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第3話 彼女の胸の内 ※美咲視点

 橘美咲は部屋に戻ると、無意識に深いため息をついた。鞄をソファに放り投げ、ベッドに倒れ込む。柔らかなマットレスの感触が背中を包み込んでも、彼女の胸のざわつきは収まらなかった。


 脳裏に浮かぶのは、ほんの数時間前の出来事。


「私とお付き合いしてください!」


 ――あの瞬間、自分が何を言ったのか信じられなかった。普段の自分なら、絶対にしない大胆な行動。それが、気づいたら勝手に口から出ていた。


(なんであんなことを……。)


 両手で顔を覆う。頬が熱く、胸はまだ速いリズムで脈打っている。冷静な自分では到底考えられない行動だった。だけど――。


(行かせたくなかった……ただ、それだけ。)


 彼が毅然とした声で放った一言が、胸の奥に響いていた。


「俺の彼女に何か用か?」


 普段なら、誰かに守られるなんて考えたこともない自分。その瞬間、彼の言葉は冷え切った心を温めるような感覚をもたらした。


 美咲はベッドから起き上がり、窓際に歩み寄る。カーテンの隙間から夜風が入り込み、頬を撫でた。窓の外には街灯の灯りがぽつりぽつりと並び、静かな夜の景色が広がっている。


(私……本当に怖かったんだ。)


 男たちに囲まれたとき、最初はなんとか笑顔でやり過ごそうとした。でも、徐々に自分の声が小さくなり、何も言えなくなった。足は震え、冷たい汗が背中を伝った。


(そんなときに、彼が来てくれた。)


 美咲は窓ガラスに映る自分の姿を見つめる。中学生の頃から、男子に囲まれたり、告白されたりすることは何度もあった。それが特別なことだと気づいたのはいつだっただろう。


(可愛いね、と言われるたびに、「私の何を知ってるの?」って思ってた。)


 告白されても、彼らの視線は決まって自分の外見ばかり。内面を知ろうともせず、ただ見た目だけを褒める。それに飽き飽きしていたのだ。


(でも、彼は違った。)


 彼は助けた後、何も求めようとしなかった。連絡先を聞いてくることもなく、静かにその場を去ろうとした。美咲にとって、それは信じられないことだった。


(私のこと、綺麗だと思わなかったの? 可愛いって思わなかったの?)


 初めて、外見ではなく自分そのものを見てくれている気がした。彼の「友達から始めよう」という言葉も、どこか紳士的で、不思議と心が安らぐのを感じた。


「……本当に優しい人。」


 呟いてから、美咲はスマホを手に取った。画面には「悠真」の名前が表示されている。連絡先を交換した瞬間の彼の顔を思い出す。


(あのとき、彼の顔に緊張の色があった。きっと、私と同じでどうしていいかわからなかったんだろうな。)


 彼が言った言葉を思い返す。


「俺って人間を、ちゃんと知ってもらってからでも遅くないと思うんだ。」


 その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。彼は私を対等な人間として見てくれている。誰にも求められなかった自分の内面を、見てみたいと言ってくれる――。


(彼となら、もっと素直な自分でいられるかもしれない。)


 だけど、その一方で不安もあった。


(本当の私を知ったら、失望されるかもしれない……。)


 完璧でなければならないというプレッシャーは、彼にも通じるのだろうか?学校では、みんなが「完璧な橘美咲」を求めている。それが崩れたとき、彼はどう思うだろう。


「でも……一度、試してみてもいいかもしれない。」


 美咲は再びベッドに戻り、目を閉じる。天井の向こうに、土曜日の朝が広がっているように感じた。


(土曜日……初めて男の人と二人きりで出かけるんだ。)


 期待と不安が胸の中でせめぎ合う。それでも、悠真と過ごす時間が待ち遠しいと思う自分がいる。


(彼にもっと私を知ってもらおう。そして、私も彼を……。)


 彼女の胸に小さな希望が灯る。やがて静かな寝息が部屋に響き、夜は少しずつ更けていった。

今回もお読みいただきありがとうございます!✨

今回は女の子の視点だけで物語を書いてみました。彼女の気持ちや日常を丁寧に描こうと心がけましたが、うまく表現できているか少し不安です……。

読んでいただいた皆さんには、彼女の心の揺れや想いが少しでも伝わっていれば嬉しいです!感想やご意見があれば、ぜひ教えてくださいね。次回の執筆の参考にさせていただきます!

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