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第30話 美咲の視点『雨の中で繋がる想い』その1

 放課後、校舎の軒先で雨宿りをしていた。空は灰色に染まり、降りしきる雨粒が地面に跳ね返る音だけが静かに響いている。傘を持っていない私は、このまま濡れて帰るしかないのかとため息をついた。


 その時、聞き慣れた声がした。


「美咲!」


 振り向くと、悠真君が傘を差してこちらに歩いてくる。その姿を見た瞬間、胸が少しだけ高鳴った。彼はいつもと同じ穏やかな表情で、傘を軽く持ち上げて私に差し出した。


「濡れてるじゃないか。傘、使っていいよ。俺は走って帰るから。」


「え……そんなのダメだよ!悠真君が風邪ひいちゃう。」


 私の言葉に、彼は少し困ったように笑いながら、傘を広げて私の頭上に差し出した。


「じゃあ、一緒に帰ろう。ほら、入って。」


 私は戸惑いながらも、傘の中に入った。二人の距離がぐっと近づき、肩が触れそうなほどの近さに心臓が跳ね上がる。冷たい雨とは裏腹に、彼の優しさがじんわりと胸に染み込む。


「美咲、大丈夫?結構濡れてるけど。」


 彼が心配そうに私を見つめる。その瞳に映る自分が少し恥ずかしくて、視線を逸らした。


「大丈夫……ほんの少し濡れただけだから。」


 そう言ったけれど、制服は雨でびしょびしょだった。それを見た悠真君が足を止め、少し考え込むような顔をした。


「このままだと風邪ひくだろ。俺の家、すぐ近くだから寄って温まっていかないか?」


「えっ……?」


 突然の提案に戸惑った。けれど、悠真君の真剣な表情を見ると、断る理由が見つからなかった。


「何もしないって約束する。ただ、美咲が風邪をひくのは嫌なんだ。」


 その言葉に、胸がドキッとする。穏やかな声の中に、確かな優しさと誠実さが込められている。その一方で、「何もしない」という言葉が頭の中で妙に繰り返され、余計に意識してしまう自分がいた。


「……わかった。お邪魔させてもらうね。」


 視線を逸らしながら、小さく頷いた。彼の顔を直視できないほど、頬が熱くなっているのを感じる。


 悠真君の家は整然としていて、どこか落ち着いた雰囲気だった。リビングに入ると、彼はすぐにハンガーを持ってきて、濡れた制服を乾かす準備をしてくれる。


「シャワー浴びて温まるといいよ。服、これ使って。」


 差し出されたのは少し大きめのパーカーとスウェット。その優しさが嬉しい反面、心の中では緊張が募る。一人暮らしの男の子の家でシャワーを借りるなんて、考えただけで顔が熱くなる。


「ありがとう……。」


 バスルームの扉を閉めると、静けさの中で自分の鼓動がやけに大きく響く。タオルを握りしめながら、シャワーを浴びるべきか一瞬迷ったが、冷えた体を温めるために思い切って蛇口をひねった。


 湯気が立ち込め、冷え切った体が少しずつ癒されていく。ふと、シャンプーの香りに気づき、思わず手を止めた。


(これ……悠真君の香り?なんだか近くにいるみたいで、変に意識しちゃう。)


 シャワーを浴びながら、彼が差し出してくれた服のことを思い出す。その大きさが自分には合わないだろうと思いつつ、どこか温かさを感じた。


 着替え終わり、袖をまくりながらリビングに戻ると、悠真君がテーブルの上に紅茶を用意して待っていた。その姿を見た瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなる。


「温まった?」


 彼がカップを差し出しながら聞いてくる。その声が妙に優しくて、緊張が解けていくのを感じた。


「うん、ありがとう。本当に助かったよ。」


 紅茶を一口飲むと、ほっとするような甘さが広がる。雨音が静かに響く中、私たちは自然と目を合わせた。


「こうして悠真君と話すのって、不思議な感じだね。」


「そう?でも、今日は特別な日だろう?」


 彼の言葉に、思わず顔が熱くなる。こんな風に、何気ない会話が胸に響くのは、彼だからだ。


(やっぱり悠真君って……ずるい。)


 カップを両手で包みながら、そっと笑みを浮かべた。

今回も読んでくださりありがとうございます!雨宿りから始まるこの距離感、胸がキュンとしましたか?次回も二人の関係がどう動くのか、お楽しみに!


新作開始しました

願いが叶う“ドリームノート”を拾った僕、急接近する美少女との予想外な日々 です。

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