第33話 お昼を一緒に食べようよ その2
階段の上で並んで座り、お弁当を食べていると、ふと箸がぶつかった。
「あっ、ごめん!」
「ごめん、私こそ!」
二人して同時に謝る。その瞬間、ふと視線が絡み合い、何とも言えない気まずさと小さな笑いが込み上げてきた。狭い階段に二人並んで座るには、どう考えても無理がある。それでも、美咲の楽しそうな表情を見ていると、そんな些細なことがどうでもよく思えた。
「こういうの、なんだかドラマみたいだよね。」
美咲がふいに呟く。その視線は箸を握る自分の手元に向けられているけれど、声には少し照れが混じっているのが分かる。
「ドラマ?」
「うん。恋愛ドラマで、男女が狭い場所で一緒に何かしてて、こういうドキドキするシーンってあるじゃない?」
美咲の顔がわずかに赤らんでいるのを見て、俺は咄嗟に軽口で返した。
「いや、俺たちの場合はギャグ寄りだろ。」
「それは悠真君のせい!」
美咲が笑いながら肩を軽く叩く。その軽やかな動きが妙にくすぐったくて、一瞬だけ心臓が早くなったのを感じた。けれど、表情には出さずに笑い返す。
お弁当を食べ進める中、美咲の視線が俺の弁当に向けられる。
「悠真君、それ最後の唐揚げ食べないの?」
「ああ、後で食べようと思ってる。」
「ふーん……。じゃあ、私が食べちゃおっかなっ!」
美咲が冗談っぽく箸を伸ばす。その悪戯な仕草に、俺も慌てて箸を伸ばした。
「おい!それは俺の!」
二人の箸が唐揚げの上で交差する。美咲が悪戯っぽく笑いながら言う。
「じゃあ、悠真君、あ~んして?」
「なっ!?いや、それは……。」
唐突な提案に動揺する俺を見て、美咲が悪戯っぽく笑う。その顔にはほんのり赤みが差していて、思わず目を逸らしてしまった。
「なーんて冗談!はい、譲るね。」
そう言って美咲が箸を引いたけれど、その頬が赤いままなのを見て、俺もなぜか言葉が出なかった。
食べ終わった後、二人でのんびりとお茶を飲む。昼休みの終わりを告げるチャイムが静かに響く中、美咲がぽつりと呟いた。
「楽しかったね、悠真君。」
「うん。またここで食べようか?」
俺がそう提案すると、美咲がわずかに首をかしげて微笑んだ。
「うん。でも、もっと広い場所も探してみたいな。秘密の場所もいいけど、色々な場所で食べるのも楽しいかも。」
「それもいいかもな。」
二人の間に流れる空気は穏やかで、どこか暖かい。教室に戻ろうと階段を降り始めた時、背後から鋭い声が響いた。
「美咲!」
振り返ると、その声の主が真剣な表情で立っていた。美咲も驚いた表情で固まり、俺は息を呑む。
(なんで、こんなタイミングで……?)
緊張感の走るその場面で、俺たちは次の言葉を待つように動きを止めた。
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