと、悠真は少し照れくさそうに視線を逸らした。その様子を見て、美咲の胸の中に小さな幸せが広がる。
この小さなやりとりが、二人だけの秘密をさらに強くする。美咲はそんな彼との距離が少しずつ近づいていくのを感じながら、次の授業へ向かった。
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