第31話 美咲の視点「雨の中で繋がる想い」その2
リビングに戻ると、悠真君が紅茶を淹れて待っていた。カップから立ち上る湯気が、雨で冷えた体をほんの少し温めてくれるような気がする。
「お疲れ様。温まった?」
「うん、ありがとう。」
カップを受け取って一口飲むと、ふわっと優しい香りが広がる。紅茶の温かさだけじゃなくて、悠真君がこうして待っていてくれたこと自体が、心に染み渡るようだった。
「悠真君、紅茶上手だね。」
「まあ、バイトで鍛えられてるからな。」
彼がそう言って笑う顔が、なんだかとても自然で、安心感を与えてくれる。こんなにホッとする瞬間は、今までなかったかもしれない。
けれど、次の瞬間、彼の表情が真剣なものに変わった。
「美咲……俺、そろそろ君に話したいことがあるんだ。」
その言葉に、私は驚いてカップをテーブルに置いた。
「話したいこと?」
「俺がどうして学校で陰キャモードで、バイト先ではこういう風に振る舞ってるのか。その理由をちゃんと話したいと思ってる。」
彼の言葉が胸に刺さるようだった。ずっと気になっていたこと。でも、彼が自分から話すタイミングを選んでくれたことが、何よりも嬉しかった。
「でも……まだ少し時間が欲しい。自分の中で覚悟が決まった時に話すから、その時は聞いてほしい。」
私は静かに頷いた。彼の声には、迷いと決意が同時に感じられた。何を抱えているのかわからないけど、それを私に話そうとしてくれる――その事実が胸を熱くする。
「もちろん、聞くよ。」
その言葉に、彼は小さく息を吐き、安心したように微笑んだ。その微笑みが、どこか儚げに見えて、彼が抱える何かに少しだけ触れたような気がした。
「ありがとう。そして……その話を聞いても、美咲がまだ俺のことを好きだって思ってくれたら……俺と付き合ってほしい。」
一瞬、息が止まった。心臓が早鐘のように鳴り響き、顔が熱くなるのがわかる。何を言えばいいのかわからなくて、ただ彼を見つめた。
(悠真君……こんなにも真剣に、私のことを考えてくれてるんだ……。)
胸の奥がじんわりと温かくなっていく。これまでぼんやりしていた自分の気持ちが、はっきりと形を成していくのを感じた。
「わかった。その時が来たら、ちゃんと答えるね。」
自分でも少し震えた声で答えると、彼はまた小さく微笑んだ。その笑顔を見て、胸がさらに温かくなる。
帰り道、雨は小降りになっていた。傘の下で肩が触れるほどの距離を保ちながら歩くと、鼓動が自然と早まるのを感じる。雨音だけが響く静かな夜。普段の通学路が、まるで違う場所のように感じられた。
「今日はありがとう。なんだか特別な日になった気がする。」
「俺も。こういう日があってもいいよな。」
彼の言葉に、胸がじんわりと温かくなる。この雨の日が、二人の距離を縮めてくれた気がしてならなかった。
駅に着くと、彼が少しだけ傘を傾けて私を守るように差し出す。その仕草が、どうしようもなく優しくて、胸が締め付けられる。
「じゃあ、気をつけて帰れよ。」
「うん……本当にありがとう、悠真君。」
彼と別れ、電車に乗る間もずっと、胸の奥が温かくて、今日の出来事を思い返していた。
(この雨が、私たちを繋げてくれた気がする。そう思うのは……私だけじゃないよね。)
傘の中で感じた彼の温もりが、ずっと心に残り続けていた。
最後まで読んでくれてありがとう!雨の日のドキドキ、感じてもらえたかな?次回は悠真君の秘密が少し見えるかも?お楽しみにね!




